天文17年(1548年)、尾張の海――。
漁船に乗った若者が上機嫌そうな表情でやって来ます。
菊丸が告げました。
「あれが織田信長様です」
漁船から上機嫌そうに登場した織田信長。
視聴者困惑の声が聞こえてきそうですが、私は最高だと思います。
魚が釣れたぞ! 大漁だ! わぁい! 大きな一匹を担いでとっても楽しそうだぞ!
民を従え、わくわく魚釣り! いいね、信長くん、トモダチは魔法だね!
奇妙な男との出会い
明智光秀は戸惑っております。
「織田信長……」
はい、ここでうつけチェックタイム。信秀の気分でどうぞ。
信長うつけチェック
「危険だろうが!」
信長……そなたは身分ある立場ぞ。拐かし、謀殺をされたらいかがする! そなた一人の問題だと思うか? 護衛、何よりも平手政秀が腹を切るぞ。そういう空気を読めぬのか、このうつけがぁ!
→信長くんは、きっと自分の行動が周囲にどんな影響をあたえるのか、あまり考えずに行動しちゃうんですね。
先回りして対処するか。遠巻きに護衛でもするしかないですね。
彼自身を変えるのは難しいので、周囲が対処を覚えた方が早そうです。
そして、信長くん。魚を自分で捌きます。楽しそうだな!
当時、中学生くらいですので、そこは見守りましょう。
※編集部注 ドラマの舞台は1548年で史実の信長は天文3年(1534年)5月28日生誕説
-

織田信長の生涯|生誕から本能寺まで戦い続けた49年の史実を振り返る
続きを見る
「一切れ一文(=150円)じゃ! 市に持って行けば、高く売れるぞ、はっはっは!」
「いつもありがとね!」
現代のアメリカでは、子どもが自作レモネードやクッキーを売る風習がありますね。
幼くして、そうやって経済の仕組みを学びます。信長くんは、お小遣いがたまってうれしそうです。
いい子だな……いや、これ、戦国時代の尾張だから!
「お前はいらぬのか?」
信長くんは、見慣れぬ顔の光秀に興味を抱いたようです。光秀が唖然として瞬きをしていると、露骨につまらなそうな顔になっています。ノリ悪いな〜。そういう顔です。
信長うつけチェック
「露骨に顔に出すなあ!」
信長……しょうもない不機嫌さを顔に出すな! 感じが悪いぞ、周囲が不安になるだろ! まぁ、相手もなんだか割と露骨に顔に何か出ちゃってるけどな。
→信長くんは、きっと自分の言動が周囲にどんな影響をあたえるのか、深く考えずに行動しちゃうんですね。光秀くんにも、ちょっとそういうところがあるかな? 仲良くなれるといいですね。トモダチは魔法だよ!
信長は片付けをして、刀を持って帰るようです。一応、武器は持参して、対処は考えている様子。
魚を売る信長も、豪快を通り越してうつけでして。脚をガバッと開いて無頓着に座っていて、リラックスしていると思えます。毎朝来ているらしく、爽やかなスケジュールに組み込まれているのでしょう。
「信長すごーい。民の心を学んでる……」
いや、そんなに情に篤いかどうかわかりません。純粋に魚でお小遣いを稼いで、なんか楽しいだけかもしれない。
朝一番で魚を撮って、それでお小遣いを稼いで、市場でなんか美味しいものを食べる! そうしないと一日が始まらないもん! そういう気持ちかな?
確かにこれは誰も見たことがない信長です。
視聴者の9割が最低5回は絶望する信長像になりそうですが、応援して見守りたい。
「織田信長……奇妙な男じゃ……」
光秀のつぶやきに、視聴者も納得しかないと思います。
初登場が凛々しい、鳥肌ものだのなんだの、そういうニュースがありましたが。
凛々しい? それは先入観ではありませんか? こんなレモネードスタンドに立つアメリカ人少年じみた信長くんを、本気でそう思えますか?
まだまだこの信長の人生は、始まったばかりだ!
で、かわいいとか言われているこの信長ですが。似たような奴を見つけてきたんですよ。ね、かわいいんでしょ?
※かわいい!
でも……かわいいと思っていると殺されかねないわけです。やはり、そこはだいたい信長と同じですね。
帰蝶に【乙女心】はあるのか?
ここで、明智荘での帰蝶と駒に移りまして。
はい、この二人。いろいろ言われてはおります。
・帰蝶は硬くて色気不足
・駒は要らない……
さて、どうでしょうか。ここで二人が並んで話すことにより、対比の意味がハッキリとして来ます。
身分だけの話ではない。心を見てみましょう。
駒:普通の女の子
帰蝶:普通じゃない女の子
帰蝶については、
「凛とした女心だね!」
「乙女だわ〜」
とは言われます。ゲームやフィクションでの彼女は、セクシーな造型が多い。けれども、ここで先入観を捨てましょう。
かつて、男は火星人(マーズ、戦争の神)、女は金星人(ビーナス、美の女神)だなんてベストセラーがありました。21世紀現在、否定されております。その意は後述するとして、帰蝶の幼い頃の話が始まります。
帰蝶の思い出「私が泣いたこと」
駒はそれを聞いて、今でも十兵衛様がお好きなのかと感極まった顔ではあります。おそらく視聴者もそうでしょう。ここで駒は「そなたはどうじゃ」と聞かれて「困りました」と答えます。
帰蝶は即答します。困ることはないと。
ここから帰蝶の超展開だ。
「十兵衛は今、尾張じゃ。尾張に行き、この帰蝶が嫁に行くかもしれない相手を調べておる。相手の良し悪しなどわかるわけがない。そうは思わぬか? 嫁に行かせたくないのなら、調べには行かぬ。そう思わぬか? それゆえ、そなたが困ることは何もない」
どういうふっきり方だ、おい!
駒としては、女子トークをしたいとは思います。お互い十兵衛様が好きな女同士、何かいろいろ語りたい。
本作のハッシュタグつき投稿も花盛りでしょう。艶、演技、色気、おいで砲。毎週毎週花盛りだ。
ところが、帰蝶はそういうトークを全然必要としていない。
そもそも、その泣いた話だって、誤誘導されてませんか?
帰蝶の思い出「私が泣いたこと」(ツッコミ入り)
私も幼い頃はよう泣いた。
(でも、泣き虫十兵衛ほどではない?)
泣かぬと思うであろう?
(自分の強さを理解してる!)
あれは6つか、7つのこと……。母上に、蜜漬け栗をもろうた。一つは母上。もう一つはお気に入りのものにやれと仰せられて、なかよしであった十兵衛にやろうと思うて、大事に自分の手文庫に入れておいた。それを兄上が見つけて、ぺろりと食べてしもうた。
口惜しうて、口惜しうて、声を上げて泣いた。
(十兵衛への恋心ゆえだという見方が一般的でしょうし実際それもあるけど、予定変更に動揺していた可能性もあるのでは?)
次の日、十兵衛が城に来たゆえ、十兵衛が来るのが遅いと泣きながら叱りつけた。
(十兵衛は何も悪くないんだよ! 責任転嫁するなよ!)
その時の十兵衛の困った顔を、今でも覚えておる。昔の話じゃ……。
(実際、十兵衛は困っているんだよ!)
めんどくせえ。帰蝶、めんどくさいぞ!
帰蝶は、自分の中で「十兵衛はもうどうせ結婚できないし、踏ん切りつけばいっか!」とバッサリ納得して、切り替えに突入しております。実はそこまでダメージを受けてもいないとみた。
そんな乙女心いやだ!
という気持ちもわかりますが、結局、蝮(斎藤道三)の娘なんですよ。
-

