性的搾取されると悟ったミゲルは怒り、水夫と争いになります。
これを見て、「水夫ってゲスだなあ」で終わりだと思いますか?
彼女を捕まえて、海外へと売り払ったのは誰でしょうか。
日本人です。
「金銭欲しさに売り飛ばす日本人に罪がある」
「見て見ぬ振りをするのか!」
そう、ハッキリ言い切る。
そしてここで、売る日本人も、見逃す宣教師も悪いということを描くのです。
本作は、西洋人だけが悪いということも、日本人だけが悪いということもありません。
「日本人をバカにして、悪く描くつもりか!」
「西洋人をこんなふうに描いて、抗議されるんじゃないの?」とお思いの方。
そんな心配は、世界では無用のことです(これについては後述)。
怒るミゲルに対して、マルティノは冷たい。
逆らっても水夫には勝てない、この程度で動揺してどうするのかと言い切ります。
マルティノは冷たくて、何かスッキリしない。
そう思いますか?
自分はマルティノではないと断言できますか?
想像してみてください。
あなたは大学入試のため、会場へ向かう電車に友人と一緒に乗っているとします。
そんな目の前で、受験生らしき女子高生が痴漢に遭っていた。
「許せない、あいつを警察に突き出してやる!」
そう友人が言い出したとして、あなたはスンナリ賛同できますか?
「やめとけよ。痴漢なんてよくあることだろ。そんなことをしたら試験に間に合わないじゃないか」
そうなったとして、それは仕方のないことではない……マルティノは、そういう現実感のある言動でもあるのです。
ミゲルのような熱血漢が、若い娘を救い出す。
そんなファンタジックな勧善懲悪と本作は無縁。
カッコイイヒーローがバタバタと倒して爽快感がある!なんてドラマは時代遅れです。
ミゲルは、マカオで売り飛ばされる奴隷少女を見て心を痛め、肩を落とすしかありません。
この時代は、今とはちがう。
不正義、差別、虐待がまだまだ残されていた。
日本だけではなく、世界中がそうでした。そこを避けずに描いてこそ、歴史ドラマの意義があるのです。
ミゲルはもうここから先は旅を続けられないと、漏らします。
奴隷となった彼女がミゲルに向ける目。それに対する答えは、船を下りることだ。そう考え始めたのです。
彼女はどうなるのか?
歴史から想像はつきます。
性的に搾取された挙げ句、殺されてしまうか。
運良く生き延びたとしても、加齢と共に路上に放り出されるか。
彼女のような日本人奴隷がいたこと。そのことを忘れてはなりません。
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あの娘は積み荷なのか? 答えろ!
マンショはミゲルの決意を、ヴァリニャーノに伝えます。
あの人間はただの積み荷に過ぎないのか?と、問いかけるのです。
「ミゲルの問いに答えろ!」
ヴァリニャーノは、何も言えない。ただ悩むしかない。
メスキータは、ヴァリニャーノの試みは失敗する、日本人を買いかぶっていると言い出しました。
盲目的についてくる連中じゃありませんね、と意地悪く言うわけです。
ちなみにここで、”blindly”(盲目的な)という単語が出てきます。
はい、これが海外ドラマの世界です。
日本ですと、この言い回しは自主規制にひっかかる可能性がありますね。
世界基準と日本はちがう。この点は大変重要です。
宣教師側の生々しい本音。
日本人なんてホイホイ布教できるだろうとなめてかかったところも見えました。
でも、そうじゃなかった。
そういった表現も、実はなかなかホットなところなんです。
昨今は、宣教師書簡の「日本人スゴーイ!」という部分ばかりが出回っておりますが……。
それらの賞賛、実は「ホイホイ布教できるいいカモがいた!」って意味と表裏一体なんです。
その証拠に、彼等は、布教に抵抗が見え始めると、一転して貶し始めておりますからね。
「あいつらは野蛮だし、暴力的だし、性的にだらしがないし、恥知らずだし、とんだ見込み違いだった……」と失望していたりします。
そういう都合の悪い部分は、今の日本ではあまり周知されません。
されたとしてもスルーされるのが現実でしょう。
だって、ちょっと考えてみてくださいよ。
命を賭して船に乗り込み、わざわざ「日本スゴーイデスネ!」とだけ言うために来ますか?
