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【麒麟がくる19回】
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浮かない顔の藤英・藤孝兄弟
光秀は上洛にあたり、きっちりと素襖(すおう)を着ています。
少し加齢をさせて落ち着いた色にはなっておりますが、それでも木行の青緑が特徴です。美しい翡翠のような色合いが素晴らしい衣装。これを着こなす長谷川博己さんも立派です。
京都では「一服一銭 よい茶でござる 茶はいかがかな」という物売りが歩いております。一見平和に見えますが、果たして……。
「おお十兵衛殿!」
公方様の元へ向かうと、細川藤孝がうれしそうに迎えてきます。
兄弟でも、兄の三淵藤英はトーンが落ち着いています。
光秀はその節は心配をかけたと詫び、藤孝には口添えの書状を送ってもらった御礼を言っています。
そして朝倉義景からの鷹を見せるのです。これはさぞや喜ばれると将軍の家臣である兄弟は言うわけですが……。
藤英としては、朝倉義景が上洛されなかったことを残念がる気持ちも当然あると。
京都はまだ様々な争いがある。それをおさめるためにも上洛を促しているのに、なかなか集まらないと嘆いているのです。
幕末の京都のように、諸藩がゴタゴタ集まって勢力争いをしてもややこしいものですが、上洛しなければしないで、悩ましいんですね。
これは現在社会にも通じる話かもしれない。
国を束ねるトップの権力者よりも、地方自治体の首長が目立つようになり、独自の判断で動くようになったら、それは世の中が変わる兆しであるかもしれないということです。
ここで少数派の上洛大名として、尾張の織田信長の名前が出てきます。
そして上様は、公家の二条家に招かれ能を見るため、そこに同道するよう光秀は誘われる。
将軍・義輝との再会
かくして光秀は、義輝と再会します。
「上様、明智十兵衛にございます」
「うむ。覚えておるぞ。朽木で会うたな。あれから何年たつかのう」
「九年にござりまする」
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そんなに経過しているのです。
「時が変われば、人も世も変わる。されどいつ見ても変わらず胸を打つのは、能じゃ。能はよい。そなたも見るがよい」
「はっ、ありがたき幸せ」
そう言う光秀は、うれしさが顔に出ています。本作の光秀はポーカーフェイスどころか、むしろ顔に気持ちが出やすいのです。
ここで、劇中9年経過ということで、思うところを書いておきますが。
再来週の6月7日(第21回放送)で、一旦休止となる間、何をするか。
どの国のドラマを見るにせよ、一点だけ念頭においた方がよい要素があると思います。
【最終回放映が10年以内のものとする】
80年代に書かれたテレビドラマの歴史なんて、私は振り返る気にもならない。比べるにしても、ここ10年以内と区切ることが最低限の範囲だと思います。
なぜなら、時が変われば、人も世も変わる。ドラマもそう。
昨年の大河はハッキリ言ってどうでもよいのですが、あのドラマとスポーツだの自分の好きな何かと絡めた記事はまだあるようです。
あの大河がコケた理由をあげて、本作を持ち上げる流れもある。そんなもん「月明星稀」の四文字で十分だとは思いますが。
さらには昨年の大河は革新的で、ポリコレを重視したからこそ受けないという理論もあるようです。
どうでしょうか。ポリコレなんて昨年もありません。あったにせよ、世界基準から10年以上遅れたものでしょう。
主人公が年上の女性を「ババア」と罵倒することがギャグ扱いのドラマに、ポリコレがあってたまるかという話です。
ジェンダー要素にせよ、差別にせよ。その告発をふまえた歴史ファンタジードラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』が世界中で熱狂的に支持される時代です。
ポリコレ嫌いばかりなら、あのドラマは受けないでしょう。まあ、トランプ大統領も好きだと言っており、何も気づかずに面白がる人も当然います。
本作には、明確に意識を変えてきた要素がある。
その証拠として、2016年『真田丸』のきりを挙げたい。ぶっきらぼうなきりは「現代人」だとされました。が、私の見立てでは、現代にも当時にも存在する、ごく少数の性質を持った人物だと思います。ああいう人はいつの時代にもごく少数いて「変人」扱いをされている。
『源氏物語』には末摘花という変わった女性が出てきます。どれほど醜いか笑いものにされるわけです。
見た目以上に、言動がユニークな点も注目したいところで、末摘花は極めてマイペースな人物です。空気は全く読まないから、バカにされてもあっけらかんとしています。
一方、紫式部という人物は「空気を読む」ことを重視していたと思えます。
読み書きできる漢字だって、知らないふりをしているあたりがそう。それゆえ、ありのままに才智を見せる清少納言を嫌っていたものです。そういう空気を読める人からすれば、ああいうタイプは「変人」になります。
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無関係な話でもない。このへんのことを念頭に置いて、信長や光秀のことも考えたい。
高政あらため義龍もそこにいた
光秀は、藤英と藤孝の兄弟に、公方様が以前と変わらぬ様子で安心したと告げます。
藤孝は何か言いたいようで、兄の藤英はそれを止めようとしています。
そしてここで、斎藤高政改め斎藤義龍がやって来ます。
髭をたくわえ、貫禄を増した義龍は、光秀を見つめるわけです。
「次会うた時は、そなたの首を刎ねる」
そう言っていた相手を目にして、光秀は緊張感を漂わせています。
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斎藤殿は数日前に上洛。今は義龍と名乗っていると説明がなされます。