斎藤道三の生涯|二代に渡る下剋上で国盗りを果たした美濃のマムシ63年の軌跡
続きを見る
利政と帰蝶に似たタイプの父娘として『キック・アス』のビッグダディとヒットガールがおります。
娘のプレゼント希望を父が聞いて、娘がかわいい子犬と答えると、父は動揺する。娘は笑って、バタフライナイフだと言い切る。そこで父はやっと納得します。
※やったぁ、お父さん大好き!
そういうぶっとんだ性格だと理解した上で、尋ねてみたいことがある。
あなたは、帰蝶と結婚したいですか?
あなたは、帰蝶とお友達になれますか?
帰蝶は、金星からやって来た、ビーナスの女の子ではない。ですから帰蝶がサバサバして見えるのであれば、役の理解として正解ではないでしょうか。川口春奈さんは正解を演じている。
駒が無意味に見えるって?
彼女は金星の女の子です。帰蝶と比べると、両者の個性がわかりやすくなるのです。
牧が説く【婦徳】
木助は、牧に光秀の帰宅を告げます。しかし、いつもと様子が違い、光秀は外で考え込んでいるのです。そこへ牧が見に来ます。
「十兵衛、何を迷うておるのじゃ」
「帰蝶様のお相手を見て来ました。浜辺で獲って来た魚を切って、一切れ一文で売っていました。あの男に嫁ぎなされては……しかし、この国のことを思うと……」
光秀は誠実かつ素直なので、あんなよくわからないビーチエンジョイ信長でよいのかと悩んでおります。
ここで注意したいこと!
光秀は帰蝶の恋心に気づいていないし、信長に嫉妬心なんてちっともない。
この光秀は、鈍感だの、女心に鈍いだの言われております。しかし、その何が悪いのか。これは朝ドラレビューでも突っ込みましたが、なぜ誰も彼もが“モテモテ前提”で生きていると思うのだろうか。ここは指摘したい。
好きだと思いを寄せられても、困惑するタイプの人間もおりますよね。漫画やゲームで学んだのか。そうではない人にまで押し付け「隠キャ」とか「普通じゃない」といった類のディスりを入れるのは余計なお世話というものでしょう。
話を牧に戻します。彼女は、ここで儒教道徳的な【婦徳】を語ります。
「そなたの父上が亡くなられたとき、人はよい人でも、いくら添い遂げたくとも、一緒に消えてしまうのはできぬことじゃとつくづく思った。生き残り、子を育て、見守っていかねばならぬと。人は消えても、あの山や畑は変わらずそこにある。そのことが大事なことじゃと。変わらずあるものを守っていくのが、残された者の力かもしれぬと。十兵衛、大事なのはこの国ぞ」
これは儒教という東洋的なもののようで、普遍的なものだとは思います。当時のどこの貴婦人だろうと、そういう気持ちはあるはずなのです。
出来の悪い大河ドラマでは、政略結婚を敵視したものです。歴史的に見ると、領主階級でありながら恋愛結婚をするとひどい目に遭うものです。
一例として、時代的に近いイングランドのエドワード4世とエリザベス・ウッドヴィル。
政略結婚を無視して結婚した結果、ヨーク朝が滅びる一因となったとされています。
-

