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【幕末の農兵】
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誰もが兵士となる時代は幕末に到来
幕末は、疫病が蔓延し、経済状況も悪化していました。
その不満をぶつける「世直し一揆」が各地で勃発。
慶応2年(1866年)【武州世直し一揆】では、韮山代官のもとで訓練されていた農兵が一揆勢に鉄砲を向けたものでした。
戊辰戦争が勃発すると、事態は混沌としてきます。
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ナポレオンのモスクワ遠征にならい、江戸を火の海にして敵を打ち払おうと画策していたのです。
この作戦は幻に終わりましたが、戦火は江戸以外に広まっていきます。
土方歳三の義兄であり、近藤勇の弟弟子でもある佐藤彦五郎は、春日隊を結成。
新選組から結成された甲陽鎮撫隊に合流します。
新選組が関東に戻ったあと、故郷に立ち寄ってから甲府をめざした行動は批判の対象とされました。
しかし、農兵の動きを見ていくと理解できなくもありません。故郷で農兵を補充できたのであれば、無駄な寄り道ではないのです。
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甲陽鎮撫隊と春日隊は敗れ、佐藤彦五郎は身を隠すことを余儀なくされます。危険な目に遭っても義弟たちと行動をともにした彦五郎からは、彼なりのプライドを感じます。
農民、力士、侠客、猟師、神官等も
戊辰戦争が奥羽から蝦夷地まで広がっていく最中には、各地で武士以外の兵士たちの姿が見られました。
武士と民の心が乖離していたとされがちな会津藩にも農兵がいました。
白虎隊と同じ年頃でありながら、陶工であったため農兵にされた平太。彼の行動を追った星亮一氏の書籍『平太の戊辰戦争 少年兵が見た会津藩の落日』(→amazon)はおすすめです。
秋田藩では、マタギがその狙撃術で活躍しました。藩主すら敬意を示したほど勇敢に戦ったのです。
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農民。力士。侠客。火消し。猟師。博徒。神官。修験者……と、各地でさまざまな階層が兵士として組織される。
そんな時代の到来は、吉田松陰の説いた「草莽崛起」(そうもうくっき・ありとあらゆる階層の人々が立ち上がること)が実現されたとも言えます。
こうして見ていくと、乱戦でも戦い抜く勇敢さに心打たれるようで、別の何かも見えてきます。
明治時代以降の流れは、既に幕末にありました。
軍隊の近代化とは、装備だけの問題ではありません。
銃弾が飛び交う中、負けじと進む者は「身分ではなく勇気」を頼りにしていました。
武士だろうが農民だろうが、何の関係もない。
幕末の近代戦を経て、日本人はそう痛感させられました。
身分は戦場の中で崩壊したのです。
そして徴兵制の時代へ
明治維新はいくつもの矛盾を抱えたまま、幕を開けます。
政府元勲たちは武士としての誇りがある。
大規模な農民一揆じみたフランス革命と明治維新をまとめるな、と苦い思いを抱く者も少なくはありませんでしたが、ともあれ徴兵制を採用しないわけにはいきません。
むしろ全国民に武士の誇り、そして健康な肉体を持たせることが、明治政府の課題でした。
現代でも日本のスポーツチームは「サムライ」とつくことが多いもの。
武士と農民の区別なんぞない――一致団結して戦う姿こそ近代以降の日本人ならば、むしろサムライと名乗ることは当然と思えなくもないのです。
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文:小檜山青
※著者の関連noteはこちらから!(→link)
【参考文献】
樋口雄彦『幕末の農兵』(→amazon)
星亮一『平太の戊辰戦争 少年兵が見た会津藩の落日』(→amazon)
他