飛行機数時間で来れる現代じゃあるまいし。
時代は宗教改革の最中だった
世界地図が表示され、地球が東西に分断されました。
西がスペイン、東がポルトガル。
世界を植民地にすべく両国が支配地域を二分したと説明されるのですね。
トルデシリャス条約、サラゴサ条約です。
しかし、宗教改革の頃から、実は、このイベリア半島の両国は下火に向かっています。
プロテスタントのヤバイ奴らが反撃に出るからです。
イギリス「どうも〜、地球の裏側から来ましたァん、海賊で〜す!!」
他国「や、や、やめてください!」
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海賊行為で世界を制覇~イギリス海軍の歴史が凄まじくてガクブルです
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英国紳士どころか、本当に海賊ですからタチが悪い。
『パイレーツ・オブ・カリビアン』あたりでは、ファンタジックなお宝を奪い合ってますけどね。
その実態は「スペイン船を襲って奴隷だの銀塊だの奪うと、最高に儲かるぜーッ!」という無法者でした。
例えば、イギリス人のウィリアム・アダムスを日本で見た宣教師たちも、うろたえまくって徳川家康に訴えております。
「あいつは海賊ですよ! とんでもない極悪人ですって!」
このようにカトリックがプロテスタント(&海賊)に追い詰められていること。
とても大事な要素ですので、世界史の苦手な方は頭の隅にでも入れおいてください。
なお、実は斜陽のスペインで、奮闘した剣客を描いた映画があります。
『アラトリステ』です。
邦訳小説もありますので、当時のスペインに興味が湧いたら見てくださいね。
この作品は、滅び行く栄華を描いた傑作です。
ドラードという通訳
一行はインドのゴアに立ち寄ります。
そこはポルトガルの植民地。この後、またアイツらがやらかします。
イギリス「どうも〜、西から来ましたァん! 植民地にしますね〜!」
インド「やめてください!」
まぁ、ドラマでは、まだそうなるだいぶ前の話。
イギリスの前はポルトガルに支配されていたんですね。
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それにしても、この海外ロケがすごい……燭台ひとつとっても美麗で、ため息しかでない……。
日本の歴史ドラマでは、もうこの水準はどう頑張ったって無理でしょう。
画面の中の精緻なセット。
視聴者が一つ一つに目を奪われていると、そこへコンスタンティノ・ドラードが登場します。
彼は、先へ進みたがらない少年の説得を頼まれていたのでした。
しかし、ここでメスキータが前へ。
少年たちに向かい、「おまえらは三賢人に仕立てられるのだ」ともくろみを暴露してしまいます。
四人だということは、つまり一人の死人も計算されている。
ヴァリニャーノは金目当て・名声目当で、少年たちは単なる操り人形だ――と、色々と吹き込まれるんですね。
ドラードもミゲルから真意を問われました。
「すごいことだ」とドラードが言うわけですが、これも考えようによっては実に切ないのです。
ミゲルは、日本語を話すことができて、見た目は東洋人であるドラードに「あなたは日本人なのか?」と尋ねます。
と、ここで彼の出自が明らかになりました。
父はポルトガル人、母は日本人。
辛い設定ですね……。もしかしたら彼の母は、あの日本人少女のような境遇であったのかもしれません。
白人でないからには、よくて妾、悪ければ性奴隷です。
そしてその間に生まれた子は、生まれながらの奴隷扱いとされるのです。
通訳であるドラードは、扱いはよいものの身分としては奴隷です。
純血ではない、日本生まれでもないドラードには、そんな名誉はない。生まれたときから、彼は奴隷でしかないのです。
東と西を繋ぐもの
このあと、ゴアの恵みであるという晩餐がスタート。
いきなり給仕に失敗してしまった奴隷が、宣教師から怒鳴りつけられます。
そこにあるのは、露骨な差別です。正義感の強いミゲルには耐えがたい光景。
ヴァリニャーノの熱意あふれる説教も、ミゲルの耳には届きません。
イエスは、人間の苦しみや哀しさを分かち合おうとしたとセミナリオで習った。
それなのに、鎖に繋がれた奴隷に慈愛を示せないのか?
肌のちがう人間は、奴隷となるために生まれてきたのか?
そう問いかけるミゲル。同じ日本人なのに、かたや奴隷、かたやローマに向かう。その違いは何か?
