青天を衝け感想あらすじ

青天を衝け第17回 感想あらすじレビュー「篤太夫、涙の帰京」

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青天を衝け第17回感想あらすじレビュー
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妻子との再会

9月初旬、栄一たちは兵を率いて中山道を京都へ向かうこととなりました。

地元にほど近い深谷宿まで来ると、惇忠がやってきます。すごい偶然が続くなぁ。

なんでも千代やよしが来ていて、再会を待ち望んでいるとか。このへんの妻子への思いやりは全部創作でまとめてよいかと思います。

そして二人は妻と子供に会います。

史実では京都で派手に女遊びしている栄一と喜作ですが、そこは当然スルーして……千代は言葉が出てこないそうです。そしてハグ。胸がキュンキュン? 我が子を抱いて微笑む栄一です。

「ここがまっさかぐるぐるしておる!」

出ました、ぐるぐる。好きですねえ。便利なパワーワードですが、栄一なりに反省もしているようです。周囲に迷惑をかけ、仲間は筑波山にいる。俺のこの道はいいのか? でも千代が信じてくれて安心。

平岡様の意思を守ると栄一は悟ります。落ち着いたら千代たちも京都か江戸に呼び寄せたいと。

水を差すようで申し訳ありませんが、当時の志士は女遊びも激しいし、妻にそっけなくしてこそクールでした。本作におけるこの辺の描写は基本創作、しかも時代考証がおかしい創作です。

こんな場面を入れるなら、もう少し歴史背景の解説が欲しいなぁ。

 


天狗党は京を目指し

栄一たちは9月18日に京へ戻り、慶喜と再会。

慶喜は栄一たちに向かい、

平岡円四郎がなぜ水戸の者に殺されたのか?」

を語ります。

彼の見解は「身代わり」でした。

水戸藩としては前主君の息子・慶喜を殺すわけにはいかないから、その側近を悪者にしたてて殺したと言います。そこは史実でも確かな見解ですね。

さらには「尊王攘夷は呪いの言葉に成り果てた」とまで嘆く慶喜です。

円四郎亡きあと励むように言われ、栄一と喜作は元気を取り戻します。

その後、筑波山で挙兵した天狗党は、相次ぐ戦で疲弊。食料も金銭もつき、小四郎はいっそ長州に走るかと嘆いています。

そこで武田耕雲斎は京へ向かうと主張。上洛し天皇へ真意を伝えると訴えます。

当然、その行動は慶喜にも伝わり、慶喜は困惑します。

「武田耕雲斎がいながらなぜだ」

あれ? 本作では慶喜が天狗党を呼び寄せようとしませんでしたっけ?(※あの書状は史実ではありません)

慶喜と天狗党が通じているという噂があると永井は言います。史実はさておき、劇中であんな文を出そうとしていたからには【黒】でしょう。

京を守る意識のある慶喜は、天狗党を討伐すると言い出しました。

栄一も愕然とします。

俺たちが、天狗党を討つなんて!

 


総評

だんだんと政治絡みになり、底が抜けたと言うか。

大丈夫ですか、これ? 『花燃ゆ』と『西郷どん』すらこれよりはマシでした。

戦国大河あるあるネタとして「石田三成に陣羽織をかけたのは誰か?」問題があります。

答えは黒田長政。『軍師官兵衛』の松坂桃李さんはよかった。

ところが大河では、主人公周辺で東軍となれば、割とフレキシブルにこの役目を横取りする。その幕末版ですね。

『西郷どん』では西郷隆盛が大活躍。『八重の桜』では会津藩もきちんと描かれつつ吉川晃司さんの西郷隆盛が活躍したとわかる。迫力がありました。

じゃあ今年は?

う~ん、ぐるぐるしてますね。

西郷隆盛が【主役を褒める要員】にされている感がある。

禁門の変における死者は長州が400名、幕府側が60名ほどでした、とゲーム感覚な解説。

死者を出したくないと言いつつ戦果を誇る慶喜はかなり矛盾していませんか。葛藤してこそ、と思ってしまう。

ともあれ薩摩の強さと、武家の棟梁としての慶喜の評判も高まりました……って、会津はどこ行った?

