ドラマ大奥幕末編 感想レビュー第18回

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ドラマ大奥幕末編 感想レビュー第18回 忠義の井伊は凶刃に散る

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和宮はなんと……

和宮が嫁いできました。

雛人形のように美しい婚礼の儀――と言いたいようで、それだけではない何か険悪さが渦巻いているようにも見えます。

和宮は小柄で左手が欠損しているとのこと。

報告を聞いた天璋院は、上様なら受け止めるはずだと語ります。

と、そこへ中澤が瀧山を呼び出しに来ます。

風呂桶に浸かっている和宮を見て、瀧山はこう言うだけで精一杯でした。

「おんな……」

ニッと唇を歪め、相手の反応を楽しむように「子はできひん」と言う和宮。

公武合体は果たしてどうなってしまうのか。

 


有害な男らしさ(トキシック・マスキュリニティ)

猜疑心を募らせていく胤篤の悲しさよ。

家定と語り合うのではなく、中澤とそうすることで悪化してゆくばかり。

陰謀論者同士で語り合うと事態が悪化する様を見ているようでした。

あんなに聡明で快活だったはずなのに、毒殺疑惑のせいで濁ってしまう。おそろしいことです。

彼を蝕んでいるのは、【有害な男らしさ(トキシック・マスキュリニティ)】であるともいえます。

◆有害な男らしさ(トキシック・マスキュリニティ)(→link

自分の男らしさ、妊娠させたことが家定の命を縮めた。そのことから逃避しようとするあまり、無茶苦茶な暴走をしているように思えた。

男であること。薩摩から来たこと。それが徳川の女である家定を殺めたのかもしれない。そう思うだけでどれほど苦しいことか。

徳川家慶のようにわかりやすい毒ではなく、複雑で悲しい毒がつきつけられました。

そうやって悩む相手に、正論パンチをする危険性を見せてきたのが、井伊直弼です。

 


正論突きを喰らわせる井伊直弼

錯乱している胤篤に対し、井伊直弼は容赦なく正論を突きつけました。

この作品の井伊直弼像は、ちょっともう、言葉にできないのではないかと思うくらい完璧と言いましょうか。

彼は何一つ、間違ったことは言っていない。

あの黒い声ときつい言い方のせいで、誤解されてしまいますが、全部正論です。

井伊は間違ったことを言っていない。だとすれば毒殺もしていない。その発言を振り返ってみますと……。

阿部正弘の、女のナヨナヨしたやり方ではだめだ!

→「女のナヨナヨした」という言い方は不味いけれども、水戸藩を幕政に引き入れることは実際に危険すぎました。

・家格を何と心得る!

→井伊はなぜ家格にこだわるのか? 彼なりに憎しみを買い、自分にぶつければいいという覚悟があったと思えてきます。

阿部正弘とは別の形で、彼は徳川の身代わりになろうとし、そしてそうなってしまった。重みのある己を活かせと彼は言いたかったのでしょう。

・攘夷派の【志士】は根こそぎ始末しろ1

→これもその通りになります。

確かに正論なんだけど、態度がね……と嗜められた人物がシーズン1にいました。

徳川吉宗です。

藤浪が「上様は正しいけれどやり方があるだろう」と苦言を呈していました。いくら理論が正しくとも、あまりに感情を無視するのは危うい。

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今後、吉宗や井伊がまだまだマシに見える、空気を読むことを全くしない一橋慶喜が出てきますので、苛立ちながら目を離さないでおきましょう。

史実における井伊直弼の慧眼は、イメージに惑わされず正しく評価されるべきではないでしょうか。

現代でいえばコミュ障だった節がある小栗忠順を抜擢したのも井伊です。

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小栗は何度も周囲と衝突し、そのたび御役御免となりました。

しかし一度抜擢されればその頭脳の冴えは理解される。そのため幕政に復帰し、日本の近代を切り拓いた人物です。

井伊はその点でも本当に素晴らしいことをしたと言える。

 

井伊直弼評価は難しい

記念すべき大河ドラマの第1作は、井伊直弼が主役である『花の生涯』でした。

当時はまだ大河ドラマという呼び名ではありませんが。

なぜこの作品が選ばれたかというと、原作が大ヒットしていたから。

井伊直弼は再評価され、またそれが覆されるということを周期的に繰り返す人物です。

『花の生涯』は【アジア太平洋戦争】の記憶が濃い時代――日本では、明治維新にあの敗戦の一因があったのではないか?という見直し論がありました。

薩長を正義とする歴史観を糺すのであれば、井伊直弼の再評価が手っ取り早い。

そのことを踏まえると『大奥』は大河の原点まで取り戻したのではないかと思えてきます。

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井伊の重要性は、その死によりじわじわと判明してゆきます。

井伊家は夭折した初代直政よりも、二代目井伊直孝の代で特別扱いされるようになった待遇が多い。

譜代大名の筆頭である井伊家は、5代6度の大老を輩出する別格の家となりました。

そんな井伊家最後の大老が直弼。

井伊家は直孝以来、京都を監視する役目がありましたが、直弼の死により、それどころではなくなってしまう。

結果、京都の治安維持は、会津藩に回ってきました。

遠隔地であり、財政的にも余裕はない。にも関わらず、火中の栗を拾うことになるであろう任務を、藩主・松平容保の生真面目さにつけ込まれ、押し付けられた。

松平容保は穏和な性格で、当初は【言路洞開】路線でした。

それを【志士】が【足利三代木像梟首事件】や攘夷テロを起こすため、決意を固めるしかなくなった。

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そうして血が血を呼ぶ最悪の事態に発展した。

井伊直弼の死は「テロによる世直しに日本人が目覚める」という悪しき契機となったのです。

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犠牲になったのは幕末の要人だけでなく、明治以降も続き、大久保利通はじめ多くの政治家が犠牲となりました。

関東大震災後】に生じた虐殺事件も、暴力で世直しをする手段に開眼した民衆暴力が一因とされています。

井伊という守り刀が折れることで、国家は破壊へ向かっていき、その影響は残ったのでした。

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