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【鎌倉殿の13人感想あらすじレビュー第10回「根拠なき自信」】
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きのこは無いだろ、きのこは……
義時は出迎えた八重に、常陸の山で採れたきのこをお土産に渡しています。
だから、気づいてよ、義時!
八重さんは御愛想で出迎えているんだ。「ありがたくいただきます」と言っていてもそんなに喜んでいないから。
それに義時ってば、義経が荒れている側で、きのこを採っていたのか……。
いや、こんな大河主人公ってありですか?
合戦の最中にきのこ採りだってよ。まあ、それも義時だから仕方ない。でも、きのこは!
正解はちゃんと劇中に示されています。
・芋
女子が永遠に好きなもの枠。むしろ芋が嫌いな人っているの? マストアイテムよ!
・ドライフルーツ
これもそう。オシャレだし、甘いし、美容にもいいし。
きのこは調理しなくちゃいけないし、ダメだってば。
そんな鈍感義時は、このころ御所にも来ない八重を気遣っています。お体の具合が悪いのかと尋ねると、少し気分がすぐれなかったと答える八重。
「無理はしないでくださいね」
「ありがとうございます」
完全に、義時だけが愛情を滲ませた会話です。大河でこんなに共感性羞恥を煽らないでくださいよ。つらい、つらいんです!
と、このタイミングで、庭のほうから怪しげな気配を察知し、義時が怪しげな人物を組み伏せます。
「佐殿!」
だから何をしているんだっての、この頼朝は……。
そのころ義経は、義姉政子の膝枕でリラックスしていました。
政子は、義時から聞いた義経の策を褒めています。
喉を鳴らす猫のように、義姉上の声はいい響きだとうっとりしている義経。
これは本当にそうですね。小池栄子さんのハスキーボイスは素敵です。媚びない強さがあって、毎週この声を聞けることは幸せです。
義経は言いたいことを言って、すっきりしてまたも兄・頼朝の元へ向かいます。
この余韻のなさが動物のようでいいですね。動物写真家である岩合光昭さんのコメントをもらいたくなるほど、野生的です。
断言したい。
このドラマの義経や坂東武者はかわいい。かわいいという言葉は女性や子ども向けとされていますが、最近は男性に使ってもいいと意識が変わっているならば使いたい。
義経は猫のようでかわいい。
義時は頼朝の怪我を手当しています。
八重のところへ忍ぼうとしたことを伏せ、戦で擦りむいたことにすると言い訳する頼朝。
義時が誰から知って何をしていたのか?と聞くと「亀からだ」と返します。ほんと無茶苦茶ですが、頼朝は義時の「きのこお土産作戦」を見て恋心を察知し、応援すると言い出します。
「八重はきのこは好きではない」
思わず絶句する義時。女子はてっきり好きかと思っていたってよ。
そんなところまで「新鮮お野菜セット」を土産にしていた父・時政に似なくてもいいじゃねえか!
自分が好きな食べ物は皆好きだと思っているんじゃねえの? だから、そこはせめて芋に……。
頼朝は、八重を諦めるとしおらしくなっています。まだ諦めていなかったのかと義時は突っ込みますが、その上でプレゼントとしてヒヨドリのいる籠を出してきました。
ただ、このヒヨドリは鳴かないらしい。
「ツグミですね」
爽やかな墨染の衣が見えました。
美青年の僧侶がきて、鳥の解説をします。ヒヨドリに似ていても鳴かない鳥。それがツグミ。口をつぐむからだと。
「兄上でございますね」
涼しい風のような僧は、乙若だと言います。今は義円と名乗っているのだと。
そんな兄たちのことを、義経は燃えるような眼差しで見ているのでした。
MVP:大庭景親
恐ろしいことを吐きながら大庭景親は死にました。
頼朝に味方したことを悔やむことになる。死と破滅の予言を撒き散らしてから、己の命まで散らしたのです。
彼は先が見えていないから滅びたのではなく、先が見えすぎるからそうなったのではないか?
そう考えるとゾッとします。
考えてしまうことはあります。源平合戦で源氏が勝ったのはよいことだったのか? もしも平家が勝っていたら?
