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【鎌倉殿の13人感想あらすじレビュー第10回「根拠なき自信」】
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政子に対しても攻撃的な亀
一方、京風の装束になった頼朝の正室・北条政子は、牧宗親からマナー指導を受けています。
りくは「言うことなし」と評価されるのに、実衣は品がないと一刀両断。あなたたちの振る舞いひとつに北条の威信がかかっている!とまで言い出す。
嫌になった実衣は、理由もわからんルールに縛られることには我慢がならない様子。
実衣は全成に、赤いものを身につけると運が向いてくるというのは嘘だったのかと愚痴っています。全成は色が身につくには時間がかかる、ひと月もすれば運が向いてくると言います。
そしてこうきた。
「それにあなたは赤がよく似合う」
これには実衣はキュンッ! 恋に落ちる瞬間ですね。
彼女は理詰めで考えているくせに、占いなんかは信じちゃう。それ以上に、誰も自分に対してそっけないのに、全成はちがった。
愚痴を聞いてくれる。自分のことを見てくれる。自分に何が似合うか、見ている! 自分に欠けたものを補う全成に心を掴まれています。
義時と義村も、全成から学ぶべきですね。
相手の気持ちを確認せず、望んでいるかもわからない食べ物だの、未来プランだの、押し付けようとしないこと!
恋愛というよりも、人間としてのマナーでしょう。
政子はすっかり疲れて寝転んでいます。
そこへ亀がやってきて、御台所ならばこれくらいのものは読んでおくようにと、書籍をドサッ!
政子が身を起こし、新入り侍女はどうしているのか尋ねています。
「八重でございますか。ここ数日伏せっております」
八重の心配する政子と、その原因を作った亀。
このマウンティング合戦は、結局、物理攻撃に躊躇しないものが最終勝者となります。それはまだ、先のことですので、楽しみに待ちましょう。
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注目は、政子の課題図書です。
何かと不足しがちな坂東にも、書物の波が届き始めたようで、巻物と綴じた本が入り混じっています。
宋代は本の装丁や印刷術が進歩した時代。そんな最先端の技術が詰まった書籍は、まさしく知性の最先端です。
政子と義時はこうしたものを真面目に読むことでしょうが、時政はどうでしょうか。
佐竹征伐で常陸へ
10月27日――頼朝軍は常陸へ出陣しました。
佐竹は、源氏の中でも武田と同じ源義光の血筋ですが、それでも平家についています。
頼朝の挙兵にも、頑なに従おうとしません。
和田義盛だけはいつもやる気満々。そんな義盛にブレーキをかける常識人の畠山重忠。千葉常胤も張り切っています。
頼朝はまず使者を立てることにしました。
義時を派遣し、いかなる存念か聞いてこいと託すのです。
しかし義経は苛立ち、500の兵があれば敵の大将首を上げて見せる!と言い出す。
ニコニコしながら「これは頼もしい」と褒める時政に対し、三浦義澄は、戦にはしなければいけない戦と、しなくてもよい戦があると諭す。
そんな義澄に対し「お前の言葉は耳に入ってこない!」と失礼極まりない義経。
上総広常が戦の経験があるかと義経に聞きます。
「ない!」
「経験もないのに結構な自信じゃねえか」
「ははっ、経験もないのに自信もなかったら何もないではないか!」
そう不敵に笑う義経。
「いいか小僧」
そう嗜めると、義経は「無礼者!」と怒鳴り散らす。
「戦ってえのは一人じゃできねえんだよ」
黙っていられなくなった広常が立ち上がる。己の振る舞いが味方を窮地に追い込むこともある。それがわからねえならとっとと奥州に帰れ!そう言い放ちます。
猛獣のような弟に、頼朝は「九郎、気持ちはわかるがここは控えておれ」と宥めるしかありません。
義経の言葉をおもしろがっている時政。仇討ちをしたいと息巻く義経。
時政はああいう性格でしたっけ?
