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【麒麟がくる第10回】
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民の笑顔を見るミッションで、精神的充足を見出したのでしょう。
お金が貯まっていく音がなんかスッキリするんだよな。そういう心理もあるかも。
幼少期は世界が狭いだけに、母の愛を求めたわけですが、成長とともに変わってゆきます。これからは帰蝶の笑顔とか、光秀との交流とか。そんなことで満足感を得ると。
そういう方向性ならばよいのですが……舐め腐った坊主から巻き上げる金とか、頭蓋骨とか。そういう方向性に突っ走ったらどうなることやら……。
現代ならば、ベルマーク集めが好きとか、タスクリスト管理をするとか、スタンプラリーをするとか、模型コレクターになるとか。そういうことに充足感を見出すタイプでしょう。
さて、そんな信長に会いたいと言う人物がやってきます。なんと松平竹千代でした。
光秀が去ろうとすると、信長はいて構わぬ、帰蝶もいろと言います。昨日からこの城に参った松平の若君だと紹介されます。
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竹千代は将棋がしたい
竹千代は将棋の道具を持ってきます。
「館に戻られたとお聞きしたので参りました」と告げ、さらにこう言います。
「昨日これ(将棋)をやろうとお約束いただきました。よろしければお願い申し上げます。今は無理と仰せなら、またあとで申します」
信長はちょっと気まずそうに、そなたとはもう将棋はやらぬと返します。サイコパス呼ばわりをされている信長ですが、良心の呵責はあるのでしょう。
「なにゆえですか?」
「童と将棋はせぬことにしたのだ」
「負けるのは嫌だからですか?」
「ふっ、たわけ」
実際に、信勝には勝てる竹千代ですからねえ。竹千代は、
「このところ前のように遊んでいただけませぬ、なにゆえですか!」
と訴えます。
めんどくさい子だなぁ!
かわいい顔だからなんかほだされるけど、めんどくさいぞ……。そしてこうだ。
「近習の者が申しております。信長様が、私の父、松平広忠を討ち果たしたと。そのことで私にお気遣いしておられるのですか? もしそうなら、それは無用のことでございます」
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なんだか信長が霞むほどすごい子来ちゃったぞ!
本当に、こんなにかわいらしくて、こんなにおそろしい家康は初めてだ……。
竹千代は切々と語ります。父上は母上を離縁し、岡崎から追い払い、今川義元についたと。
「私は大嫌いでした。それゆえ、討ち果たされたのは致し方ないことと思うております」
帰蝶と光秀が、どうしたらよいのかわからない顔になっております。まだこの二人は知らないのです。高政が、大嫌いな父・利政を倒す未来なぞ……。
そして帰蝶は気づいたのかもしれない。あの土田御前に止められた箱の中身にも。
この竹千代は、家康となった頃には彼なりの【難儀】について悩むのかもしれません。
世の中では愛おしいとされている。失えばつらいとされている。そんな何かを失っても、そこまで衝撃を受けない自分の心に。
気がつけば冷酷、狸呼ばわりをされている。
自己防衛か、鈍感か。感情を封じ込めて冷静に振る舞うことが、腹黒いと罵倒されている。そういうことが【難儀】かもしれない。
病床で豊臣秀吉から秀頼を託されておきながら、秀吉の喪もあけぬうちに天下取りを目指す家康。その冷酷さをどんなに批判されようと、それが必要なことだと割り切れる。
なんだかそういう将来が、この時点で見えて来るようでしみじみとすごい。
「わかった、駒を並べよ」
信長は納得して、そしてこう言います。
「すまぬが座を外してくれ」
ここで帰蝶と光秀が退室します。光秀はじりじりとあとじさって去るところが細かい。
信長は友達が欲しい
ここで信長は、こう言います。
「待っておれ」
ちょっと三白眼になってから、信長は子どものように走って光秀に追いつきます。
染谷将太さんはいつでもすごい。彼の栄光については、検索をかければでてくるので、今更もう振り返る必要もないでしょう。
彼のすごいところは、説明が難しい。豹が身を伸ばしているような。力が入っているのか、入っていないのかもわからない。ただそこにいるだけで魅力がある。そういう境地。
そんな信長は、そしてこう来た。
「美濃にはいつ帰る?」
「は?」
「明日また来ぬか? そなたと鉄砲の話をしてみたい。どうじゃ? あとで都合を知らせよ」
「はっ」
「銭はあるか、銭は?」
「銭でございますか?」
「城下の宿は高い。少し渡してやれ」
「はい」
「明日だぞ!」
そう言い、子どものように戻って行きます。
信長は友達が少ない。なんだか語弊はあるかもしれませんが、普通に仲良くなれる人が極端に少ないのでしょう。ですので、心を開くととことん話し合いたい、近寄りたい、そうなるようです。
そんな友達に飢えた信長くんと、老若男女を魅了する光秀くんが出会った……壮絶というよりも、腐れ縁めいた何かのスタートだとは思います。
信長にとって光秀は、永遠に追いつけない、一歩先をずっと走ってゆく美しい天馬みたいな存在で。気に入られたくていろいろするのだけれども、それが光秀からすればなんだかおかしくて。そして本能寺ごと燃やすことにするのかもしれません。
この光秀と信長は、とてつもなく魅力的になる。
だからこそ、惹かれあい支え合う二人が魅力的で、確定した破滅がつらくてたまらない。そういうことにはなるのでしょう。
