ゴールデンカムイ19巻

明治・大正・昭和時代

キロランケの戦う理由とは?ゴールデンカムイ19巻を深堀り考察!

俺たちのカムイが 違うものにすり替わっていく
いずれ自分たちも文句を言わない敬虔な信者にされてしまう
だからウイルクと俺はソフィアたち革命家に加担した
キロランケ(『ゴールデンカムイ』第179話より)

※『ゴールデンカムイ』18巻まで読了の方のみ、読み進めてください。

14巻末から、杉元たち先遣隊が上陸した樺太。

彼らの追いかけるキロランケは、アシリパに父・ウイルクの軌跡を見せようとしていました。

衝撃的な核心へと迫るストーリー。
それを追いかけるためにも、彼らの背景を見ていきましょう。

【TOP画像】ゴールデンカムイ19巻(→amazon link

 

ロシアの革命戦士と、その爆弾

強く美しき、ロシアの革命戦士・ソフィア。
そして彼女に導かれたウイルクとキロランケ。

ソフィアには複数のモデルがいます。
革命を目指したテロリスト・ソフィアと、義賊ゴールデンハンドです。

◆ソフィア・ペロフスカヤ(1853〜1881)

ソフィア・ペロフスカヤ/wikipediaより引用

彼女はナロードニキ運動に参加しており、名家の出身でした。

貴族であるソフィアの経歴と一致しております。

暗殺犯処刑の絵、女性がソフィアと思われます

 

◆ソーニャ・ゴールデンハンド(1846〜1902)

ロシアの伝説的な存在。
「ゴールデンハンド」という通称は、彼女から取られています。

経歴はあまり一致点がないように思えます。彼女の生い立ちは、彼女自身がさして語らなかったため、謎に包まれているのです。

数回結婚しており、魅力的な女性であったことは確か。
不敵な顔は、どこかソフィアに似ています。

樺太に収監された彼女は犯罪者でした。
そうでありながら愛されたのは、金持ちから盗み、貧乏人に配っていたため。伝説的な女性「義賊」なのです。

ソーニャ・ゴールデンハンド/wikipediaより引用

史実におけるソフィアの仲間には、ウイルクとキロランケに似た経歴を持つ者もおります。

◆イグナツィ・フリニェヴィエツキ(1856〜1881)

ポーランド人であり、アレクサンドル2世に爆弾を投げつけた人物です。

イグナツィ・フリニェヴィエツキ/wikipediaより引用

◆ニコライ・キバリチチ(1853〜1881)

ツァーリ暗殺爆弾の開発者です。

キロランケが得意とする爆弾は、簡単であればあるほど役立つものでもあります。

こうした爆弾や砲弾は、原始的な構造であり、爆薬まで到達する前に防ぐことが可能。

会津戦争では、「焼き玉抑え」という任務を籠城する女性や子供が行いました。着地し、爆発する前の砲弾に布をかぶせ、爆発を防ぐことをこう呼んだのです。

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明治時代には、日本でも爆弾テロが増えております。

大隈重信も、その一人です。

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幕末に猛威を振るった自顕流拾得者の鯉登と、明治以降猛威を振るいはじめた爆弾のキロランケ。
戦ったら、どうなるのでしょうか?

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ロシアのヒグマに気をつけな

さて、ここで考えたいこと。ちょっとBBCを助っ人に呼んできましょう。

BBC制作の「第一次世界大戦をラップバトルで説明するYO!」をどうぞ。ふざけているようで、かなりレベルが高く、勉強になるYO!

1:40あたりから登場! ニコライ2世の歌詞でもどうぞ。

セルビアの同胞、フランツ・ヨーゼフを応援するYO!
同じ血、同じ宗教、同じスラブの顔
サラミよりも多くの軍隊を派遣できるZE!
煽りや釣りはやめるんだYO!
コサック騎兵に引き裂かれてのたうちまわりたいか?
このあいだにやらかしちまったとき(※ニュアンス的に、たぶん日露戦争ですね)、朕も革命に焦ったYO!
今回はてめえをぶちのめして解決するZE!
ロシアのクマに気をつけなYO!

なんかラップで意味がわかんねえ。
しかも英語かよ。

そうなるかと思いますが、我慢してくださいね。

ロシアでは、伝統的にヒグマをシンボルとしてきました。

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プーチンがヒグマに乗っているクソコラは、ある意味伝統なのです。

◆プーチン氏、熊に乗っている写真にコメント【写真】

「ヒグマと喧嘩したいの?」
と、ロシア人に言われたら? 大変危険です。気をつけましょう!

