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【麒麟がくる第10回】
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信秀が竹千代を渡すならば、盟約を考え直さなければならぬ。
「そう思わぬか、十兵衛」
利政は光安を無視するように、光秀にすっ飛ばしてきます。これはストレスフルな上司だわ。
光秀は自分なりの意見を言います。
「信秀は、我が子を見殺しにいたしましょうか?」
「見殺しにできるようならば、信秀殿はまだ見どころがある……」
利政は、まったく……。それはその通りではありますが、そういうむき出しの冷酷さをなんとかしましょうか。
本音はともかく、そこはポーズがあるとは思います。こんな面白がっているような調子でなくて、苦い顔で言うとかできるでしょ。
こいつらは基本的に、本音を隠せないんだよな。
人間は素直な方がいいとは言われています。でも、それはどうでしょう? 上司のカツラがずれていて、それがあまりにおもしろいからって爆笑したら? 素直な感情の発露だろうが、問題になるでしょう。
そこがどうにも理解できない、鈍感な人も、世の中にはいるわけです。
利政は美濃の頂点に立つから、それでよいかって? ダメです。家臣から慕われていないし、何よりも嫡子・高政(斎藤義龍)が不信感をため込んでおります。これがいつか、彼の命取りとなるのでしょう。
こういう人物を演じる本木雅弘さんは、むしろ気配りのできる繊細なタイプのように思えます。考えに考え抜いて、演じ切っているんでしょうね。素晴らしい!
利政は、光秀の気持ちを踏んづけながら指令を出します。
「尾張へ行き、成り行きを見て参れ。そなたなら、帰蝶に会う口実はどうにでもなる。すぐに見て参れ」
「はっ?」
「すぐに行け、ぐずぐずするな!」
なんなんだろう。帰蝶と光秀って、なんなんだろう!
恋のお相手、モテモテでうれしい? それどころか、使いっ走りにされる言い訳に利用されていてしんどいものがあります。
そりゃ光秀もこう言いますよ。
「鬼め! 命がいくらあっても足りんわ!」
光秀って、帰蝶の好意をあんまり喜べないと言いますか。
幼い頃から「栗拾いをやりたかったからもっと早く来い!」と叱られて困っていたわけですし。
困りっぱなしなんだよな。それに鈍感だの気づかないだの言われても、どうしろというのでしょう。全人類モテモテになりたいってか? そういうしょうもない誤解はいらないんですよ……。
やはり、早急に煕子(妻木煕子・後の明智煕子)さんと結婚して癒されないと。光秀の心の安寧のためにも、再登場を期待しています!
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順序に従う父、反発する母
さて、当事者となった尾張では?
「人質の取り交わしなど、到底できませぬ!」
はい、織田家の皆さんが話し合っております。嫡男の織田信長は、信秀相手に熱くこう語っている。その理由は、利政と同じ。竹千代は駒としてあまりに重いわけです。
信秀はそんな我が子の理屈は認めつつ、腹違いとはいえそなたの兄だと信広のことを庇うわけです。
信長はそれに対して、これですからね。
「戦で捕らえられたのは自業自得! 腹を切るべき!」
信秀は戸惑いつつ、信広は絶えず強敵から領地を守ってきたと庇います。そんな父に、病で弱気になっておられるとまで言う。そして、この信長は竹千代殿を渡す気はないと言い切るのです。
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「何人たりとも渡さぬからそのつもりで!」
誰だよ、この信長を可愛いと言った奴。全然可愛くないどころか、憎たらしいぞ。
・異母兄に冷たい
・努力を評価しない。自業自得ってさぁ……
・父の病気を理解した上で、弱気になっていると責め立てる
・滅茶苦茶、頑固……
土田御前は、出て行こうとする我が子にこう声を掛けます。
「信長殿!」
「放っておけ」
「なれど、あの口の利きようは……」