かくして義時たちは、大庭景親が嘲笑いながら吐き捨てた予言を越えねばならなくなりました。
大庭景親は相模一の大物武士!一度は撃破した頼朝に敗北した理由とは
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このドラマはじわじわと、坂東武者が西に叛く理由を積み上げてゆきます。
頼朝は血統を利用するまで。乗っ取られてはいけない。
そのことを示す覚悟を、義時は問われています。
総評
人間の心の機微ね……。
今週は足踏みのようで、伏線がばら撒かれた高度な回でした。
どのへんが?というと、心の動きです。
人間の心理は普遍的だからこそおもしろい。
八重が「ウザいあいつから差し入れをもらった女性」そのものの顔を見せていたこと。
義時が「ハーゲンダッツを差し入れすれば丸くおさまると思っている鈍感男子」を体現しているのもすごいと思いました。
その義時以上にゲスだった義村も印象深い。
かと思えば、牧宗親の指導ゆえか、北条時政が上品で交渉できるようになっていますし。
そう見守っていると、人間の心の機微ごと踏み潰す義経が出てくる。高度な心理描写が光ります。
今年は広報のセンスがいい
歴史観光にも経験値はあります。
戦国三英傑を輩出した中部地方は手慣れたものです。幕末の薩長土、会津も慣れています。
その点、今年の神奈川はどうか?
神奈川の歴史って、独特のものがあります。
鎌倉時代はワーッと盛り上がり、戦国時代も北条氏が光るのですが。
江戸時代となると、なまじ江戸に近すぎるため幕府や旗本御家人が治める土地柄になり、幕末の横浜開港で国際色豊かな土地となります。
ゆえに歴史をアピールするとなると、鎌倉大仏からいきなりペリーに吹っ飛ぶ――そういう印象があります。
そしてご当地大河とあまり縁がないとも言える。
『草燃える』以来ですから、今年はテンションが上がりまくりですよ。
そのせいか、コラボの個性が強い!
80キロ走る自転車コースをPRした時も驚きましたが。ついにこうきた。
◆ 大河ドラマ「鎌倉殿の13人」とコラボ ランチパックに新商品(あなたの静岡新聞) (→link)
あのほのぼのとしたランチパックと、どういうことなのでしょうか。もちろん文句はありません。
そしてNHK横浜もすごいことになっていた。
◆NHK横浜放送局(→link)
こちらの「拝啓!鎌倉殿」がすごいです。
あらすじがこうきた。
物語の舞台は神奈川県のローカル局「はまっこテレビ」。
そこで働く入局2年目の男、山本大河。
彼は仕事で絶対失敗 をしない、なぜなら失敗を恐れるあまり「本当になにもしない 男」なのだ。
そんな小心者な彼がはまっこテレビを背負う仕事を任されて しまった――、放送局を舞台に繰り広げられる群像劇、「拝啓、 鎌倉殿!」
(→link※PDFです)
ともかく読んでいただきたい。
炎上したり、誰かを侮辱するようなこともなく、かつおもしろくて個性的。すっとぼけたようでいて、誰も傷つけない。素晴らしい漫画で、単行本が出たら買います!
今年は公式サイトから公式SNSまで、レベルが極めて高い。
毎回人物相関図が更新されるため、亀の夫・権三すら出てきました。
これは大変な作業でしょう。
デザインも洗練されていますし、アクセスしやすい。わかりやすい。重たくもない。情報量も豊富。
公式ホームページイラストも、何よりもこの時代が好きな方を抜擢して使っており、これまた素晴らしい。
毎週「かまコメ」として出演者の声が聞けることも素晴らしい。キャスト発表も思わせぶりかつ巧み。
Web広報のお手本にできる。極めて高度な仕上がりです。どこにも手抜きしていない。
いつだったか、公式SNS担当者が「実は歴史苦手なんです!」とアピールしていたことがありました。
そういう時は、隠し通したつもりでも、SNS投稿内容がおかしかった。
ああいうストレスがない今年は快適です。この調子でお願いします。
今年は「うるさい人たち」の評価も高い
今年は番組コラボも独特です。
『あさイチ』は定番にしても、自転車番組『チャリダー!』とコラボし、山本耕史さんが自転車を乗ったうえに、猪野学さんの出演発表まであるとは驚かされました。
そして『沼にハマって聞いてみた』とコラボ!
