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【青天を衝け第17回感想あらすじレビュー】
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人の生死はアクセサリじゃない
はるか昔、昭和の頃。ファミコンが世に出たとき、こんなことが言われました。
「死んでもすぐに生き返るファミコンの世界。人の命が蘇るように思うようになるのでは?」
いやいや現実とファミコンを混同するわけないじゃん!
そう思いたかったのですけれども……。
本作の作り手は、幼い頃にファミコンで遊んだ最初の世代ですかね。
その関係性は不明ですが、人の命を粗雑に扱う傾向があり、それが視聴者まで伝播してないか懸念です。
天狗党をオークにたとえてはしゃぐとか。円四郎が笑顔でピースしているイラストに「家康と出てきて〜」と要望がくっついて投稿されるとか。
『おんな城主 直虎』で、小野政次が亡くなったとき、追悼ファンアートがたくさん投稿されました。そういう雰囲気とは違う。
キャッキャ笑いながら「円四郎ロスぅ〜!」と言い合い、自分の感受性アピールをしている。
NHKの別の番組でまでアナウンサー同士が明るい口調で「円四郎死んでしまってロスですぅ!」とかなんとか言っていて、私は心底、絶望しました。
いつから人の生き死にを、追悼でもなく「ロス」だのなんだの言って、はしゃぐようになったのでしょうか? それって悪ふざけではありませんか?
歴史に全然興味が無く、自分の先祖との繋がりも関係なく、幕末に何をしていたのか知らないからこそ、そんな無神経なことができる。毎週そう思わされ、気分が悪化し、ニュースを見るとますます落ち込みます。
この点、戦災の空襲を扱った『おちょやん』、震災を扱う『おかえりモネ』の方が随分マトモです。
戊辰戦争関連の史跡は整備されているところも多い。そういう場所にある墓跡などを一度訪れてみるとよいかもしれません。
京都をめぐり、ご先祖が新選組に出会った方と話してみるのもまた一興。池上本門寺を訪れたときには、薩摩出身の地元の方が居て、ご先祖様の話を聞いたこともありました。
もちろん史実の正誤確認まではできませんが、周辺には薩摩出身の方が多いと聞いて妙に納得したことがあります。
本作スタッフはそういった試みをされたことがなさそうで。
『麒麟がくる』は、その点、良心的でした。
人の命を粗雑に扱う傾向を強め、宴席で首を回すような信長に対し、光秀は焦燥感と絶望を募らせました。そして光秀は、命を粗末にしてきた信長を止めるため、その命を奪った。
今後この作品がどうなるか。私には不明ですが、今、出てくる言葉はこれです。
「是非もなし」
櫝(ひつ)を買いて珠(たま)を還す
「櫝(ひつ)を買いて珠(たま)を還す」
とは本作にピッタリの言葉かもしれません(詳細は後述)。
だからこそこんな記事でもでてくる。
◆ 『青天を衝け』キュンシーンに込めた意味 “平九郎”岡田健史דてい”藤野涼子の名シーンも誕生 (1)(→link)
幕末はギスギスしているからムズキュン?
あまりにも凄惨で書くことも憚れる天狗党と諸生党の悲劇が行われている時系列、同じ回でよく言えたなぁ、と。
夫の塩漬け首を抱えて斬首された武田耕雲斎の妻~天狗党の乱がむごい
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『八重の桜』のようなまっとうな大河で、会津戦争の最中にムズキュンしていましたか。
ムズキュンとは先日の共演者結婚で話題をさらった『逃げるは恥だが役に立つ』が売り物にしていました。
来年の新垣由依さんには期待したいところですが、ともかくこうした民放の感覚を大河に入れ込んで是とする感覚がわかりません。
まぁ、史実でも慶喜の場合は「逃げるは恥だがロハスライフエンジョイ!」とやらかし、幕臣や奥羽越列藩同盟関連者の怒りと軽蔑を受けていました。
天狗党の惨劇を知っていて「よし! ムズキュンだ!」と言えるのかどうか?
知ってて言えるならもう言葉もありませんよ。
さてここで「櫝(ひつ)を買いて珠(たま)を還す」の解説を。
昔、珠(宝石)を売ろうとして、箱を凝った人がいました。
アロマ付き、細工もスゴイ!
