ドラマ大奥幕末編 感想レビュー第18回

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ドラマ大奥幕末編 感想レビュー第18回 忠義の井伊は凶刃に散る

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ドラマ大奥幕末編 感想レビュー第18回
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井伊に言い返せぬ胤篤

呼び出され、丁重に挨拶をする井伊直弼

その口上すら遮り、家定の死について問い糺す胤篤。

肝臓を悪くしていたと医師の診断を語ると、腹の子が邪魔な者が毒を盛ったのではないかと責め立てます。

すると井伊にスイッチが入る。

井伊直政以来仕えてきた。上様と気が合わぬこともある。それでも主は主、害することはありえぬ!

激しく沸き立つ感情を押し殺し、唇を震わせながら、凄まじい表情で、断固として殺害を否定する井伊。

これは胤篤が悪い。

幕末の武士にとって、忠義を疑われるというのは恥ずべきこと。井伊直弼にとって、これほどまでに侮辱的なことはありません。

聞けば井伊は、毒に辟易しており、医師や女中を調べ上げ、怪しいもの4名を投獄したと言います。

その上で危険なのは攘夷派であると反撃。長州と薩摩であり、まず身内を疑えと胤篤は言われてしまう。実際のところ、中澤はじめ隠密を放っているのが薩摩です。

理論では言い返せず、井伊に怒鳴りながら迫る胤篤を瀧山が止めます。

妻子を殺されてこのままでいいのか!

そう憤る胤篤に対し、毒を盛った犯人を特定するのは難しい、これは悪手であると諭す瀧山。

ここで尻を向けぬよう後退り、去ってゆく井伊の冷静さよ。

瀧山は胤篤に、家定の遺言を思い出すように言います。しかしそれも井伊が聞いたものだと返す胤篤。

「ならばご随意に」

そう突き放すようで、御台こそ上様の心を知っているはずだと瀧山は返します。

もう生きていたくない――若々しい生命力に溢れていたはずの胤篤は、涙ながらにそう呟きます。彼は心が折れてしまいました。

 


戊午の密勅、安政の大獄

井伊直弼が戻ると、幕閣が衝撃的な知らせを告げました。

戊午の密勅――幕府は攘夷をしろという勅が出されたのです。

怒髪天を衝くばかりの井伊は、水戸藩を潰す!と息巻く。

井伊の横暴にも見えるかもしれませんが、家慶時代から余計なことばかりしてきた水戸藩には当然の処置とも言える。阿部正弘が水戸を野放しにしたのはミスでしょう。

かくして斉昭は永蟄居で、慶喜は謹慎に。

さらには水戸藩士や公家だけでなく……

「『志士』などとうそぶく攘夷派のど阿呆ども! 幕府に盾突く者どもをまとめて始末してしまえ!」

そう宣言します。

同時にここは補足をしておきたい。

井伊の行動――安政の大獄には、しばしばこんな誤解が生じます。

「井伊直弼が吉田松陰を処刑したのは討幕を目指していたからだったんだな」

違います。

吉田松陰は、一橋派と関与する思想家枠として取り調べを受けました。その最中に、間部詮勝の暗殺計画を勝手に話し始めたため、意外なことに驚愕した幕府も処刑せざるを得なかった。

結果、長州藩で殉教者として祭り上げられるに至ったのです。

つまり処刑ありきではなく、松陰自らの失言が原因と言えます。

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一方で【戊午の密勅】は、破壊力抜群でした。

幕府に圧力をかけるため、上洛した松下村塾出身者たちは、チートアイテム扱いでバンバン密勅を出させます。

しかし、こうした勅は、実際のところ孝明天皇の知らぬところで出されています。

江戸時代の公家は金がない。ドラマ『大奥』の右衛門佐も貧乏公家の出身でしたね。そこで「志士」たちは金で釣り、偽の勅を乱発させたのです。

勅を掲げて攘夷する=【奉勅攘夷】と呼ばれます。

孝明天皇はこのせいですっかりストレスが溜まり、長州を憎むようになる。この顛末はあまり表立っては語られませんが、幕末を知るという点では非常に重要な事象かと思います。

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【志士】というのは非常に危険です。

日本の未来を憂いて立ち上がった――そんなプラスイメージがあり、『青天を衝け』でも「オラ、京都で志士になるだ〜」という能天気なノリでしたが、実際はそうではない。

ヘイトスピーチに酔いしれるテロリストみたいなものです。要求を押し通すためなら殺人と遺体損壊を厭わない以上は「テロ」としか言いようがない。

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14代将軍家茂

胤篤は写経しています。

薩摩に戻らぬか、と中澤が声をかけても、家定を殺したかもしれない薩摩には戻れない。

水戸や井伊による毒殺を主張する中澤に対し、お主こそ戻ったらどうかと提案しますが、斉彬を殺めたかもしれぬ久光には仕えたくないとか。

結局、ここにいるしかない二人。

篤胤も諦めの様子で、本当に、薩摩の暗黒面が煮詰まっていますね。

薩摩には、藩を真っ二つに分裂させた【お由羅騒動】という事件がありました。

お由羅とは久光の母。この悪女が企んで人死が出たのではないかと言われますが、その悪事というのもアヤフヤなもので、毒殺どころか呪詛の類です。しかも、それはただの誤解でした。

