「惜しいかな後世、真田を云いて毛利を云わず」という言葉があります。
大坂の陣において獅子奮迅の活躍を見せた真田幸村のことは絶賛しても、毛利勝永のことは誰も言わない、という嘆きです。
悪質なNHK大河では、主人公を持ち上げるためにライバルや敵をカットするのは哀しいことによくある手段です。
ところがご安心ください、本作では出ますよ!
このニュースで目を引くのが、既に劇中衣装を身につけていることです。
後半追加キャストは衣装なしでの紹介がほとんどですが、もうこの岡本さんの場合、しっかり着ています。そして格好いい!
そしてこんな驚きの情報も。
◆松本幸四郎「真田丸」で再び呂宋助左衛門に!38年ぶり異例の同じ役(→link)
それにしても本作は、後半追加キャストが豪華です。これは吉兆です。
大河ドラマは夏頃から視聴率がジリ貧になる、夏枯れ現象が起こります。
毎年夏頃になると、物語上大規模な戦乱などが起こり、人気あるキャストが大量に抜けるのです。
新キャストは主人公の子供世代になり、主演より年下でキャリアがまだ浅い役者ばかりになりがちです。さらに昨年のように明らかな地雷作品ですと、役者が出演を避けると思われます。
今年は昌幸、信幸、徳川勢、上杉主従らは終盤まで出演します。
さらに主演の堺雅人さんが驚異的に若く見える四十代であることから、主人公の年下世代に三十代を起用しても不自然ではありません。
堺さんが十代の信繁を演じることには批判がありましたが、実のところこのような配役は終盤以降プラス要素になるのです。
つまり今年は夏枯れなし!宣言が出せると思います。
真田信繁という比較的短命かつ人生最大の見せ場が最終盤という人物を選んだメリットは、あとになればなるほど実感できるでしょう。
夏枯れは視聴率だけではなく、興味本位の否定的なニュース増加にもあらわれます。
ところが今年は、むしろここにきて史料率の伸び悩みを考察する系、視聴率テコ入れに色気を入れる系、出演者同士の不和を妄想しておもしろおかしく書く系の記事がほぼ消えました。
◆約30年の時を越えたオマージュにファン歓喜! 視聴率19.1%、復活傾向の『真田丸』第18話ざっくりレビュー!!(→link)
◆「イッテQ!」の視聴率抜いた「真田丸」にNHKがお祭り騒ぎ?(→link)
◆何とユニーク!『真田丸』の見られ方~1000人追跡調査が暴く意外な視聴実態~(→link)
と、全体的に好意的です。
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武具の蔵へ探検デートは破滅の予感が漂うね
さて、今週は「祝言」に続いてトキメキサブタイトル第二弾「恋路」。
先週、上洛した真田昌幸・信幸父子は、茶々の取りなしによって秀吉と対面できました。
取りなしを頼んだ信繁は、その御礼として大坂城を案内して欲しいと茶々に頼まれます。
侍女の扮装をした茶々は、信繁に蔵探検デートを提案。なんでも秀吉が茶々に入ることを禁じた蔵があるそうで、そこを探ってみようということです。
蔵には一体何があるのでしょうか?