銃撃の上にメッタ刺し|なぜ美しきシンデレラ「ドラガ」は虐殺された?
続きを見る
シェイクスピア、菅野文氏『薔薇王の葬列』でもどうぞ。
※BBC『ホロウ・クラウン』
『ゲーム・オブ・スローンズ』のロブ・スタークの破滅も、この結婚がモデルとされております。
※あまりに苦いその結末……(閲覧注意)
日本独自かどうかだけではなく、もっと広い目で捉えてみることが大切ではないでしょうか。
地球儀を回すような気分で、人間が普遍的に持つ観念がどう変貌していったか? そこを意識すると、このドラマはもっと楽しくなるはずです!
人間は、感情よりも秩序が大事なこともたくさんあるものです。
乙女ゲーと少女漫画は忘れてください
覚悟を決めて十兵衛は明智荘に戻ります。そして帰蝶の前に来ます。
「十兵衛でございます」
「入れ」
光秀は入り、丁寧に頭を下げます。
「尾張に行って参りました」
「尾張はよい所か?」
「……海が美しい所でございました」
「海か。美濃には海がない。行って見てみるか。十兵衛の口から聞きたい。行ってみるべしと」
「行かれるがよろしいかと」
「申したな……この帰蝶に……」
「尾張へお行きなされませ!」
「十兵衛が申すのじゃ。是非もなかろう」
馬に乗り、城へ帰る帰蝶です。ここで十兵衛は書物を片付ける。見送りすらしない。
はい、ツッコミどころ満載ですよね。
最大のものは……「信長のチェックをするんじゃなかったの?」でありましょう。
けれども、帰蝶本人も断言していた。
よい人かどうかなんで、判別できないってさ。
思い出しましたよ。『アナと雪の女王』のエルサです。妹のアナが、ハンス王子と結婚したいと言い出すと、そんなもん会ってすぐわかるわけがないと突き放しました。
※エルサが正しかった
最近のディズニーは、かつての自作に突っ込んできている。
王子様とお姫様が出会って一目惚れ?
ないない、わかるわけない。
そういうリアリズムに本作も突っ込んできた。
じゃあなんで帰蝶は見に行かせたのか? 混乱しますよね?
彼女なりに踏ん切りをつけたかった。行ったことで、もう縁は終わった。利政同様、理詰めで説得しろと言いたかったのでしょう。
素直に行くのであれば、こういう流れでよいでしょうね。
光秀、信長を見る「すごいオーラ! 意気投合! プッシュしなくちゃ!
↓
帰蝶「はぁ……光秀好きぃ……」
↓
光秀「信長を確かめました! 嫁がれるとよいです(ドヤァ……)
↓
帰蝶「寂しいけれど、そういうなら嫁ぐ。だからハグとキスして!』
↓
視聴者「きゃ〜胸ドキドキキュンキュン!」
そういうのは乙女ゲーか少女漫画だけでいい。それに、本気でそれをやると、2015年のアレになる。それでいいんですか……!
もう一度確認しますが、むしろ本作の光秀は、色気から程遠い人物ですよね。
それの何が悪いのか?そこが光秀の素敵なところであり、魅力であり、不幸の源泉なのです。
蝮のハイテンションタイム
はい、ここでハイテンションになっているのが斎藤利政(斎藤道三)です。
「でかした十兵衛ぇ!」
ほんとうに本木雅弘さんてば、素晴らしいですね。別の番組で見た時、むしろ穏やかでゆったりと喋っていて、驚きましたよ。
でも蝮だと、腹の底からハイテンションな声も出せる。
蝮は元気いっぱいです。ちゅーるを見つけた猫のようにキラキラしてる。
「十兵衛、帰蝶が嫁に行くと申したか! あの帰蝶が! でかした、ようやった!」
斎藤利政は、感情をセーブする。
それだけにいったん溢れてしまうとテンションがハイパーになって、叫んだり場合によってはスキップしそうなくらいはしゃいでしまうのでしょう。
『真田丸』の真田昌幸は、むっつり黙っていたのにいきなり立ち上がって「チクショー!」と叫んでいました。いきなりハイテンションになるんです、こいつらは。
※シャウト昌幸
そしてここで、ちょっとしたポイントですけれども。
叔父上こと明智光安。
彼は普通の反応です。
「帰蝶様がわしの所へ参り、伯父上、帰蝶は嫁に参りますと頬を染めて申したのです」
光安は嘘をついているのでしょう。あの帰蝶が頬を染めつつ、そんなかわいいことを言う性格じゃない。もし、実際にやっていたとしたら演技でしょう。あるいは光安の脳内補正か。先入観か。
若い女の子が結婚の話ともなれば、頬を赤くするというバイアスがある。
このバイアスは、光安ではなく視聴者もあることは踏まえたほうがよさそうです。
『真田丸』といえば、長澤まさみさが演じた“きり”のことを覚えていらっしゃいますか。
「現代人のよう」
「ガサツでうざい」
さんざんそう叩かれました。
あえてそうするよう脚本演出がそうなっておりましたが、現代人目線を持たせるためにそうしたのか? ここも大事で……。
信長に対しても、出演者から「あまりに現代っ子」という感想があります。
しかし、そこで終わらせては勿体ない。
現代にしかいないのか?
それとも古代からいるのか?
いたとしても「こいつはおかしい」と幽閉なり、殺害なり、記録抹消なり、消されてしまっていたのか?
そこまで考えてみても興味深く、社会的なメリットもあると思います。
『ゲーム・オブ・スローンズ』には、ティリオンという人物が登場します。彼は「インプ(小悪魔)」と呼ばれており、小人です。
作中屈指の知性の持ち主ではありますが、小人という時点で表舞台に出られなかった可能性は高い。大貴族の男子だからこそ、ああして活躍できた。
そうです。
普通じゃない人はいつの時代にもいるのです。
彼らを消すか、活かすか――それは時代の進化による。そこを世界的には考えるようになってきています。
光安は自分の功績をさりげなくアピールしたい。利政はそこを一応は認めてすぐに流し、尾張で見た信長の感想を知りたがっております。
「噂では相当なうつけものだという。そうか?」
「風変わりですが、うつけかどうかはわかりませぬ……」
光秀は正直ですし、とても勇気がある。
自分の見解を言えばよいのに、そうしない。光安タイプならば「はい、うつけです」でおしまいでしょう。
いわば王道ならば、キリッとした顔でこういうことを言わせればよい。
「うつけ……いや、わしには何かただならぬものを感じました。帰蝶様にふさわしき方かと」
「うむ……さすが十兵衛じゃ!」
BGMをジャカジャカ流し、はい、おしまい。
けれども、実は利政には結論は出ており、確認に過ぎないのです。
・(うつけかどうか)それはいずれわかる。信秀が家督を譲ったのは、己が重病だから
・信秀さえ片付ければ、信長などどうにでもなる
本作は後付けの神目線を使いません。
利政なりに分析済み。
信秀の弱体化を見越して、帰蝶を嫁がせ、海のマネーを狙う。それが一気に片付いて、こんなにもハイテンションで喜んでいるのです。
大物の光秀と信長、その出会いに鳥肌が立ったと思うのだとすれば、それは後付け。二人とも、当時はまだただの若者に過ぎません。
むしろ高政には【乙女心】がある?
ここで、足音をドスドスとたてて、武士がやって来ます。斎藤高政(斎藤義龍)の配下です。
「御同道いただきたい!」
あー……なんだかお怒りのご様子。外まで連れ出されると、そこには国衆を従えた斎藤高政本人がおりました。
ここの緑。三月ともなると、放送当初言われていた尖り過ぎた色合いがかなりこなれてきました。
「帰蝶が明智の館を出て、稲葉山に戻ったと知らせがあった。何故引き留めなかった! 裏切ったな? 一緒に来い。従わねば斬る!」
家臣団の鯉口を切る音がする。
殺すと脅されてます。
光秀の人生は、ずっとこんな調子ですか。かつては、帰蝶に栗をやりたかったから早く来いと言われた。そして今はこれ。そんな人生に嫌気がさして本能寺の変になるのかな。心理的ストレスはかなりあるのでしょう。
-