本作の命知らずどもは「日露戦争延長戦だ」といきり立つのがお約束ですが、あれは彼らが強いから。

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太平洋戦争の延長戦になったら、まずい……。やめておきましょう。

はい、ラップバトルへ戻りまして。

ここでツァーリはノリノリでセルビア仲間意識を見せていますが。見せられる方からすれば、シャレになっていないところでもある。
なまじ東欧であるセルビアやポーランドは、ロシアのせいで苦しめられたのです。

ロシアはここを突かれると、放置できないけれども。助けられる側としても、ありがた迷惑ではあると。

ここで思い出してみましょう。
ウイルクの父であり、史実におけるアレクサンドル2世の暗殺犯も、ポーランド系です。彼らはロシアから圧迫を受けた人たちであるのです。

そして、この物語の舞台とラップバトル舞台の20世紀前半に至るまでに、もうすこし遡りたいところでもあります。

それはナポレオン戦争です。

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フランスから始まった革命の息吹は、ポーランドにとっては希望でした。

フランスの味方をして、ロシアを叩く。
そうすれば、祖国独立への希望が見いだせるかもしれない――。

ならば、フランスのために戦おう!
そう考えたのです。

その代表例が、ポニャトフスキです。

ユゼフ・ポニャトフスキ/wikipediaより引用

池田理代子氏漫画『天の涯まで ポーランド秘史』主人公でもあります。

彼は、第一帝政の26元帥の一人にまでのぼりつめました。
ただし、軍事的功績や能力というよりも、ポーランドへのポーズという意識が見え隠れしているところではあります。

ポーランドの苦しみは、大国に挟まれたゆえのもの。
フランス、オーストリア、ロシア――。フランスとしては自国民でもなく、ロシアに近い、緩衝材になるのです。

ナポレオン戦争の中で、フランスの成人男性人口は激減しております。
他国民を利用することが理にかなっていたのです。フランス外人部隊も、この戦争の影響から採用されたシステムでした。

その最悪の結果が、ロシア遠征です。

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犠牲となった将兵は、フランス人以上にポーランド人が多かったのです。

それでも、ポーランド人は戦わねばならない。
少数派が多数派の中で目立つためには、倍努力せねばならない――。ポニャトフスキも、戦争の最中溺死するという、悲劇的な最期を迎えました。

ポニャトフスキが男性の代表ならば、女性はマリア・ヴァレフスカでしょう。

マリア・ヴァレフスカ/wikipediaより引用

ポーランド貴族夫人であった彼女は、政治的駆け引きも背後にある中で、ナポレオンの愛人となりました。

彼女の夫は政略結婚のうえ高齢であるとか。
玉の輿であるとか。
彼女は純粋であったことから、美化されがちな関係ではありますが。

ナポレオンが死の際に叫んだ名前は、ジョゼフィーヌ

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しかし、ロシアは巨大なヒグマ。
猛獣に楯突いておいて、その相手を許すことは到底できません。

だからこそ、ウイルクの父のようなポーランド人政治犯は厳しく弾圧を受ける。そして、地の果てとされた樺太の監獄へと送られていきます。

そして樺太のアイヌ女性との間に、青い目を持つ男児が生まれる。
ウイルクと呼ばれるその男児は成長し、やがてロシア皇帝・アレクサンドル2世を暗殺するのです。

暗殺後、ウイルクは北海道へと逃れます。
彼はそこでアイヌの女性と愛し合い、父譲りの青い目のアシリパが生まれました。

アシリパの青い目――。
美しい宝石のような輝きだけではなく、悲しい歴史が宿った色でもあるのです。

ウイルクとアシリパという父と娘は、何なのか?

彼らはロシアというヒグマの巨体に、抗う存在でもあるのではないでしょうか。

 

ヴィクトリアおばあちゃんの孫たち

はい、ここであのラップバトルをもう一度ご覧ください。

ここでおっさん……もとい君主どもが、3:45あたりで写真を見ながら「おばあちゃ〜ん!」と言い出します。

そのおばあちゃんとは? ヴィクトリア女王です。

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即位時の可憐な姿。

NHKでも放映されたドラマのイメージがあるかもしれませんが。
あちらのイメージは、むしろおばあちゃんですね。

存在そのものが巨大であるがゆえに、世界史でも屈指の影響力を持っています。

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もうひとつの恐るべき例が、このヴィクトリア女王から始まります。
彼女の血を引く王女たちがヨーロッパ王室に嫁いだ結果、いくつもの悲劇が生まれたのです。

偉大なるヴィクトリアの血がヨーロッパにいきわたった結果、王室全体が危機を迎えるという、壮大な恐怖。

その結果、皮肉にも、
「えー、平民出身王、しかもフランス移民でしょ? あんなもん即座に終わるわ」
とされてきた。そんなスウェーデンのベルナドット王朝が、現在に至るまでピンピン元気! ノーベル賞授章式に出てくると。

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ロシアに話を戻しますと……。

やっと生まれた皇太子。
そんな我が子に血友病が出てしまった!