答えがないのであれば、自分も降りるとマンショは立ち上がります。
言葉に詰まるヴァリニャーノに、メスキータが知らせを持って来ます。
インド管区長に任命――つまり彼は、ここから先の同行ができなくなってしまうのです。
メスキータとカブラルの計略なのか?
激怒するヴァリニャーノは、自分の情熱を語り始めました。
すべてはイエズス会のため。しかし私の行動は過剰で、「イエズス会を牛耳ろうとしている」と誤解する者もいる。
そういうことじゃない。
自分はただ、少年を法皇に会わせて東西を繋ぎたかったのだ。
二人の少年はこれ以上進めないと言い始め、ヴァリニャーノもインドに留まるしかない。
情熱が頓挫してしまったのは、デウスの諫めたこと、そう語り、倒れてしまいます。
インドの気候と病原菌は、植民地にやって来た人を苦しめたものでした。
海に風が戻りました。こうなればスグにでも出立しなければなりません。
ヴァリニャーノは、「聡明で、疑問を抱く人間にこそ、西洋を見て欲しい」と頼みます。
そういう人間こそが、ふたつの文化を繋ぐことが出来る――これは本作の目指すところを突いたセリフだと思います。
ドラードは、マンショに生い立ちを語り始めました。
ポルトガル人との子を宿した母は、ドラードを出産したあと、日本で村からつまはじきにされてしまったのです。
こういうことが、戦国時代にはよくありました。村はずれで何の助けもないまま生きてゆけと放り出されてしまうのです。
『おんな城主 直虎』にも出てきた、解死人(のちの瀬戸方久・ムロツヨシさん)がそうでしたね。
そこには、彼らなりの生きるための知恵、ひどい言い方をすれば「使い途」もあるのですが、だからといってそれがよいというものでもありません。
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こうした中世の冷酷さが改善されていったのが江戸時代です。
もっとも根絶できたわけではありませんが……。
ドラードの母は、宣教師の助けを得てインドに渡りました。
そして東西の間にあるインドで、両方の良いところと悪いところを見てきたと語ります。
それはヴァリニャーノも同じであると、ドラードは語るのです。
答えの出ない問いを抱くこと――ヴァリニャーノ、信長、マンショに通じることかもしれない。
本作の人物は、疑問を抱き続けます。
だからこそ、マンショは船に乗るとミゲルに告げます。ミゲルには「信長からの問いかけを知りたい」と語りますが、ミゲルには理解できない話なのです。
やっぱりこの三人は、精神の世界にいる。そう思えてきます。
凪、静かな恐怖
メスキータの引率で、インド洋を渡る一行。
しかし、ここで恐ろしい事態に陥ります。
嵐よりも怖い凪(なぎ)――。
大海のど真ん中で船はまったく動かなくなってしまいました。
水は減り、水夫も苦しむばかり。最も恐ろしい事態です。
恐ろしいのは、その映像でしょう。
大海原のど真ん中に帆船がいる! ああ、潤沢な制作資金がそこにはある、ハァ……。
いや、船の苦しみに目を向けましょう。
水不足で錯乱のあまり、海水を飲もうとする水夫も現れました。
が、塩分の含まれた海水を飲んでも渇きが悪化して、余計に苦しむだけ。蒸留装置があればいいんですけどね。
こういう船の残酷さって、身分によって致死率が変わります。
当時でしたら、当然ながら有色人種の水夫から先に死んでゆく。
三賢人になぞらえた使節よりも、苦しんでいる人がいるのです。
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これ以上無風だと、もう死んでしまう――そう怯えるジュリアンに、幽霊船のうんちくを語るマルティノ。
あー、いますよね、非常時でもトリビアを言いたい奴!
こういう生々しい苦しみって、海賊映画では見られませんが、実際に当時あったことです。
弱気になる一行を、怒鳴りたしなめるマンショ。
何がなんでも生き延びるのだと、彼は誓っています。
ちなみに壊血病も、罹患する者は水夫ばかりでした。
食事に野菜や肉を加えることのできた身分ある人は、罹患率が低かった。
これをヒントに、イギリス海軍はライム果汁の支給を思いつきます。イギリス人の蔑称である「ライム野郎」(Limey)の由来ですね。
イギリス海軍由来のカクテルであるグロッグも、現在はレモン果汁を使いますが、もともとはライム果汁でした。
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ちなみに明代・鄭和による大航海の場合、船内で野菜栽培ができたために壊血病にはならなかったとか。
これもスゴイ話なんですよ。
東の王は、もうこの世にいない
風が吹き、船が動き出し始めました。
海を眺めるマンショに、ドラードはあの事件を告げます。
「本能寺の変」です。
ヴァリニャーノは、マンショが旅をやめることを警戒し、口止めしていたのでした。
夜、リュートの調べを聞きながら、考えこむマンショ。
って、リュートか!