なぜ光秀は信長を裏切ったのか「本能寺の変」諸説検証で浮かぶ有力説
続きを見る
でも、高政にも言い分はあるんです。
第3話で、光秀は高政に味方すると誓ったわけですから。
-

麒麟がくる第3回 感想あらすじレビュー「美濃の国」
続きを見る
乙女心って、乙女だけのものでもない。帰蝶よりも、高政の方が光秀への情熱を意識していると思えます。別にBLにしろというわけでもない。むしろ、光秀に寄せられる思いって、恋愛かそうでないかの垣根を超えている気がしてます。
光秀がかわいそうではある。
老若男女から、いつのまにか熱烈な思いを寄せられ、それで「裏切ったのか!」と傷つかれる。逆恨みされかねない。ストレスが溜まることでしょう……。鈍感にならないと、心理的にしんどくてたまらないと思う。あの鈍さは自己防衛です。
土岐頼芸は心を操る
連れて行かれたのは土岐頼芸の館でした。
「明智十兵衛面をあげよ、わしの顔を覚えておるか?」
「おそれながら……」
-

土岐頼芸の生涯|斎藤道三に国を追われ武田信玄に拾われた美濃の戦国大名
続きを見る
頼芸は、幼い頃、父に連れられて鷹を見にきたことがあったと言う。しかし、それは何歳のとき?
と思ったら、二、三歳の頃でした。
すかさず光秀は言い切る。
「二、三歳ならどなたのことも覚えてはおりませぬ、申し訳ございませぬ」
真面目だなぁ。不器用だなぁ。おべんちゃらでも、軽く嘘をついて、なんでも言えばいいと思います。
そうそう、まだまだ出てこない秀吉ですけれども。
ご存知のように光秀最大のライバルです。ここが器用で、ちょっと不真面目で、それこそ【人たらし】の真骨頂になると予想します。
佐々木蔵之介さんが演じていて、ともかくチャラく人の心をとかす。コミニケーション能力で天下を取る。宴会幹事はこいつに任せろ、パリピ秀吉!
理想的なようで、不器用な光秀の目線になると、なんだかちょっとゲスで嫌な奴だと思ってしまう。そういう人物像になりそうです。
両者ともに賢い。でも、そこが違うのだと。
令和の三英傑
信長「ピュアだからなんかホトトギス殺しちゃう」
秀吉「パリピの前だとホトトギスも踊る」
家康「先輩がどうやってホトトギス対処するか、観察してる……」
さて、話を戻しますと。頼芸もコミニケーションが得意ですので、鷹狩から話を展開します。
-

信長も家康も世界も熱中した鷹狩の歴史|日本最古の記録は仁徳天皇時代
続きを見る
光秀に鷹狩りについて尋ねて、叔父・光安の名前が出るとこうだ。
「ねえみんなぁ〜、光安感じ悪くなーい? 好きな人いるなら手を挙げて〜マジかよ、一人もいないし〜」
そこはしっかり流麗な時代劇口調ですが、感じの悪さを出すとこんなノリです。すみません、池端氏の美麗な言葉をふざけさせて申し訳ない。
「なんでかわかる? 斎藤利政のパシリになっててダサいから。でも、きみはちがうでしょ? 土岐源氏につながるプライドがあるわけでしょ? なのにどうして帰蝶を稲葉山に戻すかなぁ? 空気読めよ」
うっわー、感じ悪い。光秀は鈍感で正解です。敏感だったら展開が変わりますね。
-

