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【緋村剣心】
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逆刃刀の殺傷力
剣心の改心を示すシンボルが「逆刃刀」でしょう。
人を斬らない――とてもわかりやすい構図ですが、鉄製の棒で殴る時点で殺傷可能です。
というか歴史的に見ると、刃こぼれしない鈍器こそが実践的な武器でもありました。
代表例が中国の狼牙棒です。
むしろ打撲や骨折をもたらし、即死できないぶん、刀で斬られるより残虐かもしれません。
鉄の棒で思いっきり殴られ、死なない方がおかしいのでは?と思えますが、まぁそこは達人の手加減ということなのでしょう。
そこは踏まえましても、やはり剣心は危険です。
逆刃刀は撲殺兵器になりかねないうえに、そもそも廃刀令を無視しています。
しかも、です。
明治人にとって日本刀は、幕末惨劇のトラウマを誘発しかねないものであり、非常に「ダサいもの」という感覚でした。
「まだ武士の魂とか言ってんのかよ……」
そんな白い目で見られかねないものだったんですね。
“日本刀”は非常にシンボル的で、不兵士族反乱の引き金とされたりもするから、ある種のロマン漂う存在になっています。
しかし、そういう単純なことでもありませんでした。
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明治に人を活かす剣術を実践するには?
剣心とは、元人斬りでありながら明治を生きていられるだけで、かなり幸運な人物です。
ただし決定的に欠如しているものがあります。
思想です。
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そうした思想は、明治以降も続きます。
攘夷思想を捨てきれない人は、外国を見習う政府の方針に怒り。
戊辰戦争で苦労した東北地方の人々は、政府のやり方や県令に怒る。
剣心が生きている時代は、不兵士族、自由民権運動、ありとあらゆる思想が沸騰していました。
日本史上でも極めて政治的な熱気が高まっている状態です。
それが前述の通り、
「政治的思想を抜きたいから、幕末から明治で」
と編集部の方針で誘導した結果、おかしな点がいろいろと出てしまったのです。
少年漫画フォーマットとして読み解けばすんなりと納得できたのに、なまじ近現代史知識がつくと、どうにも引っかかる点が増えてしまう。
そういう宿命がある作品。
だからこそ、和月先生も再筆というリファインを繰り返し、メディア化でも変更されるのでしょう。
★
和月先生は、SNKや司馬遼太郎のみならず、アメコミもこよなく愛する作家として知られています。
アメコミは、第二次世界大戦のような史実を反映したキャラクターも多い。キャプテンアメリカが代表例で、日本人ヴィランには戦時中の日本兵のイメージが投影されました。
けれども、時代が変わればそんなヒーロー、ヒロイン、そしてヴィランは合わないからとデザインから設定まで変更されてきています。
『るろうに剣心』も、何度でもリファインされてよい作品に思えるのです。
「北海道編」への期待をこめつつ、今後もこの作品を考察していければと思います。
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文:小檜山青
※著者の関連noteはこちらから!(→link)
【参考】
コミック『るろうに剣心―明治剣客浪漫譚―カラー版』(→amazon)
コミック『るろうに剣心―明治剣客浪漫譚・北海道編―』(→amazon)
映画『るろうに剣心』(→amazonプライム)
映画『るろうに剣心 京都大火編』(→amazonプライム)