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【青天を衝け第23回感想あらすじレビュー】
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着替えに時間をかけすぎでは
慶喜は「新しい日本を作る」と言い始めました。
何を言っているんだ……と思いきや、これには岩倉具視も褒める。【倒幕の密勅】がキャンセルされ、薩摩もしてやられた!
しかし、薩摩には武力という「プランB」がある。
トメという老婆がわざとらしく来て、岩倉が下品な驚き方。赦されて洛中に戻れるそうです。
にしても、思ったことを全部叫ぶ岩倉って脇が甘すぎやしませんか? 斬新と言えばそうかもしれませんが、幕末屈指の策略家にはとても見えません。
徳川昭武たちは諸国を周り、パリへ戻りました。
欧州視察中に幕府が倒れてしまった!将軍の弟・徳川昭武が辿った波乱万丈の生涯
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勉強のためです。教師はナポレオン3世からつけられたヴィレッド。
軍服の質がどうにも……まぁ、海外ドラマのことは忘れるべきなのでしょう。
まずは髷を落とし刀を外し、洋装すること。
水戸藩士が暴れながら、昭武以下、これにならうことになりますが、それにしても、政治外交の説明を省いてまで、こんなお着替えに時間をかける意味もわかりません。
そして栄一も洋服に。実物とは似ても似つかないなぁ。
というか、このお着替えが今週の見どころでしたか?
通りすがりのフランス人も、昭武がイケメンだと噂しています。
そんな中、栄一は銀行家のエラールと話をします。
フランスでは誰もが平等で国のために尽くすと感銘を受ける栄一ですが、史実の彼を見ると割と真逆のことをしています。藩閥政治のもと、長州閥政商として活躍したので、あまりに言動不一致。
そしてついに出てきました、レオポルド2世!
非常に緊張させられる場面です。
危険すぎるレオポルド2世
国王自らがセールスをする。
栄一が褒めちぎったトップセールスですが、このレオポルド2世はその結果、とんでもない虐殺を生じさせています。
罪なきコンゴ自由国の人口を半分にまで減らし、最低最悪の王として死に際しては棺に唾を吐かれたほとでした。
コンゴ自由国では手足切断当たり前 レオポルド2世に虐待された住民達
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そんな大量殺戮王に感動してスピーチする栄一。
恥ずかしい……あまりに恥ずかしくていたたまれないものがあります。
主役が何の疑念もなくレオポルド2世を褒めた時点で、本作の海外展開はありえません。
嫌な予感が見事に当たってしまいました。
これだけは本当に的中してほしくなかったのに……。
そしてこのあと、水戸藩士がまた出てきます。警備はどうなっているんでしょうね。彼らは笑い物にされ帰国の途へ。
日本の京都では、薩摩藩と土佐藩によって政変が起こり、慶喜を支持する中川宮ら公卿らが排除されます。
薩摩のクーデター開始です。岩倉と中山忠能が出てきました。
「おかみ〜おひさしうございまするぅ〜」
明治天皇にあまりに軽く挨拶する岩倉。なぜこうも品性がない描き方なのか。
天皇に対して不敬としか思えなく、その後、王政復古と言われたところで何が何やら。
このあと小御所会議で春嶽や容堂が反発します。
山内容堂の出番があまりに少なく、慶喜を褒めるだけのパフォーマンスみたいな話が続きます。相変わらず政治のことは掴めない構成ですね。
慶喜は賢いが人徳はない、というセリフはナイスですね、その通り。
このあと西郷は戦をすると軽やかに言い出します。
大坂城で慶喜が咳をしていると、江戸では、江戸城が放火されたと報告があります。
特に悩むこともなく罠だと見抜く慶喜。
静観を指示しつつ、(わざとらしい)咳をしながら幕臣を見回します。
薩摩を討つべし!
そう盛り上がっているというか、あまりに雑なコール。もっと別のセリフはないのでしょうか?