 

天狗党の見えにくい同盟者と裏切り者

今回の史実関連は、感嘆するしかないほど嘘まみれ。

しかもタチが悪いことに、天狗党がらみのことは知名度が低く、気づかない視聴者が大半です。

検索すれば真相は割とすぐ出てきます。

しかし視聴者の大半は、そんなことをします?

「号泣!」とツイートしていた方が楽しいじゃないですか。

そんなわけで、本作が隠蔽した水戸天狗党についてまとめておきましょう。

共犯者:桂小五郎、伊藤俊輔ら長州藩士

文久3年(1863年)の上洛時、小四郎は長州藩士と交流していました。

孝明天皇廃位を調査したのではないか?

と疑われ、暗殺された鈴木重胤と塙忠宝、そして未遂に終わった中村正直に関して探ると彼らの関係性が見えてきます。

以下のメンバーが、仲間として暗殺に関与していたのです。

伊藤俊輔
藤田小四郎
薄井龍之
渋沢栄一

桂小五郎から天狗党に資金援助もあった。要するに渋沢栄一も共犯者です。

劇中での栄一の言動は、キレイに誤魔化されていますが、並べてみると史実は見えてきます。

・栄一は喜作に突っ込まれつつ、むしろ俺たちが国をよくするために一橋家を動かすと啖呵を切っていた

→「国をよくする=尊王攘夷」、つまりは天狗党や長州藩と同じポリシー。天狗党別働隊員として、本来は一橋家籠絡でも狙っていたのでしょう。

・真田範之助はなぜ栄一たちを天狗党挙兵に誘い、そして怒ったのか?

→ドラマではわかりにくいですが「天狗党別働隊として京都で動くはずなのに、反故にしたのは一体何なのか!」という怒りと考えれば辻褄があいます。

・栄一と喜作の翻意がわかりにくい

→円四郎の善人ぶりアピール、そして劇的な死でごまかされていますが、納得のいく理由は出てきていないと思われます。

倒幕へのオウンゴールを褒め称える演出

→参与会議崩壊へ導くような慶喜の暴言を「快なり!」と褒め称える場面が代表例。

本作は従来【倒幕の原因となったミスと指摘されること】をやたらと褒め称える演出にしています。

あの場面を見て「暴言もよくないけど、あのくらいでダメになるなら参与会議がおかしいってことだね」と強引なフォローをしている人も出てきました。有害なドラマと言わざるを得ません。

そしてこれが栄一目線の反映だとすれば、やはり栄一は一橋家に仕えながら、倒幕を喜ぶ人物として描かれているということでしょう。

・天狗党関係者の靖国合祀は早い

→天狗党と諸生党は、戊辰戦争とも明治維新とも関係なく、一年以上内戦を続けておりましたが、政府が止めに入ります。そのあと天狗党関係者側のみが、素早く靖国に合祀されます。

【禁門の変】で御所を守り戦死した会津藩士が、抗議を受けるまで合祀されなかったことと対象的でした。

なぜ、そんなことになったのか?

長州閥です。

会津藩士と違って水戸藩士は「同志」であり、心理的ハードルが長州閥になかったということです。

・渋沢栄一は新政府登用され、重用された

福沢諭吉のように、断固として二君に仕えずと貫いていない。

のみならず、これにはどうも奇妙な点があります。幕臣や佐幕藩出身者で、ここまで電撃出世を遂げたものはなかなかいない。

『八重の桜』でもそうしたセリフが出てきましたが、負け組は政財官から徹底排除されました。

出世したければ山川浩のように軍(それにしたって柴五郎なり、出羽重遠はかなり後のこと)、山川健次郎のように教育など、狭き門をギリギリ通り抜けた彼らが名を残してします。

冴えないくすぶった人生を送るならまだマシでしょう。慶喜の駿府行きについてきた幕臣の中には、一家揃って餓死する者もいたほどです。

ということで、もう一度問いたい。

なぜ、渋沢栄一はそこまで出世できたのか?

