幕末の薩摩と言えば、倒幕を最もリードした雄藩。
西郷隆盛や大久保利通は言うに及ばず、数多の有力者を出したことでも知られ、いかにも【一枚岩】というイメージもありますが、実は結構ドタバタしております。
その最たる出来事が【お由羅騒動】でしょう。
幕末をテーマにした小説やドラマなどでは、必ず出てくるお家騒動であり、
という薩摩ド真ん中の方たちを中心にトラブルが勃発。2018年の大河ドラマ『西郷どん』でも触れられておりました。
慶応2年(1866年)10月28日はお由羅の方の命日。
一体どんな騒動だったか、振り返ってみましょう。
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江戸出身で庶民の娘 斉興の寵愛は深く
お由羅の方は、江戸出身の庶民の娘といわれています。
父の職業は大工・八百屋・船宿など諸説あってハッキリしていません。
江戸の薩摩藩邸へ奉公に出ていたところ、藩主・斉興に見初められて側室になりました。よくある話ですね。
とはいえ、正室がいる屋敷に側室を置くわけにも行かないので、お由羅の方は薩摩に住むことになりました。
参勤交代のたびに同行させられていたそうですから、斉興の気に入りようがわかります。
当時の交通事情を考えると、殿様のお気に入りになって生活が保証されたとはいえ、江戸生まれの庶民だったお由羅が頻繁に長旅をさせられたのはちょっとかわいそうな気もしますね。
江戸にずっといても、親兄弟とはほとんど会えなかったでしょうけれども。
斉興の正室が亡くなり藩内が真っ二つ
寵愛の甲斐あって、お由羅の方は斉興の子供を三人産みました。
内訳は娘が一人、息子が二人。
衛生・栄養状態の悪さから乳幼児の死亡率が高かった時代なので、無事に成長したのは斉興にとって五男である島津久光のみです。
ちなみに、斉興には正室・弥姫(いよひめ・嫁いでからは周子)との間にも、ほぼ同じ時期に子供を作っています。公平に接したつもりですかね。
にわかに雲行きが怪しくなったのは文政七年(1824年)のこと。
この年、正室の弥姫が32歳で亡くなってしまいます。
弥姫は嫡子・島津斉彬(なりあきら)を産んでおり、そんな彼女が亡くなったことで島津家内部のバランスが崩れ、後々の騒動に発展したとの見方もあります。
斉興の側室で息子を産んでいて、さらにその息子が無事に成長している組み合わせが、お由羅&久光親子しかいなかったからです。
身分の低さから正式な後室(二人目の正室)扱いはされなかったものの、お由羅の方は家中で「御国御前」と呼ばれ、実質的には正室同然に扱われたとか。
確実に彼女自身の言動だといえるものが伝わっていないようなので、本人はあまり前に出るタイプではなかったのかもしれません。
しかしこうなると、家臣たちが「次の跡継ぎは誰だ? 斉彬か、久光か」で割れてしまうのも自然の流れでして……。
人々の思惑が絡んで、ややこしい事態【お由羅騒動】へと発展してしまうワケです。
家督を譲られないまま斉彬40才
お由羅騒動とは、
・島津斉彬(母は正室 弥姫)
・島津久光(母は側室 お由羅の方)
の両者どちらを次の藩主にするか? で、揉めた薩摩藩内の御家騒動です。
では、斉彬派と久光派には、それぞれどんな人物が関わっていたのでしょうか。
【久光派】
・斉興
「斉彬は、お祖父様(斉興の祖父・島津重豪)の影響を受けすぎていて藩主にすれば借金が増えるだけだ」
・家老の調所広郷
「若様は蘭癖(外国趣味)に偏りすぎている。せっかく私達が頑張って財政の心配をなくしたのに、またぶり返されたらかなわない。久光様に跡を継いでいただいたほうが安心できるのだが……」
【斉彬派】
・若手藩士A
「斉彬様は英明な方でれっきとした嫡男なのに、お由羅と久光がいるせいで、40歳になっても家督を継げないのだ。なんておかわいそうな!」
・若手藩士B
「調所のヤツ、俺たちにばかり負担を押し付けて無理やり黒字を生み出したくせに、手柄ヅラしてやがる。アイツが推す久光なんて、藩主にさせてたまるか!」
・幕府の老中首座 阿部正弘
「外国との折衝が必要になってきた昨今、外様大名で海外に関心を持つ人物がいればありがたい。斉彬は英明な人物だし、幕政に良い意見を出してくれるに違いない。すぐにでも家督を継いでくれれば……」
こんな感じで
「斉興・調所」
vs
「斉彬・若手藩士」
という構図となっておりました。
本来は「斉彬が嫡男」なのですから、さっさと跡を継がせればよい話のように見えますが、斉興と調所が彼の「蘭癖」による「浪費」を恐れていたんですね。
薩摩は、島津重豪の代で急増した莫大な借金をようやく返せるメドがついたのに、ここでまた財政悪化したらタマラン、というワケです。
それで斉興が家督を譲らないまま、嫡男だった斉彬は40歳になってしまいました。
当時は「跡継ぎが元服する=代替わり」がセオリーでしたので、外部から見ても異様な状態でした。しかし……。
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