お由羅は逆恨みに苦しめられた気の毒な女性です。久光に対しても、生母が逆恨みされた影響のせいか、アンチが多い。

思い込んだらひたすら恨む。そんな悪いところがこの二人に出ています。そろそろ切り替えるときでは……。

瀧山が、福子改め徳川家茂が、大奥に入る前に話したいと胤篤に告げてきます。

うやうやしく胤篤に頭を下げる家茂。立派になられたと胤篤も目を細めます。

志田彩良さんが善良そのものに見える。

家茂は史実でも「あんなにいい公方様はいない!」と幕臣が涙ながらに振り返ったほどの好人物です(逆恨みがしつこく、自己正統化したい一橋派は除く)。原作もそこを意識して、屈託が全くない人物像にしたとか。

政治は幕閣に任せておけばよいと言われたけれど、自分でも政務を行いたい希望がある。家定のことを考えると、任せてはおけないとのことです。

胤篤の心に、家茂に希望を託していた家定が蘇ってきます。

家臣や民を思う心がある。そう理解していたのだと。

家茂に影響されてなのでしょう、篤胤が蘇り始めたように思えます。

身分も男女の別もなく人を取り立て、小さくとも強い国にする。そんな阿部正弘と夢見た国作りを行いたい。

そう語っていた胤篤は思わず涙を落とし詫びます。家茂の目にも涙が光り、志を継ぐのだと決意を固めている。

なしえる自信はないけれど精進すると言い、そしてこう続けます。

「これからも、私をお導きいただけますか? 義父上様」

「ちち……頼りない義父ではありますが、力になれることがございますれば……」

かくして胤篤は落飾し、天璋院として大奥に残りました。

14代将軍になった徳川家茂は、決意を固めた顔が凛然としている。

それは井伊直弼による【安政の大獄】最中のことでした。

家茂が「これでは敵を作る」と井伊をたしなめますが、それはできぬと即座に言い返される。

攘夷派を許せば徳川は持たぬ。内乱となれば列強の手に落ちる。そう警戒しているのです。

これは前回、胤篤が指摘していた「武器を売る西洋列強」を思い出すと良いかもしれません。

内乱に乗じて攻め込んでくるばかりが西洋列強の思惑ではなく、内乱を起こしたうえで武器を売りつけ、思うままに操るという手もありました。

 

桜田門外の変

大老一人も説得できない自身が情けなくなると家茂が嘆いています。胤篤改め天璋院は側近が必要だと答える。

吉宗と加納久通

家定と阿部正弘。

家茂も理解しています。

そもそも井伊直弼こそ忠義者であり、それは自分ではなく徳川に対するものかもしれないけれど、あれほど忠義を尽くすものはいないと感じていました。

天璋院は雪が舞う庭で、家茂の言葉を瀧山に告げています。そして「主を害することはない!」と力強く断言していた井伊の言葉を思い出していた。

「あの言葉はまことなのでしょうかね……」

もしも天璋院が井伊を疑っていれば、こんな言葉は出てこないでしょう。家茂との対話で、井伊直弼への評価が変わってきているのかもしれません。

庭には雪が舞い散っている。

この天候が重要です。

というのも、井伊直弼が殺害される【桜田門外の変】は、季節外れの雪の日に起きました。

寒さゆえに護衛の対応が遅れたことも一因とされています。

似たようなテロ計画は未遂か、失敗に終わっており、この事件がいかに例外的だったか――冷静に考えるとそうなりますが、平均年齢が低くテンションの高い【志士】には通じない。ゆえに性懲りも無く繰り返された。

井伊の死を、重々しい顔で受け止める天璋院。

瀧山は動転しています。彼なりに徳川の終焉が見えてしまったのかもしれません。

こうなったらこの先は、関ヶ原以前の乱世か、はたまた西洋の属国か……。天璋院がそう語ると、何か決意したような表情で家茂は威光に縋ると言い始めました。

公武合体――天子様の威光を得るため、帝の弟を御台所として迎えると言い出したのです。

かくして天璋院は、和宮のために道具を揃えることに。

時代考証もしっかりしているのでしょう。時代劇ではこういうものが見たいと思える品々が整えられていて、眼福です。

なんでも天璋院が嫁ぐ際には、西郷吉之助(西郷隆盛)というものが整えてくれて気が休まったとか。

懐かしそうに彼を思い出す天璋院。

それにしても天璋院はすっかり凛々しさが戻りました。しおれた花のようだったのに、今では生き生きとしています。

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