青髭のようなシチュエーションを一瞬連想しましたが、蔵の中身はただの武具です。
蔵に入った茶々は、父(浅井長政)、兄(万福丸、『江 姫たちの戦国』では登場せず)、母(信長の妹・市)を秀吉によって実質的に殺された前半生を淡々と語り出します。
大半の視聴者も、そしておそらく信繁も既知である事実とはいえ、本人から改めてそう語られるとぞっとします。
親しい者をたくさん失った、自分が死ぬのも怖くないと語る茶々。
血のにおいのついた長巻を「一体誰の血を吸ったのかしら?」と眺めていた茶々は、手を滑らせ長巻にぶつかりそうになります。
そこをはしっと信繁が抱き留めます。ボディタッチに当惑する信繁ですが、茶々は甘ったるい声で秀吉から側室になるよう言われた、と語り出します。
死を恐れないという茶々、人の血を吸った武具に吸い寄せられた彼女は、自らの魅力に惹かれた若者を死にさらすことで、ギリギリのスリルを楽しんでいるのかもしれません。
何とも哀れであり、かつ恐ろしくもある女性です。答えをはぐらかした信繁に、茶々は帰りましょうと言います。
やっと恐怖のデートからの解放です。二人が廊下を歩いて行くと、きりが寧にもらったカステラを持って走ってきます。
ウザキャラだったきりが、最近はすっかり癒やし系です。
それにしても蔵でデートって、場所が場所だけに意味深です。茶々の自害する場所も大坂城の蔵です。
小悪魔なんてレベルじゃない歩く死亡フラグ
秀吉は寧に膝枕しながら、茶々を側室にしたい、あれの母(信長の妹・市)にも惚れておったと語ります。
寧は流石に呆れます。
実質的に茶々の父母を殺したようなものなのだから、小細工せずにアタックしてみたら、とアドバイスします。
秀吉は三成、茶々、信繁らの前で京に聚楽第を作る計画を語り出します。
ここで建物に金箔瓦を使うと説明がありますが、豊臣政権期に建てられた城からは金箔瓦の出土例があるそうです。大名が権威を示すために用いていたのではないか、とのこと。
ここで茶々は、信繁が一緒じゃないなら京には行かないと言い、信繁の手を取ります。そしてそれを見ている秀吉の表情が、今日も目だけ笑っていないのがサイコパスのようです。ホラーです。上田合戦よりも胃痛が酷くなりそうです。
茶々は小悪魔なんてレベルを通り越し、爆弾娘というか歩く死亡フラグみたいになっています。
かつて浅井家に仕えていたという片桐且元は、信繁を呼び出し茶々様に手を出すなと釘を刺します。
そんな関係ではないと訂正しようとしても、聞いてもらえません。
信幸と稲(忠勝の娘)が縁談! 現妻・おこうは里へ返せ
昌幸一行は家康の駿府城にいます。
昌幸の弟・信尹は、徳川家で結構うまくやっているようです。
月代を剃った頭と洗練された衣装から、彼の徳川家への溶け込みぶりが見て取れます。
その弟経由でしょうか。ちゃっかり城の絵図面まで手に入れた昌幸は、駿府城を攻めるシミュレーションまでしています。
ここで記憶を取り戻しかけている松姉と信幸によるコント。
「ここはどこ? 私、思い出せない……」
「いや姉上、だってここ初めて来る場所で」
「やだ〜早くいってよぉ!」
「それでこそ姉上だ〜〜〜!」
と、しょうもないやりとりではあるのですが、ストレスまみれの大坂城の場面にはない癒やしを感じることができて大変ありがたいものを感じます。
一方家康は、真田の動静を探る者が欲しいと本多忠勝に打ち明け、忠勝の愛娘・稲を真田家に嫁がせたいと言い出します。
子煩悩なイクメンである忠勝は、目の中に入れても痛くないほどの娘を差し出せと言われ、苦しみ抜きます。
柱をガンガン殴りつけ苦しむ忠勝は、信幸が厠に行くあとをつけてじっと後ろに立ちます。
名高い猛将・本多平八郎に見られながらの用足しという、結構厳しいミッションをこなす信幸です。私なら出るものも出なくなりそうですが。
家康からのこの縁談を持ちかけられた昌幸は、すでに信幸には、昌幸の兄(信綱)の忘れ形見であるこうが正室だから、と渋ります。
