MAGI感想

MAGI(マギ)感想あらすじエピソード3煉獄のはじまり【ゴア篇】

MVP:奴隷の少女

セリフは、ひとつもない。
あるのは、悲しいまなざしだけ。

それなのに、ミゲルではない私の心にも突き刺さりました。
本作の構成の巧みさでもあります。

彼女が悲しい目をしていたからこそ、ドラードの悲しい出自も想像できるというもの。
こういう生々しい奴隷を描くこと。なかなか日本のコンテンツではできないだろうとため息が出てきます。

本作のおそろしいこと。
それは、大河ドラマがナゼ最期を迎えかねないのか、その答えをあぶり出してくるところです。

まずはひとつめ。
こんなスゴイドラマがやって来たんだ、さぞやニュースも盛り上がっているのだろうと探しているんですが。

んー……なんかこう、ちがう。
出演者が撮影地のビーチで楽しんだとか、そんな裏話ばっかり。

いや、もっと歴史的なアプローチとか、そういうことを分析しないんですかね?

んっ?
それができるライターや報道関係者がいないとか?
だとしたら残念でなりません。

 

歴史ドラマを支えるのが歴史オタクで何が悪い?

まあ、本作は手強いっちゃそうです。日本史だけじゃなく西洋史までカバーしないとイカン。
そんなわけで、本サイトをよろしくお願いします。西洋史記事もカバーしますんで。

そんなことを考えつつ、出会ったのがこちら。

◆「ダサい邦題」「タレントでPR」、熱心な映画ファンが“無視”される事情 稲田豊史の「コンテンツビジネス疑問氷解」|ビジネス+IT

洋画ファンの愚痴を聞いていると、こういうことへの苛立ちが伝わって来ます。

作品をより深く楽しめるような報道はない。むしろ、薄っぺらいことばっかり。
とてつもなくダサい。身もだえする。来日した俳優がセクハラめいた質問をされて戸惑っている姿を見るのは辛いって。

ほんと、そうなんですよね。マスコミのダサさが、もう最高にシンドイ。

歴史ドラマもそうなんです。
昨年の大河ドラマ『西郷どん』で目立ったのが
「歴史的におかしいとか文句を言う奴って、歴史オタクだけだよね」
という擁護だかよくわからん言葉。

ハッキリ言いましょう。
歴史好きが、歴史ドラマに期待して何が悪いんですか?

こういう歴史マニアって、一番手ぬるいのはむしろ日本じゃないかと思うくらいですよ。

イギリスあたりは、歴史マニアの考証ツッコミがもっと容赦ない――そしてそういう歴史マニアの目をくぐり抜けることを、制作側も意識しております。

以前、イギリスのドラマ『ダウントン・アビー』の考証風景を見たのですが、本当に妥協が一切なくてビビりましたわ。

 

だからこそ、いい歴史ドラマができるんですよ。

コスプレホームドラマならば、そんなもの必要ありません。
コスプレの必要がないホームドラマをやっていればいいでしょうよ。

海外のドラマは、歴史に疎い、勉強しない視聴者を置き去りにすること、厳しい教官の如きものがあります。

「追試はやりません。落第したいなら、お好きにどうぞ」

コレで終わり。
最近の駄作大河が駄目な理由として、
【落第生でもわかるように親切仕様にし過ぎている点】
があるのでしょう。

本作が難しくてついていけないなら、脱落して結構なんです。
それはそれで仕方ないですね。作品が悪いんじゃありませんから。

そしてその複雑化かこそ、むしろ世界のトレンドかもしれません。

『ゲーム・オブ・スローンズ』は、それこそ『三国志』レベルの登場人物の数を誇ります。
ついていけない視聴者のために、ユーザーズガイドも設置。関連書籍も、売れております。

歴史の楽しみ方って、まさにこういうことでしょう?

歴史にハマって、人物事典を買いあさり、家系図をじっくり見て、布陣図を眺める。
そこにしかない楽しみがあるわけです。

ガッツリハマる人は、金も落とすします。
関連書籍を買いあさり、グッズを集め、史跡めぐりを楽しむ。

そういうファンを集めてこそのコンテンツでは?

