源義経が仮御所に来ました。
その場には源頼朝のほかに北条政子と北条義時の姿も。
頼朝が、奥州に何年いたのか?と義経に尋ねると、藤原秀衡のもとで六年、我が子のようにかわいがられたと答えます。
政子が良い所でしょと問いかけると、平泉はこことは比べものにならぬほど良い所だと義経があっけらかんと言ってしまう。
頼朝が少し戸惑いながら、鎌倉も負けないほど美しくするというと、義経はこうだ。
「いやあどうでしょう。難しいんじゃないですか」
比喩や皮肉、お世辞の類は一切通じない。そんな性格の義経は奥州の藤原秀衡に文を書き、三千の兵を送るよう頼んだと言います。
さらには明るくキッパリ「憎き清盛入道を討ち果たそう!」と満面の笑みを浮かべるのでした。
さて、その秀衡は――。
利に聡い奥州の秀衡
確かに奥州藤原氏はよい生活を送っています。
京風の装束。美しい布地。
この生地は日宋貿易の成果かもしれません。
義経から文を受け取った秀衡は、子の藤原国衡と藤原泰衡と語り合っています。
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しかし同時に平清盛からも文が来ている。
秀衡は老獪だ。いつまでに、と期日は示さず、どちらにも兵を送ると返事をする。
それからこう付け足す。
「九郎ほどの才があれば、己一人で大願を果たそう……」
このやりとりと衣装、背景から、藤原一族の栄華が見えてきます。
日宋貿易は、奥州の砂金がなければ話にならない。義経を引き取った背景には、野心もあります。
奇貨居くべし。
後の始皇帝の父となる子楚(しそ)を保護した大商人の呂不韋(りょふい)。情けというより、味方に置いておけばいつか儲かる、そう判断した。
秀衡はそういう利に聡い人物なのでしょう。
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実際に、近年の研究では奥州藤原氏と京都朝廷との関係性も明かされてきているとか。
そういうことを全部説明するとキリがないけれども、短い時間でそう奥行きを見せてきました。
そして義経は、自分がそういう利害ありきの存在で愛されていたことに、いつ気付くのか……。
清盛の本気
後白河法皇は、【富士川の戦い】で逃げ帰った平家のことが楽しくてたまらない様子です。
丹後局のマッサージを受けつつ、大喜びをしている。
「(大将の平維盛は)僅か十騎で逃げ帰った!」
と喜びが止まりません。
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この僅か十騎というあたりが、源平合戦らしさかもしれない。
戦国時代ならば、本能寺の変後の明智光秀のように、落武者狩りにあってもおかしくないほどの劣勢です。当然のことながら、当時は撤退戦もできていない。
そこへ平知康がやってきて、平清盛と平宗盛親子の来訪を告げます。
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宗盛は謀反を起こした頼朝を討とうとしたものの、兵糧が尽きたので一旦兵を退いたと誤魔化しています。
この古典的な言い訳よ。
【赤壁の戦い】でも、曹操の言い分はこうでした。
「疫病が流行したから、船を焼いて帰ってきただけ!」
こういう言い分は過大評価できません。戦場の跡地から、折れた武器だの人骨が出てくる。この手の話で濁すときは、十中八九、ボロ負けしているんですね。
清盛は、追悼の采配を自ら握ると力を込めます。
賊徒を鎮めるためならば、もはや策を選ばぬ所存……そう言い切りました。
それにしても小泉進次郎さんの宗盛よ。
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兄・平重盛との対比で暗愚とされるものの、そこまで悪くなかったんじゃないか、運が悪かっただけではないかと思えます。
維盛もそう。見ていて、ほんと気の毒です。
文覚と仏教の在り方とは?
一方の後白河法皇も手段を選ばないことにしたようだ。
「おひさしゅうございます、法皇様……」
「そなたは呪いが得意なそうじゃが、人を呪い殺すことはできるか?」
「さて……誰に死んでもらいましょうかな?」
ヌメヌメした動きの文覚です。
高笑いする後白河法皇。この時代ですので、呪殺は本気です。
このあと実際に呪いが効いたわけでもないでしょうが、清盛は死ぬわけです。
大往生を遂げないと「呪いで死んだ!」と書かれる時代ですし、本作の登場人物も、そういうことばかり。
それにしても、ほくそ笑む丹後局の華麗で邪悪な美しさよ。濃く赤い牡丹がパッと咲いて笑っているような、凄まじいほどの美貌です。
そして文覚。
この方を見ていると「日本の仏教とは?」と考えてしまう。
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鎌倉仏教の有名な研究者の方が、語っていたことを思い出します。
その先生は、海外で学会に参加。研究を発表したあと、周囲にこう声をかけました。
「さぁここから先は、ビールでも飲みながら語りましょうか」
するとタイ人の研究者が困惑しながら答えた。
「仏の教えを、酒を飲みながら語るのですか?」
真正面からそう指摘され、仏の教えをそこまで実践できていないかもしれないと、恥ずかしくなったそうです。
来日したタイ人の若い女優さんが、日本で行きたいところを問われ、こう返答したことも思い出します。
「鎌倉! 大きな仏像があるんですよね」
そう、その大仏を生み出した鎌倉仏教って、いったい何なのか……?
