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【ドラマ大奥幕末編 感想レビュー第18回】
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水戸――そして誰もいなくなった
井伊直弼は、徳川に対する武士の忠義を示しました。
一方、他藩でがどうだったか。当時の状況を見てみますと……。
中澤が嫌っていた薩摩藩の島津久光はこの点優秀であり、危険な藩士は時に粛清しつつ、コントロールしています。
そのせいで自由度が下がったせいか。カリスマである西郷隆盛と犬猿の仲だったことが影響したのか。久光は低い評価をされてしまいがちです。
長州藩の毛利敬親は、はなから投げているような「そうせい候」という名が残されています。
土佐藩の山内容堂は、凄惨なテロをやりすぎた武市瑞山率いる【土佐勤王党】を断固処断しました。容堂はメンタルが不調になりやすく、藩士も困ることが多かったようですが。
会津藩は、敵対した者ですら「よくまとまっているなあ」と感心されるほど、松平容保のもとで一致団結していました。
明治になってから、山川健次郎が「実はうちの殿は孝明天皇から信頼されていたんですよ。そんな殿だからこそみんな団結しだんだよなあ」と明かしたことで、政府が大慌てで隠蔽しようとしています。
さて、水戸藩です。
ブレーキの壊れたダンプカーじみた徳川斉昭は、晩年になって「もう藩士が暴れすぎてコントロールできん!」と困惑していました。
いったい誰がそうしたのか。その暴走結果が【桜田門外の変】という最悪の展開を迎えてしまいます。
直後、斉昭は厠で急死、心疾患とされています。あまりにタイミングが悪すぎたためか、井伊家の者による暗殺説も出回ったほどでした。
そして水戸藩は、討幕思想の震源地であるにもかかわらず、おそろしい事態となります。
水戸藩は、長州藩の攘夷派と手を組みました。
そして斉昭最愛の子である慶喜が、将軍の後見として上洛すると、水戸藩内の【天狗党】は俄然張り切って上洛してしまう。
しかし慶喜には心がありません。
【天狗党】は、孝明天皇が激怒していた長州藩過激派と連携していたため、彼らが慶喜を推しているとわかればまずい。
そこで討伐を言い出すのです。
【天狗党】はかくして慶喜の命により捕縛の上で大量処刑されたのでした。
夫の塩漬け首を抱えて斬首された武田耕雲斎の妻~天狗党の乱がむごい
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実はこのとき、捕らえた側も「かわいそうだ……」として処刑を渋っていましたが、勇みながら処刑を買って出た者もいます。井伊直弼の仇討ちに燃える彦根藩士でした。
【天狗党】の家族は、幼い子まで含めて水戸で処刑されました。
水戸では濡れ手拭いを振る音は嫌われました。斬首を連想させるからです。
豆腐の味噌汁も、食卓にのぼらなくなりました。死刑囚最期のメニューだったから。
これが討幕となると、復讐に燃える【天狗党】の残党が白昼堂々敵を追い詰め、殺害……結果、水戸藩は内乱で崩壊します。
大河ドラマ『青天を衝け』が放送されたとき、この事件がらみのニュースとなると、コメント欄では【天狗党】とその被害者側による論争が勃発しており、歴史の難しさを感じたものです。
大東俊介さんの慶喜は、あっさり【天狗党】の処断を決めそうな心の無さが表現されている。
何度見ても怒りが込み上げてきて、実に素晴らしい慶喜だと思います。
荒んでゆく日本人の心
井伊直弼の死。
そしてそれにより、テロによる世直しに目覚めた人々。
人心は荒廃しました。
その証拠は当時の錦絵にも残らされています。
蕎麦一杯を食べる安さが魅力の錦絵は、刷れば刷るほど売れた。
2025年大河ドラマ『べらぼう』では、そのビジネスがしっかりと描かれるのではないでしょうか。
錦絵は売れてこそ。規制を潜りつつ、ニーズに応じることが大事であり、江戸のデキる版元は思い付きます。
「あの売れっ子の歌川国芳の弟子ツートップの落合芳幾と月岡芳年に、このグロすぎる世論を反映させた絵を描かせりゃヒットするにちげぇねえ! トップ絵師同士でどちらがよりグロいか競わせてやらァ!」
なんだそれ……と突っ込みたくなるかもしれませんが、実際このシリーズ『英名二十八衆句』はヒットします。
幕末新ジャンル「無惨絵」の誕生です。膠を混ぜた絵具でリアルが追及されました。
これは絵師・月岡芳年のメンタルが問題だのなんだの誤解されますが、そうではない。発注する版元も、買い漁る顧客も、みんなどこかぶっ飛んでいたのです。
なんせ当時の江戸っ子はこうだ。
「芳年はよぉ、本物の生首を観察して描いているっていうぜェ、てぇしたもんさ!」
って、どんだけ殺伐としていたのか……。
歌川国芳は弟子たちに「喧嘩があれば駆けつけてみろ!」とリアリズムを求めるように指導していました。弟子の芳年はそれに忠実だったのですね。
和宮の設定が秀逸だ
複数の説が取り入れられるてんこ盛りで豪華、歴史ものの醍醐味はかくあるべしとも思えてきます。
そんな和宮が入浴で女とわかる場面は、原作をここまで再現するとは思いませんでした。
裸を見られても、ケロッとしている様子が、まさしくお姫様。
山田風太郎『柳生忍法帖』では、京都の美女が悪徳大名のもとへ売り飛ばされてきた場面があります。
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この中に本物のお姫様がいる。誰がそうか?
そうなったとき、悪役は棒を使って並んだ女の裾を一気に捲り上げます。
慌てて隠そうとする女がいれば、ボーッとして何が起きたかわからない女もいる。
そして後者を「姫だ!」と見抜きます。
お姫様はトイレも入浴も人に任せて羞恥心が育ちにくいとのことで、あの和宮はまさしく育ちの良いお姫様そのものでした。
次回がどうなるか。楽しみでなりませんね。
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文:武者震之助
※著者の関連noteはこちらから!(→link)
【参考・TOP画像】
ドラマ『大奥』/公式サイト(→link)