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【鎌倉殿の13人感想あらすじレビュー第38回「時を継ぐ者」】
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ウグイスが鳴いてるな
「伊豆か……」
時政が御沙汰を聞いています。
生まれ育った土地でゆっくりと残りの人生を過ごすようにと伝える義時。りくも共に伊豆へ向かうとのことです。
これは妙な話です。
義時ほどの男が、誰の入れ知恵でこうなったか知らないわけもない。二人をくっつけて、また悪だくみを働いたらどうするのか。
「あれがいればわしはそれだけでいい。よう骨を折ってくれたな」
時政がそう言うと、冷たい目で義時が返します。
「私は首を刎ねられてもやむなしと思っておりました。感謝するなら鎌倉殿や文官の方々に」
嘘ではない、彼の本心でしょう。
父親が助かって欲しいという気持ちがある一方、無謀な企みを働いて迷惑をかけ、死んで当然だと突き放したくなる気持ちが半々で、どちらも嘘偽りないのでは?
と、冷たい天命を知る者の顔が消え、ただの息子の顔が戻ってきます。
「父上……小四郎は無念にございます。父上にはこの先もずっと側にいて欲しかった。頼朝様がお作りになられた鎌倉を父上と共に守っていきたかった。父上の背中を見てこれまでやって参りました。父上は常に私の前にいた……」
洟をすする義時。
「私は父上を……私は……」
「もういい」
「今生の別れにございます。父が世を去るとき、私は側にいられません。父の手を握ってやることができません。あなたがその機会を奪った。お恨み申し上げます」
言葉を詰まらせる義時。子として父に恨みをぶつけています。
ここで鳥の声が外から響いてきます。
「あの声。何の鳥かわかるか?」
「いえ」
「ウグイスだよ」
「ウグイス?」
「ホーホケキョだと思ってるだろう。違うんだ。ホーホケキョと鳴くのは雄。雌を口説くときに鳴くんだ。普段はジャジャジャジャ……ありゃウグイスだ。間違いない」
元久2年(1205年)閏7月20日、初代執権北条時政が鎌倉を去る。
彼が戻ってくることは二度とない――。
長澤まさみさんがそう語り、ウグイスの声が重なります。
これは鳥の問答のようで、時政の告白だと思った。
とびきり魅力的な雌に求愛するために、この雄はずっとホーホケキョと鳴き続けた。鳴き続けて血を吐くことになった。
どこまでもバカだと思う。そんな格好つけて全てを失って、どこまでバカなんだろう。
でも、愛ゆえに何もかも失うというのも、それはそれで一つの生き方だと思う。これはこれで彼の生き方だと思えました。
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しかし……。
父との別れを告げた後、トウを呼び出す義時の恐ろしさよ。
泰時の見立ては、満更はずれておりません。
りくとの別れ
「あの人のみすぼらしいところは見たくない」
実衣が姉の政子にぼやいています。二度と会えないかもしれないのだから、きちんと礼を言うようにと釘を刺す政子。
いったい誰なのか?
