麒麟がくる感想あらすじ

麒麟がくる第10回 感想あらすじ視聴率「ひとりぼっちの若君」

2020/03/23

天文18年(1549年)夏、京都――。

失恋してしまって、気が抜けている駒。これには望月東庵も困っています。

すると、伊呂波太夫の一行がその前を通り過ぎようとしていくのです。

「じゅんやく踊りをひと踊り〜じゅんやく踊りをひと踊り〜参られよ 参られよ〜」

紙吹雪が舞い、扇で顔を隠し、鈴が鳴ります。

戦乱で苦しむ京都に、妖しげな花が咲くよう。こういう折りたたみ式の舞扇は日本独自由来とされており、その性能、動きの面白さが高い評価を得たものでした。

 


伊呂波太夫の踊りが参る

「参られよ、参られよ」

東庵は、道ゆく商人に駒を見なかったか聞いております。

芸人一座を見ていたそうです。東庵は、出て行ったまま帰ってこないとぼやいております。

「何を考えておるのやら……」

そうぼやいていると、芸人一座がやって来ます。

「踊りが参る、踊りが参る。一の門開け、二の門開け、皆一様にお並びあれよ〜」

今日もお見事。この芸人の舞を再現するだけで、どれだけ労力をかけたことやら。受信料のよい使い方ですね。屏風絵が動き出したような、ものすごいものを見ていると感じられます。

伊呂波太夫のような、民衆に属する架空人物は一段と低く見られるものだそうです。でも、それってどうなんですかね。

これは世界の歴史劇トレンドからはむしろ遅れていることをご理解いただければと。あの屏風絵に入り込んだような体験なんて、夢のような気がしてきます。『タイムスクープハンター』で培った経験が大河に使われているような印象も受けます。

芸人一座は、縄を張っております。それをじっと見ている駒。スルスルと縄の上まで来ると、なんと綱渡りを始めてしまうのです。

舞扇を持ち、ゆっくりと歩き、手にした扇を放ち、空中で一回転! そして着地!

歓声が響き、一座のメンバーはこう盛り上がっています。

「お〜娘さんやるねぇ!」

「お前よりうまいぞ!」

「はははははっ!」

これには東庵もびっくり。

ちなみに日本伝統のこうした芸能は、明治時代になると世界的に見てもファンタスティックだと話題になりまして。海外巡業をする芸人もいたそうです。

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そんな駒を見つけたのが、伊呂波太夫です。

「お駒ちゃん!」

成長した駒を見違えたと笑顔になります。

尾野真千子さんは流石ですね。

出てきた瞬間から、プロのプライド、気の強さ、聡明さが伝わってきます。戦乱の最中で、図太く生きるのであればこうならなければならないのでしょう。

 


美しき踊り子、その諸国漫遊談義

伊呂波太夫は、東庵と駒と屋内で喋ることに。

あのスーパースターが帰ってきた、5年ぶりの京都公演!「伊呂波太夫一座」ってわけですね。

さて、ここ5年間何をしていました?
と聞けば、東は常陸(有名な大名は佐竹氏)から西は薩摩(有名な大名は島津氏)まで巡業していたとか。すごいですねぇ。

それだけ需要もあるんでしょうね。

京都の美女が最新の踊り!

それだけで戦乱があろうと、ウキウキワクワクみんな見に来てしまうのです。

東庵は、尾張に行ったか?と尋ねます。信秀は「美しい都の踊りを見せてもらった」と語っておりました。伊呂波太夫は「双六好きの面白いお殿様」と返答します。直々に話したのかと驚く東庵に対し、伊呂波太夫は「(信秀が)東庵から十貫巻き上げたと話していた」とも言います。東庵は去年取り返してきたのだと返答します。

「おや、それはよござんした」

特報動画でも見た、この伊呂波太夫のあだっぽい喋り方が絶品です!

尾野真千子さんは、絶世の美女タイプではないようで、そうじゃないかと思わせるものがあります。

モノクロ写真ができたころ、19世紀の美女の写真。王様や富豪を虜ににした、『シャーロック・ホームズ』シリーズのアイリーン・アドラーみたいな。そういう女性の写真って、あるじゃないですか。

どれだけ美人なのかと思って見てみると、顔そのものはそこまで綺麗でもない。むしろ、その美女に王の寵愛をとられた妃の方がずっと美しかったりするのです。

どういうことかと思って記録を読んでいくと、話し方、仕草、ポーズ、知性、大胆さ。そういうもので虜にしていたとわかる。伊呂波太夫は、そういうトータルにおいて色気のある、傾国の美女だと思えます。

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そして、こういう女性が一番危険なんですよ!

どういうシチュエーションで伊呂波太夫と信秀が話したのか、それは語られませんけれども、色気のある状態かもしれないわけです。

そしてそれこそ、蝮(斎藤道三)が監視していた状況です。

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あいつは「信秀の閨(=寝室)のことまで知っている」と言っておりましたからね。彼女のことを知っていても、不思議はありません。ましてや妻でもなく、相手が綺麗で異国情緒あふれていて、諸国事情に詳しいお姉さんならば、口が軽くなっちゃうかもしれないでしょ。蝮チェックが外せないぞ。

蝮はのぞき趣味のある変態ではなく、あくまで実務的に信秀寝室チェックをしているのです。当たり前ですが。

そんな伊呂波太夫は、美濃へは行ったかと聞かれます。野盗が出るから、行かずじまいだとか。どんだけ治安が悪いんだ。

駒は、去年先生と半年以上行ってきたと、声を弾ませて言います。

ほんとうに駒ちゃんって、帰蝶や伊呂波太夫と比べると、普通の女の子だなと。そこがいいんですよね。戦に巻き込まれて往生したと、東庵はぼやいております。

ここで伊呂波太夫は、美濃に明智十兵衛という若い家臣がいる、お会いになりましたかと聞いてきます。

なんでも、松永久秀から聞いたそうです。

トレンドに敏感な久秀は、伊呂波太夫のパフォーマンスを楽しんでいる、ご贔屓なんだとか。

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東庵は「今、都を動かしているのはあのお方(久秀)じゃ」としみじみと言います。そのうえで、駒にこう言います。