本作ではまだそこまで至らないから、仏僧がこうなのか。それとも文覚個人の問題か。悩ましいところです。
命乞いの経俊は放免され大庭は……
平家の後ろ盾を得て、坂東の大幹部であった大庭景親が、縄目に縛られています。
彼は平然と言ってのける。
「よう、ご両人!」
目の前にいるのは、北条時政と三浦義澄です。
落ち着き払った大庭景親の横では、山内首藤経俊が「佐殿に会わせてくれ、頼む!」と情けないほどの助命嘆願をしています。
景親はなおも、北条と三浦を嘲笑います。
「頼朝ごときに飼い慣らされおって情けない! 今からでも遅くない、平相国は寛大なお方だ、悔い改めて平相国のために尽くせ! お主らのために言うておる」
遅れて現れた上総広常が横から愚痴る。
「どちらが敗軍の将かわからねえな」
そして山内首藤経俊の赦免を伝えました。
なんでも母親が泣きついたとか。山内尼は頼朝の乳母であるため、頼朝も折れたとのこと。
みっともなかった山内首藤経俊はとりあえず放免。この後出番はあるのかどうか。あってもなくても対して差はありません。なにせ、無能であると頼朝に言われておりますので。
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ただ、彼のようにみっともなく助命嘆願をすることって、大事ではないでしょうか。
死にたくないなんて誰だって当然だ。それを合戦を円滑にするため、【命乞いはみっともないことだ】という規範を作り、将兵たちに刷り込んできたのが人類です。
山内首藤経俊は、素直でよい人物なのでしょう。
景親は大笑いをしている。
かつて頼朝の命を救い、伊東と北条の間を収めたことが命取りになったと振り返っています。そして……。
「あのとき頼朝を殺しておけばと、お前もきっとそう思う時が来るかもしれんぞ! 上総介、せいぜい気をつけることだ!」
そう笑いながら言い、広常に斬られる景親でした。
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國村隼さんが演じたからなのか、なんともおそろしい場面かもしれない。この大庭景親こそ、呪いを残して世を去ったのではないかと……。
その景親の首が晒されています。
生きているかのようと言われる顔が、チラッとアップに……。その首を前に、舅にあたる伊東祐親の心配をする時政と義澄です。
今週の遺体損壊――今回はリアルな生首を作ってきました。
NHKにも生首制作チームはありまして、今のところリメイク版『柳生一族の陰謀』と本作ぐらいしか出番はなさそうですが、数少ない出番にきっと気合が入ったことでしょう。
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そりゃ出演者の皆様も、子どもには見せたくないでしょうねぇ。
生首そのものが不気味であると同時に、恐ろしいのが、その光景を前にごく普通に生きている中世人でしょう。現代人にとっての標識くらいの感覚で日常を生きています。
このドラマは笑いばかりがクローズアップされますが、実は無惨で残虐だということも注目すべきではないでしょうか。
ほのぼのと残虐が同時展開する時代です。
伊東親子の再会は牢の内外で
三浦館では、伊東親子が三人揃っていました。
頑なな父・祐親に対して、祐清はどこかスッキリ。何か欲しいものがあったら手配すると三浦義村が言いにきます。
父子は牢内にいて、八重は義村の隣。その八重を見て、祐親はこう言うのです。
「八重、お前も男に生まれて来れば同じことをしたはずじゃ。愛しい娘を持っておれば……」
「過ぎたことです」
かつて父に逆らえぬと言っていたこの娘は、そうキッパリと返します。
「今日もこれから行くのか?」
祐清は、八重が侍女になったことを知っています。
驚く祐親。少しでも佐殿の役に立ちたい思いが健気だと祐清が言うと、義村がこう言います。
「あなた、なんでもかんでも喋りゃいいってもんじゃないでしょう。参りましょう」
「馬鹿めが!」
祐親が、悔しそうに泣き出しています。
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ここも面白いところで、義村がなぜあんな可愛げのない口調でそう言ったかというと、彼なりにイライラしたのでしょう。
祐親の息子・祐清は何も気づかず美談で語ったのかもしれないけれども、そんなことを言えばどれほど祐親が傷つくのか、義村は理解していた。
義村は、あんな爺さんでも俺の身内だと庇ったこともありました。
ただの血筋だけでなく、性格的に似ているのではないでしょうか。母親を通した隔世遺伝です。
幼い頃から周囲に理解されにくい義村でしたが、爺様はむしろわかってくれる、平六は話が通じてむしろ扱いやすい、気が合うと言ってくれる。
他の大人と違って手抜きせずに遊んでくれるところも好き。
そういう爺様の気持ちは俺が一番理解できるという思いが、孫として義村にあると思います。
そしてそんな爺様に似た隔世遺伝仲間に、実衣もいる。
祐親も、義村も、自分の愛情を相手にうまく伝えられないんでしょうね。まあ、平六はこれからがんばることです。
八重に草餅プレゼントの義時がキモい
八重が厨(台所)で働いていると、侍女が「お芋いっぱいもらっちゃった」と話している。
古今東西、芋は女性の好物かもしれない。
「いもくりなんきん」なんて言葉もありまして、サツマイモ、栗、カボチャを女性は好むという意味です。
性別関係なく、芋は栽培の手間がかからない割にカロリーを摂取できる優れものなんですね。
そんな八重の様子を見ている政子と実衣。
「見返りを求めぬ。気高いわぁ! それを許した姉上も気高ぁい」
「つけたしたように言わないで」
実衣、やっぱりおもしろがってるでしょ。義村と同類だわ。
そして二人はある人物に気付きます。義時です。
八重に何か差し出す義時。
「草餅をいただきました。よかったらどうぞ」
「お心遣いありがとうございます」
口元は笑っているけれども、八重の眉間にはちょっと皺が寄っている。ありがた迷惑な表情ですね。
実衣はもう面白くてたまらず、他の侍女もヒソヒソとしています。そして亀は、そんな八重をじっと見ている。
うーん、義時がキモい!
なんだこの、ハーゲンダッツを差し入れることで好感度アップを狙っているダメ男感は。相手からSNSで「こういうことされると困るんだよね」とつぶやかれているタイプですね。
見るからにウザい、キモい小栗旬さん。これぞ新境地だ!