こういうの、大河じゃなかなか出せないだろうなあ。ワンシーンのために、これを準備するのは大変だもの。
その脳裏に浮かぶ、信長の姿です。
いやぁ、コレっすわ!
コレが正しい「本能寺の変」処理な!
『真田丸』につけられた難癖として、「本能寺の変」と「関ヶ原の戦い」本戦があっけないというものがありました。
『ネタですよね? 本気じゃないよね?』と思ったものですが、事件の重要性を決めるのは、当事者との関連度合い、そして制作側の姿勢です。
「視聴者はあの大事件がやっぱり見たいんだよ!」というような声におもねっては、ブレるだけです。
この潔い処理こそ、世界基準です。
「本能寺の変」に不思議少女・江ちゃんが登場するような悲劇は、もうエエから!
MVP:奴隷の少女
セリフは、ひとつもない。
あるのは、悲しいまなざしだけ。
それなのに、ミゲルではない私の心にも突き刺さりました。
本作の構成の巧みさでもあります。
彼女が悲しい目をしていたからこそ、ドラードの悲しい出自も想像できるというもの。
こういう生々しい奴隷を描くこと。なかなか日本のコンテンツではできないだろうとため息が出てきます。
本作のおそろしいこと。
それは、大河ドラマがナゼ最期を迎えかねないのか、その答えをあぶり出してくるところです。
まずはひとつめ。
こんなスゴイドラマがやって来たんだ、さぞやニュースも盛り上がっているのだろうと探しているんですが。
んー……なんかこう、ちがう。
出演者が撮影地のビーチで楽しんだとか、そんな裏話ばっかり。
いや、もっと歴史的なアプローチとか、そういうことを分析しないんですかね?
んっ?
それができるライターや報道関係者がいないとか?
だとしたら残念でなりません。
歴史ドラマを支えるのが歴史オタクで何が悪い?
まあ、本作は手強いっちゃそうです。日本史だけじゃなく西洋史までカバーしないとイカン。
そんなわけで、本サイトをよろしくお願いします。西洋史記事もカバーしますんで。
そんなことを考えつつ、出会ったのがこちら。
◆「ダサい邦題」「タレントでPR」、熱心な映画ファンが“無視”される事情 稲田豊史の「コンテンツビジネス疑問氷解」|ビジネス+IT(→link)
洋画ファンの愚痴を聞いていると、こういうことへの苛立ちが伝わって来ます。
作品をより深く楽しめるような報道はない。むしろ、薄っぺらいことばっかり。
とてつもなくダサい。身もだえする。来日した俳優がセクハラめいた質問をされて戸惑っている姿を見るのは辛いって。
ほんと、そうなんですよね。マスコミのダサさが、もう最高にシンドイ。
歴史ドラマもそうなんです。
昨年の大河ドラマ『西郷どん』で目立ったのが
「歴史的におかしいとか文句を言う奴って、歴史オタクだけだよね」
という擁護だかよくわからん言葉。
ハッキリ言いましょう。
歴史好きが、歴史ドラマに期待して何が悪いんですか?