と思えば、相手はりくでした。
彼女は傲慢に「私がどんな惨めな姿でいるか見にきたなんて、品が悪いにもほどがある」と毒吐きつつ、館から着物を届けさせたからご期待に添えないとおめかし姿を見せます。
実衣がしらけきって出て行こうとすると、政子が礼を言う。
義母上がいて父上は幸せだった。父は変わった。十歳は若返った。
実衣もそれに同調しています。
娘の目からみれば、ジッジッと鳴くウグイスがホーホケキョと鳴き出したようなものなのでしょう。漠然と過ごし続けるより、愛に燃える。
りくは憎々しげに、礼を言うのはあの人のことばかりと返し、北条ではいい思い出がひとつもないと言い放ってます。
二人はそれが本心ではないと気づいていて、過去のエピソードを持ち出す。
政子の妊娠中、男児を生むには顔を険しくするといいという話で、政子の顔に笑っていた。
頼朝の挙兵時、伊豆大権で何ひとつ掃除を手伝わず、若く美男の坊主に話しかけていた。
「あのかわいい子は今頃どうしているのか」
りくがおどけて言うと、伊豆に戻ったら会えると返され、まんざらでもない様子。
しかし、美男の小僧も仁王像のようになっているかもしれないと実衣がちゃちゃを入れると、彼女らは昔のように笑い、そして、りくが深々と頭を下げます。
「お世話になりました」
りくの礼儀正しい最後の挨拶に、同じく深々と頭を下げることで敬意を表す政子と実衣。
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思えば伊豆の小豪族一家のままならば、こんなことにはならかったのでしょう。
権力と引き換えに一体何をどれだけ犠牲にしたのか。
そう思うと同時に、彼女らの“男らしさ”がしみじみと実感されます。
“男らしい”という言葉は敢えて使いました。
男だけがそうするように誤解されているけれども、女性だって発揮するのだから、本来そこに性別は関係ありません。
それがどういうわけか、同性のフェアプレー精神は男性特有のものとされ、女性はドロドロの関係が定番とされてきた。
しかし本作はそうではなく、政子と八重、政子と亀もどこかさっぱりしていたし、そうかと思えば男同士の粘りつくような陰湿バトルもあった。
例えば、本作で屈指の「ドロドロの悪感情」を体現していたのって、源行家とか比企能員あたりですよね。
そこに性差はなく、男女双方にあるのは、当たり前でしょう。
暗殺者トウの腕を掴む義村
女中に化けたトウが、りくのいる部屋へ来て、配膳をしています。
トウの背中には小刀。毒を使わないところが義時らしさかもしれません。
食べ物を吐き出したり、致死量に至らないなど、毒殺には不確実なところがあり、ターゲットをきっちり殺すのであれば刃物の方が万全です。
いや、そういうことでないですね。
義時よ……父のりくへの愛を聞いて、あんなに泣いておいて、結局殺す気かよ。まったく、実によい育ち方をしていやがる。
するとそこへ、のえが現れました。
どうやら最後の秘訣を聞きたいようですが……何の秘訣かって? 北条とうまくやっていく方法ですって。
「無理矢理なじもうとしないこと。あとは誇りに思うこと」
「誇り?」
「私は北条に嫁いだことを誇りに思っていますよ」
「ご無礼いたしました」
のえはそう引き下がります。
りくの厄介な気質をのえが引き継ぐと、面倒なことになります。
義時は出世し、そして妻の愛を失いました。のえは心底義時を愛することはないのでしょう。
さあ、のえも立ち去り、トウの再挑戦だ!
あらためて彼女が背中の小刀を握りしめる。
しかし今度は三浦義村がやってきました。
「伊豆へ会いに行きますよ」と義村が告げると、「来なくていい」と即座に拒絶するりく。
とことん夫を愛してますね。伊豆大権現でイケメン僧侶に話しかけていたし、義村や頼朝にしなだれかかるようなこともあった。それがこんなに貞淑になってしまって。
京都行きを拒んだあたりから、りくの純愛が昇華されていって素晴らしい。
彼女はようやく理解できたのでしょう。自分にとって、しい様以上の男はいない。しい様と比べたらあとの男なんて塵芥だと。
すると義村が何やら意味ありげに
「あんたは会わなきゃいけない。俺に借りがある」
と二人に近づき、りくの背後にいたトウの腕を掴みます。
「何者だ?」
睨みつけつつ義村が近づくと、ここから先は激しい殺陣の展開。
狭い屋内から広い庭へ舞台を移し、山本千尋さんと山本耕史さんのキレのある動きが続きます。
当時ならではの動きで、こうも軽やかかつ本格的なアクションが見られるのは眼福としか言いようがありません。
トウはともかくとして、義村はちょっと強すぎるんじゃないか?と驚かされますが、数多の戦場に出てきた武士ならではでしょう。
最終的に義村がトウを掴み、嬉しそうにこう言います。
「俺の女になれ」