小さく「がんばれ!」ポーズをするあたり、本当に見ていて歯痒くなりましたからね。八重はこういうことをしない頼朝がよかったんだろうなぁ。
江間次郎のこともあるだろうけど、そういうあれやこれやを吹き飛ばすほどに、ショッキングな義時の姿でした。
八重に近づく義村までもキモい
義村が弓を点検しています。
隣の義時に、今も八重に惚れているのか?と尋ねている。義時が強がって「八重さんにはこれからも幸せであって欲しい」と健気に言うと、冗談とも言い切れない口調でこう返してきた。
「俺がもらってもいいのか」
うーん、先週、溜めたかっこよさゲージをどんどん削っていく感がありますね。
「ちょっと待ってください!」
思わずそう返す義時に「いいんだな」とさらに念押し。
義時は偉いなあ、こんな奴と盟友でいられるなんて。それでも八重さんの幸せが大事と強がっています。
なんなんだこの人たち……。
そして夜、八重が義村に愚痴っています。昼間、小四郎にもらった草餅が困るってよ。
義村は受け取り、硬くて食えないから捨てておくと言います。
そしてすかさず「仕事には慣れましたか」と中々帰る素振りを見せない。
「佐殿に会いたいのでは?」
「今のままで十分です」
はい、ここから先、義村の好感度が落ちますよ。八重に近づきつつ、こう言い始めましたからね。
「先に進んだらいかがですか。生き延びることができたんだ。もったいない、力になる」
「そういうおつもりなら出て行きます!」
「ここにいなさい」
すかさず身を引く義村に対し、八重はピシャリと戸を閉める。
残された義村は、義時の草餅をなぜか硬そうに噛むのですが……うーん、何から何までひどい!
彼の恋愛は、どうせろくでもないだろうとは予測していましたが、それを下回りました。
予告の時点で、義時を焚き付けて素直にさせるのかと思ったら、弱みにつけ込むようにして八重へと接近するとは。
こちらも山本耕史さんなのにキモい!
相対的にみると、八重への愛があるだけ義時がマシに思えるけど……それにしても、小栗旬さんと山本耕史さんで「どちらがサイテー男か決定戦」をするとは思いませんでした。すごいドラマだ……。
政子の御台所教育が始まった
北条政子と実衣がドライフルーツを食べています。
当時の女性も、食べ物の定番はドライフルーツ。
平安鎌倉期というか、果物は人類の定番と言えるものでして、慣れぬ食文化の土地に旅したとき、重宝されるのが果物類です。ドライフルーツならば甘味も増してなおのことよし!
政子は実衣の髪の毛を見ながらツッコミます。
「ずっと気になってたんだけど、あなたのその髪留め、赤過ぎない?」
「そう? いつもと変わらないけど……」
すると、ハキハキした声の安達遠元が来客を告げます。御台所に面会希望者がいるとか。
もぐもぐしながら、なんとか落ち着いて客を出迎える政子です。
お腹がふっくらとしてきたりく(牧の方)が、京風の男性を連れて来ました。
どうやらお稽古の時間だそうです。りくには「マナーが人を作る」という信念があるようで、御台所の指導をしたいようです。そのためマナー講師・兄である牧宗親を連れてきました。
さっと紹介しつつ、兄を連れて北条時政の元へ向かって行きます。
胡散臭いし……なんか、浮いている! そんなりくと兄の牧宗親。坂東武者からすれば鬱陶しい存在ですね~。
そして「蒲殿」こと源範頼も登場です。
一般的なイメージとして「地味な頼朝の弟」とされがちな人物ですが、佐殿の挙兵を聞き、遠江から辿り着いたとか。迷って遅れたそうです。
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実衣がボソッとこぼす。
「得体の知れない人がどんどん増えてきた……」
と、そこへ
「義姉上〜」
とノリノリの義経も登場です。遠元は、案内してから来て欲しかったと困惑していますが、義経はかわいい笑顔を浮かべながら、母と離れ離れで姉妹もいないと訴えます。
「思い切り甘えてもよろしいでしょうか?」
「構いませんよ」
そう政子が言うと、猫のように膝枕をしてしまう。
「えっ!」
政子は驚き、咳払いをします。
こ、これはけしからん奴だ!
