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【『どうする家康』感想あらすじレビュー第4回「清須でどうする!」】
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どうするVFXと地理感覚
今回、清洲城を見ていて思いました。
VFXは技術が低いだけの問題ではない。
RPGかMMOのような、敢えてファンタジー感のある絵にしようとしていませんか?
日本の城の構造を踏まえると、空間が広すぎておかしい。やけにのっぺりとしていて嘘くさい。
そして、なぜかいつも天候不良ですよね。
魔王の城! ドヤ!
そんな風に言いたげな曇り空で、常に不穏な空気を漂わせたいアピールが辛い。
いつでも桜が舞い散っているファンタジー日本を舞台にした映画『47 RONIN』を思い出します。あれとはベクトルが逆方向のおバカ日本でつらい。
VFXではなく、ロケ地ですら、どうも尾張とは思えないような場所を使っているようです。地理感覚もおかしくて、尾張にない地形をせっせと作っています。
『麒麟がくる』の駒がファンタジーだとネチネチ突っ込まれていましたが、あれは「稗史」目線から抽出された人物であり、つまり当時の一般人を表したものでした。
ファンタジー度なら、今年の方が上です。
どうする格闘シーン
映画『47 RONIN』といえば長崎の地下闘技場ですね。
ご覧になられてない方には意味不明でしょうから説明させていただきます。
あの映画は一言でいえばファンタジー忠臣蔵です。
そしてその世界では、長崎に謎の地下闘技場があり、バトルが行われていました。
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『どうする家康』の相撲シーンを見ていて思い出したのは、まさにそれ。
イメージとしては漫画やアニメの地下闘技場ですね。あるいはプロレスの金網デスマッチあたりでしょうか。
しかし……基本的な話として、相撲はそもそも土俵でやるものでは?
なんなんでしょう、このダメなハリウッド映画のジャパンもどきは!
どうする殺陣
木製薙刀を持って元康の前に現れた信長の妹・お市。
あの動きからしてワイヤーアクションを使っているようでしたが、映画『マトリックス』が衝撃的だった2000年代の感覚です。
ワイヤーアクションは1990年代に香港映画で流行し、それをハリウッドが取り入れ、世界的になりました。
武侠ものの「軽功」という、宙を舞う術を表現するための技法です。
しかし今では古臭くなりました。使うとしても限定的な場面になり、例えば『麒麟がくる』では桶狭間の戦いで使用されましたが、毛利新介が今川義元を討ち取る非常に衝撃的なシーンでの話です。
一方、本作は清須城での稽古に過ぎません。歴史が動くような場面ではない。それなのに、いかにも見せ場のように出してくる感覚が辛いのです。
『マトリックス』はもう20年以上も前の作品ですよ。
どうするジェンダー観
このお市、いかにも昭和あたりの「男勝り」でがっかりしました。
女は相撲できないとか、その手の話で「女の壁」を表現するっていつの時代ですか。近代のジェンダー観で止まっていますね。
よくあるじゃないですか。
剣の腕前で男より上だった幼なじみの女の子。でも15くらいになったら「もう勝てない! だって私は女だから!」って泣き出すやつ。既視感ありませんか?
ここで令和を代表する少年漫画『鬼滅の刃』の胡蝶しのぶでも、思い出してみましょう。
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大河にもそんなヒロインはいます。
『麒麟がくる』の帰蝶を思い出してみましょう。彼女は未婚時代こそ、袴を履いて馬に乗っておりました。
しかし結婚後は女性の服装になります。そのうえで父・斎藤道三と夫・織田信長の会見をセッティングをし、鉄砲の取引においては「織田家の実質的な取引相手はあのお方だ」と言われるくらい活発にしていました。
武器を振り回すのではなく、知性と政治力で帰蝶は合戦の手引きすらしたのです。
彼女が買いつけた武器で命を落としたものも少なくない――と考えれば、かなりの武力に等しい働きでした。
あるいは『鎌倉殿の13人』の北条政子もそうです。
彼女は強く賢明な女性でしたが、これみよがしに男装などしていません。
『平清盛』の政子と衣装やメイクを思い出してください。時代の変化が見て取れます。
『平清盛』の政子像は、猪を抱えていたり、髪の毛がボサボサだったり、毛皮を身に纏っていて、当時の「男まさり」な女性像でした。
しかし『鎌倉殿の13人』での政子は女性の衣装を着て、書物を読み、知性を磨き、政治力を身につけることでリーダーとしての器を見せつけました。
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男だろうが、女だろうが、一振りの剣で勝てる相手は限られています。
本気で戦なり世を動かしたいのであれば、男女問わず知性と政治力が肝要。
『麒麟がくる』の帰蝶や『鎌倉殿の13人』の政子はそれができていました。
彼女らの素晴らしい活躍を見た後、なぜ、このお市を見なければならないのでしょうか?