「太夫はこういうお人だ、おそろしく顔が広い、滅多なことは喋れぬぞ」

ほんとうにね。傾城傾国だの、結局なんだって話じゃないですか。なまじ、こういう美女は諸国を怪しまれずに行き来できるし、口も軽くなるし、危険ではあるのです。別にくノ一でなくてもそういうものです。

江戸時代の太夫は、華麗でも遊郭にいる囚われの身でした。が、戦国の太夫は活発で、空を飛ぶ鳥のような軽やかさがあります。

伊呂波太夫は、東庵にこう返します。

「そういう東庵先生こそ、あちこちでお名前をお聞きしますよ。お公家の中では、知らぬ者がいないと聞いております」

その割に声がかからず貧乏しておるとぼやく東庵に、気難しいお方だからと伊呂波太夫は言うのでした。

そのうえで、駒をこう誘います。

「お駒ちゃん、あとでお団子食べに行かない? いいお店見つけたんだよ」

この時代の飲食物が見られるなんて、豪華ですねえ。さて、どんなものでしょうか?

食べ物への態度も、駒と帰蝶で比べると面白いものがあります。

水飴に喜びつつ、食欲を恥ずかしがる駒。信長に空腹を訴え、干し蛸を食べる帰蝶。

やはり帰蝶は変わっているのです。

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身分だけではなくて、性格的にもお駒こそが等身大ヒロインであることは考えてゆきましょう。乙女ゲーの主人公ポジションですね。

東庵は、伊呂波太夫に訴えます。

このところ、どうも元気がない。美濃から帰ってきてから、ずっとあの調子だ。生返事でな。そうぼやくのでした。

 

桔梗紋が示す奇跡

かくして女二人はお団子屋へ。
綺麗に丸めて三つか四つさしてある、あのお団子とはまるで違います。

甘いもの、饅頭、団子の類が日本全国に広がり、観光地でお土産を買うようになるのは、江戸時代になってからのこと。この団子は、甘いわけでもないのでしょう。

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「見て、きれいきれい、帰ったら兄上にもお見せしてやろう」

ここで二人の前を、無邪気な子どもとその連れが歩いてゆきます。

「見てごらん、昔お駒ちゃんが初めて一座に来た時はあんな風だったんだよ」

先代の母は、伊呂波太夫に告げました。これからはこの子を妹だと思いなされ。この子が悲しい時は、一緒に泣いておやりと。

「そんなことを先代が……」

「でも、お駒ちゃん、我慢強くて滅多に泣かないの」

一座に芸を仕込まれて、綱渡りをしくじっても泣きやしない。なんだ、いいお姉さんになりそこねたって。伊呂波太夫はそう言います。それほど我慢強い駒が、ここまでショックを受けている。それだけ光秀は大きいということです。

で、また考えたくなります。そんな駒と比べて、帰蝶はショックを受けていたか? なんだかんだで、あの人は生まれながらにアイアンハートを持っているんですよね。

駒は、かわいがっていただいたことをよく覚えていると言います。先代にもかわいがられていたとか。

「ねえ、東庵先生が案じていたよ」

そんな妹のような駒を、伊呂波太夫は案じています。このところ、元気がないみたい。美濃を出る時、辛いことでもあったの? 駒は悲しそうな顔になっています。

「好きなお方が、遠くへ、ずっと遠くへ……」

「そうか。手の届かぬお方だったのね」

「こういう時、どうすればよいのかわからなくて」

「世の中はね、つらいことがあると必ずいいこともあるものですよ」

うん、駒が求めていた女子トークって、これだと思うんですよね。

帰蝶ともそういうことを喋りたかっただろうに、なんかあの人、一人で勝手に思いをふっきっていたじゃないですか。

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カッコいいとか、乙女心があるとか。そういうもんを超えた何かが、帰蝶にはあると思いますよ。

みんなは伊呂波太夫から恋愛相談トークスキルを学ぼう! まぁ、普通はできると思うんですけどね。

「美濃ではつらいことだけだったの?」

「いいこと。一つありました。そういいことが」

「何?」

駒はここで、あの火事のことを語ります。

子どもの頃、戦があって家が焼けた。家事の中に残された私を助けてくれたお侍さんがいたと語るのです。

伊呂波太夫も覚えていました。

お駒ちゃんを抱いて、先代と一緒に一座に連れてきたのです。

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そのお侍さんが、美濃の方だとわかった。美濃の方だとわかった。少し手掛かり掴めた命の恩人――。

ここで伊呂波太夫は言います。

「美濃の方? じゃあ、どういう方かわかったも同然ね。そのお侍の御紋は、桔梗の御紋だった。それを覚えてる」

駒を巻いていた布にも、きれいな御紋があった。綺麗な花だと思ったの。そう語られ、駒はハッとします。

「桔梗!」

駒は地面に桔梗を描き、確認します。

伊呂波太夫は「そう、それ」と認めます。駒は「どうしよう!」と驚き、どこかへ走ってゆきます。

これも明智ならではの話になりまる。

明智の桔梗紋って、かなり珍しいのです。巴とか、引両紋でなくてよかったですね。図案そのものも珍しいのですが、日本の家紋で色指定があるものは珍しい。

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駒は自宅に戻り、明智荘でもらった扇を広げていますそこにあるのは桔梗紋。