皇帝夫妻はパニックに陥り、藁にもすがる思いである人物の祈祷を信じます。

ラスプーチンです。

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はい、ここでラップバトル、「ラスプーチンvsスターリン」。
この二人以外も、いろいろと出てきますが。BBC版ほどできはよろしくありませんが、楽しいことは確かですよ!

ここでスターリンは「何が母なるロシアだ、ビッ*じゃねえか!」と悪態をついています。

ソフィアの気持ちも、そんなところでしょう。

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老いゆくヒグマを喰らうもの

そうしたシステムが老いてゆくヨーロッパに対する、新興国大日本帝国という立ち位置。
これもまた、頭の隅にでも入れておかれるとスムーズになります。

「脱亜入欧? 所詮おたくの君主、ヴィクトリアおばあちゃんの孫じゃないし……?」

こう言われてしまうと不愉快極まりない話。
とはいえ、鹿鳴館だ、文明開化だ! そう日本が主張しても、どうしたって一段下に見られている。そういう史実から、目をそらすことはできないのです。

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さらに突っ込んでいくと、どうしたって不快感があるのですが。

倒幕において薩長を支援したイギリス。彼らの狙いは何か?

ロシア牽制――。ロシアの立ち位置を、先程のラップバトルから思い出しましょう。

彼らはスラブ系であり、宗教もロシア正教である。
西欧からすれば、半分ヨーロッパ人、半分アジア人という、中途半端な立ち位置なのです。

ロシアの誇りであるピョートル大帝すら、フランスでは。
「何あの田舎者〜ダッサ〜!」
と、思われていたという悲しいお話も。確かに言動がいちいちワイルドだけどさぁ。

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ナポレオン戦争にせよ、第二次世界大戦にせよ。
味方として団結する一方で、一段下に見られる。ロシアとは、そんな位置にあります。

ご自慢のコサック騎兵にせよ、ルーツはヨーロッパ以外であり、野蛮だとみなされていたほどでして。

ここで、ソフィアのことを思い出しましょう。
農民の娘に偽装していた彼女は、言動の端々にフランス語が出てしまい、貴族だと察知されておりました。

彼女は貴族であるがゆえに、フランス語を話せたのです。

ロシア語は野蛮だからこそ、皇族や貴族はフランス語を話し、フランス人家庭教師から教育を受けるべきだ。そんな美学が彼らの間にはあったのです。
アレクサンドル1世は、コルシカ訛りのあるナポレオンよりも美しいフランス語を話すことができたほどでした。

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『戦争と平和』のピエールのように、時にフランス語名すら名乗りました。

自らの名前すら否定する。西洋への憧れがありました。
野蛮人とみなされたくない。そんなロシア人の背伸びがあるのです。

いつまでも、西洋諸国の秩序にいたら?
ロシアは、仲間のようでそうじゃない、半端な存在のままになってしまう。

ならばいっそ、世界初の共産主義革命を成し遂げてこそ、その因習を打ち破れるのではないか――。

 

ロシア革命では皇族が虐殺され、多数のロシア貴族が亡命し、災難に直面しています。

そのことを踏まえますと、貴族のソフィアはなぜ革命家になったのか? そう思えてきませんか?
そこには、彼女なりの打破願望があってもおかしくはありません。

ソフィアは、ユニークな個性を持っている。
義賊であり、貧しいものを救いたい気持ちはあった。彼女の言動の端々からは、そのことを感じさせるのです。

それと同時に、支配されたくはない。
男性であるウイルクやキロランケにも引かず、立ち向かう強気があります。

誇り高き貴族にして義賊――ゆえに、ソフィアは革命戦士になったのでしょう。
革命を目指すならば、やっぱり強盗くらいはやらないと!

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そんなロシアは、西欧諸国から見ても厄介ではあります。

文明では一段下とはいえ、軍事力はある。どうにかして牽制したい。
ナポレオン戦争がひと段落したあと、西欧諸国の思惑が交差します。

そこで彼らが目をつけたのは、極東の島国・日本でした。
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