将軍が見ている能は「春日龍神」です。
現代人からすれば古典芸能ですが、当時からすれば革新的で新しいものでした。
龍神様とは、水を得れば大きく飛び立つもの。光秀、あるいは信長の境遇と照らし合わせるとおもしろいと思えます。
蛟竜雲雨を得ば池中の物にあらず――小さな蛇ほどの竜でも、雲から降り注ぐ雨を得れば、大きく飛び出してゆく。
夢がある言葉のようでいて、『三国志』の周瑜が劉備を警戒して発した言葉ですので、危険人物をマークする言葉でもあります。このあと、藤孝が配下の者から聞く噂とも合わせて考えたい。
その噂を光秀が尋ねると、「上洛する信長の暗殺計画」だと漏らされます。
斎藤義龍が京に入ろうとする信長に刺客を放ち、既に待ち構えているのだと。
将軍様のお膝元でそのような狼藉をするのは酷い話でもある。動機としては、義龍が信長が雲雨を得る前に摘み取っておくこととも考えられるわけです。それ以外でも、道三や帰蝶がらみでいろいろありましたが。
光秀が将軍に止めていただけないか?と尋ねるいうと、藤孝は苦い顔になります。
「今の上様には抑えるお力はありませぬ……」
「ん?」
藤孝は十兵衛殿にお話ししようと思っていたことを漏らします。以前にも増して力を持っているのは三好長慶で、将軍は無力なのだと。
そして光秀に、どうして信長を救いたいのかと藤孝が聞いてくる。
光秀は振り返ります。
「以前、信長様が道三様と対面した折、こんなことをいっておられました」
家柄も血筋もない。これからは戦も世の中もどんどん変わりましょう。よろず己で我らが作るしかない。我らも変わらねば――。
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「やすやすと死なせたくないお方です」
「では松永久秀様に相談されてみては? 今、京を治めているのは実のところ、松永殿ゆえ」
かくして、光秀は己の人脈で信長を救うために奔走するのです。
「十兵衛! はははっ、生きておったか」
それにしても、先週は信勝で、今週は義龍ですか。
織田彦五郎もおりましたっけ。
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「誰が確実に信長を殺すか選手権! ミッションをクリアするのは誰だ? 最終回で光秀です!」
……みたいなノリも感じるところではあります。光秀の挑戦は失敗どころか、大勢の人が挑んで失敗したことの成功という見方はできると。
で、このドラマは光秀が地味だなんだと言われておりますが、ある意味信長主人公という理解でいいと思いますよ。
光秀は仕事のできる松永久秀の元へ向かいます。
「十兵衛! はははっ、生きておったか」
堅苦しい挨拶はいらない。心配しておったと久秀は上機嫌です。
光秀は「お忙しい中申し訳ございませぬ」と断りつつ、挨拶をします。
久秀は山城守(=斎藤道三)のことを残念であったと言います。ソウルメイト扱いでしたもんね。
本木雅弘さんにせよ、吉田鋼太郎さんにせよ、上品さとワイルドさを兼ね備えていて、すごいものがあると思えます。
顔の作りが似てないけれども、独特の雰囲気が似通っている。二人が同時に出てくる場面はないけれども、シンパシーを感じることは理解できるのです。
『柳生一族の陰謀』でも圧巻だった吉田さんのゲスさと朗らかさ、そして冷酷さと熱情を同時に出せるところがすごい。
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久秀は越前での暮らしぶりを聞いてきます。子どもの読み書きを教えていると光秀は答えます。11年ぶりだと二人は確認。
そう……連歌会での三好長慶暗殺未遂事件以来です。
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「そなたには借りがあるな」
「おそれながら、その借りをお返しいただくわけにはいきませんか?」
「ん?」
光秀の交渉開始。
几帳面ですよね。光秀はしたたかと言いますか、細川藤孝にきっちり書状のお礼を言う一方で、貸し借りのことで久秀の協力も引き出します。
信長も、道三に救われた貸し借りを言っておりましたっけ。
暗殺の標的となる織田信長は、尾張平定報告のために上洛するとのことです。
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何か別の目的でもあるのでしょうか。
義龍の信長暗殺計画はどうなる?
光秀との話を終えた松永久秀が斎藤義龍のもとへ。
義龍もこれには「わざわざお越しになるとは」と驚いていると、久秀はお願いがあると切り出します。
公方様が京に戻った。京は静かになると思ってみたら、不届き者が後をたたない。厳しく取り締まらねばならないものの、なにぶん我々だけではできない。いかにも不穏な動きもある。
そこで強者揃いの斉藤家にも、是非とも力を貸していただきたい。
そうお願いするのです。
「不穏な動きとは?」
ここで久秀は、上品な動きで義龍の横に来て、耳打ちをします。こういう所作が綺麗ですね。
「……上洛している織田信長殿を、何者かが狙うているということでございます。何かご存知か?」
「いや」
「公方様がお戻りになったというのに、斯様な狼藉は言語道断。厳しく取り締まらねばなりませぬ」
久秀は義龍に、近く将軍家の要職につけると餌をちらつかせつつ、京の安寧を守るのも、将軍家にお仕えする者の務めだと押して来ます。
「お引き受けくださいますか」
もう一度念押し。
さすがに義龍も断りきれず、これで暗殺計画はお流れになりました。
信長がピンチに陥るようなことをしてもよいようで、繰り返すばかりでは能がない。光秀の人徳、交渉力、そして久秀の知能で計画は一滴の血も流さずに終わりました。
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