感極まってしまう駒。

「明智家の御紋だ。十兵衛様の。私の命の恩人は 明智家の……!」

これぞまさしく運命でした。

男女としては結ばれなくとも、ある意味では結ばれていた。これも運命です。そんなロマンチックなところもあるのですが、それだけではありません。

小さな女の子の命でも、見捨てない。危険を冒してでも、助けてしまう。そんな光秀の性格は、父から受け継いだ可能性もあるのです。

教育だけではない、先天性のもの。誰かを救うためならば、一切の危険すら忘れてしまうこと。

それが生まれながらにしてある。

往年の少年漫画だとか、いい子ちゃんすぎるとか、そういう単純なことではない。生まれ持った何かが、光秀の中に流れているのです。

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尾張と三河の人質交換

その年の末、三河で戦が起きました。

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勝敗:今川の勝利

信長の異母兄・織田信広が生け捕りとされたのです。

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これを受け、叔父上こと明智光安はぼやいております。

戦国サラリーマンは辛いよ!

【美濃】明智光安さん

尾張に帰蝶様が嫁いで以来、呼びつけられてばかりで本当に嫌。薄給なのにコキ使われすぎじゃないですか。

三河小さな城が今川に落とされたくらいで、織田某が捕らえらたくらいで、感想も何もあったもんじゃないっすよね。

美濃とぶっちゃけ関係なくないすか。ああ〜、そうだよなぁ、十兵衛。

解決手段に暗殺がある戦国武将をやたらと現代のサラリーマンに例えるのって、適切かどうかわかりませんけれども。

光秀が中間管理職であるかどうかはともかく、この光安のぼやきには、生々しいものがあるとは思います。

彼が特別愚かなわけでもないとは思う。むしろ普通なのです。

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目の前の仕事があれば、真面目にこなします。ただ、対局的に点と点をつないで、仮説形成をするような考え方はしないのでしょう。

彼の役割として、それで悪いわけでもありません。光安はこの戦いのインパクトが理解できていなくて、わけがわからないのです。

じゃあ、どうして彼の上司である蝮こと斎藤利政(斎藤道三)は、彼を呼び出すのでしょう。

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先週の水野忠政もそうですが、会話を反射板にして考えをまとめたいのでしょう。

自分とはタイプの違う相手と喋って、対比させると考えがまとまる。それと光安以上に光秀目当てということもあります。

光安からすればムカつく話ではあるんですよ。

上司が「こいつの意見は平凡だわ。でも、俺の意見の素晴らしさを確認するためにも会話したいなあ」という態度満々ですからね。普通に考えれば嫌なものですよ。

 

鬼の尾張出張命令に困惑する光秀

その蝮ですが……。
槍を振り回してターゲットに当てる練習をしています。

彼は本当に、何か単純作業をしていることが多い。

数珠の玉カウントだの、足の爪切りだの。このことはちょっと気にしておきたい。槍はさておき、足の爪切りは訓練でもありませんよね。そんなもん、小姓に切らせればいいのに、そうしない。彼なりに小さな作業をこなして、満足感を得たいとか。

蝮の本音トーク

◆織田信広と松平竹千代の交換について、意見を聞きたい

織田信秀からの使者が、織田信広と松平竹千代の人質交換を言ってきた。これは回り回って、美濃にも波が及ぶ。そうは思わぬか?

こう切り出されて、光安は適当な相槌を打っております。

利政の意見を理解し、賛同しているわけではなく、目上の立場だから肯定しているだけでしょう。だからこそ、ああいうぼやきが前段として出ているのです。

利政は意見を求めているようでそうでもないので、状況を整理します。

竹千代は、松平家を継ぐ身。今川に渡せば、三河全土を支配されたも同然である。そうなれば、三河の隣国尾張は、虎の側で暮らす猫のようなものであろう。そんな猫と同盟を結んでどうなるのか。そういう話です。

光安は理解できてきたのか。ひとたまりもなく食い殺される、猫を守るために虎と戦うとは……と、やっと事態の深刻さを理解したようです。

信秀が竹千代を渡すならば、盟約を考え直さなければならぬ。

「そう思わぬか、十兵衛」

利政は光安を無視するように、光秀にすっ飛ばしてきます。これはストレスフルな上司だわ。

光秀は自分なりの意見を言います。

「信秀は、我が子を見殺しにいたしましょうか?」

「見殺しにできるようならば、信秀殿はまだ見どころがある……」

利政は、まったく……。それはその通りではありますが、そういうむき出しの冷酷さをなんとかしましょうか。

本音はともかく、そこはポーズがあるとは思います。こんな面白がっているような調子でなくて、苦い顔で言うとかできるでしょ。

こいつらは基本的に、本音を隠せないんだよな。

人間は素直な方がいいとは言われています。でも、それはどうでしょう? 上司のカツラがずれていて、それがあまりにおもしろいからって爆笑したら? 素直な感情の発露だろうが、問題になるでしょう。

そこがどうにも理解できない、鈍感な人も、世の中にはいるわけです。

利政は美濃の頂点に立つから、それでよいかって? ダメです。家臣から慕われていないし、何よりも嫡子・高政(斎藤義龍)が不信感をため込んでおります。これがいつか、彼の命取りとなるのでしょう。

こういう人物を演じる本木雅弘さんは、むしろ気配りのできる繊細なタイプのように思えます。考えに考え抜いて、演じ切っているんでしょうね。素晴らしい!

利政は、光秀の気持ちを踏んづけながら指令を出します。

「尾張へ行き、成り行きを見て参れ。そなたなら、帰蝶に会う口実はどうにでもなる。すぐに見て参れ」

「はっ?」

「すぐに行け、ぐずぐずするな!」

なんなんだろう。帰蝶と光秀って、なんなんだろう!

