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【麒麟がくる第17回】
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誇りなき高政に仕えることはできぬ
光秀は、まっすぐ相手を見つ問いました。
「まことの気持ちを聞きたい。道三様はそなたの実の父親ではなかったのか?」
「わしの父親は土岐頼芸様」
高政は【虚像】の毒に酔っ払いました。父殺しの悪名を逃れようと、毒を飲み干しています。
以前は実の父は道三で、利用するだけと言い切っていたのに、そうできなくなった。
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「そうか。わしは土岐頼芸様にお会いして、一度たりとも立派なお方と思うたことはない。しかし道三様は立派な主君であった。己への誇りがおありであった。ゆるぎなき誇りだ。土岐様にもお主にもないものだ。わしはそなたにはくみせぬ。それが答えだ」
光秀は相手の心を抉るような、厳しい言葉を吐き出します。
つまらない男を父だと思い込み、誇りがないと言いきる。だからこそ協力できない。そう言い切りました。
高政は愚かではない。賢い人ほど、騙されやすいこともあります。なまじ賢いだけに、騙されたことを認められないこともある。
高政は賢くもなった。自信も身につけたかもしれない。
ただ……光秀に己の本心を打ち明けた頃の高政とは、今はかなり違ってきてしまった。
こう言い返すしかない。
「次会うた時は、そなたの首を刎ねる。明智城は即刻攻め落とす。覚悟せよ」
光秀はそう言われ、地面に跪き、道三の遺体に一礼します。
甲冑を着てこの動作をするのは、なかなか大変だとは思うのです。それだけでも素晴らしいのに、まるで子どものようなあどけなさまで顔に滲ませて、高政の元を去ってゆくのでした。
人は嘘をついて生きている
それにしても、南北に分かれた親と子は対照的でした。
嘘をつける高政と、つけない道三。どちらがよいのか?
人は毎日嘘をつくものです。
そんなわけない……そう返したくなる気持ちはわかります。
でも、人間だけではなくて、素直なように思える野生動物も嘘をつきます。猫が威嚇しようとして毛を逆立てるとか。実際に大きくはなれないのに、毛を逆立てることでそう相手を怯ませようとするのです。
人間の嘘はどうでしょう?
疲れているのに、まだまだ頑張れると思い込むとか。
似合わないし、好きでもない服だけれど、流行しているから着るとか。
おもしろいと見ているドラマでも、周囲では評判が悪いから嫌いと言うとか。
そういうごく当たり前の行為も、自分の本音を裏切るという意味では、騙しているのです。嘘をついているのです。
幼い頃から、人間はそういう嘘を身につけねばならない。空気を読むとはそういうこと。そうして成長していって、大人になるといろいろなことを楽しめなくなります。
楽しんでいる人はふざけていると、かえって叩くようになる。
あんなに愛くるしい竹千代を、土田御前は「かわいげがない」と言った。
竹千代は周囲を喜ばせるために、つまらないものをおもしろいと言うような嘘はつきたくないのでしょう。
自覚の有無でもある。道三は戦で勝利するためならば、相手を騙す。騙しているとはっきりと自覚してそうする。
けれども、高政はそこが曖昧です。
道三との対決で、高政はまたもいろいろなものを失いました。
どちらがいいと言うものでもない。そこが難しいところではあるのです。
帰蝶は伊呂波太夫に新たな依頼を
信長は川を渡ったものの、道三敗北の報を受け、やむなく戻ったそうです。
信長が殿(しんがり)を担った長良川! 道三敗死からの撤退戦~信長公記24話
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帰蝶は父だけではなく、信長のことも気にしている。敵の待ち伏せにあったものの、かろうじて船で逃れてこちらに向かっていると聞き、帰蝶は相手を労います。
「殿がご無事で何よりじゃ。ご苦労だった」
そう言ったあと、無念のあまりすすり泣く。生々しい泣き顔を見せて、帰蝶は立ち上がります。
そして侍女頭にこう聞くのです。
「伊呂波太夫はいかがした?」
隣に控えていて、帰蝶の前へやって来ます。
「太夫……大儀であろうが、今一度美濃へ行ってくれぬか。頼みたき儀があるのじゃ。礼は望みのままに」
そう言われ、伊呂波太夫は深々と頭を下げます。
川口さんの帰蝶は、割と素直な造形だと思えます。一方で、伊呂波太夫は本音を隠すプロだとわかる、そんな尾野真千子さんの凄みを感じます。
嫌な客だろうが、笑顔を見せねばならない。気分が悪かろうが、化粧で隠して踊らねばならない。
美濃へ戻る困難さは自覚しつつも、マネーの力がある尾張からまたザクザクと引き出せそうで、ワクワクしてしまう。そんな伊呂波太夫を演じていて、お見事です。
戦乱の美濃へ向かう菊丸と駒
その頃、三河と美濃の国境では――。
駒と菊丸が急いでいます。今日中には明智荘に入るという駒ですが、菊丸は浮かない様子です。
本心では駿河に帰りたいようで。駒に、明智の方がどうなさっているか気になるはずだと言われても、彼の場合は主君である松平元信の監視が第一ですからね。任務放棄はよろしくありません。
そのことを、駒を戦の最中に連れて行きたくないと誘導するものの、駒には通じません。渋々ついて行きます。
駒はさておき、望月東庵はどうしているのでしょうね。
東庵が太原雪斎を暗殺したみたい……という先週の感想もあるようですが、動機がないからにはそんなリスクはやらかさないと思います。そんなことをしたら、駒だって危険です。
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たかが旗、されど旗
光秀が明智城へ向かうと、光安が待っていたといい、招いて座らせて来ます。
「ここに座れ」
「は?」
「わしは今日この場で、明智家の主の座をそなたに譲りたい。道三様のことは無念至極であった。この城もまもなく高政方に攻められる」
敵3000あまりの兵に対し、味方は300もいない。戦にならぬ。そう光安は言い切ります。
攻城戦はなかなか難しく、守り手の方が少ない兵数でも場合によってはなんとかならないこともない。
とはいえ、それもハズレ値国衆・真田昌幸が守っているとか。城の設備や地形が攻めにくいとか。事前準備をしているとか。天候とか。そういう条件がピタリと揃わねば、難しいのです。
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あまりのことに「それは!」と叫ぶ光秀。そんな甥を光安は諭します。
「まあ聞け。さきほど、主だった家臣と話し合うたのじゃ。このままここで戦うてもいずれは皆討ちじゃ。そなたもわしも左馬助も、そうはならぬと言い切れるか?」
「それは……」
「我らが討たれれば、明智は途絶える。わしはそなたの父上から家督を継いだ、ゆく末はそなたを立て、明智家の血は決して絶やさぬと約束した」
そう言い、息子の左馬助に何かを持って来させます。
箱から出て来たのは、桔梗の「四半旗」でした。
光安の家督相続は、あくまで非常時のものであったことがわかります。
この旗は、明智の総大将しか持てぬものです。
たかが旗、されど旗。
武田信玄の跡を継いだ勝頼は、信玄のものであったいくつかの旗印やシンボルを受け継ぐことが禁じられておりました。
そういうことが、正統性と求心力低下につながっていたことは、否めません。
『真田丸』の真田昌幸にせよ、武田が滅んで思い出していたのは亡き信玄の姿ばかりで、勝頼はそこまででもなかった。あれは昌幸の性格が無茶苦茶ということもあるようで、それだけでもないのでしょう。
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光秀は、そんな叔父の誠意に感極まっております。
光安はさらに続けます。
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