『西郷どん完全版第壱集Blu-ray』/wikipediaより引用

西郷どん感想あらすじ

『西郷どん』感想あらすじ第12回「運の強き姫」


西郷がチラチラ邪魔をして

この年、篤姫の輿入れが決まりました。
未だに近衛家が出てきません。篤姫は、輿入れ時点では、島津斉彬ではなく近衛家の養女扱いにされています。

せっかく篤姫が決意を固めているのに、西郷どんがそれでいいのか、と聞いて来ます。

こういう、
【脚本家が抱いたであろう疑問を西郷どんに言わせるシステム】
は、やめたほうが良いのではないでしょうか?

西郷どんがまるで成長できない主要因は、こうした場違いな言動などにあると思います。

このあと篤姫は、幾島と薙刀の稽古をします。

いい動きです。一目で身体能力の高さがわかります。袴姿からは凛々しさと爽やかさが漂っていおり、アクション女優としても一皮剥けて、『精霊の守り人』では短槍の達人バルサを演じるわけですが、それも納得できるキレのいい動きで……ってすみません、『八重の桜』の綾瀬はるかさんのことを思い出していました。いまだに思い出すんですよね、あのキレッキレの動き。

いや、女スナイパーを演じるわけではないですし、別にあそこまでやらなくてもいいのです。

しかし、せめて稽古着ぐらい着てはいかがでしょう?
あんな重たそうな、キンキラキンの裲襠(うちかけ)のまま薙刀ふるってないでしょうに。
『真田丸』の稲も袴で練習していましたよ。北川景子さんの凛とした美しさを活かしきれない、薙刀稽古シーンとしては最低ランクでしょう。

しかも、横にいる西郷どんがおかしいです。
なぜ、そこにいて、篤姫を庇うのでしょうか。なんか邪魔だなぁ。

 


M7.0の大地震、発生

ここで斉彬は、篤姫に許しを請います。
公方は、病弱で夫婦の営みもできぬだろうと伝え、篤姫はそれでも構わないと語ります。

非常に真面目で、出来は悪くない。

それなのに……。
そんな健気な篤姫を犠牲にしてまで果たしたい目的というのが、あのアホボン(=一橋慶喜)を担ぐことなんですよね。
悲しいBGMがここぞとばかりに流れます。

その夜、地震が発生しました。
大きな揺れです。
結論から申すとM7.0規模の「安政の大地震(安政江戸地震)」でした。

「桜島が噴火したぁ」とか言ってる有村俊斎は、心からどうでもエエ。大山格之助と揃って、今日のこの2人、ダメすぎでしたね。

磯田屋で酒を飲む西郷を、単に羨ましがってるだけ。
「お前だけ、合コンずっちーな!」とか言ってるアホ大学生です。

※大山は寺田屋事件、有村は桜田門外の変で過酷な立場になるというのに、何やってんだか……

 


非現実的なカッコよさは客をバカにしていることになる?

西郷は斉彬の無事を確認すると、篤姫の元へ走ります。

しかし、どうなっているんだ、薩摩屋敷。
斉彬と篤姫の安否確認を、西郷どんが真っ先にするっておかしくないですか。
よほど人がいないのか、西郷どんが高速移動でもしているのか。

さて、この先は……西郷どんが篤姫を危険から守り、篤姫が「一緒に遠くまで逃げて欲しい」と、駆け落ちを求めるような場面。

◆大河『西郷どん』衝撃展開 西郷隆盛と篤姫が駆け落ち!?(→link

今年1月の時点でニュースになって「ウソだと言ってくれよ!」とコアな大河ファンを嘆かせた展開です。

ニュースの時点でもウンザリしたのですが、実際に見ると輪を掛けてひどい。
いかにも建物が崩れそうな危険の中で、歯が浮くほど臭い台詞を喋っているのです。

普通の神経なら、喋る暇があるなら逃げますよね。
他の人の安否も心配もしますよね。

結局この二人は、非常時でも自分の感情を剥き出しにしているだけです。

わかりますよ。
『子供が産めないとわかっていて家定に嫁いでいく気丈な篤姫が、チョット目の前の男性に頼りたくなったっていいじゃない!』
とかそういうことなんでしょう。

しかしこれ、本当に西郷大河でやるべきことでしょうか。
『篤姫』の大河ドラマと化してません?