視聴率ばかりが未だに基準となっておりますが、そもそもそれがおかしいのです。
任意抽出した世帯に機械を設置して計算しているだけですからね。正確性すら危ぶまれているほどです。

海外では、視聴率ではなく「視聴者数」で判断します。

以下をご覧ください。『ゲーム・オブ・スローンズ』の全米視聴者数推移グラフです。

『ゲーム・オブ・スローンズ』の全米視聴者数推移グラフ

より深くハマり、魅力を発信するファンを見つけ、SNSでの発散を狙う。
そういう時代になって来ました。

ノホホンとながら見していて、SNSをやらない視聴者を狙っても、いずれ滅びるだけ。
浅いファンしか作ることのできないドラマは、低迷が待っております。

その点、『MAGI』への反応は実に良い。
着実にファンが育っていってる印象があります。

 

本作への妙ちくりんな批評に喝ッ!

ここで私のスタンスをおさらいします。

誰がどんな感想を抱こうが、それは自由。
ケチをつけるつもりはありませんし、私と同じ意見にならないとは何事かと熱くなることはありません。

ただし、それが妥当であればの話です。

本作にも妙な感想があります。
読解力不足なのか、歴史への理解不足なのか。いささか暴走しているものもあるので、ちょっとツッコミたいと思います。

分析は大事♪

 

「外国人キャストは日本語を上達すべきだ」という主張

別にそうは思いませんし、そうもならないでしょう。ヴァリニャーノは字幕入りです。

どうしてそうならないのか?
日本語を修得して、日本のテレビ業界に飛び込むメリットがもう薄いからです。

むしろ、本作の若手キャストの皆様は英語をさらに研鑽して、海外へ向けて飛び立って欲しいところです。
期待しておりますよ!

※忽那汐里さんに続け〜〜!!

 

日本への悪意を感じる! 日本食がまずいだと?

歴史考証の結果です。
宣教師側の不都合な事情、カトリック教国の暗部も本作は容赦なく描いています。

あと、日本食は美味しいもので、外国人は皆「スゴーイ!」と思いこんでいると恥をかきますよ……。

私も経験がありますが、口に合わずに苦戦する方も多いものです。
テレビじゃどういうわけか、やりませんけどね。

戦国時代にせよ、幕末にせよ、来日外国人の和食評価は厳しいものがありました。

https://bushoojapan.com/baku/2018/09/03/115741

逆に、幕末から明治にかけて海外へ向かった日本人も、洋食に苦闘しました。
お互い様なのです。

https://bushoojapan.com/baku/2018/04/19/112168

海外に渡った福沢諭吉が、
「うおっ、このバター、まっず、くせえ!!」
と驚いて嘆くドラマがあったら、それは反欧州だと思いますか?
キレられたら、納得できますか?

んなわきゃーない。

 

俺たちのヒーロー織田信長を悪く言うなあああ!

いやいや。
同時代の日本人からだって叩かれておりますやん。
包囲網作られてるやん。

安国寺恵瓊「信長って調子こいてるよね。どうせあんなもん、数年のうちに高転びするっしょw」
『真田丸』や『おんな城主 直虎』の織田信長のほうがはるかに残酷でした。

外国人が俺らの信長を穢すな、なんてまさか言いませんよね?
『天地人』と『江 姫たちの戦国』を思い出しても、ソレを言えますか?

ちなみに他国の権力者だって、本作は悪いところを描きますよ。
どうしてそれなのに、日本だけを貶めたいと思えるんでしょう。

 

黒人を奴隷扱いだなんて! 人種差別でしょ!

世界的な歴史ドラマのトレンドは、そこにあった差別や不都合を赤裸々に描いてこそ、なんです!

本作のおける宣教師の、黒い肌をしているのは白人に仕えるためだという考え方は、深く描くべきテーマのど真ん中ですからね。

それに白人が怒るかって?
「はぁ? そんなもん、トランプ支持者じゃねえし」
「EU離脱にノリノリだった極右なら、そうかもしれないけどさあ」
こんな反応ッスよ。

はい、近年高い評価を得た映画作品予告編を並べてみましょう。

 

ナゼ、評価を得たかご理解できますでしょうか?