史実の明智光秀はドラマのような生涯を駆け抜けたのか?本能寺までの足跡を辿る
続きを見る
帰蝶が信長に嫁ぎ、手を結んだら、今川義元と戦うことになる。義元が手強いこともあるけれども、頼芸の本音は自分の頭越し、腹ひとつで決められたことが不愉快なのです。プライド問題、空気読めよ蝮。
光秀は迫られる。
「利政の横暴は許さぬ、そのことを肝に銘じよ。今からでも遅くない、織田との和議を潰すのじゃ! 帰蝶を稲葉山城から連れ戻し、織田への嫁入りを拒むのじゃ! それがそなたの役目ぞ、十兵衛!」
しょうもない……義元の危険性を説くのであれば、まだしも光秀は聞いたかもしれないのに。彼には通じません。
そして考えたいことがある。
プライドを傷つけられたくらいで、和議を拒むことは愚かそのものに思えるとすれば?
それこそ現代人だからかもしれません。
時代的に近い、イングランドのヘンリー5世。シェイクスピアの歴史劇では、フランス侵攻の理由がプライドの問題です。
ヘンリー5世は、イングランドの織田信長といえるかもしれません。若い頃はフォルスタッフと遊び回る「うつけ者のハル」であり、父を嘆かせました。
即位後、フランス大使からフランス王太子(ドーファン)の贈り物として、箱いっぱいのテニスボールが届きます。うつけは我が国と交渉なぞせず、遊び呆けていろという嫌味です。
これに激怒し、彼はフランス侵攻を決めます。
名場面ではあります。欠かせない場面です。ただ、あまりに馬鹿馬鹿しく、短絡的でもある。そんな箱いっぱいのテニスボールで、戦争をするって! 野蛮の極みといえば、そうではありませんか。
それなのに、シェイクスピアは英雄王の怒りとして描いた。当時、この決断は愚かなことではなかったのです。
※BBC『ホロウ・クラウン』より
頼芸が極めて愚かで短絡的なのではありません。
光秀がむしろ時代を超越した感覚があることを、ここで認識していただければと思います。
光秀の主張、高政の傷心
光秀は反論します。
◆同盟には価値がある!
熱田を見てきました。あれほど大きな市場は、美濃では見たことがない。珍しきものがある。熱田の港と海もすごい!
たくさんの船が来て、諸国の産物をおろし、市場でさばき、尾張で手に入れた品々を運ぶ。
日々それを繰り返すことで、尾張は豊かになる!
そういう国と戦をしてきた。
けれど、それで豊かになるのであれば、血の一滴を流さずそれができるのであれば、それはそれでよいのではと。
今川義元が尾張を手に入れたい理由はわかる。攻めあぐねている。それを血を流さずにできる!
光秀はそう説く。
光秀は賢い。それだけではなく、人の心を動かしたいと願うし、血の流れるところを見たくない。そういう人物なのです。
けれども、高政には納得ができないのです。
◆そういうことじゃない高政の誇り
尾張を支配するのは斯波家。
金がある? 港がある?
斯波家の一家臣でしかない織田信秀など馬鹿げておる!
これは潰すしかない!
そう興奮気味に頼芸に語りかけるのですが、相手はいなすわけです。
「それをそなたの父がやろうとしている」
「それゆえ、私は!」
「今日は鷹狩りゆえ、いささか疲れた。そなたの志、いたく見に染みて感じ取ったぞ。が、この話、おのおのよくかんがえ、再び相見えて議を重ねるべきかと思うが、いかがじゃ」
「しかしながら!」
高政よ……やはり、光秀の鈍感さは身を守る盾になる。高政はなまじ敏感なだけに、プライドがズタズタになりました。
これも残酷。無害なようで頼芸は賢い。手懐けた高政の心を容赦なく持ち上げ、貶め、傷つけてゆくのです。
実子説もどうでしょうかね。
-

斎藤義龍の生涯|父の道三に負けず劣らず 信長の攻撃を退け続けた実力とは
続きを見る
血統はさておき、身分においてはあの憎き利政の嫡子ですから。所詮は道具なのです。
まさか彼のために、同情心がこんなにも刺激される日が来るとは思わなかった。演じる伊藤英明さんも、どっぷり浸かってしまいますね。
このあと、稲葉良通と頼芸が密談をしております。
「十兵衛の始末、いかがいたしましょう?」
「放っておけ。斬れば利政が出てくる。今、利政と戦うて勝てるか? 暫し様子をみるしかない……」
光秀はしみじみと不思議な男。鈍感さゆえに、物怖じしない真っ直ぐな心ゆえに、周囲の状況を変えられる。
必ずしも能動的ではない。そこがすごい。
主人公となれば、水の流れをかき回して時代を変える力を期待される。それなのに、この光秀はむしろ渦に飛び込み、身を任せることで、周囲を変えてしまう。
どうしたらこういう造型にできるのか。驚かされるばかりです。
そして頼芸は、彼なりに情報を得てはいる。
「織田信秀、よりにもよって利政と手を組むとはな。よほど病が重いのか。今川義元が怖いのか。 帰蝶はあの気性じゃ。相手はうつけと聞く。もって一年、二年と持つまい……」
やはり、帰蝶は【めんどくさい女】枠か。帰蝶は変わっているのです。
父が縁談を持ってきて、話すら聞かない。
親孝行はどうしました?
儒教道徳を無視しているぞ!
頼芸が愚かであるとは思わない。妥当な判断です。
ただ、信長と帰蝶は、その妥当な判断を上回るものがあり、それゆえ気が合ってしまうのです。
そして高政は、光秀の裏切りにショックを受けています。
「こたびのこと、あいすまぬと思うておる。お主の申すこともよくわかるのだ」
「帰れ帰れ!」
やはり、この兄と妹は、兄の方が【乙女心】の持ち主に思えるのです。
女の子がみんな金星から来たわけでもないし、男の子がみんな火星から来たわけでもない。
この兄と妹は、逆だと思ったほうがわかりやすくなります。化粧をするとか、髪の毛を切るとか。そういう単純な話でもない。
【金】か【誇り】か?
高政は、母・深芳野のもとを訪れております。彼女は我が子に、頼芸様は頭痛持ちゆえ日によって気分の良し悪しがある、と慰めている。
元愛妾だけに説得力があるようで、そうでもない。
頼芸は明瞭な意思で、高政という小僧を手玉にとって、心を傷つけていたのだから。
「そなたを疎ましくお思うておるわけであるまい」
「左様でござりましょうか?」
高政は悔しい。
心の底から美濃の行く末を案じ、尾張との和議がどれほど道に外れたことか、話そうと思った。それなのに、さっさと座を外された。あれでは皆を集めた私も立場がない。恥をかきにいったようなものだと思う。そう屈辱感を訴えるのです。
でも、これって光秀の責任は重大ですよね。頼芸は、光秀の意見に道理と説得力を感じていたとはわかります。あそこで光秀が黙っていたら、結果は違っていたでしょう。
【貝合わせ】をしつつ、深芳野は言います。
「頼芸様はそなたの気持ちをわかっておられると思う。ただ、我が殿が怖いのじゃ。表立って歯向かえば殺される」
「あの下劣な男が、それほどに怖いのですか!」
「下劣?」
「金、金、金! 全て金で動く男ではありませぬか! 己の損得勘定で尾張などに嫁を出す、何の誇りもない恥知らずではありませんか!」
「自分の父親ではありませぬか!」
「あれが父親のものか! お願いです、まことのことをおっしゃってください! 私の父は頼芸様では? 頼芸様も我が子と思っておると仰せになりました。それはまことでございましょう?」
高政は悲鳴をあげるように、心から血を吹き出すように、そう母に訴えます。
同じ疑いを投げ掛けられたとき、深芳野はかつて怒った。それがもうできない。
普通の人が相手に怒り、傷つけ、悪口を言い、反論できるのは、相手が傷ついていないとき。ましてや我が子です。彼女は苦い口調でこう返します。
「そう思いたいのなら、それで満足なら、そう思うがよい。ただそれを盾として、殿に立ち向かうのはおよしなさい! いずれは、そなたに家督が譲られるのじゃ。全てはそれからぞ。母もその時を心待ちにしておる。今はじっと我慢じゃ」
本音でぶつかられて、深芳野はそう返すしかない。
悲しい女性だ。利政の前では艶かしく振る舞える。そういうことが身についてしまった。愛されなければ生きていけない女性として、媚びる術を身につけてきた。
けれども、そんな虚しい華やぎを捨て去り、老母として我が子を見守るほうが楽ではあるのでしょう。そうなる日、彼女に安らぎはないのですが……。
それと、金とプライドの問題も重要です。
金を稼ぐことは卑しい。直江兼続は、伊達政宗の小判を扇でポンポンと見て、不浄だから触りたくないと言った……という話があります。
-

