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【偽ドミトリー】
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ある放浪者は言った「ドミトリーは生きている。私だ」
この手の偽物話は、一発ネタ勝負であり、二人目となると「いやいや、そらありえへん」と思いますよね。
ところが、さすがのおそロシア。二人目が出てくるんですねぇ。
名付けて偽ドミトリー二世です。
偽ドミトリー一世の死後、帝位についたのはヴァシーリー四世でした。
これが食えない男でして。本物のドミトリーの死をボリスに報告して、彼の家臣となりながら裏切り、偽ドミトリー一世に仕えました。
ところがまだ裏切り、今度は偽ドミトリー一世は偽物であると糾弾して、暗殺の引き金を引いた男だったのです。
そんなヴァシーリー四世による治世の1607年。
ある放浪者がこう主張し出し始めます。
「ドミトリーは生きている。私だ」
これまた凄まじい主張ですが、たとえ放浪者でも、もともとの見た目がイケていれば、ギャップで雰囲気を醸し出してしまうのかもしれません。
綺麗な服に着替えて、ピシッと髪を整えた彼は、なんだか高貴な身分の人物に見えたと言います。
いや、どう考えても偽物なのですが……民衆は、熱狂と共に彼を歓迎したのですから、意味不明というほかありません。
そして、この偽ドミトリー二世がトゥシノに宮廷を作ると、人々はヴァシーリー四世を見限り、トゥシノに移動して行きました。
しかも、です。その中には偽ドミトリー一世の妻であったマリナもいました。
マリナは偽ドミトリー二世に面会すると「彼は私の夫です」と宣言、結婚してしまうのです。
いや、もうほんとに何がなんだかワケがわかりません。
かくして偽ドミトリー二世は、ポーランドの支援を受けてモスクワに進軍。
進軍したまでは良かったですが、しょせん偽物に対する民衆の熱狂など移ろいやすいものだったのでしょう。
間もなくポーランドの支援を失った偽ドミトリー二世は、トゥシノからも去ることになり、恨みを持った取り巻きによって射殺されました。
1610年のことでした。
マリナとの間にいたドミトリー二世の遺児は、三歳で絞首刑とされています。絞首刑にするにも体が軽過ぎたため、引っ張ったという伝説が残されています。
これ以上、偽ドミトリーはいらない! という三世伝説阻止のための措置でしょう。
しかし……。
偽ドミトリー三世の登場!って……
偽ドミトリー二世と敵対していたヴァシーリー四世。
彼は1610年、貴族の裏切りにあい、出家させられました。
そろそろいい加減にして欲しいのですが、またここで偽ドミトリー三世が登場します。
ご安心ください。これで最後かつ瞬時にして歴史から消えます。
偽ドミトリー三世は1611年に登場すると、コサックと手を組んで陰謀を企み、1612年に逮捕&処刑されました。
ただし、ツァーリの座はあいたまま。1613年、ロシアの大貴族たちはミハイル・ロマノフという16才の少年をその座につけます。
リューリク朝の血を引き、過去がクリーンな少年である彼が適切とされたのです。
そして彼を祖とするロマノフ朝は、20世紀のロシア革命まで存続することになります。
4人目の偽ドミトリーの系統が復活する可能性は、これがわずかながら残されていたのですからおそロシア。
偽ドミトリー一世と二世の妻であったマリナは、イヴァンという男児をその腕に抱えていました。
彼女はこの男児こそツァーリになるべきだと考えていました。
しかし母子はコサックに捕らわれ、イヴァンは処刑。彼女自身も、我が子の死から一年ほどで亡くなりました。
四番目の偽ドミトリーが現れることは、このあとありませんでした。
偽物が三人も出るというのがすごいというか面の皮が厚いというか……。
一人目はともかく、二人目以降は誰も信じていなかったでしょう。実際、彼らの正体も不明です。
気になるのは一人目と二人目の妻となったマリナです。
さすがにイケメンだったからアリだったの♪とかそういうワケじゃ……ないとまんざら言い切れないのがおそロシア。
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文:小檜山青
※著者の関連noteはこちらから!(→link)
【参考文献】
マシューホワイト/住友進『殺戮の世界史: 人類が犯した100の大罪』(→amazon)