本作を見ていると、人の死も、災害も、そしてこれからは幕末の動乱も。
すべては視聴者から涙をカツアゲする材料や、ラブロマンスの吊り橋効果発生装置に過ぎないのだな、と思うと、悲しくなってきます。

本作の作り手って、史料を見ながら、誰かの親や子が死んだことを見つけると、
「おっ、美味しいネタじゃん! リアクション次第で、数字に繋がるよね!」
とか思っていそうです。

こういう薄ら寒いシチュエーションのラブシーンが最高にイケてて、ともすれば、ナウなヤングにバカウケじゃん?とか本気で思っていそうな姿勢に、残念ながら失笑してしまいます。

※もちろん物語というのは、様々な場面の積み重ねなワケですが、視聴者に違和感を抱かせたらイカンでしょ……

この場面に関しては、このインタビューから引用した言葉をつきつけたいです。

広告って本当に「嘘」が多い。非現実的なかっこよさを演出したり、過度に誇張されることもしばしばです。ありえないロマンチックな状況で愛の告白をするバレンタイン広告を見せられてもね...。それでお客さんが釣れると思っている時点で、バカにしていますよね。(「日本は、義理チョコをやめよう」 働く女性の気持ちを掴む広告は、こうして生まれた。)より引用

この「バレンタイン広告」の部分を、(西郷どんの)「ラブシーン」に置き換えれば、この場面に対する苛立ちの表現としてしっくり来ます。
バカにしていますよ、こんな場面。

ちなみに西郷どんに影響を与え、原作にも登場していた藤田東湖は、紀行死を遂げました。
幕末を説明するうえで絶対に欠かせない「尊皇攘夷」思想も、紀行で説明されました。

冒頭で本作は『花燃ゆ』を孤立させないため、手を差し伸べた薩長同盟大河だと書きました。
スミマセン、現時点ではまだ『花燃ゆ』の方がマシに思えます。
あのおにぎりとスイーツと「幕末男子の育て方。」に汚染された作品ですら、一応「尊皇攘夷」思想の中身は描いていたからです。
少なくとも吉田松陰の思想はある程度理解できました。

本作の西郷どんの頭には、何が詰まっているのでしょう?

 

MVP:本作の魔手から逃げ切った藤田東湖

死亡確定で逃げ切りおめでとうございます。

※史実では安政の大地震で母親を助けようとして、崩れた建物の下で圧死してしまいます

 


総評

とにかくセンスが古くさくて、滑っていて、見ているだけでいたたまれない――そんな絶望的な気分です。

2015年のどん底から、真田丸、直虎で二年連続前進したと言える大河ドラマ。
今年は一気に三歩ほど後退してしまいそうな勢いです。

「篤姫は愛する西郷どんじゃなくて、こんな駄目夫に政略結婚させて可哀相! 不幸になっちゃう!」
という目線が不愉快で仕方ありません。

本作は、2010年代大河の良作で、長所だった
【色んな人生があって、人それぞれの生きた証や生きがいがある】
という点をガン無視しますよね。

一昨年の『真田丸』における真田信繁やメインヒロインのきりは、典型的な幸せとは異なる人生を歩みました。

信繁は、誰かの影に隠れ、最晩年まで自分の功績をあげることすらできず、城の主ともなれずに、最期の晴れ舞台・大坂でもさんざん理不尽な目に逢い続けます。
きりは、良妻賢母という枠からも、おとなしく優しい癒し枠ヒロインという枠からも大きく外れた女性でした。

それでも、そんな彼らでも輝いていた瞬間はあったし、最終回を見終わったあとで、

「あ~、かわいそう! ほんっとに無意味な人生だったね。一発勝負屋みたいな主人公、ウロウロしているだけのきり。なんなのアイツw」
とはならないじゃないですか。
劇中二人は結構自虐的なことを言いますけど、悲劇に酔いしれてはいないわけです。

昨年の『おんな城主 直虎』では、ヒロインがしみじみと、結婚しなかったからこういう人生だからわかったことがあった、と語る場面がありました。

ヒロインが同志である小野政次を処刑する衝撃の場面では、
「こんなにも壮絶で、こんなにも悲しく、こんなにも尊い愛があるのか!」
と、話題になったものです。

作り手側が、一見すると不幸かもしれない、報われなかった人生によりそって、あなたにはあなたなりの人生の意義や幸福があったと呼びかけるような、そういう優しさと誠意があった。

でも、きっと今年はそんなのないのだろうな。

「ええ~~好きな男と結婚できないとか不幸だよね~~不幸推し! めっちゃ不幸推しして盛り上げちゃう。でも可哀相だから、ラブシーンも入れたよ」
みたいな、すんごく上から目線の、デリカシーもない、傲慢さを感じます。