恋のお相手、モテモテでうれしい? それどころか、使いっ走りにされる言い訳に利用されていてしんどいものがあります。

そりゃ光秀もこう言いますよ。

「鬼め! 命がいくらあっても足りんわ!」

光秀って、帰蝶の好意をあんまり喜べないと言いますか。

幼い頃から「栗拾いをやりたかったからもっと早く来い!」と叱られて困っていたわけですし。

困りっぱなしなんだよな。それに鈍感だの気づかないだの言われても、どうしろというのでしょう。全人類モテモテになりたいってか?  そういうしょうもない誤解はいらないんですよ……。

やはり、早急に煕子(妻木煕子・後の明智煕子)さんと結婚して癒されないと。光秀の心の安寧のためにも、再登場を期待しています!

明智煕子とはどんな女性だったか?光秀糟糠の妻として知られる彼女ですが、残念ながら史料は極めて少なく実像はかなりおぼろげ。光秀の後半生から状況を鑑みて、明智煕子を振り返ってみます。
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順序に従う父、反発する母

さて、当事者となった尾張では?

「人質の取り交わしなど、到底できませぬ!」

はい、織田家の皆さんが話し合っております。嫡男の織田信長は、信秀相手に熱くこう語っている。その理由は、利政と同じ。竹千代は駒としてあまりに重いわけです。

信秀はそんな我が子の理屈は認めつつ、腹違いとはいえそなたの兄だと信広のことを庇うわけです。

信長はそれに対して、これですからね。

「戦で捕らえられたのは自業自得! 腹を切るべき!」

信秀は戸惑いつつ、信広は絶えず強敵から領地を守ってきたと庇います。そんな父に、病で弱気になっておられるとまで言う。そして、この信長は竹千代殿を渡す気はないと言い切るのです。

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「何人たりとも渡さぬからそのつもりで!」

誰だよ、この信長を可愛いと言った奴。全然可愛くないどころか、憎たらしいぞ。

・異母兄に冷たい

・努力を評価しない。自業自得ってさぁ……

・父の病気を理解した上で、弱気になっていると責め立てる

・滅茶苦茶、頑固……

土田御前は、出て行こうとする我が子にこう声を掛けます。

「信長殿!」

「放っておけ」

「なれど、あの口の利きようは……」

興味深いといえばそう。織田信広は彼女にとって我が子ではありません。薄っぺらい考え方ですと、側室の子に冷淡であってもおかしくはないかもしれない。本作はもっと慎重です。

「人の上に立つ器量に、やや欠けておるかのう」

織田信秀はそう受け流すあの生首プレゼント事件の態度からも伺えましたが、我が子のやらかすことの強烈さは、慣れているようです。

「それゆえ申したではありませぬか。家を継がせるのが弟の信勝の方がよろしいと」

それが彼女の本音です。

織田信勝はまこと心の広い、賢い子ですよ。そう言い募るのですが、信秀は受け流しこう説得にかかります。

父・信定は、よう仰せられたものじゃ。物事には、天の与えた順序というものがある。それを変えれば必ず無理が生じ、よからぬことが起こるとな。

「そなた(土田御前)から生まれた最初の子は信長じゃ。家を継ぐのは信長。わかるな? 器量の良し悪しでその順序は変えられぬ」

彼自身、器量ならば弟の織田信光のほうがよろしいと言われていたとか。

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夫妻の特質がよく出ている会話でした。

信秀は、普通の人だとは思います。

熱田神宮の御加護、順序。そういう世の中のルールを信じている。暗黙の了解ってやつですね。我が子が無茶苦茶だろうと、ルールはルールだと納得するのです。

一方で、土田御前はそんなことに従いたくない意識がある。ルールを変えてでも自分の思う通りにしたいと願う気持ち。

土田御前本人は認めたくないでしょうが、そういう我の強さ、自分の欲求を通したいところを、信長が引きついた可能性はあるかと思います。

信長の場合、それがあまりに濃厚に出てしまったわけですけれども。

 

三河は情報で戦う

さて、熱田の市場では……。

今日もいい魚が入って売られています。菊丸が隣で寝ています。

そんな彼を、仲間が揺さぶって起こします。そこにいたのは、光秀でした。

「十兵衛様!」

「味噌は売れておるか?」

「はい、売れております。港に着いた船が、丸ごと買ってってくれますから」

やはり尾張はいいですねえ、海はいいなあ。マネーがザブザブ集まってくるんだなぁ。ついでに言うと、中部の味噌カツが食べたくなるドラマです。

「ふーん、今いくつある? 那古屋城に届けたいのだ。美濃から帰蝶様がお輿入れなされた。城まで運んでもらえるか」

「お安い御用で」

「頼むぞ」

こういう何気ない会話が、まるで変わってしまったことがすごいと思えます。

菊丸の正体がわかったからには、彼なりに情報を集めているとわかるわけです。菊丸の正体が判明してから見直せば、同じセリフでもまた違った味が出てくる。これぞ、技巧の極みではないですか。

盤石な作品だと思います。よいドラマは、まず脚本ありきだとわかるのです。

菊丸からすれば、那古屋城に入れるなんてこの上ない好機。こういう間諜の使い方ができる三河は、地力があるとわかります。

そうえいえば三河の家康といえば、【神君伊賀越え】が有名ですけれども、実際に間諜の使い方は抜群のものがありました。本作の家康は、データ勝負型、『孫子』の「用間篇」大好き系かもしれない。キャストビジュアルでも、家康は書物を抱えているし。

