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【『どうする家康』感想あらすじレビュー第5回「瀬名奪還作戦」】
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どうするよくわからん考証
前回登場した清須城。
中国風に見える問題については複数のメディアからツッコミが入っていました。
私は以下の記事を読み、ハッとしました。
◆仮面が登場するドラマが続々 『どうする家康』での必然性と遊び心 冒頭の絵にも注目(→link)
気になったのは以下の部分。
引用させていただきます。
なぜいま仮面だらけなのか。
筆者が推測するに、コロナ禍、マスク着用が必須で撮影に気を使わなければならないため、最初からマスク(仮面)をかぶっていれば感染予防の手間が省けるということではないだろうか。
飛沫は防げるし、メイクも簡易で済む(接近するヘアメイク作業にはことのほか気を使うようなので)。
というのは半分冗談だが、戦国時代の演劇(能)では演者は仮面をつけていたから『どうする家康』に仮面が出てくるのは不自然ではない。
その上、市は女性ながら男に負けずに戦いたいと思っている人物で、仮面をかぶって性別を曖昧にするという意味にも解釈できて、必然性があった。
コロナ禍に絡めるにしても、お市の仮面に必然性があるのでしょうか。
『鎌倉殿の13人』の仮面は『修禅寺物語』オマージュだからまだわかります。
死の直前の恨みが込められている?不気味すぎる“頼家の仮面”と『修禅寺物語』
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実は、時代劇と仮面といえばお約束があります。
華流古装片(中国ドラマ時代劇)です。
どう見ても正体はバレているのに、
「なんだあの仮面の人物は……」
と、周囲がざわついてしまうネタですね。
『陳情令』でもあったし、趙雲ファンですら幸せにしないと話題の駄作『三国志〜趙雲伝〜』でもあった。
魏無羨と藍忘機のルーツ~陳情令と魔道祖師は「武侠」で読み解く
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それ以外にも『どうする家康』では、不思議と華流あるあるネタが出てきます。
尻を蹴られる秀吉は、臀部を棒で殴る廷杖(杖刑の一種)を連想させますし、清須城の織田家臣団が黒一色で統一されているのも、明の軍隊をイメージしているかのようでした。
【朝鮮出兵】で秀吉軍と対峙した明軍はこう振り返っています。
「なんで日本のヤツらって、軍装が個性溢れすぎてんの? 特に兜の飾りはなんなんだよ、キモいわ……」
実は日本の武士というのは、個人の武勇を尊ぶため、派手で思い思いの服装をするんですね。
将ともなれば特にそう。思い切り目立とうとします。
それが明側からすれば「何だあれ、ありえねー!」となる。中国では個人的武勇よりも統制が重視されるからです。
魏の張遼は、主君の曹操から「個人的武勇で目立とうとするとか、そういう将はいらんからやめろ」と言われています。
呂布や張飛が派手に暴れるのは、あくまでフィクション。
そう考えると、本作は従来の武士イメージを崩そうと色々と試行錯誤した結果、華流に接近するというドツボに陥っている印象すら受けてしまいます。
なお、派手な衣装など、当時の日本像に近づけた結果、視聴者の理解が追いつかずに叩かれてしまったのが『麒麟がくる』でした。
『麒麟がくる』のド派手衣装! 込められた意図は「五行相剋」で見えてくる?
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どうする中国史考証
清須城の描写しかり、黒色の軍団しかり、仮面しかり。
おそらく作り手も意図はしていないのに、結果的に中国的だと思われている本作。
中国史も同時に考証していれば、そんな描写にならなかったのでしょうけど、それは期待できそうにありません。
なぜなら本作の上層スタッフは『平清盛』と重なっています。
あれは近年大河で中国史考証ワースト部門があったらランクインするほどで、突っ込む人がいないので見逃されていたのでしょう。
蒸し返すのもウザいと思われるかもしれませんが、同じ轍を踏まないため顕著な例をおさらいしておきますと……。
・平清盛が「宋剣」を愛用し、それを見どころとして宣伝
→日宋貿易の主要輸出品が刀剣で、日本の刀剣はよく切れると宋で評判でした。売り込むならそこはむしろ日本の刀剣を装備しなきゃでしょ!
・その「宋剣」で斬首する
→刀剣で斬首までこなせる日本刀が特別であって、中国の剣での斬首はかなり難しい。
・海賊の兎丸が貿易船である「宋船」を所有
→大型船は『鎌倉殿の13人』ぐらいの手間と金がかかります。ただの海賊が所有できるはずがない。
・そもそも「宋剣」に「宋船」って……
→江戸時代までの日本では中国=唐です。『鎌倉殿の13人』では「唐船」でした
・平清盛が愛読した『太平御覧』が一冊にまとまっていた
→当時の漢籍では一巻でまとまるものはありません。そもそも『太平御覧』は百科事典の類です。同じミスを『青天を衝け』の『論語』でも見かけましたっけ。
平清盛が日宋貿易を促進してカッコいい!
そういうノリで突っ走った結果、考証が極めてお粗末になっていたのですね。
逆に、そこをほぼ完璧に修正した『鎌倉殿の13人』は偉大でした。漢籍引用がこれまた鉄壁だった『麒麟がくる』も素晴らしい。
なのに今年はなぜ?
大河好きで宋代専門の小嶋毅先生にでも参加してもらったらいかがでしょうか。
そのうち
「切腹だとつまんないから柱に頭ぶつけて自害させよっと♪」(中国史あるある自害)
とかやらかしそうで怖い。
そんなことをしても、中国語圏および華流ファンは別に喜びません。雑な仕事に呆れるだけです。
主は怒りを以て師を興すべからず
こんな言葉があります。
主は怒りを以て師を興すべからず。『孫子』「火攻篇」
一時の怒りにかられて戦を始めてはならない。
最近気になるのは、ファンダムの空気が刺々しくなっていることです。
ドラマが盛り上がらない――そのことに対してイライラした投稿ばかりをしている人を見かけます。
雰囲気が悪化すると、ますます事態は泥沼に突っ込みます。
こんなニュースがあっても気にしすぎるのはやめましょう。
◆『どうする家康』“血文字SOS”が「コントの小道具みたい」CG多用に続き演出にツッコミ多発!(→link)
◆『どうする家康』でド肝を抜いた「まるで平城京」清須城の規模に発掘中の研究者からも疑問が「今年の大河はファンタジー」の声も(→link)
歴史作品が史実通りに進む必要はない。
考証を踏まえ、時代から逸脱しないフィクションで作品を面白くしてくれるなら、積極的にチャレンジして欲しい――。
私は本気でそう思っていますが、SNSを見ていると、史実・フィクション論争でキレれしまうような投稿も見かけます。
「史実通りじゃボケェ!」
「わからんのかクソバカども!」
といった感じで、私に言われたくないでしょうが、もうちょっと落ち着かれた方が……。
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【参考】
どうする家康/公式サイト