興味深いといえばそう。織田信広は彼女にとって我が子ではありません。薄っぺらい考え方ですと、側室の子に冷淡であってもおかしくはないかもしれない。本作はもっと慎重です。
「人の上に立つ器量に、やや欠けておるかのう」
織田信秀はそう受け流すあの生首プレゼント事件の態度からも伺えましたが、我が子のやらかすことの強烈さは、慣れているようです。
「それゆえ申したではありませぬか。家を継がせるのが弟の信勝の方がよろしいと」
それが彼女の本音です。
織田信勝はまこと心の広い、賢い子ですよ。そう言い募るのですが、信秀は受け流しこう説得にかかります。
父・信定は、よう仰せられたものじゃ。物事には、天の与えた順序というものがある。それを変えれば必ず無理が生じ、よからぬことが起こるとな。
「そなた(土田御前)から生まれた最初の子は信長じゃ。家を継ぐのは信長。わかるな? 器量の良し悪しでその順序は変えられぬ」
彼自身、器量ならば弟の織田信光のほうがよろしいと言われていたとか。
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夫妻の特質がよく出ている会話でした。
信秀は、普通の人だとは思います。
熱田神宮の御加護、順序。そういう世の中のルールを信じている。暗黙の了解ってやつですね。我が子が無茶苦茶だろうと、ルールはルールだと納得するのです。
一方で、土田御前はそんなことに従いたくない意識がある。ルールを変えてでも自分の思う通りにしたいと願う気持ち。
土田御前本人は認めたくないでしょうが、そういう我の強さ、自分の欲求を通したいところを、信長が引きついた可能性はあるかと思います。
信長の場合、それがあまりに濃厚に出てしまったわけですけれども。
三河は情報で戦う
さて、熱田の市場では……。
今日もいい魚が入って売られています。菊丸が隣で寝ています。
そんな彼を、仲間が揺さぶって起こします。そこにいたのは、光秀でした。
「十兵衛様!」
「味噌は売れておるか?」
「はい、売れております。港に着いた船が、丸ごと買ってってくれますから」
やはり尾張はいいですねえ、海はいいなあ。マネーがザブザブ集まってくるんだなぁ。ついでに言うと、中部の味噌カツが食べたくなるドラマです。
「ふーん、今いくつある? 那古屋城に届けたいのだ。美濃から帰蝶様がお輿入れなされた。城まで運んでもらえるか」
「お安い御用で」
「頼むぞ」
こういう何気ない会話が、まるで変わってしまったことがすごいと思えます。
菊丸の正体がわかったからには、彼なりに情報を集めているとわかるわけです。菊丸の正体が判明してから見直せば、同じセリフでもまた違った味が出てくる。これぞ、技巧の極みではないですか。
盤石な作品だと思います。よいドラマは、まず脚本ありきだとわかるのです。
菊丸からすれば、那古屋城に入れるなんてこの上ない好機。こういう間諜の使い方ができる三河は、地力があるとわかります。
そうえいえば三河の家康といえば、【神君伊賀越え】が有名ですけれども、実際に間諜の使い方は抜群のものがありました。本作の家康は、データ勝負型、『孫子』の「用間篇」大好き系かもしれない。キャストビジュアルでも、家康は書物を抱えているし。
そんな三河のデータを象徴する菊丸は、こう聞いています。
「那古屋城には何の御用でいらっしゃるのですか?」
「だから申したであろう。帰蝶様にご機嫌伺いだ」
菊丸はしれっと、熱田にお暮らしになっている松平竹千代様が、那古屋城に移されたことを言い出します。それは今川に移す前振りかと探るわけです。
光秀は、それは初耳じゃと言います。そのうえで「なんじゃ、気になるのか」と聞き返してくるのです。
菊丸は、三河の者としての気持ちだと断ったうえで言います。今のまま、せめて竹千代様だけでも御無事でいてもらわねば、わしらのお殿様ですから。そう語るのです。
これには光秀も納得しています。
味噌を運びつつ、光秀と菊丸は語り合います。光秀は心を読み取りたい優しさがあるので、菊丸に本音を尋ねます。今川に渡されるよりも、織田に残る方がよいのかと。
菊丸は、正直も言いますとどちらでもよいと答えます。今はともかく、いずれ三河にお戻りになられ、立派な国を作ってもらえればどちらでもよいのだと。