そんな三河のデータを象徴する菊丸は、こう聞いています。

「那古屋城には何の御用でいらっしゃるのですか?」

「だから申したであろう。帰蝶様にご機嫌伺いだ」

菊丸はしれっと、熱田にお暮らしになっている松平竹千代様が、那古屋城に移されたことを言い出します。それは今川に移す前振りかと探るわけです。

光秀は、それは初耳じゃと言います。そのうえで「なんじゃ、気になるのか」と聞き返してくるのです。

菊丸は、三河の者としての気持ちだと断ったうえで言います。今のまま、せめて竹千代様だけでも御無事でいてもらわねば、わしらのお殿様ですから。そう語るのです。

これには光秀も納得しています。

味噌を運びつつ、光秀と菊丸は語り合います。光秀は心を読み取りたい優しさがあるので、菊丸に本音を尋ねます。今川に渡されるよりも、織田に残る方がよいのかと。

菊丸は、正直も言いますとどちらでもよいと答えます。今はともかく、いずれ三河にお戻りになられ、立派な国を作ってもらえればどちらでもよいのだと。

「それが我らの望みです」

そう菊丸が語ると、あの徳川家康がまるで選ばれし者のように思えてきます。

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家康は過小評価と誤解をされている人物かもしれない。そういえば、そうだった。そうハッとさせられる描き方です。

そんな三河の象徴として、菊丸は重要です。

 

そなたが十兵衛か

さて、那古屋城に着きました。

帰蝶が十兵衛を出迎えます。

「十兵衛殿、久しぶりじゃのう」

「奥方様におかれましては、つつがなくお過ごしのご様子……」

光秀は、父上のお指図で味噌を持参したと言うわけです。帰蝶はありがたき心配りと感謝しつつ、膳所(台所)に運ぶよう指示を出しております。

菊丸が運ぶと言うと、場所を教えてあげております。菊丸はこれで内部事情を探れますね。

帰蝶は十兵衛を呼び出し、こう言います。

「こなたへ。十兵衛、もうよい。面をあげよ。白々しいぞ、父上が味噌など持たせるわけあるまい」

好奇心旺盛、猜疑心も。そこは素直に父の親心を思って! ついでに十兵衛への恋心も……そう思いますか?

まんまと視聴者も、ニュースも、ミスリードされていると思えるのですが。

帰蝶は、かつてはともかく、光秀に何の未練もないでしょう。駒は比較対象として最適です。駒ならこんな態度にはならないはずです。

帰蝶がワクワクしつつ光秀をあげようとすると、「若殿がお戻りになりました」と告げられます。

織田信長でした。

信長は、また随分とラフな格好をしております。

「お帰りなさいませ」

「今日はな、うまくいったぞ! 走る猪を鉄砲で仕留めた!」

ただいま、すらない。猪を仕留めてワクワクしている信長です。

「おめでとうございます」

「ほれ、土産じゃ」

ここで花を帰蝶に渡す信長。

信長はサイコパスだのなんだの言われますが、感情表現が普通と違うだけで、親切心がないわけでもありません。帰蝶にお花は持って帰ります。

ただ、ロマンチックに渡すようなことはしない。そしてここで気づきます。

「誰じゃ?」

なまじ先入観があるのか、こういう反応はありますよね。

「信長と光秀の対決に期待! きっと壮絶!」

「信長ってば、帰蝶が語る光秀に嫉妬!」

いや、むしろ信長は光秀に気付いてすらいない。帰蝶が美濃から父上の使いで参った者と説明して、やっと名前を聞いてきます。

「はっ、明智十兵衛と申します」

「あけち?」

信長、帰蝶が語っていたことをこの時点では失念しております。

先週、鉄砲と光秀について帰蝶が語っている時、信長は不機嫌そうでした。

あれは嫉妬ではなく、私は【知らん奴の話をされて飽きた、興味ない】顔だと思ったのですが。もしあそこで光秀に意識が向いていたら、名前でピンと来ていてもおかしくない。信長の意識の向け方は独特なようなので、そこは気をつけてゆきたいところです。

帰蝶はここで、殿(信長)から鉄砲について聞いた時に語った十兵衛だと説明します。

「おお、そなたが十兵衛か!」

「恐れ入りまする」

信長はここで、光秀に鉄砲を差し出します。

そしてこう来ました。

「この鉄砲はどこで作られたものか、当ててみよ」

受け取り、光秀は銃身を調べています。

彼は鉄砲の構造に興味津々で、伊平次探しもありました。あの旅の過程はなくとも成立したという意見もありましたが、伏線は回収するまで判別できません。早とちりして断言することは、本作のような出来の良いものについては、控えた方がよいのかもしれません。

そういうロングパスが嫌いな人にとって、本作は退屈かもしれません。

好みは人による。ともかくすぐさまわかるテンポの良さ、見ればスッキリ忘れるようなものが好きな人もいますよね。考えずに見られて、楽しければいいじゃん、そういう系統です。好みは人それぞれですから。

帰蝶は緊張した様子で、信長は相手を品定めする怖い顔になっております。

「渡来ものではありませぬ。これはおそらく、近江国国友村、助太夫や助左衛門の手になるものと思います」

この答えに信長は喜んでいます。

「ほう、ふはははははっ! 助太夫に作らせたのだ。茶でも飲んでゆけ」

本作の信長はどういう男なのか? 意外といい奴? 周囲にいたら楽しい?

そう考えるのは面白いことではありますが、彼の場合、つきあってくれるかどうかの取捨選択はあくまで彼自身にあると思います。まず、大概の人が「こいつはつまらない、つきあう価値がない、興味がない」と思われてそれきりになりそうです。

人間関係の断捨離が極端なのでしょう。この審査に光秀はとりあえず合格しました。

自然な進展の仕方ですよね。

二人が出会った瞬間壮絶な関係になる、意識している、運命を感じたと思うのだとすれば、先入観によるものでしょう。信長自身は、ここで光秀が面接をクリアしてやっと興味を持ち始めたわけです。

信長は光秀に「あがれ」と促し、着替えて来ます。

 

うつけの思考術

そして信長は、いきなり光秀にこう言います。

「そのほう、どこぞで会うたことがあるな」

「は?」

「熱田の海辺ではなかったか」

「は……よく覚えておいでで」

「ふっ、わしは一言でも話した相手は忘れぬ。あそこで何をしておったのじゃ」

はい、ここで混乱した方もいるし、クソレビュアーは嘘こいたというツッコミもあるかと思います。

やはり信長は光秀を意識していたじゃないか!

