本郷和人東京大学教授

本郷和人の歴史ニュース読み

信長1750億円 龍馬60万円 偉人の年収とニンジャの求人・月給18万円 本郷和人東大教授の「歴史キュレーション」

日本中世史のトップランナー(兼AKB48研究者?)として知られる本郷和人・東大史料編纂所教授が、当人より歴史に詳しい(?)という歴女のツッコミ姫との掛け合いで繰り広げる歴史キュレーション(まとめ)。

今週のテーマは、偉人の年収と現代ニンジャの求人(月給18万円)について!

 

【登場人物】

本郷くん1
本郷和人 歴史好きなAKB48評論家(らしい)
イラスト・富永商太

 

himesama姫さまくらたに
ツッコミ姫 大学教授なみの歴史知識を持つ歴女。中の人は中世史研究者との噂も
イラスト・くらたにゆきこ

 


◆偉人の年収ランキング 1位信長1750億円 坂本龍馬60万円 ニュースポストセブン 3月19日

 【歴史上の偉人たち「年収」ランキング】

(偉人名:当時の年収・現在価値での年収・備考の順)

(1位)織田信長:117万石・1750億円

本能寺の変の直前である1582年頃に支配していた、関東の一部や中部・近畿・中国地方の石高が700万石。

(2位)徳川家康:67万石・1000億円

1600年頃の伊豆・相模・武蔵・上野・下野・下総・上総・常陸・甲斐などを直轄領としており、その石高は400万石。

(3位)豊臣秀吉:37万石・555億円

天下統一後、関白職を秀次に譲り太閤となった最盛期1591年頃の直轄領の石高は222万石。

(4位)上杉謙信:24万石・362億円

出羽、越後、佐渡、越中、能登などを領地とした時の石高が145万石。

(5位)武田信玄:22万石・335億円

甲斐、信濃、駿河と遠江、三河、飛騨、越中などを領地とした時の石高は約134万石。

(6位)伊達政宗:19万石・285億円

1589年の秀吉による小田原城攻めに参加する直前の頃、陸奥、出羽66郡の約半数を治めていた時の石高が114万石。

(7位)徳川光圀:4万6666石・70億円

水戸藩第二代藩主となった1661年の石高28万石をもとに算出。

(8位)石田三成:3万2000石・47億円

関ヶ原の戦いにおいて西軍の指揮官だった頃の石高が19万石。敗戦後、領地は没収された。

(9位)真田昌幸:6333石・9億5000万円

石高は3万8000石。長男の信之は13万石まで勢力を伸ばした。

(10位)藤原道長:田地、綿などの現物支給・4億5000万円

従一位太政大臣時の給料。ほかにも荘園の名義貸しをして得た収入があったといわれている。

「金銀や経済流通を何にも考えてないじゃない!って言うのはヤボだとしても、徳川家康や豊臣秀吉は直轄領だけカウントして、織田信長は全領国って、おかしいわよね。信長だって家臣に領地を与えているわけでしょう?」
本郷「まあまあ。とりあえず、こういうバカバカしいことを正面きってやってみよう、という野心的な企画力を買おうよ。みんなで批判しながら、直しながら考えていくうちに、結構いい感じの数値になるかもしれない」
「ずいぶん甘いわねー」
本郷「うん。以前、勤め先の史料編纂所のトイレでさ。江戸時代では10両盗むと死刑って言うけれど、1両って、今のお金だとどれくらいになるの?って同僚に何の気なしに聞いたんだ。そしたら、いろいろなも尺度があるから分からない、って四角四面な答えがかえってきた。そんなのあたりまえでじゃないか。ぼくは何も厳密な数字が知りたかったわけじゃない。ざっくり1両=千円のレベルなのか、1万円なのか、10万円なのか。それを工夫して答えるのがプロじゃない」
「ああ、あなたの発想はそうよね。だけど、専門家って、細かいところにこだわってこそ、じゃないの。神は細部に宿るのよ」
本郷「そんなタコツボ的なことを言ってるから、日本史はおもしろくなくなるんだと思うんだけどなあ」
「お言葉ですけれど、その発想を変えない限り、あなたは出世できないわよね・・・。でも、いいわ。たとえばあなたなら、どんな風にこういうおカネ話を紹介する?」
本郷「そうだなあ。たとえばね、明治末年の史料編纂官のお給料が年俸2500円なんだよ。そうすると、1円=1万円だとして、年俸2500万! 史料編纂官を今の史料編纂所の教授に等しい存在とすると、お給料は今の3倍だね。歴史学がかつて、いかに大事にされていたかが分かる」
「へー。昔の史料編纂官は偉かったのねえ。そういえば、夏目漱石は帝国大学講師で年俸800円、第一高等学校教授で年俸700円。あわせて年俸1500円。それから明治大学の講師を兼ねて、これが月俸30円だったのよね。年棒にすると1860円ね」
本郷「うわー。非常勤の給料が高いなー。30万円かあ。いまの10倍だね。非常勤講師の報酬をもっとあげてほしいと切に希望いたします!」
「・・・はいはい。えーっとそれで漱石は、東京朝日新聞社入社するのよね。ここで月俸200円に賞与、って待遇だったわけね。当時は帝大の先生を辞めて、新聞屋になるなんて、みたいな悪口を言われたそうだけれど」
本郷「ああ、漱石自身が書いたそういう意味の文章を見た気がするなあ。でも年俸2400万円に賞与なら、行くよね」
「そう? ちなみに当時の朝日新聞の社長のお給料は月に150円だったそうだから、漱石の待遇は破格だった訳だけど」