こういう歴史マニアって、一番手ぬるいのはむしろ日本じゃないかと思うくらいですよ。
イギリスあたりは、歴史マニアの考証ツッコミがもっと容赦ない――そしてそういう歴史マニアの目をくぐり抜けることを、制作側も意識しております。
以前、イギリスのドラマ『ダウントン・アビー』の考証風景を見たのですが、本当に妥協が一切なくてビビりましたわ。
だからこそ、いい歴史ドラマができるんですよ。
コスプレホームドラマならば、そんなもの必要ありません。
コスプレの必要がないホームドラマをやっていればいいでしょうよ。
海外のドラマは、歴史に疎い、勉強しない視聴者を置き去りにすること、厳しい教官の如きものがあります。
「追試はやりません。落第したいなら、お好きにどうぞ」
コレで終わり。
最近の駄作大河が駄目な理由として、
【落第生でもわかるように親切仕様にし過ぎている点】
があるのでしょう。
本作が難しくてついていけないなら、脱落して結構なんです。
それはそれで仕方ないですね。作品が悪いんじゃありませんから。
そしてその複雑化かこそ、むしろ世界のトレンドかもしれません。
『ゲーム・オブ・スローンズ』は、それこそ『三国志』レベルの登場人物の数を誇ります。
ついていけない視聴者のために、ユーザーズガイド(→link)も設置。関連書籍も、売れております。
歴史の楽しみ方って、まさにこういうことでしょう?
歴史にハマって、人物事典を買いあさり、家系図をじっくり見て、布陣図を眺める。
そこにしかない楽しみがあるわけです。
ガッツリハマる人は、金も落とすします。
関連書籍を買いあさり、グッズを集め、史跡めぐりを楽しむ。
そういうファンを集めてこそのコンテンツでは?
視聴率ばかりが未だに基準となっておりますが、そもそもそれがおかしいのです。
任意抽出した世帯に機械を設置して計算しているだけですからね。正確性すら危ぶまれているほどです。
海外では、視聴率ではなく「視聴者数」で判断します。
以下をご覧ください。『ゲーム・オブ・スローンズ』の全米視聴者数推移グラフです。
より深くハマり、魅力を発信するファンを見つけ、SNSでの発散を狙う。
そういう時代になって来ました。
ノホホンとながら見していて、SNSをやらない視聴者を狙っても、いずれ滅びるだけ。
浅いファンしか作ることのできないドラマは、低迷が待っております。
その点、『MAGI』への反応は実に良い。
着実にファンが育っていってる印象があります。
本作への妙ちくりんな批評に喝ッ!
ここで私のスタンスをおさらいします。
誰がどんな感想を抱こうが、それは自由。
ケチをつけるつもりはありませんし、私と同じ意見にならないとは何事かと熱くなることはありません。
ただし、それが妥当であればの話です。
本作にも妙な感想があります。
読解力不足なのか、歴史への理解不足なのか。いささか暴走しているものもあるので、ちょっとツッコミたいと思います。
分析は大事♪
「外国人キャストは日本語を上達すべきだ」という主張
別にそうは思いませんし、そうもならないでしょう。ヴァリニャーノは字幕入りです。
どうしてそうならないのか?
日本語を修得して、日本のテレビ業界に飛び込むメリットがもう薄いからです。
むしろ、本作の若手キャストの皆様は英語をさらに研鑽して、海外へ向けて飛び立って欲しいところです。
期待しておりますよ!
※忽那汐里さんに続け〜〜!!
日本への悪意を感じる! 日本食がまずいだと?
歴史考証の結果です。
宣教師側の不都合な事情、カトリック教国の暗部も本作は容赦なく描いています。
あと、日本食は美味しいもので、外国人は皆「スゴーイ!」と思いこんでいると恥をかきますよ……。
私も経験がありますが、口に合わずに苦戦する方も多いものです。
テレビじゃどういうわけか、やりませんけどね。
戦国時代にせよ、幕末にせよ、来日外国人の和食評価は厳しいものがありました。
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逆に、幕末から明治にかけて海外へ向かった日本人も、洋食に苦闘しました。
お互い様なのです。
海外に渡った福沢諭吉が、
「うおっ、このバター、まっず、くせえ!!」
と驚いて嘆くドラマがあったら、それは反欧州だと思いますか?
キレられたら、納得できますか?
んなわきゃーない。
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俺たちのヒーロー織田信長を悪く言うなあああ!
いやいや。
同時代の日本人からだって叩かれておりますやん。
包囲網作られてるやん。
安国寺恵瓊「信長って調子こいてるよね。どうせあんなもん、数年のうちに高転びするっしょw」
『真田丸』や『おんな城主 直虎』の織田信長のほうがはるかに残酷でした。
外国人が俺らの信長を穢すな、なんてまさか言いませんよね?
『天地人』と『江 姫たちの戦国』を思い出しても、ソレを言えますか?