そうなるかもしれません。

ここで、ある作品を読了済みの方に問題提起をします。

シャーロック・ホームズに天文学の知識はあるのでしょうか?」

なぜシャーロック・ホームズは19世紀の英国で人気が出た?凄惨事件が勃発

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ホームズが地動説も太陽系も知らないこと。

あまりに偏った知識に、ワトソンが驚く。このことは有名です。

ところが、ホームズは天文学の知識を駆使して推理をし、解決したことがあります。

※BBC版『SHERLOCK』「大いなるゲーム」で、天文学知識によって事件を解決する

作者のコナン・ドイルが設定を忘れていたのでしょうか?

そうではありません。

ホームズは、脳は屋根裏部屋に例えています。

限りある容量に、凡人は家具を詰め込むようにゴチャゴチャ入れるから、わからなくなってしまう。もっと効率的に使え! 必要な知識を取り出せ、いらないものは無視しろ。そうすれば問題が解決できるというわけです。

信長も、こういうことをした。

・熱田の海岸にいた、魚を買わなかった男

・帰蝶の話す「明智十兵衛」

まさか会うことはないと思い、【どうでもいい情報】に放り込んでいました。

それがこうして出会い、かつ自分のテストに合格したので、【必要な情報】に移動して、かつ記憶の手前に引っ張りだし、確認をしているのです。

ホームズが事件解決のために天文学知識を引っ張りだすように、信長は光秀の記憶を取り出して来たと。もし光秀がどうでもよい相手ならば、記憶もろとも信長の中では消え去っていてもおかしくはありません。覚えていることそのものが無駄です。

そんなことできるのか。
意識次第ではできます。そういう研究を踏まえた描写です。ただ賢いのではなく、そういう知識あっての描写です。

カッコいい? すごい?
いや、気持ち悪くないですか?

そういうことをするから、信長は周囲に馴染めない、嫌われる所はあるのでしょう。

実際に、問い詰められている光秀は焦っているわけです。やっとこう返します。

「あるお方に命じられ、信長様のお姿を拝見するため、船の帰りをお待ちしておりました」

「あるお方とは誰じゃ?」

光秀、つらい。こんなもん言えるかぁ!

「私でござります」

「ふむ。帰蝶に、十兵衛はわしのことをなんと申した?」

「ようわからぬお方じゃと」

光秀は言いたくないのに、帰蝶が素直に言う。

わーっ、やめてぇ、光秀の胃が痛いわ!

焦っている光秀です。

こんな見事なオタオタ感が魅力的に出せるのになぁ。狡猾で底の浅い朝ドラの役柄をいまだに持ち出して「まじめな若造を演じるなんてもったいない」とか言われてもな……。

本作の光秀は、周囲の視線(Points of View、視点人物)を通した信長はじめ戦国大名像を描く意味あっての主役だと思いますので、真面目なだけとか、食われるとか、的外れな批判に思えるのですが。

 

難儀でたまらん日々

「ははははっ、それはよくぞ申した。わしも己がいかなる者か、ようわからぬ」

「それは難儀なことでございますな」

「難儀でたまらんのじゃ、はははははっ!」

わかる。ほんとうに難儀でたまらん。前回の感想なんか「信長はサイコパス!」ばっかりじゃないですか。

サイコパスの定義って、そもそもなんでしょうね?

成人の儀で敵の首を取る部族があるとすれば、全員サイコパスってことなのか。

殺害そのものがいけないのか。

箱詰めの首がいけないのか。

再来年の『鎌倉殿の13人』には、これどころじゃない描写があってもおかしくないと思います。そうなると鎌倉武士は全員サイコパスってこと?となる。

なまじそうかも……と、そういうことではなくて、人類の進歩や倫理の変化もありますよね。

勝手にサイコパスと決められて、先入観でいろいろゴタゴタ言われ、信長がかわいそうで難儀でたまらない。

彼は彼なりに頑張って生きているのに、理解されずに、あいつはおかしいと言われ、気づけば嫌われていると。これは難儀だ。本人が一番きっと難儀だ。周囲も難儀だろうけど。

自分と違う。理解できない相手を「うつけ」だの「サイコパス」だの言い募り、それで理解した気になることが、一番難儀なんじゃないか。そう思えて来てしまうのです。

光秀はここで、気になっていることを聞きます。

「信長様はあのように朝早くから、釣りがお好きなのですか?」

「さほどに好きではない」

信長はここでこう語ります。

子どもの頃、わしは母上のお気に入りではなかった。母上は、ご自分によく似た色白の弟、信勝に目をかけておられた。

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わしはそれが口惜しかった。ある日釣りに行って、大きな魚を釣り、それを母上に差し上げると、殊の外喜ばれた。初めて母上から褒められた!

それからわしは、大きな魚を釣るため沖に出るようになった。しかし母上が喜ばれたのは最初の時だけで、そのあと、いくら大きい魚をさしあげてもよい顔をなされなかった。むしろ遠ざけられた。

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母上は信勝に家を継がせたかったのじゃ。

それでもわしは釣りを続けた。見事な魚を釣って、民は喜び市へ売りに行く。それが楽しいのじゃ。皆が喜ぶのが楽しい。それだけだ。

ホロリとしました? 愛されなくてかわいそう?