こちらの番組には「鎌倉幕府沼」にハマった方が出てきます。
ある意味一番めんどくさい方かもしれない。番組に出るからには大河に辛口にならないだろうと思いますか? 口調や感じ方からわかりますよ。
同番組では「あなたの推しである義時をイケメンの小栗旬さんが演じるんだからうれしいでしょ!」という誘導をしているようには見えなかった。
しかも沼の方は、細川重男先生の本で義時にハマったという本格的な方。
そんな方でも、イケメンがどうこうではなくて、番組内での解釈に納得しているとみえる反応でした。
今年の大河は、細川先生の影響はあると思えますので、そうなるだろうと思いました。
大河なら毎年そうかというと、そんなはずもない。
例えば『青天の衝け』の場合、池田屋で近藤勇と永倉新八の活躍を土方歳三が盗んでおります。
沼にハマった新選組ファン過激派から高い評価をされなくても致し方ないでしょう。それと会津藩沼近辺も。
そして、大河評価にとって分厚い壁といえば、専門の先生方です。
こんな記事がありました。
北条政子については有料部分となりますが、素晴らしい内容です。野村育世先生の『北条政子』はお薦めです。
◆北条政子を「悪女」に仕立てた男社会 主流を外された歴史の女性たち(→link)
この記事の野村先生は、大河ドラマにおける北条政子像に期待をしているように思えました。
政子をどう描くか?
これは当時の社会のジェンダー観を反映します。野村先生の目が光っているとなれば、今年はますます手抜きができません。
そして、それは大いに期待できるところではある。
野口実先生です。しかも、かなり好意的な記事です。
賛否両論になることはわかるとしつつ、それは中世への理解不足ではないかと、かえって大河ファンに諫言するような記事。
女性の元気のよさが「いいな」と思ったと明言されております。
これは日本史のみならず、歴史においてよくあること。女性を抑え込む力は、近代に向かってむしろ強くなります。
例えば中国の場合ですと、後漢から魏晋を舞台にした『三国志』ものの女性が、パワフルすぎると思われたものです。
ゆえに後世の作家は「こんな強いヒロインじゃ萌えないんだよな〜」と弱体化。そういう時代の価値観でヒロインはより萌える像に変えられると。
「昔の大河の女性はもっとおとなしかった」
そんな言葉が出されるとき、その女性像は、当時の視聴者向けに弱体化していた。
『利家とまつ』のまつなんて、史実よりかなり甘くされております。
『青天を衝け』では、妾が笑顔で渋沢家から出て行きましたが、あれこそまさにねじ曲げた女性像の典型例でした。
今年の大河は、ありのままの中世女性像を見せてくれることでしょう。
それは正しいと野口先生も書いていて、朗報でしかありません。ぜひとも突き進んで欲しい。
野口先生は、日本史研究者も大河から興味を持った方が多いと指摘し、かつ末尾で『鎌倉殿の13人』視聴者から
未来の研究者が出ること
に期待を寄せています。
確かにその通りです。
ともかく気に入らないから「アニメ『平家物語』の方がいい」と繰り返す意見も見かけます。
しかし、野口先生が冒頭で述べているように『鎌倉殿の13人』はストーリーと社会風俗考証もよくできています。
なぜアニメと大河を比較するのか、私にはちょっとわからない。
社会風俗考証では大河が圧倒的に上です。アニメでは烏帽子をかぶっていない人物が出てきておりますし、木曽義仲はまともに甲冑をつけていないで戦うような場面もある。
そもそも語り部がオッドアイの架空美少女で、彼女がらみの本筋とさして関係ないエピソードが本編をぶつ切りにする。
そんなことを大河ですればどうなるか?
抑制的であった『麒麟がくる』の駒ですらああも叩かれたのです。
アニメにはアニメの、大河より緩いルールがあって成立していて、比較することが適切とは思えないのです。
ましてや大河をくさすために持ち出すのであれば、作品に対して失礼ではないでしょうか。
『鎌倉殿の13人』が嫌いならば、いちいちアニメと比較せず、嫌いな理由と箇所をあげればよいだけかと思います。
今年は先生方が心から誉めているように思えます。
つい最近では、幕末近代史の先生が行間に不快感をこめつつ、仕事だからとしぶしぶほめているような作品もありました。
そういう本心ではないコメントが出ている大河はわかります。
今年はそうでないから安心できるのです。
※著者の関連noteはこちらから!(→link)
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比企尼 | 大進局 | 山内首藤経俊 | |
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文:武者震之助(note)
絵:小久ヒロ
【参考】
鎌倉殿の13人/公式サイト