ここはスケベ心で口説いているとも思えません。
誰が頼んだか丸わかりの殺し屋など、手札として最高だから浮かれているのではないでしょうか。
これだけ使える暗殺者を妾にするのはもったいないし、暗殺の定番は閨の中。こんな棘のある花は、そういう意味では危険すぎます。安全な美人は他にいくらでもいるでしょう。
手札としては実に使える。トウを手元に置いておけば、義時を牽制できるし、何なら北条の弱点を探ることも可能かもしれない。
義村としてはそういう楽しみの方が大きいのではないでしょうか。
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これはあくまで私見ですが、義村は本作随一のわかりやすい思考回路で、こいつならこうするだろうとピンと来る。
もし自分が同じ立場ならというときの思考が一致していて、すんなり合点がゆく。
彼は、勝つか負けるか、その二元論で毎回勝つ方にベットする……とは思うのですが、他の方の感想やレビューを見ていると、「義村が一番得体が知れない」とされていて、困惑を深めています。
最初の仕事は平賀の暗殺
りくも伊豆に流される――義時からそう御沙汰を聞かされ、彼女はふてぶてしく、都でなければ鎌倉であろうと伊豆であろうと同じことだと吐き捨てます。
そして吠える。
「私を殺そうとしたでしょ? 安心なさい、私はもうあなたのお父上を焚きつけたりしないわ。ああ、くやしい! もう少しでてっぺんに立てたのに。でもね、私の中の火はまだ消えておりませんから。このまま坂東で朽ち果てるなんてまっぴらごめんだわ! あらやだ、こんな品のない言葉使ったことなかったのに」
まくしたてるりくに、義時はしみじみと言います。
「あなたはとうに坂東の女子だ」
「やめてちょうだい!」
りくもバカね。ほんとうにバカね。
坂東の猪みたいな男を手玉にとったはずが、自分がかえって絡め取られて変わっていた。本気で愛してしまった。なんて可愛い女性なのだろう。
そんなりくは、それでも義時相手に焚き付けます。
執権につかなかったのか?と確認した上で、尻を叩くように吐き捨てる。
「意気地がないのね、この親子は」
手の届くところにあるなら取れ、何をしているのか。
あなたはそこに立つべきだと諭し、それを餞(はなむけ)の言葉だと締めくくります。
「あらやだ、餞は送る側がするものでしたね」
「父上と母上の思い、私が引き継ぎます。これは息子からの餞です」
それから幾日が経過したのでしょうか。
場面変わって、義時が腰に扇と刀を挿し、黒い服を着ています。
新緑のような緑が深くなり、ついに黒く……筆記具は扇になりました。出世と覚悟が反映された服です。
その傍らで、のえが鏡を手にしています。
思えばドラマ序盤で鏡などありませんでした。そもそも坂東武者たちは身だしなみなど気にしていない。
文明によって変わりつつある鎌倉。
義時の新体制となり、最初の仕事は平賀朝雅の抹殺でした。罪状は実朝に代わり、鎌倉殿になろうとしたこと。
義時はわかっています。あれがそもそも北条政範を毒殺し、畠山重保に罪をなすりつけ、そのせいで畠山は滅亡した。それがなければ父が鎌倉を去ることもなかった。
抹殺相当の案件――。
それは確かにそうですが、いきなり妹の婿を殺すというのも実に義時らしいです。弁明の機会すら与えません。
二階堂行政がただちに下文を書くと、京都では藤原兼子と後鳥羽院がその命令を知り、不快感を募らせていました。
断りもなく、と露骨に不快そうな兼子。
後鳥羽院は、自分が朝雅の主ではなく鎌倉がその立場を主張していることにイラ立っています。
かくして朝雅は殺されました。
兵たちに囲まれ「鎌倉殿になろうと思ったことはない!」と弁明するも、群がる武士を前に呆気なく始末される。
朝雅の情けなさ、みっともなさよ……。
あれだけ立派な甲冑をつけ、そのくせ血の気が引いて顔面蒼白とは情けない。
源義光(甲斐源氏の祖)の子孫だと思うと、ますます軽蔑が募ってくる――討ち果たす側の武士の気持ちに傾いてしまう――と、ふと我に返り「鎌倉の思考回路はおそろしい」と気づかされます。
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なお、このとき史料準拠による朝雅は、囲碁の目を数えてから後鳥羽院の前から退出したそうで、ドラマでそういうクールな格好良さがないのは残念なようで因果応報、ありだと思えます。
山中崇さんがこれまたお見事でした。
残された妻・きくは「なんてことを……」と動揺し、中原親能は怯えています。
「鎌倉は怖い……もうたくさんじゃ」
そう心の底から言い、きくに逃げるように促すのでした。
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