頼朝軍の中で不穏さが増していきます。
広常がいきなり義政を斬り捨てる
佐竹義政と上総広常が交渉を始めました。
もとより因縁のある二人。義政はプライドの高い広常が頼朝配下であることを情けないと煽ってきます。
「いつ以来だ?」
「さて、いつ以来かな」
「お前、老けたなぁ」
そう言われ、思わずブチ切れた広常が、義政を斬り捨てる。「こいつがつまんねえことを言った!」とかなんとか言い訳していますが、流石に気が短いわ!
交渉はあっという間に決裂し、なし崩し的に合戦が始まってしまう。
広常が義政を斬り捨てたのは、頼朝の命令があったとも解釈されますが、どうでしょうか。この時代の命令系統は曖昧です。
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ドラマではどうか?
報告を聞き、頼朝は嘆きます。
「何をやっておるのだ、上総介! すぐに皆を集めよ!」
重大な命令違反ですね。もぉ〜、頼朝もしっかりしましょうよ!
そういう曖昧な指示のせいで【富士川の戦い】で武田信義に出し抜かれたでしょうに。
やはり冷静沈着な梶原景時の登場が待たれる。
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佐竹勢は金砂砦に立て篭もりました。
戦は膠着状態――【富士川の戦い】の印象もあって坂東武者は強そうだけれども、そこまで盤石でもありません。
敵の拠点をどう攻略するか。畠山重忠が地形の解説をします。
正面から挑むと矢で射られる。背後は崖。柵が何重もあって、攻める場所は丸見えでどうにもならない。力攻めは兵を失うと慎重に解説しています。
それでもしつこく力攻めを言い出す義盛は、風に当たって来ると言い残し、どこかへ向かってゆきます。
三浦義澄は、息子がおれば妙案を思いついたかも知れないと暗い顔に……。
なぜ来ていないのかと義時が聞くと、こうだ。
「平六は腐った餅を食って腹を壊した」
「馬鹿な奴だ」
あっさり義時が言い切りますが……なんなんだよこの盟友同士は。義村は、川を渡れず義時合流できない時は「すまん」だけで済ませるし、義時も、義村の腹痛にこの態度だし。
ただ、義時も幼い頃からつきあって、知っていたのかもしれない。
胃腸が弱いくせに、腐りかけたものを食べてしまう。そして腹を壊す懲りない盟友の悪癖を。
今回は義時が八重に贈った餅をいやしく食べているので、マヌケさが増しますね。先週あげたかっこよさをどんどん落としていく義村です。
それにしても、義村って用意周到なようで、抜けたことをしますね。これからもそういうことをやらかすんでしょう。
先週の義村はやたらとかっこいいと連呼されていましたが、私は絶えず突っ込みたい。
そりゃ山本耕史さんだからかっこいい。がしかし……冷静になってみると抜けていて、かわいげがない。そこも含めて義村はいいのです。
山本さんはなんといっても、三度も重要な役で三谷大河に起用されているのです。芸歴もこれだけある。
となれば、ただかっこいいだけではつまらないってことでは?