しかし家康はますます強く迫ります。信幸は何も言えないのですが、おこうを離縁しろと言われた時は表情が動揺しており、彼の妻への強い気持ちがわかります。
真田一家だけになった場面で、信幸は泣きそうな顔で断ってくださいと父に頼みます。
しかしこの父は「この縁談は使えるな」とノリノリです。このあとの展開を考えると、昌幸は後悔しそうですが。
ここは泣いてくれ、と昌幸は息子に迫ります。
それにしてもこの縁談のBGM、やたらと雄壮です。
忠勝も娘・稲の説得に苦労します。
吉田羊さんはいつもより高いトーンの発声で、若い娘らしさを出しています。トーンは高くても凛としてキャピキャピしていないのは流石です。
頑固な稲は父の説得にいったんは折れた……かのように見えたのですが、「やっぱり嫌!」と父を突き飛ばしてしまいます。
どう説得したのかは謎ですが、次の場面では信幸と稲が顔を合わせます。
当人同士は堅い表情ですが、周囲は「これは良縁じゃ〜」「おめでとうございま〜す」と前のめりです。
気の毒なのはおこうさんでしょう。
彼女と同じように、正室には落ち度がないにも関わらず、政治的な理由で一方的に強引された女性と言えば、二年前の『軍師官兵衛』の黒田長政夫人・糸がそうでした。
ところがあの作品ではそうありのままに描くと主役の官兵衛が悪く見えることを恐れたのか、糸がおかしな言動をするように描き、糸側に離縁の原因を押しつけていました。
そうした姑息な手を使わず、主人公の父であっても悪いときっちり描く本作は誠実です。
真田信幸" width="370" height="320" />
三成「清正は九州征伐に向かうから大丈夫じゃ」
大坂城では、ゴシップ好き上司・平野長泰がくっちゃくっちゃとスルメのようなものを食べながら、信繁と茶々様あやしいよね~と噂を流しまくります。
この危険なゴシップを加藤清正や片桐且元が聞き出し、ついに秀吉の耳にまで入ります。
おまけに蔵デートの一件を且元が秀吉に報告してしまい、信繁は釈明する羽目に。なんとか口舌で乗り越え、かえって且元が怒られる結果になりました。
しかし、これで信繁の疑惑が晴れたわけではありません。
茶々に呼び出され、今度は花見デートをすることに。茶々は無邪気な様子で、亡き母が好きだった山吹を信繁に手渡します……大丈夫でしょうか。
この場面を見ている加藤清正を前にして、開き直ったのか信繁は見せ付けるようなポーズをします。
信繁はきりにデート疑惑を追及されます。
しつこく「綺麗な人だし、男なんだから、やっぱ気になるでしょ?」ときりからせっつかれ、「まあ少しはときめいちゃった」とデレる信繁。
実はきり、なんと秀次に頼んで信繁の噂の火消しをしてもらおうとしているのでした。きりちゃん、最近本当にしっかりしてきたなあ。
秀次はきりの頼みならばと上機嫌ですが、清正の誤解を解くのは無理と言い切ります。
しかしここできりにまた念を押され、対策を考え石田三成に書状を書く秀次です。本当に彼は気さくで人がよい性格です。
秀次の書状を受け取った三成は「これ以上不可解な連続殺人が起こったら困るから」とかなんとか言い訳しつつ、清正を九州征伐に送り込んで殺人の隙を与えないように言います。
二人の話を聞いていた大谷吉継は、清正の九州行きは既定路線だったとネタ晴らし。さらに将来的に秀吉は、朝鮮経由で明を攻める気だ、と大きな計画もちらりと漏らします。
ラスボス秀吉がよくもわしを騙したな!(ゴゴゴゴゴ……)
聚楽第はついに完成し、秀吉、茶々、信繁、三成、大蔵卿局らが到着。
その席で茶々は「また蔵デートしよっ」と、つい漏らしてしまいます。
溢れだす秀吉の殺気、誤魔化そうと雑談を始める周囲、関わりたくなさそうな顔で去って行く三成。
下がらせられる大蔵卿局。取り残される疑惑の男女である信繁と茶々。
そして、ラスボスの風格の秀吉(ゴゴゴゴゴ……)。
よくもわしを騙したな!と信繁につめよる秀吉。互いにかばい合う信繁と茶々。
史実をわかっていても、もう重ねて四つにされるんじゃないか、今週で最終回じゃないか、と思ってしまうほどです。
何が恋路だ、これじゃ地獄だ!