ちなみに他国の権力者だって、本作は悪いところを描きますよ。
どうしてそれなのに、日本だけを貶めたいと思えるんでしょう。
黒人を奴隷扱いだなんて! 人種差別でしょ!
世界的な歴史ドラマのトレンドは、そこにあった差別や不都合を赤裸々に描いてこそ、なんです!
本作のおける宣教師の、黒い肌をしているのは白人に仕えるためだという考え方は、深く描くべきテーマのど真ん中ですからね。
それに白人が怒るかって?
「はぁ? そんなもん、トランプ支持者じゃねえし」
「EU離脱にノリノリだった極右なら、そうかもしれないけどさあ」
こんな反応ッスよ。
はい、近年高い評価を得た映画作品予告編を並べてみましょう。
ナゼ、評価を得たかご理解できますでしょうか?
歴史の暗部や社会問題を描いたからですよ!
「この国はスゴーイんです! 褒めて、褒めて!」
みたいなコンテンツは、それこそこちとら
”Make America Great Again!”
とかほざいているトランプ支持者でもねえし、と相手にされません。
それが世界の流れなんですってば。
そもそも考えたいこと。
人種差別を描かないで隠したとして、それは誰への配慮ですか?
差別される側への配慮じゃありませんね。
差別した側への配慮ですよね?
本作では宣教師が人種差別をします。
このとき、悪意を抱かれるのはどちらでしょうか?
「そっかー、偉い宣教師様がこう言うんだ、日本人も黒人も、差別していいんだね」
そう思う人がいたら、紛れもない差別主義者です。
制作側の意図としては、
「神への愛を説きながら差別をする宣教師の偽善性を、おわかりになられただろうか?」
と、むしろ宣教師側を告発しているわけです。
差別なんて面倒だから、空気を読んで省こう、ガタガタうるさい奴もいる。
そんな妙な考え方をしているのは、もう日本くらいなのです。
昨年末、こんな事件がありました。
◆一晩で中国市場を全て失ってしまったドルガバ炎上事件の衝撃(→link)
この一連の報道で「騒ぎすぎる中国人って、空気読めないよね」という意見があり、驚かされたものです。
差別をされたら黙るのではなく【声を上げてこそよりよい世界になる】というのが、世界的な考え方の標準になって来ているのです。
差別なんて面倒くさいし、ガタガタ言われるとイヤだから避けて通るというのは、卑劣な態度として軽蔑されるだけ。
そこを理解した世界標準が、避けるはずがないのです!
このあたり、日本の「ポリコレ」誤解がありますよね……ポリコレは、メガネをかけたPTAのおばさんが嫌う、残酷描写がエロ描写への配慮ってやつ。
避けて通ればいいんでしょ、ハイハイ、ってやつ。
そうじゃないってば。
タブーに斬り込めば、むしろ高評価につながります。
このままだと、本気で世界から取り残されるんですってば。
そろそろ本気で考えないとなりませんよ。
Amazonは悪意をもって日本人を描いている!?
このドラマの背後には、きっと何かの陰謀がある!
反日組織が関与しているのか?
ってやつについては「陰謀論お疲れッス!」としか言いようがありません。
既視感もありますね。
『アンブロークン』叩きだ。あれそっくりだ。
この手のお決まりとして、日本をナチスみたいに描くな!という難癖あります。
いえいえ、日本は先の戦争で枢軸国だったんですよ。
アンネ・フランクの隠れ家を訪れた日本人観光客が、母国が枢軸国だと知らないことがあり、観光ガイドが困惑……なんて話もあるくらいですからね。
NHKのガラパゴス化が止まらない
大河のみならず、NHKドラマのガラパゴス化は洒落にならんことになっております。
大河ドラマ『西郷どん』と朝ドラ『まんぷく』では、海外ならば放映禁止、お蔵入りになりかねない、世界的基準からすればアウト描写がありました。
キリがないので、さくっとまとめますね。
『西郷どん』
・あからさまな歴史歪曲(幕府が薩摩をフランスに割譲するつもりだった等)
・当時奴隷的な立場にあった愛加那が、自ら西郷隆盛との性的関係を望む(※黒人奴隷女性が、いそいそと白人奴隷農場主のベッドに侍ったらどうなるか、想像してみましょう)
・奄美大島差別をした西郷を讃える島歌が、途中からテーマに加わる(※黒人シンガーが、リー将軍を讃えるラップを歌う?)