慶喜はさすがに困っています。
そのころ栄一は呑気にワクワク。そこに電信が入ります。
電信の小道具担当者さん……illustratorで作った感が出ていますね。時間がなかったのですね。とりあえず何かあったと悟る栄一です。
総評
劇中に登場させれば、どう取り繕ったってマイナスでしかない。
そんなレオポルド2世を登場させたところは「偉い」と思いました。
コンゴ自由国では手足切断当たり前 レオポルド2世に虐待された住民達
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とにかくコンゴ自由国とレオポルド2世というのは、世界史上でもトップクラスで陰湿な惨劇が行われた組み合わせです。
それを手放しで褒める――。
結局、渋沢栄一って、人命を踏みつけてでも金儲けしたい、自分が高評価されたい、そういう心根だと改めて感じました。
儒教からは何を学んだのでしょうか。
今週、最大のやらかしは【鳥羽・伏見の戦い】への導線です。
幕臣が揃いも揃って「薩摩討つべし!」と叫んでおり、慶喜が当惑しています。
こういう描き方は、明治時代に入ってかなり落ち着いてから、慶喜と栄一の君臣が己のミスを取り繕うために出してきた下劣な言い分。
そのソースである『徳川慶喜公伝』を持ち出した時点でお話にならないことは、以下の記事でも触れさせていただいてます。
原市之進も死なせてしまった慶喜の政治改革~幕末最終局面で何をした?
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戊辰戦争が始まる直前、慶応4年の正月時点では幕府軍の方が多かった。
兵力差で3倍。武器性能も実はそこまで変わらない。
こんだけ差があれば余裕でしょ。
慶喜は薩摩勢を蹴散らして大坂城から上洛を果たし、権力を握るつもりでした。
戦国時代ならば【桶狭間の戦い】の今川軍を思い出せばよいかもしれませんね。
それが鳥羽・伏見の戦いで予想外の敗北となってしまう。
皆に檄を飛ばしておきながら、あわくって開陽丸で逃げ出した。
「薩摩討つべし!」と多くの幕臣が言ったのは確か。それに押されて将軍として「薩摩討つべし、そうだ討て!」と言い切ったのは慶喜です。それを後からこんな嘘をついて広めました。
「戦うつもりなんてなかった。それなのに空気の読めない会津や桑名が命令無視して、暴走して最悪の結果に……」
渋沢栄一プロデュースの『徳川慶喜公伝』でそれを流布したところ、会津藩出身で元白虎隊、明治屈指の知性の持ち主である山川健次郎が『会津戊辰戦史』で激怒しつつ否定しました。
「命令ってそもそも何ですか? 千騎が一騎になるまで戦えとドヤ顔で言ってたの誰でした?」と、そう記していたのです。
そんな山川の見解はまるで無視して、慶喜の言い分ベースでコトを進める。
それが今年の大河なんですね。
その結果「慶喜かわいそう……空気の読めないバカ幕臣や諸藩のせいで気の毒ね」なんて視聴者に思われたら、やりきれない気持ちの方も少なくないはずです。
なぜこんな嘘をズケズケと流してしまうのか。
不誠実なものを庇うということは、庇う側まで不誠実になる。それが本作。
幕末において、幕臣や東北諸藩、そして水戸藩を血の海に沈めておいて、一人のうのうとして反省すらろくに見せない――そんな日本史屈指の不誠実な人物をかばった渋沢栄一も、それを誤魔化して描くドラマの製作者も、みな一様に不誠実に思えてきます。
イギリスとフランスの思惑が飛ばせない渋沢栄一大河
『青天を衝け』はわかりやすさを売りにしていたと思います。
それなのにパリへ行ったとき、イギリスとフランスが火花を散らしている理由が全くわからないように見えました。
そもそも渋沢栄一がなぜ過去において大河作品にならなかったか?
というと、難易度が高くなるのがその一つ。
当時のイギリスとフランスの動向と、国内(特に幕府・長州藩・薩摩藩)との関係性が大切になり、描き方が難しくなる。
まず長州。攘夷攘夷で激しく高ぶっておきながら、いざ負けると借りてきた猫ちゃんみたいになってしまった。
薩摩藩は当初から外国の力を認識していた。特に島津久光は諸外国からも「日本でもトップクラスの政治家」とおだてるわけでもなく記録されています。
要は、明治維新後にリードしていた政治家にとって不都合な史実がてんこ盛りで、来日外国人関連の記録は長いことクローズアップされませんでした。
現在は多くの書籍からそれを学ぶことができます。
第二次世界大戦後に、明治礼賛も喪失したあたりで冷静にその辺りの事情を批判するようになればよかったのですが、とある大物作家の出現でそうはなりませんでした。
司馬遼太郎です。
彼は不都合な史実を消した上に、真逆の物語を流布させ、定着させてしまいます。
例えば『世に棲む日日』では、高杉晋作が負けても傲岸不遜な態度で、相手を驚かせたとありますが、あれは実際には逆。
すっかりおとなしくなっていたのです。
司馬遼太郎は偉大だし、売れっ子だからなかなか文句は言えない。
それに待ったをかけて、怒っている幕末史および大河ファンの先生は大勢おります。
『司馬遼太郎が描かなかった幕末』が面白いから湧いてくる複雑な思い
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