月島基(ゴールデンカムイ)

月島基(ゴールデンカムイ30巻/amazonより引用)

この歴史漫画が熱い! ゴールデンカムイ

ゴールデンカムイ月島基を徹底考察!鶴見の右腕は鶴見に何を求めていたのか

こちらは2ページ目になります。
1ページ目から読む場合は
月島基
をクリックお願いします。

 

鶴見にとっての“マイ・フェア・軍曹”なのか?

そんな平凡な兵士である月島に目をつけ、引き上げ、己の右腕にした人物がいます。

鶴見篤四郎です。

ゴールデンカムイ鶴見中尉
ゴールデンカムイ鶴見中尉を徹底考察!長岡の誇りと妻子への愛情と

続きを見る

鶴見の場合、月島より年長であり、ボンボンどころか苦労人です。

そんな士官が目をつけ、月島を右腕として育て上げました。

尊属殺人により死刑判決がくだっていた月島を、回りくどい工作までして右腕にする。これがなかなか手が込んでいます。

なんせ自分はロシア語ができないと嘘をついてまで、彼に叩き込むのです。

士官学校卒、ましてや鶴見のような情報将校ならばいざ知らず、ろくに教育も受けていない月島をそうしたのはなぜなのか。

鶴見なりに月島を試したかったのかもしれません。

『マイ・フェア・レディ』というミュージカルがあります。

粗野な花売り娘イライザをレディにできるか?

大佐とそんな賭けをした教授が、娘を育てていくうちに愛を育む。イギリス階級社会を背景としたラブコメディです。

鶴見はまるで、このヒギンズ教授がイライザを育てるように、月島を“教育”していったようにも思えます。

あの粗野な男がロシア語を話し、洋服を着こなして自分の隣にいる。その教育成果に愛着を覚えたとしても何ら不思議はありません。

騙し、育て上げた第一号は、鶴見にとって特別な存在でしょう。

 

あの“お嬢さん”を一緒に騙そうか

鶴見は育て上げた最愛の月島を使い、鹿児島で出会ったボンボンこと鯉登を騙すことにします。

かくして鶴見と月島は、今度はまた別の世界に突入するのです。

ゴールデンカムイ』の魅力とは、作者である野田先生が蓄積してきた、海外を含めたフィクションの要素が感じられるところであれば、彼らが次に向かっていく世界とは何なのか。

イギリスの作家、サラ・ウォーターズ『荊(いばら)の城』に似た、耽美な騙し合いの世界です。その世界とは?

時と舞台は、19世紀半ばのロンドン。

孤児スウは、犯罪者まがいの連中と暮らしている。そんなスウに、詐欺師が計画を持ちかけてきた。

「お前にある令嬢をたぶらかして欲しい。それで俺がその令嬢と結婚する。財産をそうやって奪うってわけだ」

スウは侍女として令嬢の元へ送り込まれ、信頼を得ることとする。

しかし、その令嬢のもとに送り込まれたスウは、いつしか彼女に心惹かれてしまい――。

さあ、いかかでしょうか。

時と舞台は、20世紀初頭の北海道。

死刑囚から救われて軍曹となった月島は、犯罪者まがいの第七師団一味で苦労を重ねている。そんな月島に、鶴見が計画を持ちかけてきた。

「お前にあるボンボン少尉をたぶらかして欲しい。それで私がそのボンボンを利用する。ボンボンの父親である海軍力をそうやって奪うってわけだ」

月島は軍曹として少尉の元へ送り込まれ、信頼を得ることとする。

しかし、その少尉のもとに送り込まれた月島は、いつしかその鯉登少尉に心惹かれてしまい――。

“詐欺師”に利用され、“令嬢”をたらしこむべく、送り込まれる“平民”。そんなプロットとしては一致していることがわかります。

『ゴールデンカムイ』はこれがメインプロットではない。もちろん、これは盗作では全くのところありません。

とはいえ、近代が舞台であり、公式ブックで鯉登と月島は、お姫様とお付きのような関係と書かれていることを踏まえると、似ていることは確かです。

近代以前、身分制度がある時代は、その壁を超えた関係性がフィクションの定番でした。

そこに騙すプロットを加えて、極上のミステリとして仕上げていく。そんな定番にして至高の手法をとられた作品なのです。

この『荊の城』は、パク・チャヌク監督『お嬢さん』として映画化されております。

 

後半は原作を改変しており、侍女とお嬢様が信頼しあい、結託し、企みから脱出するプロットとなります。

月島と鯉登の場合、この『お嬢さん』に近いところも、興味深いのです。

 

作中で最も悩ましい立場にいる軍曹

ここまで読んできて、そんな二次創作ボーイズラブ解釈じみた話は勘弁して欲しいと困惑している方がいらっしゃるかもしれません。

しかし、軍隊ものにおける疑似夫婦関係は重要です。

日本ではあまり有名でないジャンルとして「近代軍隊もの」があります。

近代になり徴兵制度が導入された時代、軍人たちがどう戦ったか。その様を描くものです。

イギリスでも海軍ものは人気の定番です。

特に、伝説の大提督・ネルソンの時代が扱われます。

邦訳もあるホーンブロワー、オーブリー&マチュリンシリーズが有名で、映像化もされています。

一方で陸軍ものは少ない中、国民的人気シリーズの『シャープシリーズ』があります。尾形もきっと知っているであろう、世界初の狙撃手部隊・第95ライフル連隊を描いた作品です。

シリーズの主役は少尉のシャープ。そしてそれに付き添う軍曹として、ハーパーが登場します。

こうした士官と軍曹のコンビは、疑似夫婦のような関係性を帯びてゆきます。

たとえば少尉のシャープが、軍曹のハーパーが自分以外の人間に紅茶を淹れると機嫌が悪くなるんですね。

「アイツ、俺以外の男に茶を淹れるとは何事だ!」

まるで妻の不貞現場を見た夫のようになってしまう……と、このように少尉と軍曹は疑似夫婦とみなせるのです。

グリーンジャケット
世界初のスナイパー部隊・英軍グリーンジャケットがナポレオンを撃破

続きを見る

しかし、『ゴールデンカムイ』の場合、ご存知の通り、月島は鯉登の前に鶴見とペアになっています。

月島が妻で、鯉登が夫だと考えると、この三角関係は一体何なのか……月島と鯉登が並んだ時点で、運命が回転してゆきます。

軍隊もののお約束を知っていると、身を乗り出したくなるような、なかなかすごい状態に突っ込んでゆく。

さらには「樺太先遣隊」として、鶴見を抜きに月島と鯉登が行動してしまう。もう話がどうにも止まりません。

※続きは【次のページへ】をclick!

次のページへ >



-この歴史漫画が熱い!, ゴールデンカムイ
-

×