直江兼続の生涯|真価は「義と愛」に非ず 史実も十分に魅力的な戦国武将
続きを見る
これも本音と建前ですよね。
何をするにしたって、金はいる。金の話をして何が悪い?
名誉と金を天秤にかけて、金金金いう奴を卑しいと思う気持ちは、これまた世界共通でして、典型例がユダヤ人です。彼らが差別される理由には、商業に強いというイメージがどうしたってつきまといます。『ヴェニスの商人』のシャイロックが典型例ですね。
現代でも【金】と【名誉】は「金よりやりがい!」という【やりがい搾取】めいた手口が渦巻いております。ただし、戦国時代と同時期に世界的にはバランスが変化しつつありまして、日本も関係があります。
ヨーロッパは、折しも宗教革命に直面しております。カトリックとプロテスタントに分かれる。このうち、プロテスタント国が商業的には発展する傾向が出てくる。
これが日本にも関係しているのです。
貿易と布教をワンセットにするカトリック教国に対して、プロテスタントのオランダとイギリスは、貿易のみをすると条件提示をしたのです。
イギリスはその後撤退し、オランダのみが残る形となります。
毎週のように書いていますが、そのあたりは『MAGI』がおすすめ。大河の上をいき、落差が厳しい作品でしたが、今年がぐんと追いついたためか、相互補完的な立ち位置にあります。
※カトリックが日本に到達します
金が誇りを脅かすという恐怖は、歴史の流れを見れば理解はできます。
江戸時代、士農工商はそこまで厳格でもありません。金で武士の身分は売買できました。
-