「それが我らの望みです」
そう菊丸が語ると、あの徳川家康がまるで選ばれし者のように思えてきます。
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家康は過小評価と誤解をされている人物かもしれない。そういえば、そうだった。そうハッとさせられる描き方です。
そんな三河の象徴として、菊丸は重要です。
そなたが十兵衛か
さて、那古屋城に着きました。
帰蝶が十兵衛を出迎えます。
「十兵衛殿、久しぶりじゃのう」
「奥方様におかれましては、つつがなくお過ごしのご様子……」
光秀は、父上のお指図で味噌を持参したと言うわけです。帰蝶はありがたき心配りと感謝しつつ、膳所(台所)に運ぶよう指示を出しております。
菊丸が運ぶと言うと、場所を教えてあげております。菊丸はこれで内部事情を探れますね。
帰蝶は十兵衛を呼び出し、こう言います。
「こなたへ。十兵衛、もうよい。面をあげよ。白々しいぞ、父上が味噌など持たせるわけあるまい」
好奇心旺盛、猜疑心も。そこは素直に父の親心を思って! ついでに十兵衛への恋心も……そう思いますか?
まんまと視聴者も、ニュースも、ミスリードされていると思えるのですが。
帰蝶は、かつてはともかく、光秀に何の未練もないでしょう。駒は比較対象として最適です。駒ならこんな態度にはならないはずです。
帰蝶がワクワクしつつ光秀をあげようとすると、「若殿がお戻りになりました」と告げられます。
織田信長でした。
信長は、また随分とラフな格好をしております。
「お帰りなさいませ」
「今日はな、うまくいったぞ! 走る猪を鉄砲で仕留めた!」
ただいま、すらない。猪を仕留めてワクワクしている信長です。
「おめでとうございます」
「ほれ、土産じゃ」
ここで花を帰蝶に渡す信長。
信長はサイコパスだのなんだの言われますが、感情表現が普通と違うだけで、親切心がないわけでもありません。帰蝶にお花は持って帰ります。
ただ、ロマンチックに渡すようなことはしない。そしてここで気づきます。
「誰じゃ?」
なまじ先入観があるのか、こういう反応はありますよね。
「信長と光秀の対決に期待! きっと壮絶!」
「信長ってば、帰蝶が語る光秀に嫉妬!」
いや、むしろ信長は光秀に気付いてすらいない。帰蝶が美濃から父上の使いで参った者と説明して、やっと名前を聞いてきます。
「はっ、明智十兵衛と申します」
「あけち?」
信長、帰蝶が語っていたことをこの時点では失念しております。
先週、鉄砲と光秀について帰蝶が語っている時、信長は不機嫌そうでした。
あれは嫉妬ではなく、私は【知らん奴の話をされて飽きた、興味ない】顔だと思ったのですが。もしあそこで光秀に意識が向いていたら、名前でピンと来ていてもおかしくない。信長の意識の向け方は独特なようなので、そこは気をつけてゆきたいところです。
帰蝶はここで、殿(信長)から鉄砲について聞いた時に語った十兵衛だと説明します。
「おお、そなたが十兵衛か!」
「恐れ入りまする」
信長はここで、光秀に鉄砲を差し出します。
そしてこう来ました。
「この鉄砲はどこで作られたものか、当ててみよ」
受け取り、光秀は銃身を調べています。
彼は鉄砲の構造に興味津々で、伊平次探しもありました。あの旅の過程はなくとも成立したという意見もありましたが、伏線は回収するまで判別できません。早とちりして断言することは、本作のような出来の良いものについては、控えた方がよいのかもしれません。
そういうロングパスが嫌いな人にとって、本作は退屈かもしれません。
好みは人による。ともかくすぐさまわかるテンポの良さ、見ればスッキリ忘れるようなものが好きな人もいますよね。考えずに見られて、楽しければいいじゃん、そういう系統です。好みは人それぞれですから。
帰蝶は緊張した様子で、信長は相手を品定めする怖い顔になっております。
「渡来ものではありませぬ。これはおそらく、近江国国友村、助太夫や助左衛門の手になるものと思います」
この答えに信長は喜んでいます。
「ほう、ふはははははっ! 助太夫に作らせたのだ。茶でも飲んでゆけ」
本作の信長はどういう男なのか? 意外といい奴? 周囲にいたら楽しい?
