新田肩衝/wikipediaより引用

文化・芸術 信長公記

自分へのご褒美は高価な茶器|信長公記第60話

2019/07/19

コワモテなプロレスラーが甘いスイーツが大好きだったり。

見目麗しき女性がグロい爬虫類を好きだったり。

人の趣味とは、まことに掴みどころがないものですが、もしかしたら織田信長のそれも同様かもしれません。

今回は、信長が足利義昭を奉じての上洛を成功させた後の、「自分へのご褒美」なお話です。

📚 『信長公記』連載まとめ

 

高価な茶器やら絵画やら「名物集め」

1568年に足利義昭を奉じての上洛。

その直後に起きた本圀寺の変を経てからの、将軍御所建設や皇居修繕など、京都のあれこれが落ち着き、金銭や情勢にも余裕が出てくると、信長は名物集めをすることにしました。

ここで言う名物とは「高価な茶器や絵画」などを示しております。

『信長公記』には

「唐土から渡ってきた名物を手元に置こうと(信長が)考えた」

とだけ書かれておりますが、後々、信長が領地の代わりに茶器などを臣下へ与えていることを考えると、おそらくこの頃からその用途に使うつもりで集めたのでしょう。

このときの名物狩りは、以下のようなものでした。

「名物」←「元の持ち主」の順でリストアップして参りましょう。

・茶入「初花肩衝(かたつき)」←上京の大文字宗観(疋田宗観)

・茶入「富士茄子」←祐来坊

・竹茶杓←法王寺

・蕪(かぶら)なしの花入←池上如慶

・絵画「平沙落雁図」←佐野家

・桃底の茶入←江村家

上から順に少し補足を入れていきましょう。

 


名だたる茶器がズラリと並び

「肩衝」とは、肩が張り出したような形の茶入です。

他にも「楢柴肩衝」「新田肩衝」などが有名で、初花肩衝と合わせて「天下三肩衝」と呼ぶこともあります。

初花肩衝/wikipediaより引用

「茄子」は、口の部分がやや狭くなっている形の茶入ですね。

こちらは「九十九髪茄子」「松本茄子」と「富士茄子」を合わせて「天下三茄子」と呼ばれました。

法王寺の竹茶杓については銘や号が書かれていないので、詳細がわかりません。

スタンダードな形の茶杓を想像すれば良いかなぁと。

「蕪なし」は花入の形式の一つで、胴にあたる部分に膨らみ(蕪)がないものをいいます。

真ん中あたりに蕪があるものを「中蕪」、底に近い部分に蕪があるものは「下蕪」です。

「桃底」は、どちらかというと花入でよく使われる形状で、細口かつ底に近い部分が桃のように丸くなっているものです。

茶道具の形状は時代によって変遷しましたので、信長の時代には茶入にも桃底のものがあったのかもしれません。

花入の桃底とはまた別の形状だった可能性もありますね。

 

金銀やお米などとの引き換えに……

他にも、多々の品を召し上げたようです。

「召し上げ」というと強引にぶん取ったような印象を受けますが、松井友閑や丹羽長秀らが使者となり、金銀や米などと引き換えているので、どちらかというと「買い上げ」のほうが近いですね。

対価としてふさわしい金額や量だったのか、あるいは十分に支払っていたのかまではわかりませんが……。

この後、信長は法令を発布。

永禄十二年(1569年)5月11日になって岐阜へ帰還します。

年始の本圀寺の変から始まって、将軍御所造営・皇居修繕の手配など、極めて多忙な4ヶ月でした。

織田信長や豊臣秀吉の進軍速度はよく話題になりますが、それ以外の仕事についてもまさに電光石火・八面六臂といった感がありますね。

📚 『信長公記』連載まとめ

📚 戦国時代|武将・合戦・FAQをまとめた総合ガイド


あわせて読みたい関連記事

織田信長
織田信長の生涯|生誕から本能寺まで戦い続けた49年の史実を振り返る

続きを見る

信長の茶器
信長の愛した茶器と逸話まとめ|どんな名物を所持して誰に何を与えたのか?

続きを見る

今井宗久
信長に重宝された堺の大商人・今井宗久の生涯~秀吉時代も茶頭として活躍するも

続きを見る

千利休
千利休の生涯|秀吉の懐刀で茶を極めた茶聖 なぜ理不尽な切腹が命じられた?

続きを見る

参考文献

TOPページへ


 

 

リンクフリー 本サイトはリンク報告不要で大歓迎です。
記事やイラストの無断転載は固くお断りいたします。
引用・転載をご希望の際は お問い合わせ よりご一報ください。
  • この記事を書いた人
  • 最新記事

長月七紀

2013年から歴史ライターとして活動中。 好きな時代は平安~江戸。 「とりあえずざっくりから始めよう」がモットーのゆるライターです。 武将ジャパンでは『その日、歴史が動いた』『日本史オモシロ参考書』『信長公記』などを担当。 最近は「地味な歴史人ほど現代人の参考になるのでは?」と思いながらネタを発掘しています。

-文化・芸術, 信長公記

目次