あとこれは、西郷どんが家族三人を失った回で「人生一番不幸な年」と言った時も思ったんですけど……。

現代人からすれば、想像を絶するような不幸が盛りだくさんだった幕末。
そこをまるで想像しないで、
「家族亡くして可哀相~~」
とか
「好きな相手と結婚できなくて可哀相~~」
とかユルユルレベルで話を進めちゃうのも、正直、怒りが湧いてしまいます。

西郷が英雄だけに、あまりクローズアップされませんが、彼は、戦争を引き起こすことを厭わない一面がありました。
実際に二度の内戦(戊辰戦争・西南戦争)を引き起こしています。

もちろん西郷一人が強引に進めた話ではありませんが、決定権のあった人物であるのは間違いなく、その言い訳はできないハズです。

 

蛇足:本作斉彬の死生観

今さら突っ込むのも嫌になるのですが、本作の人物は雰囲気に流されて、そこだけ切り取るとそこそこカッコイイ台詞を述べており、まともに取り合うのも馬鹿馬鹿しくなってきます。
このあたり、ベクトルがズレていても、それなりに一貫性があった『花燃ゆ』よりもたちが悪い。

例えば斉彬ですが、彼は一体、命を何だと思っているのでしょうか?

軽いノリで父親と自分の命を危険にさらした「ロシアン・ルーレット」も大概ですが、ヒ素を盛られて西郷どんがオロオロしていた時は「俺は命なんか惜しくねえんだよ!」と啖呵を切っています。

この「俺は命なんか惜しくねえんだよ!」は、慶喜が毒殺されたくないと不安がっていたこととの対比なのでしょう。
しかし、マトモなのは慶喜の方で(そんなもん思っていても口にすべきじゃないですが)、斉彬はおかしい。

彼の持っている蛮勇は、総大将ではなくて鉄砲玉のような人物。
薩摩藩なら益満休之助あたりにふさわしい気構えです。

幕末の武士は、自分が死んでしまうよりも、むざむざ殿様の命を取られるほうが酷いことでした。

勝海舟は慶喜に泣きつかれたら全力を尽くしたし、会津戦争では松平容保の首が要求された結果、泥沼に突っ込みました。

慶喜の首を要求された幕府側の使者として、山岡鉄舟は「もし私とあなたが逆の立場で、島津の殿様の首を要求されたらどうするのか?」と迫りました。
西郷はそう言われて、即座に相手の言わんとするところを理解しました。

というわけで、そんな時代に軽く自分の命を捨てる気まんまんの斉彬はおかしい。
その一方で、西郷どんには簡単に命を捨てるなと言ったりする。

破綻しているとしか言いようがありません。

 


蛇足2:遊郭と娼館

以前、編集さんと
「『ゲーム・オブ・スローンズ』(以下GoT)の娼館はなんとも思わないのに、本作の品川宿関連が不愉快なのはナゼか?」
と話題になりました。

今日気づいたのですが、本作は
「売買春は恥ずかしい」
という価値観がすっぽ抜けているのです。

『GoT』にはネッド・スタークという堅物貴族が出てきます。
彼はピーター・ベイリッシュという男に、ピーターが経営する娼館に呼び出されます。
その時ネッドは激怒し、どういうつもりだとピーターに迫るのでした。

このあともネッドはとある用件で娼館に出入りすることになるのですが、不本意そうですし、出入りを見られた際は恥ずかしそうにしています。
周囲の人間も、
「あのお堅いスターク公が娼館に出入りするとは……」
と、揶揄するんですね。

初登場時が娼館で女と戯れているという、ティリオン・ラニスターのような人物もいます。
その場面は女性が上半身裸になっていて、品川宿の比ではないどぎつさです。

それでも『GoT』での娼館が品川宿がらみよりマシに思えるのは、
【ネッド・スタークのような高潔な人物は、娼館通いを恥だと認識している】
からなのです。

文化慣習が異なる人物や、恥知らずであれば娼館に平然と出入りしますが、想像しただけでゾッとする人物もいるわけです。

ところが本作では、西郷どん、橋本左内、一橋慶喜、幾島のような女性まで、誰も恥じることなく堂々と楽しげに品川宿に出入りする。
羞恥心がかけらもない。

本作の人物は、贈収賄がらみでも誰も恥じることなく堂々とやりとりをしています。

この、高潔な人物が誰もいない、悪臭のようにゲスさが蔓延している世界観が、ともかく嫌です。息が詰まりそうです。
誰かが常にすかしっ屁をしているようなドラマです。

明治維新150周年を記念するのであれば、顕彰目的でしょうに。
こんなゲスなドラマを作って、受信料を使ったネガティブキャンペーンでもしているのでしょうか。


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著:武者震之助
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【参考】
西郷どん感想あらすじ
NHK西郷どん公式サイト(→link)等

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