ここはひとつ、もっと面白い先を目指してもらわねば。日本の時代劇の明日は、この山本耕史さんにかかっていると言ってもよいと思えます。
「小僧は控えていろと言われたから」
佐竹勢を切り崩す何かよい知恵はないか。
範頼は兵糧攻めを言い出すものの、味方も同じように不足している。【治承・寿永の乱】は飢饉が背後にあるため、すっきりと戦いにくい。
ここで義盛がかわいい小鳥を捕まえたとやってきます。思わず、はしゃぎだす呑気な坂東武者たち。
重忠は、義盛殿は心が澄んでいるから鳥も安心するのだろうと解説しています。重忠も、義盛の世話をし過ぎて悟りの境地に至ったのかもしれません。
しかし、一人許せぬ男がいた。
「戦の最中ではないのか!」
義経が叫びます。
相変わらずフォロー役の義時が、何か策がおありなのかと救い船を出すと、ムッとしつつ義経が吐き捨てます。
「小僧は控えていろと言われたから」
義経もピリピリせず、それこそ重忠のように穏やかに話し始めたらよいのですが……。
頼朝が話すように促すと、義経がぶっきらぼうに語り始めます。
「畠山、お前、正しい」
これ以上力攻めをするのは馬鹿のすることだ。敵は下だけを見ているから、上から攻める! 背後に岩場があるからそこが盲点だと指摘します。
そんな場所に行けるのか?と問われると、義経はオレの郎党たちなら容易いと言い切った。
それでも敵の攻撃にあって「無理だ」と疑念を抱く重忠に対し、義経は「下に囮を置く」という。
味方の兵を犠牲にしてまで己の作戦を主張する義経のことを重忠は困惑を隠せませんが、義経の戦術は一歩先をいっていました。
「矢の射程を確認してきた!」
矢の届かぬ位置で敵を煽っていれば、囮になっても犠牲者は出ない――。
この義経のアイデアに対し、頼朝も「良い策だ!」と驚くばかり。
義経も、戦なら誰にも負けぬとテンション上がり、果報者だと喜ぶ頼朝です。しかし……。
禍々しくも輝く義経
時政が朗報を携えて戻ってきました。
上総広常が佐竹義季が内通し、内部を切り崩したのだと。
はしゃぐ一堂の中、悔しそうにしている義経。すかさず義時が義経の戦術案に感服したと言い、範頼も実らなかったが素晴らしいと庇いますが、義経は納得しない。
「ああ〜!」
そう叫びながら、砦の模型をぶっ壊す!
既にこの義経が危険であることは、視聴者の皆さんも重々承知でしょうが……まとめておきましょう。
・周囲の空気を読まない
→あんなに大好きな兄にすら、鎌倉は立派にできないと本音を言ってしまう。
・プランBがない
→確かに見事な策ではある。しかし、失敗したときのプランBがないように思えます。ひとたび見込みが外れたらどうなるのか?
・感情的
→感情に流される。これが決定的。
義経は戦術の天才ということになっている。
しかし、このドラマでは天才は一人ではないとわかります。義経を際立たせるために、彼らはここにはいない。
例えば三浦義村。
腹痛は「馬鹿な奴だ」というネタだけでもないとみた。
そして梶原景時。
景時は、義経とは別の秀才型戦略家です。お互い自分にないものを相手が持っていると察知するからこそ、ライバルとして成立します。
今はまだ単純な戦をしていることも頭の隅にでも入れておきましょう。
戦国時代にあってこの時代にまだないものをおさらいしておきますと……。
『麒麟がくる』では「エイエイオウ」「エイオウエエ」といった喊声をあげ、それぞれの軍団がぶつかりあいました。陣太鼓や法螺貝も鳴っています。
ああした音は、単なる気合いではなく、軍隊を整える役割を果たします。
『麒麟がくる』のように戦国時代末期ともなると、『孫子』くらいは常識になっている。
ゆえに織田家の蓄えた財力、西洋渡来の鉄砲――こうした計算できる要素が勝敗を握ります。
平安鎌倉期には、それすらまだない。
兵糧物資は両軍ともに不足しがちで、兵器性能では大差がつかない。
となると、将の頭の中にある策が決定打となります。
ゆえに第二の義経はきっと現れないし、あまり参考にはならないと思います。
義経とは、当時の特殊な環境下で現れた時代の申し子であり、それゆえに一段と美しく輝く、邪悪で妖しい流れ星なのでしょう。
戦の天才だった源義経~自ら破滅の道を突き進み兄に追い込まれた31年の生涯
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物語が語られれてゆく中で、取り去された彼本来の不穏さ、残虐さを取り戻した義経。
演じる菅田将暉さんはそのことに恐れも戸惑いもない。
昔大好きだった義経が、こんなにも禍々しく輝いていて、私は感無量です。
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