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【麒麟がくる19回】
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ハートブレイク義龍は未練たらたら
久秀は光秀にこう言います。
「これで貸し借りなしだな」
「ありがとうござりまする」
「ふふ……斎藤殿がお主を呼んでいるぞ。話があるそうだ」
なんということでしょう。義龍は本当に光秀が好きなんだなぁ……。
部屋に来た光秀に対し、義龍はこう言って来ます。
「松永久秀をかつぎあげるとは考えたな。此度のことどうやって知った? まあよい」
そして信長を討ってみせる宣言をします。
これは前も書いたのですが。帰蝶の光秀への恋愛感情は過大評価される一方で、義龍の光秀への執着は過小評価されていると感じます。
麒麟がくる第8回 感想あらすじ視聴率「同盟のゆくえ」
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別れても好きな人……義龍はそういう状態に突っ込んできている。
◆義龍のハートブレイク
・道三と自分で、道三を選ばれ……
・信長と自分でも、信長かばってない?
帰蝶より、光秀に執着しているでしょう。
別にボーイズラブとかそういうことでなく。男女間だけに特別な執着心があるというのも、偏見だとは思えるのです。
義龍は、おぬしは道と誤ったとウダウダ……わしに従っておれば、今頃美濃で要職についておった、今は浪人だとネチネチ……悔いておらぬと相手が返すと「強がるな」と言ってくる。
未練がましい奴だなぁ。
さらには、こう訴える。尾張を呑み込み、美濃を大きく豊かにする心積りだが、わし一人ではできぬ、助けがいる。
そしてこうきました。
「どうだ、もう一度考え直し、わしに仕えてみぬか? 手を貸せ」
上から目線で誘っているようで、一生懸命お願いしている未練たらたら男にしか見えん。
「断る」
でも、光秀には通じないんだなぁ。
「どこか仕官の口でもあるのか? ならば……」
「今さらお主に仕える気はない!」
「ははははは! 相変わらず頑固な男よ」
「一体どうした? 次に会うたらわしの首を刎ねると申していたおぬしが……」
光秀、さすがに気持ち悪くなってきたのかな? どうかなぁ。鈍感だしなぁ。
忖度に疲れ果ててしまった義龍だから光秀が欲しい
ここで義龍は全部吐き出してしまいます。
「今まで血を流しすぎた。弟を殺し、父を殺し、わしに従うものは数多おるが、ただわしをおそれ、表向きそうしているにすぎぬ。腹の中では何を企んでおるのか、わかったものではない」
すごいところに突っ込んできたな!
このドラマは、意見を忖度して言わないことを明確に「悪」であり「不健康」であると描いています。
義龍はそういう不健康さに疲れてしまった。
光秀はよく「はぁ?」という。
これが「ありえない!」という意見があった。が、それはどうでしょう。戦国時代はありえないのか、それとも書いた側のビジネスマナーか? 常識か?
本音で意見のやりとりをしないことが当然――上司が鹿を見て馬と言うなら笑顔で従う。
そういうことを常識であり当たり前だと考え、生きてきた。
反論や自分の意見を語ることすら「腹を据えて」やらねばならない人生を送ってきたのだとしたら、光秀の行動がありえないのでしょうけれども、世の中、そうじゃない人間、世界もあるということです。
というより「そのほうがよいのではないか」と、義龍の疲れた顔からも伝わってきます。
光秀はそんな義龍にこう言います。
「悔いておるのか?」
「悔いておると申したら、わしについてくるか?」
「お主にはつかぬ」
光秀はキッパリ言い切りました。
人がよい、人徳がある光秀には、素直になって話してしまう。光秀は受け入れる時はそうできる。
一方で相手が率直な意見が欲しい場合には、そのことをを察してきついことをだって言えるのです。
義龍はもう、隠せることは何もありません。
「十兵衛……お主、一体何がしたいのか」
光秀は澄み切った目で相手を見つめ返します。
「道三様に言われたのだ。大きな国を作れと。誰も手出しできぬ大きな国を。いまはまだ自分でもどうしてよいのかわからぬ。しかし道三様のそのお言葉が、ずっとこの胸の内にあるのだ」
「大きな国……父上が。美濃よりもか」
「そうだ」
「分かった。行け」
沈黙のあと、義龍は寂しそうにこう言います。
「さらばだ。もう会うこともあるまい」
斎藤義龍は二年後、病によりこの世を去る――。そう語られるのでした。
将軍相手にガッカリ感もろ出しの信長
三日後、信長は将軍義輝に謁見します。
「面をあげよ」
こう言われ、信長はハキハキした口調で「織田上総介にございまする」と名乗ります。
尾張の平定がなりますことを公方様にお知らせすべく、参上したと言うわけです。恐悦至極にございます、と丁寧に言い切ります。陽気で明るそうにすら思える、そんな素直な信長です。
田舎者だから京都は珍しいものばかりだともかわいらしくアピールできるのですが。
ここから先、「おそれながら」と前置きし、さらにお願いをしてくる。
尾張がまとまっているのに、隣にいる駿河の今川義元、美濃の斎藤義龍が攻め入ろうとしてくる。
無益な戦をやめるよう、上様から命じて欲しいと言うのです。
「あいわかった。そなたの申す通りだ」
義輝はそう言い、藤英に今川の官職を聞いてきます。治部大輔(じぶのたいふ)だと返されると……。
「左京大夫(さきょうのだいぶ)でどうだ。今川より上だぞ」
こう将軍から提案され、信長はむすっとした顔になっています。
相手が将軍だろうと、モロに「がっかりだな……」という表情が出てしまう。
「それで今川が引き下がりましょうか?」
「引き下がらぬなら、将軍家の相伴衆になるがよい。相伴衆なら今川も手を出すまい。みなそう思わぬか?」
公式サイトには、きっちりとどういうことか書かれています。
幕府のナンバー2・管領職に次ぐほどの高い身分をオファーしたということです。
今年は脚本の難易度が高く、視聴者が調べないと置き去りにするようなものもある。
それでいいのかもしれない。噛み砕きすぎてこちらを信じていないような、そういう甘っちょろいものには飽きていたところです。
要するに義輝は大盤振る舞いをしたわけですが、信長はやはりムスッとしている。光秀はその気持ちを察したのか、不安そうな顔になっています。
セリフもないのに、顔だけで露骨にムスッとしていて空気を悪化させている。そんな信長を演じる染谷将太さん。
それを察知して顔が曇る、綺麗な空気と水でないと萎れる植物のよう。そんな光秀を演じる長谷川博己さん。
絶品の高度な演技が展開されています!