どうする貿易
織田家は力があるから好きにできる。
そうアピールするように、テーブルと椅子もあります。
そんなわけないことを私たちは『麒麟がくる』で学びましたね。『鎌倉殿の13人』にも関係があります。
・海路
・貿易港の整備
・貿易船の確保
・経済力
このあたりが大事だからこそ、『麒麟がくる』の信長は堺を欲しがっていた。
『鎌倉殿の13人』では平清盛も源実朝も、港の整備を考えていました。
「力があるからなんでも手に入る!」って、そういうことじゃないってば!
そしてこれが薄っぺらい戦国ものあるあるのミス。
当時、海外交易で莫大な利益を上げようと思ったら、どこの国を意識するでしょうか?
ポルトガル?
いいえ、明です。
明は当時世界一の大国であり、彼の国の商人はこう言いました。
「日本人マジちょろいわ。うちの国のものって言ったらなんでも買うぞ!」
『麒麟がくる』で松永久秀が鑑定していたのも明渡来の茶器でしたし、『鎌倉殿の13人』でも宋磁が出てきましたね。
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そんなことはわかっている人は「いまさらいうな」レベルの話なのですが、ゲームあたりだけで勉強しているとこうなる。
「信長っていえばマントに西洋甲冑じゃん。やっぱり南蛮グッズだよな!」
『麒麟がくる』はそこを逆手にとって、南蛮人コスプレをするのが光秀という変化球を投げてきたんですけどね。
信長が南蛮貿易だのなんだの言い出したのは、桶狭間の戦い直後などではなく、もっと先だと思いますが、本作はイメージ重視なので仕方ないのでしょう。
ちなみに徳川家康の政治的実績のひとつとして、秀吉の【朝鮮出兵】で断絶した明と朝鮮との国交回復があります。
本作がこんな調子で今後も進むなら、ワインを飲む信長は出てきても、家康の外交は期待できません。
今のままでは、ウィリアム・アダムスが出てきたらマシというレベルですね。
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どうする「側室」
戦国時代の女性については黒田基樹先生の書籍がおすすめです。
以下のレビューで挙げられている本を読めば、このドラマが一から十まで間違いだとわかります。
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例えば今川氏真の周辺がおかしい。
義元亡き後の今川家を支えた寿桂尼だけでなく、氏真の正室である早川殿も出てきません。彼女は無双シリーズにも出ていて人気と知名度が結構あると思うのですが、なぜなのか。
もしも氏真が側室を持つのであれば、正室である早川殿の許可が必要になると考えられます。
早川殿は甲相駿三国同盟の一環として、北条家から豪華な花嫁行列で嫁いできました。
北条家にとっては大事な姫であり、そんな正室を無視してホイホイ側室を迎えたら、最悪の場合、北条と今川の同盟すら壊れます。
そもそも正室と側室の使い方からして、江戸時代以降の認識ありきで引っ掛かります。側室は愛人ではなく、正室が認めた「私の代わりに子を産んでもよい女」という枠です。
『麒麟がくる』では配慮がありました。
信長は【桶狭間の戦い】へと死を覚悟して向かう際、それまで正室である帰蝶に報告していなった奇妙丸(のちの信忠)を侘びながら彼女に託します。
愛人との間に子どもができちゃってた!という描き方ではなく、報告の順番を忘れていたような信長の態度であり、帰蝶は冷静でした。
誰が産んだ子であれ、今後、正室である彼女の管理下に置くならば、自分の地位は保たれると思っていたとわかりましたから。
本作では、そういう認識ができていないんですね……。
瀬名は家臣の娘ですし、ああも頑強に抵抗されるならば、身の危険を考えて遠ざけて当然です。
戦国大名の場合、子を増やすことで家の安泰を高めることが第一。美人だから愛人にしたいという欲求は、江戸時代以降の春本(エロ本)ネタですよ。
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