実はユルい「士農工商」の身分制度|江戸時代の農民や町人は武士になれた?
続きを見る
中国では、大商人が賢い子弟を勉強させて、科挙を通過させて官僚とさせることができるようになっていった。
イギリスでも、近世を動かした階層は世襲の貴族よりも、経済力を背景に大学を出て軍人や法律家のいるアッパーミドルクラスとされている。
血統よりも実力主義。そういう流れが、この時代にはありました。
恋心、よくわからぬ
光秀が明智荘に戻ると、常が出迎えます。
「おかえりなさい、今日は賑やかですよ」
駒が明日、京に帰るそうです。伝吾や村の者が来て、宴を開いているとか。牧は、もう少しいるよう訴えたものの、そなたの傷も癒えたゆえ、と言うのでした。
かくして、当時の楽器を使い楽しそうに宴をしております。
ここで一番頑張っているのは、扇を持ち踊る駒です。旅芸人一座にいただけのことはあり、上手です。門脇麦さん、流石です!
光秀もじっとその姿を見ています。とはいえ、あくまで生真面目な反応です。
これだけ生真面目に演じているのに、色気だの艶だの言われまくる長谷川博己さんがかわいそうになってきたんですけど……。
このあと、駒は月を見ています。月は【隠】の象徴ですね。牧からもらったという、桔梗紋入りの扇を見せています。
光秀は、父上の形見のひとつだと気づくのでした。母上の感謝の気持ちだろうと。
「駒の一生の宝といたします!」
ここで、伝吾が子どもたちが今一度お手玉が見たいと申しておりますので、とお願いに来るのでした。
翌日、光秀と駒が道を歩いています。
「十兵衛様、もう見送っていただくのはここまでで十分です。あとは一人で行けます」
「構わぬ。向こうの峠道まで行こう」
「あまり長く送っていただくと、胸が痛みます。お別れするのがつらくなります」
「峠道までじゃ」
「もう峠道です。帰蝶様が……稲葉山城へ行かれた時は、十兵衛様は、お見送りなさりませんでした。知らぬ顔で、書物の片付けをなさっていました。でも本当はは、私よりも、帰蝶様をこうやってお送りしたかったのではありませんか? 本当は十兵衛様は手放したくはなかった。嫁がせたくなかった。大好きだったから。だから……お見送りしなかった」
光秀、なんだか呆然としております。
「ここは十兵衛様と私だけです。誰も聞いてはおりませぬ。お気持ちをおっしゃってください。十兵衛様は、まことはそうでございましょう? 帰蝶様を行かせたくなかった。だから……」
「そうやもしれぬ」
光秀はうなずく。が、本当なのか? あやしいなぁ。
そう、光秀のあの書物整理、あれはなんなんですかね。一瞬入りましたけど、あれを入れる意味ってあったんですかね?
あったとは思う。ただし、ものすごくわかりにくい理由ですね。
斎藤利政は槍を振り回し、数珠の珊瑚を数え、足の爪を切る。
明智光秀は、書物整理をする。
織田信長は、魚を切る。
『真田丸』の真田昌幸は、胡桃をカチカチする。
『おんな城主 直虎』の小野政次は、そっと持った碁石がお友達。
手を動かして、なんか整理したり、どうでもよいことをして、心を落ち着ける。なまじ嫌な現実、タスクまみれだと、しょうもないことを片付けてほっとする心理はあるものでして。
現代社会でも、それをやると「仕事しないでなんか遊んでいるうつけ者!」まっしぐらなのがつらいところですね。
駒は、光秀の態度に納得しています。
「よかった。そのことをお聞きしたかったのです。やっぱりそうですものね。ここでお別れいたします。ありがとうございました」
見送る光秀。でも顔が、なんだか困っていて、自分でもよくわかっていないのではないでしょうか。
この先、来週にでも光秀は何も悩まず結婚するかもしれません。
帰蝶や駒はどうした?
という突っ込みは相応しくないと考えています。
光秀は、この二人に恋愛感情はないと思います。ただ、好意はある。ゆえに「それもそうかな?」程度の認め方をしている。
光秀は、人類愛の男と言いますか。
この世の中のすべてに愛着を持つような博愛の人なので、一人だけに愛を注げないタイプかもしれません。
そこをどこまで長谷川博己さんが把握しているのかわかりませんし、この見解はあくまでひとつの見方。ただ、主役でありながら光秀の台本は「……………………」が多いそうです。
博愛の人だけに周囲、老若男女から愛を寄せられて、反応していると疲れ切ってしまうのかもしれない。
そういう人物像を、長谷川博己さんはうまくつかんでいると思います。週ごとに、その思いは増すばかりです。
東海最強の戦国大名・今川義元
天文18年(1549年)2月――。
上から見下ろす斬新なカメラワーク。
帰蝶は、織田信長に嫁いでいきました。
両家の和睦が話し合われて、二ヶ月足らず。慌ただしい嫁入りであった。そう語られます。
ここで、駿河の今川義元へ。彼の前には、三河の松平広忠がおります。義元は迫る。
「既に雪斎から聞いておろうが、尾張の織田信秀が、美濃の斎藤利政と手を結んだ……」
これは三河にとっても由々しき事態。紳士的なようで、お前も備えろ、わかっているだろうなと迫るのです。
尾張も攻め時。それはいつか? 雪斎と、今だと言い合う義元。広忠に対して、三河は織田信秀切り崩しにあい、田畑は荒れ、いくつかの城を奪われたと焚きつけます。しかも、嫡男・竹千代まで人質にされたと。
「口惜しきことこの上あるまい……わしが手を貸す。松平家の汚辱を晴らすのは今ぞ! 織田と戦じゃ!」
画面越しでも怖い。圧倒される。そんな義元です。白塗りの不気味さではなく、あえて生き生きとした像がそこにはある。
そしてこれまた本作の特徴ですが、声が明らかに美しい。張りがあって、滑舌が綺麗で、ともかく怒鳴り散らすわけでもなく、腹の底からしっかりと出しています。見ているだけで謝りたくなるほど、迫力がある……。
演じているというよりも、もはや片岡愛之助さんが義元を生きている。義元の霊が、彼を呼び寄せて己を演じるように訴えたかのようだ。おそろしいとしか言いようがない。
祝言なのに若様がおらぬ!
さて、そのころ。那古屋城では。祝言のはずが、おかしい。
「信長様ーどこじゃー!」
「若様ぁ!」
「お探ししておりますが、どこにも……」
「市の方にもいない!」
おい、婿がいないって、おい!
ものすごいくだらない理由でいないんだろうな、うん。ついに平手政秀が、帰蝶の元にやって来ます。
「御免! 若殿をお守りいたすべき平手政秀、一生の不覚にございます! 若殿のゆくえを八方探しておりますけれども、いまだにおらぬとあっては申し開きもできませぬ!」
「信長様は、今日という日を御失念遊ばれたか」
帰蝶はちょっとおもしろそうにそう言う。
「左様なはずがございませぬ! いま少し、お待ちくださりませ!」
平手政秀が気の毒すぎます……。
信長うつけチェック!その3
「予定を守れ!」
もう何も言えない。自分の祝言をすっぽかす? うつけがぁ!
→信長くんは、自分の行動が周囲にどんな影響をあたえるのか、時々全く考えずに行動しちゃうんですね。自分の計画や予定は大事なのに、人のものは割とぶちこわしますね。捕まえておけばよかったかな?
MVP:今川義元
信長もよいけれど、今回はこちらで。
ビーチエンジョイ信長くんが「なにこいつ……」となる一方で、今川義元で。