そういうところはあります。ただ! 信長は当初の目的からずれたところで、勝手に精神的充足を見出しています。これが大事だと思います。

「精神的充足が大事だ!」

これですね。

この回で、信長は朝のスケジュールに魚のことが組み込まれているんじゃないかと書きました。

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民に親切にするとか。民の視察とか。そういう理由は過大評価で、もっとシンプルなことだろうとは思っていたんですよね。

確かに信長が魚を釣る動機は、母の愛情を得たい、褒められたい欲求がありました。

でも、それならば素直に母に欲しいものを聞けばよいでしょうに。信勝はきっとそれができる。魚ではなくて、お花でもなんでもあるんじゃないですか。

じゃあなんで魚を釣るのか?

民の笑顔を見るミッションで、精神的充足を見出したのでしょう。

お金が貯まっていく音がなんかスッキリするんだよな。そういう心理もあるかも。

幼少期は世界が狭いだけに、母の愛を求めたわけですが、成長とともに変わってゆきます。これからは帰蝶の笑顔とか、光秀との交流とか。そんなことで満足感を得ると。

そういう方向性ならばよいのですが……舐め腐った坊主から巻き上げる金とか、頭蓋骨とか。そういう方向性に突っ走ったらどうなることやら……。

現代ならば、ベルマーク集めが好きとか、タスクリスト管理をするとか、スタンプラリーをするとか、模型コレクターになるとか。そういうことに充足感を見出すタイプでしょう。

さて、そんな信長に会いたいと言う人物がやってきます。なんと松平竹千代でした。

光秀が去ろうとすると、信長はいて構わぬ、帰蝶もいろと言います。昨日からこの城に参った松平の若君だと紹介されます。

 

竹千代は将棋がしたい

竹千代は将棋の道具を持ってきます。

「館に戻られたとお聞きしたので参りました」と告げ、さらにこう言います。

「昨日これ(将棋)をやろうとお約束いただきました。よろしければお願い申し上げます。今は無理と仰せなら、またあとで申します」

信長はちょっと気まずそうに、そなたとはもう将棋はやらぬと返します。サイコパス呼ばわりをされている信長ですが、良心の呵責はあるのでしょう。

「なにゆえですか?」

「童と将棋はせぬことにしたのだ」

「負けるのは嫌だからですか?」

「ふっ、たわけ」

実際に、信勝には勝てる竹千代ですからねえ。竹千代は、

「このところ前のように遊んでいただけませぬ、なにゆえですか!」

と訴えます。

めんどくさい子だなぁ!
かわいい顔だからなんかほだされるけど、めんどくさいぞ……。そしてこうだ。

「近習の者が申しております。信長様が、私の父、松平広忠を討ち果たしたと。そのことで私にお気遣いしておられるのですか? もしそうなら、それは無用のことでございます」

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なんだか信長が霞むほどすごい子来ちゃったぞ!

本当に、こんなにかわいらしくて、こんなにおそろしい家康は初めてだ……。

竹千代は切々と語ります。父上は母上を離縁し、岡崎から追い払い、今川義元についたと。

「私は大嫌いでした。それゆえ、討ち果たされたのは致し方ないことと思うております」

帰蝶と光秀が、どうしたらよいのかわからない顔になっております。まだこの二人は知らないのです。高政が、大嫌いな父・利政を倒す未来なぞ……。

そして帰蝶は気づいたのかもしれない。あの土田御前に止められた箱の中身にも。

この竹千代は、家康となった頃には彼なりの【難儀】について悩むのかもしれません。

世の中では愛おしいとされている。失えばつらいとされている。そんな何かを失っても、そこまで衝撃を受けない自分の心に。

気がつけば冷酷、狸呼ばわりをされている。

自己防衛か、鈍感か。感情を封じ込めて冷静に振る舞うことが、腹黒いと罵倒されている。そういうことが【難儀】かもしれない。

病床で豊臣秀吉から秀頼を託されておきながら、秀吉の喪もあけぬうちに天下取りを目指す家康。その冷酷さをどんなに批判されようと、それが必要なことだと割り切れる。

なんだかそういう将来が、この時点で見えて来るようでしみじみとすごい。

「わかった、駒を並べよ」

信長は納得して、そしてこう言います。

「すまぬが座を外してくれ」

ここで帰蝶と光秀が退室します。光秀はじりじりとあとじさって去るところが細かい。

 

信長は友達が欲しい

ここで信長は、こう言います。

「待っておれ」

ちょっと三白眼になってから、信長は子どものように走って光秀に追いつきます。

染谷将太さんはいつでもすごい。彼の栄光については、検索をかければでてくるので、今更もう振り返る必要もないでしょう。

彼のすごいところは、説明が難しい。豹が身を伸ばしているような。力が入っているのか、入っていないのかもわからない。ただそこにいるだけで魅力がある。そういう境地。

そんな信長は、そしてこう来た。

「美濃にはいつ帰る?」

「は?」

「明日また来ぬか? そなたと鉄砲の話をしてみたい。どうじゃ? あとで都合を知らせよ」

「はっ」

「銭はあるか、銭は?」

「銭でございますか?」

「城下の宿は高い。少し渡してやれ」

「はい」

「明日だぞ!」

そう言い、子どものように戻って行きます。

信長は友達が少ない。なんだか語弊はあるかもしれませんが、普通に仲良くなれる人が極端に少ないのでしょう。ですので、心を開くととことん話し合いたい、近寄りたい、そうなるようです。

そんな友達に飢えた信長くんと、老若男女を魅了する光秀くんが出会った……壮絶というよりも、腐れ縁めいた何かのスタートだとは思います。

信長にとって光秀は、永遠に追いつけない、一歩先をずっと走ってゆく美しい天馬みたいな存在で。気に入られたくていろいろするのだけれども、それが光秀からすればなんだかおかしくて。そして本能寺ごと燃やすことにするのかもしれません。