コミニケーションがずれる
義輝はため息をつき、ここで語り出す。
幼き頃より、父と近江と京と行ったり来たりしている。それから五年ぶりに京都に戻ってきたが、全てが変わっていた。
父もいない。帝も替わった。皆いなくなった。それゆえ、今のわしにはそれくらいのことしかできぬ――。
義輝が、あの藤の花のように美しい公方様が、そう言ってきたならば、普通の人なら「おいたわしや……」となりそうなものです。
それなのに、嗚呼、それなのに、信長はむっつりしている。ふてくされている……。
なんなんだよ!
信長怖いよ、勘弁してくれよ!
先週の信勝を怒鳴りつけている時より、ある意味怖いというか。
信長の狂気とはいう。それを受動的なようで、能動的なようで、高度に出してきたと思えます。
でも、信長の狂気とやらは、シンプルでピュアといえばそうです。
接待先と食事をして「ここの料理はまずいっすね。俺は好きじゃないんですよ」と言い切る奴がいたらどうなのか?
そういう単純な話です。もらったお菓子をまずいと言い切る。プレゼントを気に入らないとフリマアプリで叩き売る。
現代人の誰もが一度は、信長タイプと出会ってきたはずです。危険すぎて音信不通にしたのかもしれませんけどね。そういう相手に対して「なんなのこいつ!」と怒っても、問題は解決できない。
「へえ、まずいのか。同じような店でもっとうまいところに心当たりあるかな?」と聞けば、案外解決したりするものです。
時代が戦国と現代で違うからこそ、誰かを手にかけたりはしませんが、コミニケーションがずれるということですね。
信長の地雷はどこにあるかわからない。でも、地雷を踏んだとき、彼ははっきりと態度に出しています。その時点で「なんか悪いことしちゃいました?」と言えればいいんですが……。
信長の狂気というか、めんどくささというか、子どもっぽさというか。さんざん描かれてきて、手詰まり感があるところ。
そこを最新の知見を得て、練り直してきた。
繰り返しますが、本作とは信長を描くことを目指しているのです。麒麟は信長のことであってもよい。
革新的な人物とは、才能とは?
何かがずれて、周囲は疲弊してしまうかもしれない。そういうマイナス面まで描くとなれば、信長を見る目を通した方がより深く描けるはずだ。
信長にせよ、光秀にせよ、本作は高度で難しい解釈を使っていると思えます。
脚本を渡されて、読んで、演じて、どうしたものかと思いつつも、皆が全力を尽くしていると伝わってくる。紛れもない力作です。
この再会が最もそっけない
光秀は信長を追いかけます。
「お久しぶりでございます!」
「藤孝殿から聞いた。越前にいるらしいな。あれからわしもいろいろあってな」
ここの信長なんですが。
久々に光秀と再会した、三淵藤英と細川藤孝の兄弟、松永久秀、足利義輝、そして斎藤義龍らと比べてみますと……。
一番そっけない。
藤孝のように無事を喜ぶわけでもない。久秀のように斎藤道三のことを思い出すわけでもない。ましてや義龍のような情熱はない。
不思議だとは思いませんか?
運命の二人ならば、ビビビッと何かあってもよさそうなところ。いろいろ言われてきた帰蝶との関係を踏まえて、そこを意識させるとかできるはずです。
それが信長はそっけない……。
これも彼の性格なのでしょう。弟・信勝の死のせい? いや、それも違うと思います。
光秀は信長に「お疲れのご様子……」と声をかけます。
「わしが相伴衆になれば今川が手を引くと思うか?」
ここで信長、思い切り光秀に近寄ります。
信長は何か気になるとやたらと接近する。距離感がどうにもが取れない。
「いえ……」
光秀がそう言うと、信長は一方的に尾張情勢を語り出します。
今川が尾張に入り込んで出城を築こうとしている。手も足も出ない。それで上洛したのに、将軍も苦しんでおられるようだ。そうやって自己都合をガーッと言う。
本当にこの信長、勘弁してほしい。やはり同僚にいたらめちゃくちゃ疲れるタイプです。
「今の世はどこかおかしい……尾張が心配じゃ。わしは帰る。いずれまた」
小走りでシャカシャカと、余韻も何もなく走って行く。
運命の二人であって、光秀の態度や頷き方から、光秀はそれを感じていることがわかります。
信長は、ピュアでシンプル、自分の都合が大事です。頭がそのことで一杯だから、光秀のことも、義輝の苦悩も、はっきりいいってどうでもいい。自分の失望や不満がモロに顔や態度に出てくる。
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