そう考えるのは面白いことではありますが、彼の場合、つきあってくれるかどうかの取捨選択はあくまで彼自身にあると思います。まず、大概の人が「こいつはつまらない、つきあう価値がない、興味がない」と思われてそれきりになりそうです。
人間関係の断捨離が極端なのでしょう。この審査に光秀はとりあえず合格しました。
自然な進展の仕方ですよね。
二人が出会った瞬間壮絶な関係になる、意識している、運命を感じたと思うのだとすれば、先入観によるものでしょう。信長自身は、ここで光秀が面接をクリアしてやっと興味を持ち始めたわけです。
信長は光秀に「あがれ」と促し、着替えて来ます。
うつけの思考術
そして信長は、いきなり光秀にこう言います。
「そのほう、どこぞで会うたことがあるな」
「は?」
「熱田の海辺ではなかったか」
「は……よく覚えておいでで」
「ふっ、わしは一言でも話した相手は忘れぬ。あそこで何をしておったのじゃ」
はい、ここで混乱した方もいるし、クソレビュアーは嘘こいたというツッコミもあるかと思います。
やはり信長は光秀を意識していたじゃないか!
そうなるかもしれません。
ここで、ある作品を読了済みの方に問題提起をします。
「シャーロック・ホームズに天文学の知識はあるのでしょうか?」
シャーロック・ホームズが19世紀の英国に生まれた理由~名探偵渇望の時代
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ホームズが地動説も太陽系も知らないこと。
あまりに偏った知識に、ワトソンが驚く。このことは有名です。
ところが、ホームズは天文学の知識を駆使して推理をし、解決したことがあります。
※BBC版『SHERLOCK』「大いなるゲーム」で、天文学知識によって事件を解決する
作者のコナン・ドイルが設定を忘れていたのでしょうか?
そうではありません。
ホームズは、脳は屋根裏部屋に例えています。
限りある容量に、凡人は家具を詰め込むようにゴチャゴチャ入れるから、わからなくなってしまう。もっと効率的に使え! 必要な知識を取り出せ、いらないものは無視しろ。そうすれば問題が解決できるというわけです。
信長も、こういうことをした。
・熱田の海岸にいた、魚を買わなかった男
・帰蝶の話す「明智十兵衛」
まさか会うことはないと思い、【どうでもいい情報】に放り込んでいました。
それがこうして出会い、かつ自分のテストに合格したので、【必要な情報】に移動して、かつ記憶の手前に引っ張りだし、確認をしているのです。
ホームズが事件解決のために天文学知識を引っ張りだすように、信長は光秀の記憶を取り出して来たと。もし光秀がどうでもよい相手ならば、記憶もろとも信長の中では消え去っていてもおかしくはありません。覚えていることそのものが無駄です。
そんなことできるのか。
意識次第ではできます。そういう研究を踏まえた描写です。ただ賢いのではなく、そういう知識あっての描写です。
カッコいい? すごい?
いや、気持ち悪くないですか?
そういうことをするから、信長は周囲に馴染めない、嫌われる所はあるのでしょう。
実際に、問い詰められている光秀は焦っているわけです。やっとこう返します。
「あるお方に命じられ、信長様のお姿を拝見するため、船の帰りをお待ちしておりました」
「あるお方とは誰じゃ?」
光秀、つらい。こんなもん言えるかぁ!