そしてうっとりと甘えつつ「兄上のところへ行ってきます!」と、ささっと起き上がり、どこかへ消える。こういうところもまるで猫ですね。
というか、そもそもこの場を仕切り始めたこいつが誰かわからない。
「で、あなたは?」
「安達遠元と申します! 佐殿より御内所の差配を命じられました! 何かありましたらいつでもお呼びください!」
大声で胡散臭くハキハキ言う相手に、実衣はぼそっとつぶやきます。
「あれが一番、得体が知れない……」
気持ちはわかります。
京ことばのムズムズ感よ
そのころりく(牧の方)は兄・宗親と夫・北条時政を会わせていました。
時政は鎌倉政権で二番目の実力者であると、彼女は誇らしげ。
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時政が笑顔で問いかけます。
「兄上はいつまでこちらに?」
「あんたに兄上と呼ばれるとなんやこそばいなぁ」
おっ? なんだか彼だけ京ことばのようだ。
りくはそつなく、これからは周りに確かな方を置いた方がいいと言います。そのために京都に詳しい兄は役立つのだと。
「よろしゅうお頼み申します」
ニコニコとそつなく言う宗親。
しかしなんだろう、この嫌らしさは。なんかこう、この兄と妹が並んでいるだけで馬鹿にされているような気分がするんですよ。
「所詮、坂東は未開の地、野蛮人ですやろw」と言われているような気がして、こう、むしょうに……いや、危ない、すみません。ちょっと坂東武者に寄り過ぎましたね。
気まずい源氏兄弟の飲み会
ここからは源氏兄弟の飲み会です。
参加者の出自をざっと説明しておきましょう。
・頼朝(三男):母は由良御前で熱田神宮大宮司の娘。宮中にも繋がりがある。身分が高い。
・範頼(六男):母は遠江国の遊女。さしたる後ろ盾はない。
・阿野全成(七男):母は雑仕女の常盤御前。寺に預けられ、後ろ盾はあまりない。
・義経(九男):母は雑仕女の常盤御前。奥州藤原氏の後ろ盾を持つ。
そこに義時も同席中です。
頼朝兄弟たちは、母も違うし、一緒に暮らしていないし。父の源義朝が亡くなった時に、清盛の館で一度あったくらいだとかで、ぎこちない。
平家としても三男・頼朝を助命したからには、その下もなし崩し的に助けてしまったと。
「九郎、お前のことはよく覚えとるぞ!」
頼朝が場を和らげるように、話だします。なんでもうろたえる母を叱咤していたとか。
しかしそれは義経ではない。阿野全成でした。
気を取り直して頼朝が、義経は幼いながらも『孫子』を誦じたと言い出す。
今度は八男の乙若でした。当時、九郎義経は赤ん坊で何もできないと阿野全成がフォローするのですが……気まずい。
それでも頼朝は、弟が集ってきたことを喜び、頼りだと笑みを浮かべます。だって、坂東武者は信頼できないってよ。
言った瞬間、隣にいる義時に気づき、小四郎は別だとフォローする頼朝。五番目の弟だと思ってくれと紹介しています。
義経が目を輝かせながら、一気に攻め上って清盛入道の首を取ると言い出します。
それに対し頼朝は「そうしたいのはやまやまなのだが……」と煮え切らない態度で、常陸の佐竹を倒さねばならぬと告げる。
「家人たちのために坂東を固めるのも佐殿の務め」
義時はいつもこうしたフォロー役だ。坂東と頼朝の間を取り持つ役目を果たしていて、なんとも辛いことですね。
そして今週はターニングポイントがある。
時政と宗親のやりとりを思い出してください。あの時政が宗親相手にはおとなしくなっちゃいました。
義時とちがい、この先の時政は京都に絡め取られてゆきます。父子はそこが異なります。
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亀の差配がエゲツない
実衣のもとに、亀がぬーっと来ています。
新入りの役立たずの侍女の素性を知りたいそうで。立ち居振る舞いが下人ではない。いったいどなたか? そう聞いてきます。
実衣がごまかそうとすると、奥を預かるものとして知りたいんだとか。
「あなたが預かってるの?」と探りを入れる実衣に対し、胸の内にとどめておくとして、どうにか八重の素性を聞き出そうとする亀です。
単純なマウンティング合戦でもありません。
実衣は「奥を預かる」ことを確認している。ただの野次馬根性だけでもないかもしれない。
なんせ実衣からすれば、「奥を預かる」存在は姉の政子です。それがそうでないとなれば一大事です。
なんといっても北条の権力は、政子と頼朝の結婚にかかっているのですから、危険分子は排除すべく策を用いなければなりません。
ストーリーが進むにつれ、実衣にはそんな策士となる宿命があります。
それでも亀は素性を聞き出したのでしょう。
八重に対し「佐殿が酒をご所望だ」と伝えています。肴を三品つけて持っていくように。
困惑しつつも、八重は丁寧な手つきで酒と肴を用意します。
当時の坂東は粗食です。宴会の記録を見ても、野菜と魚を食べている。食事をじっくりとアップにする大河ですので、注目ですね。
舞台地では当時の献立を再現したメニューもあるようですが、現代人向けにアレンジはしてあります。
信長の御膳と比較すると、面白いかもしれませんね。
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酒と肴の準備ができた八重は、頼朝の部屋の前に盆を置きます。そして立ち去ろうとしたところで、戸が開くと、中には頼朝と亀が寝巻き姿でいるではありませんか!
八重が部屋に入ると、亀はわざわざ頼朝に聞こえるよう「ありがとう、八重さん」と……八重は無言で去るしかありません。これはあまりにえげつない。
政子に対しても攻撃的な亀
一方、京風の装束になった頼朝の正室・北条政子は、牧宗親からマナー指導を受けています。
りくは「言うことなし」と評価されるのに、実衣は品がないと一刀両断。あなたたちの振る舞いひとつに北条の威信がかかっている!とまで言い出す。
嫌になった実衣は、理由もわからんルールに縛られることには我慢がならない様子。
実衣は全成に、赤いものを身につけると運が向いてくるというのは嘘だったのかと愚痴っています。全成は色が身につくには時間がかかる、ひと月もすれば運が向いてくると言います。
そしてこうきた。
「それにあなたは赤がよく似合う」
これには実衣はキュンッ! 恋に落ちる瞬間ですね。
彼女は理詰めで考えているくせに、占いなんかは信じちゃう。それ以上に、誰も自分に対してそっけないのに、全成はちがった。
愚痴を聞いてくれる。自分のことを見てくれる。自分に何が似合うか、見ている! 自分に欠けたものを補う全成に心を掴まれています。
義時と義村も、全成から学ぶべきですね。
相手の気持ちを確認せず、望んでいるかもわからない食べ物だの、未来プランだの、押し付けようとしないこと!
恋愛というよりも、人間としてのマナーでしょう。
政子はすっかり疲れて寝転んでいます。
そこへ亀がやってきて、御台所ならばこれくらいのものは読んでおくようにと、書籍をドサッ!