歴史の暗部や社会問題を描いたからですよ!

「この国はスゴーイんです! 褒めて、褒めて!」
みたいなコンテンツは、それこそこちとら
”Make America Great Again!”
とかほざいているトランプ支持者でもねえし、と相手にされません。

それが世界の流れなんですってば。

そもそも考えたいこと。
人種差別を描かないで隠したとして、それは誰への配慮ですか?

差別される側への配慮じゃありませんね。
差別した側への配慮ですよね?

本作では宣教師が人種差別をします。
このとき、悪意を抱かれるのはどちらでしょうか?

「そっかー、偉い宣教師様がこう言うんだ、日本人も黒人も、差別していいんだね」
そう思う人がいたら、紛れもない差別主義者です。

制作側の意図としては、
「神への愛を説きながら差別をする宣教師の偽善性を、おわかりになられただろうか?」
と、むしろ宣教師側を告発しているわけです。

差別なんて面倒だから、空気を読んで省こう、ガタガタうるさい奴もいる。
そんな妙な考え方をしているのは、もう日本くらいなのです。

昨年末、こんな事件がありました。

◆一晩で中国市場を全て失ってしまったドルガバ炎上事件の衝撃

この一連の報道で、
「騒ぎすぎる中国人って、空気読めないよね」
という意見があり、驚かされたものです。

差別をされたら黙るのではなく、
【声を上げてこそよりよい世界になる】
というのが、世界的な考え方の標準になって来ているのです。

差別なんて面倒くさいし、ガタガタ言われるとイヤだから避けて通るというのは、卑劣な態度として軽蔑されるだけ。
そこを理解した世界標準が、避けるはずがないのです!

このあたり、日本の「ポリコレ」誤解がありますよね……ポリコレは、メガネをかけたPTAのおばさんが嫌う、残酷描写がエロ描写への配慮ってやつ。
避けて通ればいいんでしょ、ハイハイ、ってやつ。

そうじゃないってば。
タブーに斬り込めば、むしろ高評価につながります。
このままだと、本気で世界から取り残されるんですってば。

そろそろ本気で考えないとなりませんよ。

 

Amazonは悪意をもって日本人を描いている!?

このドラマの背後には、きっと何かの陰謀がある!
反日組織が関与しているのか?

ってやつについては、
「陰謀論お疲れッス!」
としか言いようがありません。

既視感もありますね。
『アンブロークン』叩きだ。あれそっくりだ。

 

この手のお決まりとして、日本をナチスみたいに描くな!という難癖あります。
いえいえ、日本は先の戦争で枢軸国だったんですよ。

アンネ・フランクの隠れ家を訪れた日本人観光客が、母国が枢軸国だと知らないことがあり、観光ガイドが困惑……なんて話もあるくらいですからね。

 

NHKのガラパゴス化が止まらない

大河のみならず、NHKドラマのガラパゴス化は洒落にならんことになっております。

大河ドラマ『西郷どん』と朝ドラ『まんぷく』では、海外ならば放映禁止、お蔵入りになりかねない、世界的基準からすればアウト描写がありました。
キリがないので、さくっとまとめますね。

『西郷どん』
・あからさまな歴史歪曲(幕府が薩摩をフランスに割譲するつもりだった等)
・当時奴隷的な立場にあった愛加那が、自ら西郷隆盛との性的関係を望む
(※黒人奴隷女性が、いそいそと白人奴隷農場主のベッドに侍ったらどうなるか、想像してみましょう)
・奄美大島差別をした西郷を讃える島歌が、途中からテーマに加わる
(※黒人シンガーが、リー将軍を讃えるラップを歌う?)

