歴史ドラマ映画レビュー

大人になってホロリとさせられる……映画『ハイジ アルプスの物語』

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映画『ハイジ アルプスの物語』
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ヒトラーを熱演したブルーノ・ガンツが

本作はファミリー向けですが、だからといって大人の鑑賞に堪えないわけではありません。

むしろ大人目線で見ればこそ、わかる部分もあります。

おんじを演じるのは『ヒトラー 最期の12日間』でヒトラーを熱演したブルーノ・ガンツなのです。

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アニメを見ているときはただの気難しいおじいさんとしか思いませんでしたが、彼の過去はスイスの傭兵なのですね。

山岳地帯であり、めぼしい産業がなかったスイスでは、傭兵が主力産業でした。

フランス革命の時、蜂起した民衆に虐殺されたスイス傭兵が出てくるのも、そうした背景がありました。

主力産業とはいえ、田舎の村の人々からすれば、人殺し。しかもおんじの場合、そこそこお金があったのに、ギャンブルで身を持ち崩し兵隊になったというのですから、そりゃ後ろ指指されますわな。

そう考えると、無邪気に見えるハイジの身の上も、なかなか大変だろうな、ということが見えてきます。

ハイジを育てておきながら、邪魔になったらおんじに預け、金儲けできるとなればフランクフルトに連れて行く。

デーテおばさんも身勝手ですよね。

ただ、人の命が軽視され、子供の福祉なんて概念がない時代です。

あれも当時としてはごく当たり前の対応なのかも……。

 

大人の目線で見えてくること

憎まれ役のロッテンマイヤーさんも、境遇を考えるとなかなか大変な人物です。

当時、「ガヴァネス」という女性がいました。女性の家庭教師であり、クララのようなご令嬢やご令息の指導をする女性です。

ただ、恵まれない境遇の場合が多いのです。

働かなくても食べて行けるほどの財産はない、結婚できるほどの持参金もない、落ちぶれた上流階級女性の就職先。結婚できるあてもない、哀れな女性というイメージもありまして。

『ジェーン・エア』のヒロインもこれにあたります。

社会からは「まあ、あの人結婚できないのよ。可哀相ね」と思われ、クララやハイジのような子供からはガミガミおばさんと煙たがられる。

そう考えると、なかなか気の毒な女性です。

恵まれた環境にいるかに見えるクララのお父さんも、なかなか気の毒です。

愛妻を失い、商売に追われるばかりで、一人娘の成長もじっくり見守れないのですから。

と、大人になったら、本作の大人たちが抱えていたホロ苦さもわかってしまう……。そんな作品です。

ついでに書いておきますと『アニメで読む世界史』という本には、世界名作劇場で取り上げられた作品の、時代設定について解説されていてお薦めです。

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著:武者震之助

【参考】
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