政子が身を起こし、新入り侍女はどうしているのか尋ねています。
「八重でございますか。ここ数日伏せっております」
八重の心配する政子と、その原因を作った亀。
このマウンティング合戦は、結局、物理攻撃に躊躇しないものが最終勝者となります。それはまだ、先のことですので、楽しみに待ちましょう。
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なぜ亀の前は政子に襲撃されたのか?後妻打ちを喰らった頼朝の浮気相手
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注目は、政子の課題図書です。
何かと不足しがちな坂東にも、書物の波が届き始めたようで、巻物と綴じた本が入り混じっています。
宋代は本の装丁や印刷術が進歩した時代。そんな最先端の技術が詰まった書籍は、まさしく知性の最先端です。
政子と義時はこうしたものを真面目に読むことでしょうが、時政はどうでしょうか。
佐竹征伐で常陸へ
10月27日――頼朝軍は常陸へ出陣しました。
佐竹は、源氏の中でも武田と同じ源義光の血筋ですが、それでも平家についています。
頼朝の挙兵にも、頑なに従おうとしません。

和田義盛だけはいつもやる気満々。そんな義盛にブレーキをかける常識人の畠山重忠。千葉常胤も張り切っています。
頼朝はまず使者を立てることにしました。
義時を派遣し、いかなる存念か聞いてこいと託すのです。
しかし義経は苛立ち、500の兵があれば敵の大将首を上げて見せる!と言い出す。
ニコニコしながら「これは頼もしい」と褒める時政に対し、三浦義澄は、戦にはしなければいけない戦と、しなくてもよい戦があると諭す。
そんな義澄に対し「お前の言葉は耳に入ってこない!」と失礼極まりない義経。
上総広常が戦の経験があるかと義経に聞きます。
「ない!」
「経験もないのに結構な自信じゃねえか」
「ははっ、経験もないのに自信もなかったら何もないではないか!」
そう不敵に笑う義経。
「いいか小僧」
そう嗜めると、義経は「無礼者!」と怒鳴り散らす。
「戦ってえのは一人じゃできねえんだよ」
黙っていられなくなった広常が立ち上がる。己の振る舞いが味方を窮地に追い込むこともある。それがわからねえならとっとと奥州に帰れ!そう言い放ちます。
猛獣のような弟に、頼朝は「九郎、気持ちはわかるがここは控えておれ」と宥めるしかありません。
義経の言葉をおもしろがっている時政。仇討ちをしたいと息巻く義経。
時政はああいう性格でしたっけ?
頼朝軍の中で不穏さが増していきます。
広常がいきなり義政を斬り捨てる
佐竹義政と上総広常が交渉を始めました。
もとより因縁のある二人。義政はプライドの高い広常が頼朝配下であることを情けないと煽ってきます。
「いつ以来だ?」
「さて、いつ以来かな」
「お前、老けたなぁ」
そう言われ、思わずブチ切れた広常が、義政を斬り捨てる。「こいつがつまんねえことを言った!」とかなんとか言い訳していますが、流石に気が短いわ!
交渉はあっという間に決裂し、なし崩し的に合戦が始まってしまう。
広常が義政を斬り捨てたのは、頼朝の命令があったとも解釈されますが、どうでしょうか。この時代の命令系統は曖昧です。
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ドラマではどうか?
報告を聞き、頼朝は嘆きます。
「何をやっておるのだ、上総介! すぐに皆を集めよ!」
重大な命令違反ですね。もぉ〜、頼朝もしっかりしましょうよ!
そういう曖昧な指示のせいで【富士川の戦い】で武田信義に出し抜かれたでしょうに。
やはり冷静沈着な梶原景時の登場が待たれる。
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佐竹勢は金砂砦に立て篭もりました。
戦は膠着状態――【富士川の戦い】の印象もあって坂東武者は強そうだけれども、そこまで盤石でもありません。
敵の拠点をどう攻略するか。畠山重忠が地形の解説をします。
正面から挑むと矢で射られる。背後は崖。柵が何重もあって、攻める場所は丸見えでどうにもならない。力攻めは兵を失うと慎重に解説しています。
それでもしつこく力攻めを言い出す義盛は、風に当たって来ると言い残し、どこかへ向かってゆきます。
三浦義澄は、息子がおれば妙案を思いついたかも知れないと暗い顔に……。
なぜ来ていないのかと義時が聞くと、こうだ。
「平六は腐った餅を食って腹を壊した」
「馬鹿な奴だ」
あっさり義時が言い切りますが……なんなんだよこの盟友同士は。義村は、川を渡れず義時合流できない時は「すまん」だけで済ませるし、義時も、義村の腹痛にこの態度だし。
ただ、義時も幼い頃からつきあって、知っていたのかもしれない。
胃腸が弱いくせに、腐りかけたものを食べてしまう。そして腹を壊す懲りない盟友の悪癖を。
今回は義時が八重に贈った餅をいやしく食べているので、マヌケさが増しますね。先週あげたかっこよさをどんどん落としていく義村です。
それにしても、義村って用意周到なようで、抜けたことをしますね。これからもそういうことをやらかすんでしょう。
先週の義村はやたらとかっこいいと連呼されていましたが、私は絶えず突っ込みたい。
そりゃ山本耕史さんだからかっこいい。がしかし……冷静になってみると抜けていて、かわいげがない。そこも含めて義村はいいのです。
山本さんはなんといっても、三度も重要な役で三谷大河に起用されているのです。芸歴もこれだけある。
となれば、ただかっこいいだけではつまらないってことでは?