この光秀と信長は、とてつもなく魅力的になる。

だからこそ、惹かれあい支え合う二人が魅力的で、確定した破滅がつらくてたまらない。そういうことにはなるのでしょう。

見る側の心を引き裂くくらいであってこそ、本作の味わいと意味はあるはず。両者ともにきっと、とてつもなく魅力的であると同時に、なんだかイライラするような存在感を見せてくれるのでしょう。演じる長谷川博己さんと染谷将太さんに幸あれ。

「まことにようわからぬお方じゃ。まるで子どものような。されどいずれこの国の主におなりになる。いささかの不安があると言えばある。何かと相談するやもしれぬ」

帰蝶はそう光秀に告げます。

「では、今日はこれにて」

光秀は立ち去ろうとします。そしてここで気づくのです。

味噌を運んだ菊丸がいない。侍女に行方を尋ねると、とうに帰ったと言われます。

信長と竹千代は、将棋盤で向かい合っています。

信長は竹千代に尋ねます。兄上とそなたを交換することに不承知であると。

「そなたを今川に行かせたくない。しかし迷いはある。この話を潰せば、兄上は斬られる」

「今川義元は敵です。いずれ討つべきと思うております。しかしその敵の顔を見たことがありませぬ。懐に入り、見てみたいと思います。敵を討つには、敵を知れと申します。信長様がお迷いなら、私はどちらでも構いませぬ」

そんなやりとりを、菊丸は天井から見下ろしているのでした。

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MVP:菊丸

竹千代とかなり迷いました。三河パワーを感じた今週です。

菊丸は一人で二度おいしい。菊丸の正体を踏まえて思い返す、見返すと、また楽しめる。そんな重層的な人物像だと思います。

菊丸の凄さは、他の人物まで怪しく思えてくるところ。

伊呂波太夫は、芸はあるとはいえ重要人物に近づけて只者ではない。

それならば東庵も。

あんなふうに綱渡りでクルリと回る駒だって、一体どういうことなのか。

オリジナルキャラクター、名を残さずに生きた【江湖】(民衆の世界)の人々も重要であり、おもしろい。そう体現する象徴として、菊丸は重要だと思えました。今後も期待しています!

 

総評

十回をすぎると、いよいよこなれてきて、描きたいところがわかってきたという印象を受けます。

光秀が受け身だとか、真面目すぎるとか。

いまだにそういうことを言われておりますが、一体それの何が悪いのでしょうか。

わかりやすく派手。叫び、顔芸をし、観る側の集中力を奪う。そういう臭く手癖に頼った陳腐な人物像は、個人的にはもう結構です。

光秀が受け身であることには、意味があると思います。光秀という受け身で、見つめる目を通してこそ、見えてくる人物像はあるのです。比較しないと見えてこない人物像もありますから。

斎藤利政の方が派手だの、信長に食われるだの、余計なお世話ではありませんか。

それに光秀は、燃え盛る家から少女を助けた。そういう人物です。平凡どころか、小さな命のために自分の命をかける。そういう勇猛果敢さがある人物です。

「目立ったものが勝ちゲーム」をしているわけではない。

光秀だからこそ見えてくる、見出せる目線もあるわけです。これは駒もそうかもしれない。いらないだの、鬱陶しいだの言われておりますが、平凡にも思える駒と比べると、帰蝶あたりの特性が引き立ちます。

そんな光秀と比較すると、今週目立ったのが信長、そして竹千代です。両者ともに怖いほどに思える。けれども、怖いとか異常性があるとか、そういうことは極力考えずに、彼らなりの理由を探ってゆきたいと思えました。

信長の人物像はかなりわかりやすくて、掘り下げられてきたとは思います。

信長は別に血も涙もないわけではありません。

竹千代へ申し訳ないという気持ちもあるし、母や愛する人への思いはある。彼なりの規範はある。ただそれが、周囲とずれてしまう。それが【難儀】でまとめられていて、これぞ本作の真髄だと思えました。

最善を尽くして生きてゆくことは褒められる。けれども、自分のなりの最善を尽くすと、周囲から怒られる。気がつけば遠ざけられる、うつけだのなんだの言われている。難儀! 親からの否定は、幼少期それこそつらいものだとは思えます。お先真っ暗というか、自分の求めるものが手を伸ばしてもちっとも手に入らない。そういう不満がずーっとある。

成長するに従って、穴が空いた器のような心に、親以外の誰かの共感を満たして満足できるようにはなっていく。

信長の場合は、帰蝶と光秀を見つけたようです。

竹千代もそうなりそう。幼いながらに信長が自分の心を満たしてくれる何かがあると見出しつつあるようです。将棋はあくまで理由のひとつなのでしょう。

信長にせよ、竹千代にせよ。

不幸なところは、なまじ器がでかいだけに、そこに入れていくものも大きくしなければならないところだとは思えてきます。

穴が空いた大きな器に何かを満たして、それで世の中をよくしていきたい。最善を尽くして、よりよいことをしたいだけなのに、それが残酷だの狡猾だの腹黒いと言われてしまう。

ずーっと難儀。

生きている限り、毎日難儀。

そして自分が何者かもわからない。そういう難儀な人間が持つ力を、本作は描いてゆくのでしょう。

人間はどういう思考の使い方をして生きていくのか。

そこに焦点を当てた魅力的な作品。

ジジババは結局合戦が好きだ、古臭い。そんなことを言われておりますが、思考の使い方が明らかに斬新だし、実は合戦シーンもそこまで多くない。

会話や思考回路がともかくおもしろい。とてつもなく技巧を凝らしていて、とんでもないドラマになっている。

毎週疲れ果てながら、じっくりと味わっています。


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【参考】
麒麟がくる/公式サイト

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武者震之助

2015年の大河ドラマ『花燃ゆ』以来、毎年レビューを担当。大河ドラマにとっての魏徴(ぎちょう)たらんと自認しているが、そう思うのは本人だけである。

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