それだけ彼が優れていたのか? では、同じく数字に長けていた由利公正と、渋沢栄一の違いは?

由利公正
龍馬が抜擢した由利公正は一体何が凄いのか? 福井藩から日本初の財務大臣へ

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サンデル教授の『実力も運のうち 能力主義は正義か』を彷彿とさせます。

明治というのは四民平等のようで、通俗道徳がまかり通る不平等な藩閥政治世界でした。

そこで渋沢栄一が出世できた不思議は、「長州閥と近い」と考えるとパズルのピースがはまるようでもあります。

・史実の栄一は?

→史実の栄一も、慶喜も、天狗党のことになると流石に口が重くなりました。

史実の栄一は、天狗党幹部・薄井龍之の訴状を突っぱねています。このことは本人から長いこと隠蔽されもしました。

要するに、別働隊として一橋家にまんまと潜入していたにも関わらず、保身のため仲間を見捨てた――そう思えてくるのが渋沢栄一という人物です。

史実を追っていくと彼の人間性は疑わしくなる。

円四郎の死を嘆いていますが、思想的立ち位置は暗殺した側と一致しています。慶喜が尊王攘夷を忘れたのは円四郎のせいだ! そう思っていたのが暗殺犯ですから。

私はこうした史実を調べていくと、『進撃の巨人』のエレンがライナーに対して抱いていたような感慨が湧いてきました。

渋沢栄一は大河主役にしちゃいけねぇ奴だ

一体何考えてたんだ?

本当に気持ち悪いよ

お前の正義感に溢れたあの面構えを思い出すだけで……

吐き気がしてくんだよ

ちなみに天狗党の顛末に呆れ果てた人物として、大久保利通がいます。

彼ならば天狗党と慶喜、そして栄一のことを把握していてもおかしくはありません。

本作でも、出てきてどこなく陰険くさい顔をしていた。渋沢栄一と大久保利通は気が合わないのです。

大久保は傑物の割に、人間性を冷酷に描かれがち。本作もその路線でいくのでしょうが、彼の気持ちもわかります。

天狗党絡みで仲間を売り飛ばすような真似をし、戊辰戦争で戦ったわけでもない。そんな渋沢栄一を大久保がどれだけ軽蔑したか。栄一にしたって、よく思われていない相手と仲良くできませんよね。

 


幕末水戸藩を調べると精神が崩壊しかねない

渋沢栄一と長州藩。

渋沢栄一と水戸藩。

そして渋沢栄一と徳川慶喜

なんだか混乱してきませんか?

実は幕末においては「水戸藩」こそパンドラの箱でして。

それは以下のような歪んだ構図を生み出しました。

徳川斉昭が倒幕意識を持つ連中を生み出す(御三家なのに!?)

徳川慶喜が幕府再興の要である薩摩藩と手切になる(オウンゴール!?)

でも慶喜は駿府に逃げてロハスライフ

幕臣と奥羽越列藩同盟のみなさんが代わりに血を流して敗戦終了

これが悲しいかな史実のシナリオです。

歴史的にみて、王家の血を引く誰かが王を倒すことはままある。

中国ならば明の【靖難の変】、朝鮮の【癸酉靖難】、イギリスの【薔薇戦争】もそう。

しかし、王朝ごと倒壊させた異様な例は水戸藩ぐらいではないでしょうか。

幕末にはロマンチックなイメージがあります。

国難に対して英雄たちがたちあがり、一致団結して維新を成し遂げた――そんなロマンを丸ごと破壊するのが水戸藩です。とんでもないことをやらかしてしまったとしか思えません。

またも『進撃の巨人』を引用しますと、斉昭にふさわしいセリフはこれでしょう。

「これは お前が始めた物語だろ」

倒幕は斉昭が始めた物語です。まちがいない。

そんな斉昭の魂を継承した【天狗党の乱】を描くのは非常に難しい。

そこへ向かっていく本作は凄まじい勇気をお持ちですね。

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