ここはひとつ、もっと面白い先を目指してもらわねば。日本の時代劇の明日は、この山本耕史さんにかかっていると言ってもよいと思えます。
「小僧は控えていろと言われたから」
佐竹勢を切り崩す何かよい知恵はないか。
安達盛長は上総広常と北条時政の交渉に望みを託しています。
範頼は兵糧攻めを言い出すものの、味方も同じように不足している。【治承・寿永の乱】は飢饉が背後にあるため、すっきりと戦いにくい。
ここで義盛がかわいい小鳥を捕まえたとやってきます。思わず、はしゃぎだす呑気な坂東武者たち。
重忠は、義盛殿は心が澄んでいるから鳥も安心するのだろうと解説しています。重忠も、義盛の世話をし過ぎて悟りの境地に至ったのかもしれません。
しかし、一人許せぬ男がいた。
「戦の最中ではないのか!」
義経が叫びます。
相変わらずフォロー役の義時が、何か策がおありなのかと救い船を出すと、ムッとしつつ義経が吐き捨てます。
「小僧は控えていろと言われたから」
義経もピリピリせず、それこそ重忠のように穏やかに話し始めたらよいのですが……。
頼朝が話すように促すと、義経がぶっきらぼうに語り始めます。
「畠山、お前、正しい」
これ以上力攻めをするのは馬鹿のすることだ。敵は下だけを見ているから、上から攻める! 背後に岩場があるからそこが盲点だと指摘します。
そんな場所に行けるのか?と問われると、義経はオレの郎党たちなら容易いと言い切った。
それでも敵の攻撃にあって「無理だ」と疑念を抱く重忠に対し、義経は「下に囮を置く」という。
味方の兵を犠牲にしてまで己の作戦を主張する義経のことを重忠は困惑を隠せませんが、義経の戦術は一歩先をいっていました。
「矢の射程を確認してきた!」
矢の届かぬ位置で敵を煽っていれば、囮になっても犠牲者は出ない――。
この義経のアイデアに対し、頼朝も「良い策だ!」と驚くばかり。
義経も、戦なら誰にも負けぬとテンション上がり、果報者だと喜ぶ頼朝です。しかし……。
禍々しくも輝く義経
時政が朗報を携えて戻ってきました。
上総広常が佐竹義季が内通し、内部を切り崩したのだと。
はしゃぐ一堂の中、悔しそうにしている義経。すかさず義時が義経の戦術案に感服したと言い、範頼も実らなかったが素晴らしいと庇いますが、義経は納得しない。
「ああ〜!」
そう叫びながら、砦の模型をぶっ壊す!
既にこの義経が危険であることは、視聴者の皆さんも重々承知でしょうが……まとめておきましょう。
・周囲の空気を読まない
→あんなに大好きな兄にすら、鎌倉は立派にできないと本音を言ってしまう。
・プランBがない
→確かに見事な策ではある。しかし、失敗したときのプランBがないように思えます。ひとたび見込みが外れたらどうなるのか?
・感情的
→感情に流される。これが決定的。
義経は戦術の天才ということになっている。
しかし、このドラマでは天才は一人ではないとわかります。義経を際立たせるために、彼らはここにはいない。
例えば三浦義村。
腹痛は「馬鹿な奴だ」というネタだけでもないとみた。
そして梶原景時。
景時は、義経とは別の秀才型戦略家です。お互い自分にないものを相手が持っていると察知するからこそ、ライバルとして成立します。
今はまだ単純な戦をしていることも頭の隅にでも入れておきましょう。
戦国時代にあってこの時代にまだないものをおさらいしておきますと……。
『麒麟がくる』では「エイエイオウ」「エイオウエエ」といった喊声をあげ、それぞれの軍団がぶつかりあいました。陣太鼓や法螺貝も鳴っています。
ああした音は、単なる気合いではなく、軍隊を整える役割を果たします。
『麒麟がくる』のように戦国時代末期ともなると、『孫子』くらいは常識になっている。
ゆえに織田家の蓄えた財力、西洋渡来の鉄砲――こうした計算できる要素が勝敗を握ります。
平安鎌倉期には、それすらまだない。
兵糧物資は両軍ともに不足しがちで、兵器性能では大差がつかない。
となると、将の頭の中にある策が決定打となります。
ゆえに第二の義経はきっと現れないし、あまり参考にはならないと思います。
義経とは、当時の特殊な環境下で現れた時代の申し子であり、それゆえに一段と美しく輝く、邪悪で妖しい流れ星なのでしょう。
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戦の天才だった源義経の生涯|自ら破滅の道を突き進み奥州の地に果てる
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物語が語られれてゆく中で、取り去された彼本来の不穏さ、残虐さを取り戻した義経。
演じる菅田将暉さんはそのことに恐れも戸惑いもない。
昔大好きだった義経が、こんなにも禍々しく輝いていて、私は感無量です。
きのこは無いだろ、きのこは……
義時は出迎えた八重に、常陸の山で採れたきのこをお土産に渡しています。
だから、気づいてよ、義時!
八重さんは御愛想で出迎えているんだ。「ありがたくいただきます」と言っていてもそんなに喜んでいないから。
それに義時ってば、義経が荒れている側で、きのこを採っていたのか……。
いや、こんな大河主人公ってありですか?
合戦の最中にきのこ採りだってよ。まあ、それも義時だから仕方ない。でも、きのこは!
正解はちゃんと劇中に示されています。
・芋
女子が永遠に好きなもの枠。むしろ芋が嫌いな人っているの? マストアイテムよ!
・ドライフルーツ
これもそう。オシャレだし、甘いし、美容にもいいし。
きのこは調理しなくちゃいけないし、ダメだってば。
そんな鈍感義時は、このころ御所にも来ない八重を気遣っています。お体の具合が悪いのかと尋ねると、少し気分がすぐれなかったと答える八重。
「無理はしないでくださいね」
「ありがとうございます」
完全に、義時だけが愛情を滲ませた会話です。大河でこんなに共感性羞恥を煽らないでくださいよ。つらい、つらいんです!