「私でござります」
「ふむ。帰蝶に、十兵衛はわしのことをなんと申した?」
「ようわからぬお方じゃと」
光秀は言いたくないのに、帰蝶が素直に言う。
わーっ、やめてぇ、光秀の胃が痛いわ!
焦っている光秀です。
こんな見事なオタオタ感が魅力的に出せるのになぁ。狡猾で底の浅い朝ドラの役柄をいまだに持ち出して「まじめな若造を演じるなんてもったいない」とか言われてもな……。
本作の光秀は、周囲の視線(Points of View、視点人物)を通した信長はじめ戦国大名像を描く意味あっての主役だと思いますので、真面目なだけとか、食われるとか、的外れな批判に思えるのですが。
難儀でたまらん日々
「ははははっ、それはよくぞ申した。わしも己がいかなる者か、ようわからぬ」
「それは難儀なことでございますな」
「難儀でたまらんのじゃ、はははははっ!」
わかる。ほんとうに難儀でたまらん。前回の感想なんか「信長はサイコパス!」ばっかりじゃないですか。
サイコパスの定義って、そもそもなんでしょうね?
成人の儀で敵の首を取る部族があるとすれば、全員サイコパスってことなのか。
殺害そのものがいけないのか。
箱詰めの首がいけないのか。
再来年の『鎌倉殿の13人』には、これどころじゃない描写があってもおかしくないと思います。そうなると鎌倉武士は全員サイコパスってこと?となる。
なまじそうかも……と、そういうことではなくて、人類の進歩や倫理の変化もありますよね。
勝手にサイコパスと決められて、先入観でいろいろゴタゴタ言われ、信長がかわいそうで難儀でたまらない。
彼は彼なりに頑張って生きているのに、理解されずに、あいつはおかしいと言われ、気づけば嫌われていると。これは難儀だ。本人が一番きっと難儀だ。周囲も難儀だろうけど。
自分と違う。理解できない相手を「うつけ」だの「サイコパス」だの言い募り、それで理解した気になることが、一番難儀なんじゃないか。そう思えて来てしまうのです。
光秀はここで、気になっていることを聞きます。
「信長様はあのように朝早くから、釣りがお好きなのですか?」
「さほどに好きではない」
信長はここでこう語ります。
子どもの頃、わしは母上のお気に入りではなかった。母上は、ご自分によく似た色白の弟、信勝に目をかけておられた。
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わしはそれが口惜しかった。ある日釣りに行って、大きな魚を釣り、それを母上に差し上げると、殊の外喜ばれた。初めて母上から褒められた!
それからわしは、大きな魚を釣るため沖に出るようになった。しかし母上が喜ばれたのは最初の時だけで、そのあと、いくら大きい魚をさしあげてもよい顔をなされなかった。むしろ遠ざけられた。
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母上は信勝に家を継がせたかったのじゃ。
それでもわしは釣りを続けた。見事な魚を釣って、民は喜び市へ売りに行く。それが楽しいのじゃ。皆が喜ぶのが楽しい。それだけだ。
ホロリとしました? 愛されなくてかわいそう?
そういうところはあります。ただ! 信長は当初の目的からずれたところで、勝手に精神的充足を見出しています。これが大事だと思います。
「精神的充足が大事だ!」
これですね。
この回で、信長は朝のスケジュールに魚のことが組み込まれているんじゃないかと書きました。
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民に親切にするとか。民の視察とか。そういう理由は過大評価で、もっとシンプルなことだろうとは思っていたんですよね。
確かに信長が魚を釣る動機は、母の愛情を得たい、褒められたい欲求がありました。
でも、それならば素直に母に欲しいものを聞けばよいでしょうに。信勝はきっとそれができる。魚ではなくて、お花でもなんでもあるんじゃないですか。
じゃあなんで魚を釣るのか?
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