 


◆「忍ばないスターな忍者探します」 愛知県「徳川家康と服部半蔵忍者隊」募集中! 月給18万で社保完 ねとらぼ

本郷「Oh!ニンジャ! ゲイシャ!」
「いったい、いつごろの外国人よ。でもあなた、小太りでメガネかけてて落ちつきがないから、一昔前にハリウッド映画でイメージされていた日本人そのものね」
本郷「ほっといて! だけどさ、黒ずくめのカッコなんてしてたら、私はニンジャですよ、って言ってるようなものだよね。それじゃあ、ニンジャの意味がないよね」
「ああ、そうね。では、ニンジャなんていなかった、と?」
本郷「いやいや。もちろん超人的な体力を誇るような集団ではなかったでしょうけれど、情報収集とか、スパイ活動をしていた人たちは絶対にいたよね。他国の様子がどうなっているか。大名一族内の不協和音とか、大名に対して不満を持っていそうな家臣の動きとか、領国の作物のできはどうか、どんな商人が出入りしてるかとかは絶対に知っておきたいじゃない」
「潜入捜査ね。それは絶対にやっていたでしょうね。だけど、それをするのに、職能集団が必要だったのかしら」
本郷「応仁の乱に参加した朝倉敏景の法令(朝倉敏景17箇条)を見ると、『他国の者を絶対に信用するな』とある。この時代からすでに、そういう意識はあるんだよね。これがもっと時代が下ってくると、他国の民は敵、なわけでしょう? そうすると、ずぶの素人がよその国へ行っても、なかなか必要な情報は得られない。ニンジャ集団みたいなのが必要になってくるんじゃないかな」
「なるほどね。そうだ。服部半蔵の名前があるわね。この人はニンジャの代表みたいに言われるけれど、実際にはどうなの?」
本郷「うーん。よく分からないなあ。とりあえず、初代の服部半蔵保長は伊賀の出身で、この人はいわゆるニンジャ的な働きをしていた、というんだ。縁あって家康のおじいさんの松平清康に仕える。それで、その子の半蔵正成が、世に言う『服部半蔵』ね。徳川家の武将として戦場で武功を積み、本能寺の変の後の『神君伊賀越え』では、人的なコネクションをいかして伊賀・甲賀での家康の逃走路を確保した」
「その半蔵正成はニンジャの大ボスなわけ?」
本郷「うーん、どうだろうねえ。彼自身はあくまでも武将として働いたんじゃないかなあ。サラリーも8000石を与えられている。ただし、伊賀同心とか甲賀同心のとりまとめをしていたようだから、徳川家の情報収集の分野で活躍したのかもしれないね。これは想像だけれども」
「服部家はずっと、大身の旗本として受け継がれていくの?」
本郷「いや、半蔵正成のあとをうけた長男の半蔵正就は伊賀同心の取りまとめに難ありとして役目を解かれ、追放される。のちに大坂の陣に参加して行方不明。戦死説もあるんだ。家は次男の半蔵正重がつぐんだけれど、舅の大久保長安の失脚に連座して浪人になってる」
「あら。服部家はお取りつぶしなのね」
本郷「これ以降も大名家に仕えて家は存続するけれど、直参の服部家は半蔵正重で終わりだね。2代から4代の半蔵たちは、山田風太郎の小説に頻出するから、なじみがある方も多いかもね」
「ああ、あなたの大好きな小説があったわね?」
本郷「NTR要素もりだくさんの『忍法封印いま破る』(旧題『忍法封印』)だ。おもしろいから、ぜひ読んでね」

【TOP画像】Photo by (c)Tomo.Yun


 



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