ところが客は箱だけ買って、珠は買わなかった。
出典『韓非子』
このことから、こんな意味となった。
本当の値打ちはどうでもいい。外面の飾り、うわべの美しさにのみ心を引かれる。ほんとうに尊いものの値打ちがわからない。方法を誤って目的を失う。間違った方法で目的を見失う。
本作の感想を見ていると、幕末史なんかに興味はなく、投稿して盛り上がってパーっとすればよいだけと感じます。
歴史という珠の美しさ、尊さはどうでもいい。
ドラマの作り手にしても「箱さえ売れればいいじゃんねw」というスタンスではないでしょうか。珠を丸めたセロファンに取り替えてでも平然としていそうです。
しかし、世の中には珠を大事にしてきた人もいます。
多くの真摯な大河ファンはそうではありませんか。
人の生死が困難な時代にムズキュンとかロスとか、私には納得できません。
私はよく「このドラマが好きなファンの気持ちを傷つけてひどい!」と言われます。その通りかもしれません。
しかし、そんな私から問いかけたい。
死者の尊厳をバカにし遊び回るようなことだって、十分ひどいのではないでしょうか。
死者とは悲しい。
生きる者におもちゃにされようと何も言い返せない。
ゆえに生きる者は倫理観を抱かねばならない。
私は常々そう感じています。
君命に受けざる所有り
この作品は、はっきり申しまして失敗していただかねば困る。
『孫子』も指摘している。
塗(みち)に由(よ)らざる所有り。軍に撃たざる所有り。城に攻めざる所有り。地に争わざる所有り。君命に受けざる所有り。
道があっても通るべきでないことがある。軍を攻撃してはいけないこともある。城でも取っちゃいけないことがある。戦ってはいけない戦場もある。君子の命令だろうと、受け入れちゃいけないこともあると。
今までどうして渋沢栄一大河がなかったか?
受けてはいけない命令だったんですよ。
しかし、幸か不幸か、テレビを見る層に変化も起きている。
◆映画やドラマを観て「わかんなかった」という感想が増えた理由(→link)
わかりにくいものは悪い作品、わかりやすければよいとする風潮ですね。
『青天を衝け』は説明台詞がてんこ盛りで、この記事に指摘されているような「全部説明するドラマ」の典型に思います。深みも何もない。
SNSにどう投稿しようか?
ロスハッシュタグで盛り上がらなくちゃ!
そんな意識が先に働き、妙な表現があっても見逃す。【サンクコスト】を見積もって引き返せなくもなります。
しかし、そのせいで十年後の大河がどうなるか。
◆若者はなぜ離れた? テレビの“失われた10年”を招いた「世帯視聴率」の呪縛(→link)
なぜ今、韓流や華流が見られているか?
複雑怪奇でおもしろいから。本物の若者世代からしたら、何から何まで説明する大河なんて“オワコン”でしかなくなってきている。
本作はそういう焼き畑農業を進め、十年後に禍根を残すことをしている。
ゆえに私は評価できません。
渇しても盗泉の水を飲まず
人には良識なり道徳心があるという前提で、私は生きてゆきたい。
しかし世の中には例外はある。
今回次回の放送で注目される天狗党。
敗者は死ぬまでの間、臭いがキツく薄暗い鰊倉に入れられ、それだけでなく一族も殺され、またその報復の連鎖が起き、ついには人材がいなくなってしまった水戸藩の内紛。
本作の作り手は、もしかして、その経緯を知らないのでしょうか。
水戸学は長州が松下村塾由来のようにしてしまったし、功績は大体他の勢力のものにされた。
会津のように美しい物語があるわけでもない。
抗議しようにも、水戸の人材は枯渇しきった。
何も残らない。
だからこそ家康ナビゲーターの軽いノリで、ヘラヘラ笑い、号泣だのムズキュンだの騒いでおしまいなんでしょうか。
誰かが天狗党とその犠牲者のために涙を流し思いを寄せるわけでもない。
すべて“平四郎ロス”へ……と、これではあんまりじゃないですか。
かつて『花燃ゆ』に対してとある幕末史研究者がアンチ意見を書いたところ、「政府に対する非難だ」として圧迫を受けたという証言がありました。
『いだてん』がオリンピック絡みで政府に寄り添ったものだったことも言うまでもありません。
そして今年の『青天を衝け』です。
渋沢栄一は、ただの人物じゃない。お札の顔になります。そこでもし、ありのままの渋沢栄一を描いて「この人、お札の顔になってもいいの?」なんて国民が思ったら?
その懸念がある以上、きれいにきれいに美化を重ねまくる必要がある。
NHKは渋沢栄一を通して何を表現したいのか。
大河がフィクションである以上、どう描いてもよいのか。
天狗党の悲劇を軽んじ、円四郎のロスでおちゃらけ、お札の顔となる渋沢栄一の美化に励む――。
今週も辛辣になってしまい申し訳ありませんが、私はそこには加担したくありません。
渇しても盗泉の水を飲まず。
水戸藩について調べると疲労困憊します。地獄のような惨劇を調べたあと、SNSで「慶喜いい人すぎぃ」なんて見ると、胸が痛くなります。
次週以降、そんなことが無ければよいな……と希望を持ちたくても叶いそうにない。
渋沢栄一と伊藤博文を持ち上げることで、大事にならないことを祈るばかりです。
※著者の関連noteはこちらから!(→link)
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◆青天を衝け感想あらすじレビュー
◆青天を衝けキャスト
◆青天を衝け全視聴率
文:武者震之助(note)
絵:小久ヒロ
【参考】
青天を衝け/公式サイト