平岡円四郎

幕末・維新

慶喜の腹心・平岡円四郎の生涯~渋沢を見出すも突如暗殺された理不尽な結末とは

2025/06/15

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京都に逃げた栄一はアテもなく円四郎のもとへ

栄一はかつての縁から「円四郎の家来である」という名目で道中を歩き、無事に京都へたどり着きました。

しかし、現実は素浪人同然の若者です。

豪農出身ではありますが、とりたてて収入のアテがあるわけでもなく、生活費に切羽詰まってしまいます。

加えて、彼らの凶行を防いだ長七郎が人斬りの罪で幕府に捕らえられ、攘夷への思いをつづった手紙を持ったままであることが判明。

故郷へ帰ることができなくなり、かといって生きるアテもない――そこで声をかけたのが平岡円四郎でした。

その際の栄一と円四郎のやり取りを、栄一の自伝から再現してみます。

円四郎「君たちは、江戸で何か計画をしたことはないか?」

栄一「なんのことだかわかりません」

円「実は、幕府から君たちのことについて問い合わせが来た。悪いようにはしないから、何があったか包み隠さず話してくれ」

栄「心当たりがないわけではありません。私たちの親友が罪を犯し、幕府に捕らえられたという手紙を手に入れました」

円「それはどんな男だ?」

栄「攘夷思想を抱く者たちで、うち一人は私の剣術の師(長七郎)です」

円「本当にそれだけか?何か事情があるのではないか?」

栄「恐らく、彼に書いた手紙が関係しているのではないかと。最近の幕府は終わってますから、早く国家を転覆させなければ日本は滅びると書き送りました。これがマズかったのでは」

円「言わんとすることは分からないでもない。が、攘夷志士というのは荒々しい者たちが多いから、君たちも人殺しや強盗におよんだことはないか?」

栄「『義のために殺そう』と思ったことはありますが、決して実行に移してはいません」

円「それならよろしい」

この問答によって栄一たちへの疑いは消え去り、円四郎は続けました。

円「これから、お前たちはどうやって生きていくつもりだ?」

栄「実は、どうするか考えあぐねているのです。あなたを頼みに京都に出てはきたものの、故郷では同士が捕縛され、行き場を失ってしまいました」

円「なるほど。それならいっそ志を変えて、私のように一橋家へ仕えてみるのはどうだろう。一橋家は他の大名家とは違って幕府との距離が近いから、普通に仕官するのは難しい。ただ、君たちは面白い男だから、そこは私がなんとかしよう」

そう告げ、栄一たちを一橋家へと誘ったのです。

彼らは信念と真逆の申し出に迷いましたが、最終的に申し出を受諾。

二人は一橋家中で極めて低い立場からのスタートを余儀なくされたものの、その才覚を生かして出世していくことになります。

しかし……。

 


慶喜を惑わす奸臣と見なされ、突如……

栄一たちが一橋家に仕えた元治元年(1864年)。

平岡円四郎は突如、京都の宿所近くで水戸藩士に暗殺されてしまいました。

彼がなぜ突然の死を迎えたか?

というと開国論者であったことから「慶喜のそばでちょろちょろ動き、攘夷派を弾圧するように吹き込んでいる」と水戸藩士らに見なされたことが原因とされています。

栄一は彼の死を大いに嘆き、「失意のどん底に突き落とされた」と語りました。

慶喜のブレーンとして活躍し、渋沢栄一を世に送り出した円四郎。

志半ばで凶行に斃れてしまったのはあまりに突然のことでした。

この後、慶喜は、家臣たちに自ら戦いを煽っておきながら、鳥羽・伏見の戦いで幕府軍が負けると、慌てて江戸までトンズラして勝海舟を唖然とさせています。

そして江戸幕府は滅び、幕臣たちは放り出され……もしも平岡円四郎がいたら、もっと別の未来があったのでは?

詮無きことながら、そう考えずにはいられなくなります。


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文:とーじん

【参考文献】
朝日新聞社『朝日日本歴史人物事典』(→amazon
宮崎十三八・安岡昭男編『幕末維新人名事典』(→amazon
渋沢栄一記念財団編『渋沢栄一を知る事典』(→amazon
渋沢栄一著、守屋淳編訳『現代語訳渋沢栄一自伝:「論語と算盤」を道標として』(→amazon
岩下哲典『徳川慶喜:その人と時代』(→amazon

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とーじん(齊藤颯人)

上智大学文学部史学科卒。 在学中から歴史ライターおよびブログ運営者として活動し、歴史エンタメ系ブログ「とーじん日記」や古典文学専門サイト「古典のいぶき」を運営している。 各メディアで記事執筆を行うほか、映画・アニメなどエンタメ分野の歴史分析も手がける。専門は日本近現代史だが、歴史学全般に幅広い関心を持つ。 2023年にはサンクチュアリ出版より『胸アツ戦略図鑑 逆転の戦いから学ぶビジネス教養』を刊行。元Workship MAGAZINE 3代目編集長。 ◆2019年10月15日放送のTBS『クイズ!オンリー1 戦国武将』に出演(※優勝はれきしクン) ◆国立国会図書館データ https://id.ndl.go.jp/auth/ndlna/032655935

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