https://bushoojapan.com/baku/2018/05/13/112673

そもそもこのドラマは、皇室侮辱としか思えない描写もありました。

明治維新のあと相撲を守り抜いた明治天皇が、西郷隆盛から相撲の魅力を習うとか。
同じことを海外で制作していたら大炎上でしょう……。

相撲の歴史は意外の連続 1500年前に始まり明治維新で滅びかけていた

bushoojapan.com

『まんぷく』
・ホワイトウォッシングとしか思えないルーツ変更
・未成年相手に、成人が性的関心を抱く描写がしつこいくらいに続く
・娘が性的ニュアンスを漂わせながら、父の前でヌードモデルを志願する

もう少しだけ、分析してみましょう。
NHK大河ドラマが堕落した理由。

世間の「空気を読め」という意見に忖度したからでしょう。

それが顕著になったターンが、2012年と2013年だと位置づけます。

2012年の「王家論争」。
2013年の「薩長をあくどく描くのか!」というクレーム。

どちらも史料的な根拠をもって描いただけです。
それなのに、わけのわからないクレームが殺到し、二作ともに迷走してしまいました。

このあとから、大河は守りに入りました。
いわばノイジーマイノリティを恐れすぎたのです。

彼らのクレームがどんなものであり、どれほど的外れであったかは、先にあげたクレームから推察できるというものです。

ネットの時代は、誰でもレビュアーになれます。
だからこそ、本当に中身のあるレビューか、批判か、吟味する必要があります。

批判を浴びるからと守りに入っては、一時しのぎにはなることでしょう。
しかし、その先にあるのは停滞と破滅なのです。

世間では
「日本スゴーイ!」
「日本の英雄はスゴーイ!」
「日本人は悪いことなんてしていないんだ!」
「来日外国人はともかく日本を絶賛する!!」
こういうコンテンツが、お望みなんでしょう?

そんな声を真に受けた結果、大河は退屈極まりないコンテンツになりました。

日本史の暗部を描かない。
主人公はともかく褒められてばかりで、ろくに苦悩すらしない。

上っ面だけで中身の薄~いほっこりドラマを目指したのです。

それでクレームは減ったのでしょうか?
歴史ファンはうんざり、げんなりしていたと思いますけどね。

大河に舌打ちしていた歴史ファンは、もう配信ドラマに走ってゆく――これは止められません。
そしてその流れは、今後ますます加速します。

2018年『西郷どん』の酷さ。

2019年『いだてん』の抱えるリスク。
近代史を扱う上に、海外から浴びた冷たい目線をありのままに描いたら、それこそクレームが殺到しかねない。

2020年『麒麟がくる』。
主演俳優が今期朝ドラで迷走中。

今はまだ、軽いジャブですよ。

このレビューで、実写版『ゴールデンカムイ』を海外制作で見たいと書きましたが、そうなったらどうなるか想像できますか。

アイヌ差別を海外は、憚るところなく描かれます。

さて、どうなることか。

あの作品のファンですら、
「男の裸が出てくるお気楽漫画でしょw 難しいことを言わないで楽しもうよ〜」
という意見があるようですが。

あの作品では、アイヌ差別、屯田兵の苦境、日露戦争での苦境、明治政府の失策、ロマノフ帝国の黄昏が、ちゃんと入ってます。

そりゃあ違いますよ。
アイヌを扱うのに、難しいことを考えないなんてありえない。どんだけ参考文献が巻末についているか、ご確認いただければと思います。

あれだけガッツリと本気で挑んだ結果が、大英博物館でのアシリパさんなんです。

もし勉強不足で、都合のいいアイヌ像を描いていたら、
「バーッカじゃねえの!?」
となって終わりですよ。

さあ、皆さん、覚悟を決めましょう!
ここはもう嵐の中です。

本作のヴァリニャーノは、聡明で、疑問を抱く人間にこそ、西洋を見て欲しいと頼みます。
そういう人間こそが、ふたつの文化を繋ぐことが出来ると告げました。

ドラードは、東西両方によい面と悪い面があると語ります。

これは視聴者へのメッセージかもしれません。

東西の歴史の、良い所と悪い所。両方受け止め、考えられる視聴者こそ、この作品が問いかける橋を渡ることができるのではないでしょうか。

文:武者震之助
絵:小久ヒロ

【参考】
アマゾンプライムビデオ『MAGI』
公式サイト

 



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