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そもそもこのドラマは、皇室侮辱としか思えない描写もありました。
明治維新のあと相撲を守り抜いた明治天皇が、西郷隆盛から相撲の魅力を習うとか。
同じことを海外で制作していたら大炎上でしょう……。
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『まんぷく』
・ホワイトウォッシングとしか思えないルーツ変更
・未成年相手に、成人が性的関心を抱く描写がしつこいくらいに続く
・娘が性的ニュアンスを漂わせながら、父の前でヌードモデルを志願する
もう少しだけ、分析してみましょう。
NHK大河ドラマが堕落した理由。
世間の「空気を読め」という意見に忖度したからでしょう。
それが顕著になったターンが、2012年と2013年だと位置づけます。
2012年の「王家論争」。
2013年の「薩長をあくどく描くのか!」というクレーム。
どちらも史料的な根拠をもって描いただけです。
それなのに、わけのわからないクレームが殺到し、二作ともに迷走してしまいました。
このあとから、大河は守りに入りました。
いわばノイジーマイノリティを恐れすぎたのです。
彼らのクレームがどんなものであり、どれほど的外れであったかは、先にあげたクレームから推察できるというものです。
ネットの時代は、誰でもレビュアーになれます。だからこそ、本当に中身のあるレビューか、批判か、吟味する必要があります。
批判を浴びるからと守りに入っては、一時しのぎにはなることでしょう。
しかし、その先にあるのは停滞と破滅なのです。
世間では
「日本スゴーイ!」
「日本の英雄はスゴーイ!」
「日本人は悪いことなんてしていないんだ!」
「来日外国人はともかく日本を絶賛する!!」
こういうコンテンツが、お望みなんでしょう?
そんな声を真に受けた結果、大河は退屈極まりないコンテンツになりました。
日本史の暗部を描かない。
主人公はともかく褒められてばかりで、ろくに苦悩すらしない。
上っ面だけで中身の薄~いほっこりドラマを目指したのです。
それでクレームは減ったのでしょうか?
歴史ファンはうんざり、げんなりしていたと思いますけどね。
大河に舌打ちしていた歴史ファンは、もう配信ドラマに走ってゆく――これは止められません。
そしてその流れは、今後ますます加速します。
2018年『西郷どん』の酷さ。
2019年『いだてん』の抱えるリスク。
近代史を扱う上に、海外から浴びた冷たい目線をありのままに描いたら、それこそクレームが殺到しかねない。
2020年『麒麟がくる』。
主演俳優が今期朝ドラで迷走中。
今はまだ、軽いジャブですよ。
このレビューで、実写版『ゴールデンカムイ』を海外制作で見たいと書きましたが、そうなったらどうなるか想像できますか。
アイヌ差別を海外は、憚るところなく描かれます。
さて、どうなることか。
あの作品のファンですら「男の裸が出てくるお気楽漫画でしょw 難しいことを言わないで楽しもうよ〜」という意見があるようですが。
あの作品では、アイヌ差別、屯田兵の苦境、日露戦争での苦境、明治政府の失策、ロマノフ帝国の黄昏が、ちゃんと入ってます。
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そりゃあ違いますよ。
アイヌを扱うのに、難しいことを考えないなんてありえない。どんだけ参考文献が巻末についているか、ご確認いただければと思います。
あれだけガッツリと本気で挑んだ結果が、大英博物館でのアシリパ(→link)さんなんです。
もし勉強不足で、都合のいいアイヌ像を描いていたら「バーッカじゃねえの!?」となって終わりですよ。
さあ、皆さん、覚悟を決めましょう!
ここはもう嵐の中です。
本作のヴァリニャーノは、聡明で、疑問を抱く人間にこそ、西洋を見て欲しいと頼みます。
そういう人間こそが、ふたつの文化を繋ぐことが出来ると告げました。
ドラードは、東西両方によい面と悪い面があると語ります。
これは視聴者へのメッセージかもしれません。
東西の歴史の、良い所と悪い所。両方受け止め、考えられる視聴者こそ、この作品が問いかける橋を渡ることができるのではないでしょうか。
文:武者震之助
絵:小久ヒロ
【参考】
◆アマゾンプライムビデオ『MAGI』(→amazon)
◆公式サイト(→link)