見る側の心を引き裂くくらいであってこそ、本作の味わいと意味はあるはず。両者ともにきっと、とてつもなく魅力的であると同時に、なんだかイライラするような存在感を見せてくれるのでしょう。演じる長谷川博己さんと染谷将太さんに幸あれ。
「まことにようわからぬお方じゃ。まるで子どものような。されどいずれこの国の主におなりになる。いささかの不安があると言えばある。何かと相談するやもしれぬ」
帰蝶はそう光秀に告げます。
「では、今日はこれにて」
光秀は立ち去ろうとします。そしてここで気づくのです。
味噌を運んだ菊丸がいない。侍女に行方を尋ねると、とうに帰ったと言われます。
信長と竹千代は、将棋盤で向かい合っています。
信長は竹千代に尋ねます。兄上とそなたを交換することに不承知であると。
「そなたを今川に行かせたくない。しかし迷いはある。この話を潰せば、兄上は斬られる」
「今川義元は敵です。いずれ討つべきと思うております。しかしその敵の顔を見たことがありませぬ。懐に入り、見てみたいと思います。敵を討つには、敵を知れと申します。信長様がお迷いなら、私はどちらでも構いませぬ」
そんなやりとりを、菊丸は天井から見下ろしているのでした。
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MVP:菊丸
竹千代とかなり迷いました。三河パワーを感じた今週です。
菊丸は一人で二度おいしい。菊丸の正体を踏まえて思い返す、見返すと、また楽しめる。そんな重層的な人物像だと思います。
菊丸の凄さは、他の人物まで怪しく思えてくるところ。
伊呂波太夫は、芸はあるとはいえ重要人物に近づけて只者ではない。
それならば東庵も。
あんなふうに綱渡りでクルリと回る駒だって、一体どういうことなのか。
オリジナルキャラクター、名を残さずに生きた【江湖】(民衆の世界)の人々も重要であり、おもしろい。そう体現する象徴として、菊丸は重要だと思えました。今後も期待しています!
総評
十回をすぎると、いよいよこなれてきて、描きたいところがわかってきたという印象を受けます。
光秀が受け身だとか、真面目すぎるとか。
いまだにそういうことを言われておりますが、一体それの何が悪いのでしょうか。
わかりやすく派手。叫び、顔芸をし、観る側の集中力を奪う。そういう臭く手癖に頼った陳腐な人物像は、個人的にはもう結構です。
光秀が受け身であることには、意味があると思います。光秀という受け身で、見つめる目を通してこそ、見えてくる人物像はあるのです。比較しないと見えてこない人物像もありますから。
斎藤利政の方が派手だの、信長に食われるだの、余計なお世話ではありませんか。
それに光秀は、燃え盛る家から少女を助けた。そういう人物です。平凡どころか、小さな命のために自分の命をかける。そういう勇猛果敢さがある人物です。
「目立ったものが勝ちゲーム」をしているわけではない。
光秀だからこそ見えてくる、見出せる目線もあるわけです。これは駒もそうかもしれない。いらないだの、鬱陶しいだの言われておりますが、平凡にも思える駒と比べると、帰蝶あたりの特性が引き立ちます。
そんな光秀と比較すると、今週目立ったのが信長、そして竹千代です。両者ともに怖いほどに思える。けれども、怖いとか異常性があるとか、そういうことは極力考えずに、彼らなりの理由を探ってゆきたいと思えました。
信長の人物像はかなりわかりやすくて、掘り下げられてきたとは思います。
信長は別に血も涙もないわけではありません。
竹千代へ申し訳ないという気持ちもあるし、母や愛する人への思いはある。彼なりの規範はある。ただそれが、周囲とずれてしまう。それが【難儀】でまとめられていて、これぞ本作の真髄だと思えました。
最善を尽くして生きてゆくことは褒められる。けれども、自分のなりの最善を尽くすと、周囲から怒られる。気がつけば遠ざけられる、うつけだのなんだの言われている。難儀! 親からの否定は、幼少期それこそつらいものだとは思えます。お先真っ暗というか、自分の求めるものが手を伸ばしてもちっとも手に入らない。そういう不満がずーっとある。
成長するに従って、穴が空いた器のような心に、親以外の誰かの共感を満たして満足できるようにはなっていく。
信長の場合は、帰蝶と光秀を見つけたようです。
竹千代もそうなりそう。幼いながらに信長が自分の心を満たしてくれる何かがあると見出しつつあるようです。将棋はあくまで理由のひとつなのでしょう。
信長にせよ、竹千代にせよ。
不幸なところは、なまじ器がでかいだけに、そこに入れていくものも大きくしなければならないところだとは思えてきます。
穴が空いた大きな器に何かを満たして、それで世の中をよくしていきたい。最善を尽くして、よりよいことをしたいだけなのに、それが残酷だの狡猾だの腹黒いと言われてしまう。
ずーっと難儀。
生きている限り、毎日難儀。
そして自分が何者かもわからない。そういう難儀な人間が持つ力を、本作は描いてゆくのでしょう。
人間はどういう思考の使い方をして生きていくのか。
そこに焦点を当てた魅力的な作品。
ジジババは結局合戦が好きだ、古臭い。そんなことを言われておりますが、思考の使い方が明らかに斬新だし、実は合戦シーンもそこまで多くない。
会話や思考回路がともかくおもしろい。とてつもなく技巧を凝らしていて、とんでもないドラマになっている。
毎週疲れ果てながら、じっくりと味わっています。
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文:武者震之助
絵:小久ヒロ
【参考】
麒麟がくる/公式サイト