カメラがアップで彼の表情を追いかけているのですが、ずーっと気合が入りっぱなしですごいことになっております。どこから見ても、惚れ惚れするほどの英雄らしさに満ち満ちております。
あまり役者と役柄を重ねるのはどうかと思いますけれども、もう片岡愛之助さんはこの役を演じることが運命だと思えて来ます。
彼は一般家庭出身で、女形でしたね。愛くるしい外見もあり、まさにラブリンではありました。けれども彼は力強さがあり、そこではとどまれないといいますか。立役になりました。
彼はものすごく力が満ち溢れていて、器をぶっ壊すようなところもあるのかもしれない。
今川義元は、還俗してこれほどまでに強くなった。そして長らく、白塗りで軟弱なイメージがあった。
そういう器を破壊するためには、彼が必要だったのかもしれない。そう思えるほど、いつも力が満ち満ちていて、見ていて目が離せない。
『真田丸』の大谷吉継も素晴らしかったのですが、あの役はどちらかというと柔らかさがありました。
今回は硬い。硬くて強い。ともかくずっと見ていたくなるのですが、結果的には信長に負けてしまうわけです。
信長と義元が同じ回に出てきたことで、その理由もわかるのかも。
この金剛石のような義元が砕けるような【桶狭間の戦い】は、本作屈指の名場面となるでしょう。
そのときが楽しみなような、怖いような。ともかくすごいものを見せられている……。
総評
信長特報動画を、今日まで何度見直したのかわからない。
先週の時点で、染谷将太さんの役の理解度はただものではないと思いましたが、特報の発声が盤石ですごいと思えました。
信長は、そういうことをすると周囲がどう思うのか、割と考えられないタイプとみた。ゆえに、不機嫌さが顔や声にも出る。これが難しいと思うんですよね。
棒読みか、裏返ってわけわからん状態になっているか。最悪の場合「こいつは演技が下手だな」と誤解を受けかねない。
こういうことを思ったのが、BBCの『SHERLOCK』の字幕版と吹き替え版でして。
※ガーッと喋ります
英語だと、棒読みで相手がどう思うのか無視してまでわーっと喋るのですけれども。吹き替えだと「賢いことを言っている」という抑揚がついている。つけない方がリアルだとは思うのですが、棒読みと思われたくないから、そこは悩みどころですよね。
でも染谷さんはそこをふっきって、役の特性を読み込んできっちりこなしていると思えたんですよ。
子どものような無邪気さも、力強さも出ている。場面によってはザラザラとした声にもなる。何度聞いても飽きない!
彼をイケメンだの、初登場が凛々しいという意見も見ました。
これは彼に失礼かもしれないと前置きしますけれども、それって先入観ではありませんか?
あの漁船の上にいる信長は、むしろリラックス状態に思えました。
キャストビジュアルでも、三白眼が怖い。
人物紹介ではむしろ愛くるしくて、ピーターラビットのような愛くるしさすらある。
イケメンの基準値からどのみち大幅に外れているとは思う。あ、元の造形の話ではない。演技した結果です。でも、だからこそ、魅力的です。
ここで思い出したのが「玲瓏」という言葉です。
複数意味がありますが、「美しい玉がぶつかりあい綺麗な音を奏でること」をここでは採用します。
美しい球がぶつかりあうというのは、ネックレスなり、佩玉なりの貴石がカチカチと鳴る状態だと想像してください。
その音がそこまで綺麗かどうか?
実際はさておきまして、玉同士が鳴るというその状態そのものが、圧倒的な美しさを想像させてきたのだとは思います。
演じるって、そういうことではありませんか?
脚本が届いて読み込んで、自分の中にある何かと、役柄がふれあって、玲瓏たる音を響かせ始める。そういう何かが、この作品にはあると確信できた!
このドラマの世界は、ほんとうに不思議だ。即座に魅力があると気づくけれども、その理由を全て解明することは極めて難しい。おそろしい世界です。
インタビューやコメントを読むだけでも、彼らが役柄を理解しているとわかる。演じるを超えて、生きていると思える。
そういうシンプルで基本的、小細工なしのものを感じるのです。
「大智は愚の如し」
絶対に染谷さんは叩かれます。彼は常に敵と戦わねばならないのでしょう。
その敵とは【先入観】です。
ものすごく意地悪なことを言うと前置きしまして……「こんなの織田信長じゃない!」という意見に突っ込みます。
信長の実物を見たことあります?
あるわけないですよね。当たり前のことです。それでも、信長像は頭の中にあると。
誰も知らない織田信長――。
そう公式が散々言い切っているのに、織田信長の先入観を持ち出すのはどうしてなのでしょうか?
この理由が実は大事かもしれない。
・先入観と知識に勝たれば「賢い、大河通、日本史通」だと周囲にアピールできるんですよね。あ、わかってます、嫌な言い方してますね
・自分の先入観を納得させられないのであれば、駄目だと言い切れるのであれば楽なんですよ!
・若い男優を貶したいとはいえ、ストレートにはできないし……
・信長像を貶すことで、周囲と盛り上がれるかも
先入観と、感情の共有により、人は満足感が得られます。
若い男優を貶す。
「若い女に媚びているから駄目」といえば、ご意見番になれる。
こんなものはジジババ好みだといえば、自分のトレンディさもアピールできる。
そういう気持ちはどうしたって出てくるものです。
でも、そんなことをしたって本質には近づけない。先入観は捨てたい。
三英傑の老齢化は、大河の課題ではありました。
「大河通」。司馬遼太郎や山岡荘八は全部読んだ。朝礼で、歴史の逸話を語って部下にアピールする。
そういう視聴者ニーズを考えた結果……
・没年齢よりも年上のベテランばかりを起用する
・三英傑の年齢差が歪む
・新鮮味がなくなってしまう、リアリティも
こういう問題はありました。
その打破を目指すのであれば、先入観を倒すしかありません。
人間は、未知の改革よりも既知の保守が好ましいものです。そこを崩すにしても、演じる側はつらいと思いますよ。
先週も書いたのですが、今週も書く。
酷いことするもんだ。染谷さんがどれほど大変なことか。
でも、見れば見るほど確信する。彼は役を理解している。ものすごい読み込みで挑んでいると。
この信長は、やる気があるときはものすごくやる気を出せるんだ。でもやらないときは、やらない。
不器用で誤解されやすいけど、いつでも一生懸命だとわかる。
そこが、一番大事だと思います。
この信長は「大智は愚の如し」だと思う。賢いけれど、うつけに見える。そういう役を、彼はよく掴み取り、全力で演じていると思えるのです。
あわせて読みたい関連記事
-

明智煕子(妻木煕子)の生涯|光秀“糟糠の妻”は本当に彼女だけだったのか
続きを見る
-

史実の明智光秀はドラマのような生涯を駆け抜けたのか?本能寺までの足跡を辿る
続きを見る
-

土岐頼芸の生涯|斎藤道三に国を追われ武田信玄に拾われた美濃の戦国大名
続きを見る
-

織田信長の生涯|生誕から本能寺まで戦い続けた49年の史実を振り返る
続きを見る
-

道三の娘で信長の妻・帰蝶(濃姫)の生涯|本能寺の変後はどう過ごした?
続きを見る
【参考】
麒麟がくる/公式サイト

























