「槍で胸を刺されたのに、そのまま会話できるのっておかしくないですか? 医学的に即死じゃないんですか?」
そんな突拍子もない質問を担当の編集さんから持ちかけられたのは、大河ドラマ『おんな城主 直虎』の放送後でした。
同ドラマで、井伊直虎を演じる柴咲コウさんと、小野政次を演じる高橋一生さん。
この二人が表向き対立することになってしまい、すったもんだの末、小野政次が捕らえられ、磔にされてしまいます。
本来は心が通じ合う二人なのですが、ともかく衝撃的だったシーンがその直後です。
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槍で心臓をズブッ!
直虎が、政次の心臓を槍でズブッ!
そのまま息絶えるかと思いきや、高橋一生さん演ずる政次は、息も絶え絶えに直虎を睨みつけながら、口から血を吐きながら、最期のセリフを絞り出す。
「お前こそが井伊の未来だ! 生き抜け! 家老の俺がいなくとも生き残れ。絶対にやり遂げろ。地獄の底から、見届けるぞ……」
あまりに壮絶なこのシーンに視聴者の多くはボーゼン。
放心して翌月曜日は仕事が全然はかどらなかった――と、私の周囲では溜め息が漏れておりましたが、一人、小憎たらしいばかりに冷静だったのが、その担当編集サンです。
冒頭で述べたように、
「なんで話せるの? 即死じゃないとかファンタジー?」
とまぁ世の中にはヒネくれ者がおるもんですね。
わかりました。
1569年5月3日(永禄12年4月7日)は小野政次の命日でもありますし、ここは医学的見地からあの名シーンを分析してみたいと思います。
今回のテーマは「ドラマにおける小野政次の死因を考える」です。
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“磔”は打ち首よりも重い罰だった!?
直虎ファンの方はご存知かもしれませんが、小野政次の最期について、史実とドラマは異なります。
大河ドラマでは“磔”にされた政次でしたが、実際には井伊谷の蟹淵(静岡県浜松市)で斬首されました。
斬首であればほぼ即死ですので考証の余地がありません。
ちなみに史実では、政次の処刑から一ヶ月おいて幼い息子2人も殺されたそうで、独身設定であったドラマとは異なりますね。
話を磔に戻します。
江戸時代のことになりますが、庶民に課される死刑のうち、磔はきつい罰でした。首を斬られる刑罰より重い扱いです。
たとえば首をはねる刑罰(下手人、死罪、獄門)は、座敷牢の中など人目に晒されないところで行われます。獄門はその後、さらし首になりますけどね。
これに対し磔は、死ぬ場面も「公開+即死せずに苦痛が伴う」ため、より重い罰となるのです。
江戸時代の磔刑の手順は、ざっとこんなもんです。
執行役の二人が受刑者の左右に立ち、まずは槍を受刑者の面前で交差させた後、掛け声をかけながら右わき腹から左肩に向けて一突き!
今度は左わき腹から……という具合で20~30回も繰り返した後に喉をついて終わる形式でした。
いかにもムゴたらしく、死ぬ方の苦しみもキツそうですが、たいていの場合は外傷性ショックか出血のために、数回突かれて絶命していたそうです。
まぁ、それでも痛々しいですけどね。
ではドラマの映像を見直してみましょう。
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