と、このタイミングで、庭のほうから怪しげな気配を察知し、義時が怪しげな人物を組み伏せます。
「佐殿!」
だから何をしているんだっての、この頼朝は……。
そのころ義経は、義姉政子の膝枕でリラックスしていました。
政子は、義時から聞いた義経の策を褒めています。
喉を鳴らす猫のように、義姉上の声はいい響きだとうっとりしている義経。
これは本当にそうですね。小池栄子さんのハスキーボイスは素敵です。媚びない強さがあって、毎週この声を聞けることは幸せです。
義経は言いたいことを言って、すっきりしてまたも兄・頼朝の元へ向かいます。
この余韻のなさが動物のようでいいですね。動物写真家である岩合光昭さんのコメントをもらいたくなるほど、野生的です。
断言したい。
このドラマの義経や坂東武者はかわいい。かわいいという言葉は女性や子ども向けとされていますが、最近は男性に使ってもいいと意識が変わっているならば使いたい。
義経は猫のようでかわいい。
義時は頼朝の怪我を手当しています。
八重のところへ忍ぼうとしたことを伏せ、戦で擦りむいたことにすると言い訳する頼朝。
義時が誰から知って何をしていたのか?と聞くと「亀からだ」と返します。ほんと無茶苦茶ですが、頼朝は義時の「きのこお土産作戦」を見て恋心を察知し、応援すると言い出します。
「八重はきのこは好きではない」
思わず絶句する義時。女子はてっきり好きかと思っていたってよ。
そんなところまで「新鮮お野菜セット」を土産にしていた父・時政に似なくてもいいじゃねえか!
自分が好きな食べ物は皆好きだと思っているんじゃねえの? だから、そこはせめて芋に……。
頼朝は、八重を諦めるとしおらしくなっています。まだ諦めていなかったのかと義時は突っ込みますが、その上でプレゼントとしてヒヨドリのいる籠を出してきました。
ただ、このヒヨドリは鳴かないらしい。
「ツグミですね」
爽やかな墨染の衣が見えました。
美青年の僧侶がきて、鳥の解説をします。ヒヨドリに似ていても鳴かない鳥。それがツグミ。口をつぐむからだと。
「兄上でございますね」
涼しい風のような僧は、乙若だと言います。今は義円と名乗っているのだと。
そんな兄たちのことを、義経は燃えるような眼差しで見ているのでした。
MVP:大庭景親
恐ろしいことを吐きながら大庭景親は死にました。
頼朝に味方したことを悔やむことになる。死と破滅の予言を撒き散らしてから、己の命まで散らしたのです。
彼は先が見えていないから滅びたのではなく、先が見えすぎるからそうなったのではないか?
そう考えるとゾッとします。
考えてしまうことはあります。源平合戦で源氏が勝ったのはよいことだったのか? もしも平家が勝っていたら?
かくして義時たちは、大庭景親が嘲笑いながら吐き捨てた予言を越えねばならなくなりました。
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このドラマはじわじわと、坂東武者が西に叛く理由を積み上げてゆきます。
頼朝は血統を利用するまで。乗っ取られてはいけない。
そのことを示す覚悟を、義時は問われています。
総評
人間の心の機微ね……。
今週は足踏みのようで、伏線がばら撒かれた高度な回でした。
どのへんが?というと、心の動きです。
人間の心理は普遍的だからこそおもしろい。
八重が「ウザいあいつから差し入れをもらった女性」そのものの顔を見せていたこと。
義時が「ハーゲンダッツを差し入れすれば丸くおさまると思っている鈍感男子」を体現しているのもすごいと思いました。
その義時以上にゲスだった義村も印象深い。
かと思えば、牧宗親の指導ゆえか、北条時政が上品で交渉できるようになっていますし。
そう見守っていると、人間の心の機微ごと踏み潰す義経が出てくる。高度な心理描写が光ります。
今年は広報のセンスがいい
歴史観光にも経験値はあります。
戦国三英傑を輩出した中部地方は手慣れたものです。幕末の薩長土、会津も慣れています。
その点、今年の神奈川はどうか?
神奈川の歴史って、独特のものがあります。
鎌倉時代はワーッと盛り上がり、戦国時代も北条氏が光るのですが。
江戸時代となると、なまじ江戸に近すぎるため幕府や旗本御家人が治める土地柄になり、幕末の横浜開港で国際色豊かな土地となります。
ゆえに歴史をアピールするとなると、鎌倉大仏からいきなりペリーに吹っ飛ぶ――そういう印象があります。
そしてご当地大河とあまり縁がないとも言える。
『草燃える』以来ですから、今年はテンションが上がりまくりですよ。
そのせいか、コラボの個性が強い!
80キロ走る自転車コースをPRした時も驚きましたが。ついにこうきた。
◆ 大河ドラマ「鎌倉殿の13人」とコラボ ランチパックに新商品(あなたの静岡新聞) (→link)
あのほのぼのとしたランチパックと、どういうことなのでしょうか。もちろん文句はありません。
そしてNHK横浜もすごいことになっていた。
◆NHK横浜放送局(→link)
こちらの「拝啓!鎌倉殿」がすごいです。
あらすじがこうきた。
物語の舞台は神奈川県のローカル局「はまっこテレビ」。
そこで働く入局2年目の男、山本大河。
彼は仕事で絶対失敗 をしない、なぜなら失敗を恐れるあまり「本当になにもしない 男」なのだ。
そんな小心者な彼がはまっこテレビを背負う仕事を任されて しまった――、放送局を舞台に繰り広げられる群像劇、「拝啓、 鎌倉殿!」
(→link※PDFです)
ともかく読んでいただきたい。
炎上したり、誰かを侮辱するようなこともなく、かつおもしろくて個性的。すっとぼけたようでいて、誰も傷つけない。素晴らしい漫画で、単行本が出たら買います!