秀吉はここで茶々を呼び、信繁を完全に無視して口説きモードに入ります。
おっと、これは聞かされる信繁もきつい。「これからお前を幸せにする」、「今まで見てきた忌まわしいものの何倍もの美しいものを見せる」、「それが償いだ」、「茶々は天下人の妻となってくれ」、と告白タイムです。
さらに2016年現在もおなじみの、若い相手と不倫するゲスおやじ定番テンプレ台詞「妻にはもう女を感じないんだ、いやらしいことをするならお前がいい!」も披露。
しかし、ここで最重要であるプロポーズは、茶々には「死ぬ時に一番幸せな女だったと言って欲しい」という言葉でしょうか。
この場にいる男で茶々の最期に殉ずるのは秀吉ではなく、信繁です。さて彼女は死の直前に、幸せであったと人生を総括できるのでしょうか。
「同じ日に死ぬの」に対して否定はせずに……
こうしたすったもんだを経て茶々は、秀吉の側室になることが決まりました。
寧もこの報告には複雑な顔です。
季節は桜が満開の春、うら若い茶々は愛くるしく、聚楽第の景色は絢爛豪華です。それなのになぜこうも不吉なのでしょうか。
茶々は信繁の配置替えも了承し、「かっこわるい」とちくりと嫌味を言います。
さらに彼女は信繁の顎を手に取り、私たちは不思議な糸で結ばれている気がする、離ればなれになってもあなたは戻ってくると言います。
彼女と信繁はこう続けます。
「そして私たちは、同じ日に死ぬの」
「……遠い先であることを祈っております」
ここで信繁は、「そんなわけない」「遠慮します」など、否定の言葉は口にしないのでした。
茶々は山吹の押し花を信繁に渡して、別れを告げます。
信繁から報告を受けたきりは、「あの方が怖い」と勘の鋭さを見せます。さらに茶々の渡した山吹をなんと飲み込んでしまうきり。てっきり梅の六文銭とともに信繁が最期までお守りにするのかと思ったら、あっさりきりの胃の中に消えました。
きりちゃん、GJ! 突拍子もないけど、おもしろい子ですね。これで信繁と茶々の没する日がずれてしまうのかも。
茶々が大蔵卿局に側室になることを決めた理由を語る場面では、桜が吹雪のようにひらひらと散っていました。
そして装いを改めた茶々が、いよいよ秀吉の側室となる日は雷鳴が鳴り響き、桜が雨に打たれています。
三成は「この縁組みは信長公を越えるということ。これから殿下はどこに向かうのか」とつぶやきます。
ここで名物となった、死神ナレーションが響きます。
幸せそうな秀吉と茶々の上に、「これは間違いなく、秀吉政権が崩壊に向かう一歩であった」と重なるのでした。
今週のMVP
これはもう文句なしで茶々。
茶々は哀しむことをやめたと言いますが、実のところ彼女の宿命についても、制作側は気づくことをやめているような作品もあります。
あまりに悲惨な彼女の境遇を無視し、うまれながらの悪女とし、秀吉を堕落させる女として描く作品です。
しかし、彼女に一体、どれだけの選択肢があったというのでしょうか。
本作の彼女は、不幸な生い立ちと、自ら意図しないにも関わらず、周囲を破滅に巻き込む毒の部分、両方あるキャラクターとしてきっちりと成立しています。
最期のときまでこの哀しさと可憐さを持つ女性として、本作の彼女は歩んでゆくのでしょうか。
キャピキャピしすぎと批判的な声もあった竹内結子さんの演技ですが、今週まで見るときっちりと演技プランがあってのものとわかります。
衣装も立場も変わる来週からは、落ち着きと威厳が増した姿が見られそうです。
総評
ロマンチックなサブタイトルに反して、中身は苦い今週でした。
そして兄弟それぞれが、運命の女より、むしろ女の姿をした運命とも言うべきヒロインに出会う週でもありました。
甘い恋心が入り込む隙もないような、BGMまで殺伐としていた信幸と稲の縁談。
甘ったるくも毒に満ちていて、いったんは消えたように見えながらも、信繁を死へと導く茶々との淡い恋。
大河で恋愛を描くことそのものが悪いのではありません。
このようにのちの歴史や主人公たちの運命を描く展開であればむしろ大歓迎です。
大きな歴史のうねりには、こうした恋や人情が流れる小さな支流があります。
それにしても恋路が気の毒であるのは、真田兄弟よりもむしろ茶々です。
親の仇のような男に抱かれ庇護されて、その夫の死後は気高い未亡人であることを求められる茶々。
恋する機会があったかどうかもわからない彼女の人生に、疑似恋愛でもよいから信繁がちょっとしたロマンスを添えるのは、それはそれでありなんじゃないかと思いますよ。
物語はまだ折り返し地点でもないのに、既に心は大坂の陣で彼女や信繁がどう振る舞うのか、気になってしまうのだから今年の大河は実に求心力があります。
先が読めぬ恋路にはまっているのは、作中の人物だけではなくファンもそうかもしれません。
『真田丸』という作品に恋してメロメロ、そんな視聴者は今このときも増えています。
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著・武者震之助
絵・霜月けい
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真田丸感想