今年は公式サイトから公式SNSまで、レベルが極めて高い。
毎回人物相関図が更新されるため、亀の夫・権三すら出てきました。
これは大変な作業でしょう。
デザインも洗練されていますし、アクセスしやすい。わかりやすい。重たくもない。情報量も豊富。
公式ホームページイラストも、何よりもこの時代が好きな方を抜擢して使っており、これまた素晴らしい。
毎週「かまコメ」として出演者の声が聞けることも素晴らしい。キャスト発表も思わせぶりかつ巧み。
Web広報のお手本にできる。極めて高度な仕上がりです。どこにも手抜きしていない。
いつだったか、公式SNS担当者が「実は歴史苦手なんです!」とアピールしていたことがありました。
そういう時は、隠し通したつもりでも、SNS投稿内容がおかしかった。
ああいうストレスがない今年は快適です。この調子でお願いします。
今年は「うるさい人たち」の評価も高い
今年は番組コラボも独特です。
『あさイチ』は定番にしても、自転車番組『チャリダー!』とコラボし、山本耕史さんが自転車を乗ったうえに、猪野学さんの出演発表まであるとは驚かされました。
そして『沼にハマって聞いてみた』とコラボ!
こちらの番組には「鎌倉幕府沼」にハマった方が出てきます。
ある意味一番めんどくさい方かもしれない。番組に出るからには大河に辛口にならないだろうと思いますか? 口調や感じ方からわかりますよ。
同番組では「あなたの推しである義時をイケメンの小栗旬さんが演じるんだからうれしいでしょ!」という誘導をしているようには見えなかった。
しかも沼の方は、細川重男先生の本で義時にハマったという本格的な方。
そんな方でも、イケメンがどうこうではなくて、番組内での解釈に納得しているとみえる反応でした。
今年の大河は、細川先生の影響はあると思えますので、そうなるだろうと思いました。
大河なら毎年そうかというと、そんなはずもない。
例えば『青天の衝け』の場合、池田屋で近藤勇と永倉新八の活躍を土方歳三が盗んでおります。
沼にハマった新選組ファン過激派から高い評価をされなくても致し方ないでしょう。それと会津藩沼近辺も。
そして、大河評価にとって分厚い壁といえば、専門の先生方です。
こんな記事がありました。
北条政子については有料部分となりますが、素晴らしい内容です。野村育世先生の『北条政子』はお薦めです。
◆北条政子を「悪女」に仕立てた男社会 主流を外された歴史の女性たち(→link)
この記事の野村先生は、大河ドラマにおける北条政子像に期待をしているように思えました。
政子をどう描くか?
これは当時の社会のジェンダー観を反映します。野村先生の目が光っているとなれば、今年はますます手抜きができません。
そして、それは大いに期待できるところではある。
◆『鎌倉殿の13人』大泉洋演じる源頼朝が、あんなにも「エラそう」な理由(→link)
野口実先生です。しかも、かなり好意的な記事です。
賛否両論になることはわかるとしつつ、それは中世への理解不足ではないかと、かえって大河ファンに諫言するような記事。
女性の元気のよさが「いいな」と思ったと明言されております。
これは日本史のみならず、歴史においてよくあること。女性を抑え込む力は、近代に向かってむしろ強くなります。
例えば中国の場合ですと、後漢から魏晋を舞台にした『三国志』ものの女性が、パワフルすぎると思われたものです。
ゆえに後世の作家は「こんな強いヒロインじゃ萌えないんだよな〜」と弱体化。そういう時代の価値観でヒロインはより萌える像に変えられると。
「昔の大河の女性はもっとおとなしかった」
そんな言葉が出されるとき、その女性像は、当時の視聴者向けに弱体化していた。
『利家とまつ』のまつなんて、史実よりかなり甘くされております。
『青天を衝け』では、妾が笑顔で渋沢家から出て行きましたが、あれこそまさにねじ曲げた女性像の典型例でした。
今年の大河は、ありのままの中世女性像を見せてくれることでしょう。
それは正しいと野口先生も書いていて、朗報でしかありません。ぜひとも突き進んで欲しい。
野口先生は、日本史研究者も大河から興味を持った方が多いと指摘し、かつ末尾で『鎌倉殿の13人』視聴者から
未来の研究者が出ること
に期待を寄せています。
確かにその通りです。
ともかく気に入らないから「アニメ『平家物語』の方がいい」と繰り返す意見も見かけます。
しかし、野口先生が冒頭で述べているように『鎌倉殿の13人』はストーリーと社会風俗考証もよくできています。
なぜアニメと大河を比較するのか、私にはちょっとわからない。
社会風俗考証では大河が圧倒的に上です。アニメでは烏帽子をかぶっていない人物が出てきておりますし、木曽義仲はまともに甲冑をつけていないで戦うような場面もある。
そもそも語り部がオッドアイの架空美少女で、彼女がらみの本筋とさして関係ないエピソードが本編をぶつ切りにする。
そんなことを大河ですればどうなるか?
抑制的であった『麒麟がくる』の駒ですらああも叩かれたのです。
アニメにはアニメの、大河より緩いルールがあって成立していて、比較することが適切とは思えないのです。
ましてや大河をくさすために持ち出すのであれば、作品に対して失礼ではないでしょうか。
『鎌倉殿の13人』が嫌いならば、いちいちアニメと比較せず、嫌いな理由と箇所をあげればよいだけかと思います。
今年は先生方が心から誉めているように思えます。
つい最近では、幕末近代史の先生が行間に不快感をこめつつ、仕事だからとしぶしぶほめているような作品もありました。
そういう本心ではないコメントが出ている大河はわかります。
今年はそうでないから安心できるのです。
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【参考】
鎌倉殿の13人/公式サイト


















