華流時代劇を楽しむ18のお約束

『陳情令』と『魔道祖師』/amazonより引用

陳情令・魔道祖師

陳情令&魔道祖師の理解深まる!華流時代劇を楽しむ18のお約束とは

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華流時代劇を楽しむ18のお約束
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糯米は魔除けなの?

はじめに断っておきます。

日本の「餅」と中国の「餅」は別物です。

ややこしいのですが、整理してみましょう。

日本の「餅」:中国では「麻糬」。中国南方、台湾、朝鮮半島、日本にある糯米加工品

中国の「餅」:小麦粉を加工した食品、クレープ状のものが有名

 

そんな糯米を使ったおいしい料理はたくさん中国にあります。

ただ、お粥にすると糯米のよさが生きてこないことは確か。

道教では糯米を魔除けの効果があるものとして使います。だから糯米のお粥を食べさせる魏忘羨の行動は理にかなってはいるのですが、せっかくならもっと美味しいものがよいという不満はあるのでしょう。

紙人形を貼り付けて操る。お札を使う。こうした術も、道教由来です。

※魏無羨が桂花糯米藕(レンコンの餅米詰め)を作れば文句はなかったはず

 

お姉さんが果物を投げているけど……

自分たちを救ってくれた魏無羨に、お姉さんたちが枇杷を投げる場面があります。

お礼においしい果物をあげることは納得できるようで、フシギなこともありませんか?

魏無羨は「こっちはどう?」と藍忘機をさし、藍忘機はなんだかぶっきらぼうな態度をとる。

これには由来があります。

中国史上最高のイケメンは、西晋代の文人・潘岳とされます。

字は安仁であり、そのためか「潘安」と呼ばれることが多いのです。

“潘又安”という言い回しもあります。「潘安の再来=すごいイケメン!」という意味。

『世説新語』にはこんなエピソードがあります。

潘岳はあまりにイケメン! 車に乗って出かけると、推しを見たいと女性たちが押しかけ、果物を投げてきます。もう、そのせいで車が一杯になっちゃう!

このことから、日本には「擲果満車」、中国には「擲果盈車」という言葉があります。推しが尊過ぎて車が満載、きゃーっ!

と、そういう意味ですね。アイドルにそのまま使っちゃってください。

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話を戻しますと、あの場面にはこんな意味があります。

【お姉さんから果物を投げつけられる=モテ度判定!】

魏無羨はモテる、自分はイケメンだと自慢したくて、藍忘機はどうかと挑発している。そして困惑している弟を見て、藍曦臣は「枇杷が食べたいなら買おうか?」と助け舟を出しているのです。

何気ないようで、三者三様の性格がわかる場面です。

潘岳は政治闘争に敗れ、一族ごと殺戮されてしまいました。

そんな非業の死を遂げたものの、美男としては現在に至るまで親しまれているのです。

そのため、潘岳はインターネット上にも大量のファンアートがあり、「潘岳役に似合う俳優は?」という記事もあります。ご興味があれば、“潘岳”または“潘安”で画像検索してみましょう。

 

佩玉(はいぎょく)は徳の証

タッセルという名目で、コスプレ用グッズが売られている!

これは衝撃的なことでした。

佩玉とは腰につける飾りです。かつては日本でもあったものの、廃れてしまったもの。日本では貴石や貴金属を用いたアクセサリ類が用いられなくなっており、謎ではあるのです。

アイヌの風習を目撃した和人が「玉を飾るんだ!」と驚いている記録もあり、日本ではこうしたものは廃れてしまいました。

そんなアクセサリ類が、21世紀にもなってコスプレグッズとして戻ってきた!

これは歴史的なものを感じます。

凝った中国結びと、玉の組み合わせ。個人の好みが反映されていて、それはもうこだわりたいポイント。

各人の個性がでる二つとないものですので、遺失物として発見されると身元特定につながることも。中国の歴史コスプレやファンアートを楽しむのであれば、ぜひともご注目ください!

◆徳に喩えられた佩玉(→link

 

扇子は貴公子必須アイテム

聶懐桑が手にしている姿が印象的な扇子。これがなかなか、実は扱いが難しいのです。

最初にああした扇子を使い出したのは一体誰? 日本の平安時代が起源という説があります。いやいや、中国由来だという説も。

いずれにせよ、作品のモチーフである魏晋南北朝にあったかというと、少々怪しいかもしれない。そんな小道具ではあります。

扇子を男女どちらが用いるか? これも時代と国によって異なります。平安時代の女性が檜扇を持つ姿は日本ではおなじみでしょう。ヨーロッパの貴婦人が扇を持つ姿もそうです。

東洋の場合、骨組みに紙を貼り付けたものは成人男性の正装アイテムとみなされました。中国と朝鮮の場合、男性が扇子、女性が団扇を持つことが定番です。幕末に来日した外国人の記録にも「扇子は男性の正装の一部である」と記されています。扇子は男性にとって重要なアイテム。ゆえに時代考証を考えるとちょっとずれてしまうけれども、出てくるのでしょう。

聶懐桑は扇子を手にすることで、武器は持たないけれど、ちゃんとした礼儀作法はできているとアピールしているのかもしれません。華流時代もので扇子を持ち歩いている男性は、上流出身であることが多いものです。

華流時代劇ファンアートを描く際に、重要なアイテムとなるのが扇子です。国と時代ごとに構造が若干異なりますので、描くときやコスプレの時にはよく観察しましょうね。

 

王霊嬌は“二番目に美味しい女”?

温晁の横に侍る王霊嬌は、セクシーな色気をふりまき、厚かましく振る舞い、虞夫人は苛立った目で彼女をみています。

この王霊嬌は、温晁の妻の侍女であったという設定です。この設定の時点で、こうわかります。

「温晁って古典的なゲスだな……」

中国文学には春本、要するにポルノも相当あります。なにせその『金瓶梅』にランクインしますから、それは当然です。

日本も中国のこうした文学を楽しみ、こんな調子でしたからね。

「うひょーっ、『金瓶梅』ってエロすぎマジやべえ! 俺らも日本版書かないと!」

『金瓶梅』は中国一の奇書?400年前の『水滸伝』エロパロが今なお人気♪

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かくして東洋では「関係を持って美味しい相手ランキング!」として、こんなゲス概念が根付きました。

一盗二婢三妾四妓五妻

一盗:不倫寝取り

二婢:女中

三妾:側室

四妓:プロの女性

五妻:配偶者

下劣の極みです。

王霊嬌はこの二番目に当たります。身分差がありますから、拒みにくい相手であるし、しかもチョロい。

よりにもよってそんなゲスな女を連れて乗り込んでくるとはどういうことだ……そう虞夫人はイライラしているのです。

 

こんなしょうもない交流も、日中文学にはあるのです。

この世界観は用語が独自のものもありますが、中国史、思想、文学に基づいています。

ゆえに調べていくと意味がわかることもあります。

日本にもあるようで、少し違っているような……そんな言い回しや意味があることも興味深いものがあります。

世界観のもとになった人々に想いを馳せることで、華流時代劇はもっと楽しめるようになります。学んでゆきましょう。

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文:小檜山青
※著者の関連noteはこちらから!(→link

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【参考文献】
井波律子『中国文章家列伝』(→amazon
井波律子『中国の隠者』(→amazon
井波律子『奇人と異才の中国史』(→amazon
佐藤信弥『戦乱中国の英雄たち』(→amazon
岡崎由美『漂泊のヒーロー: 中国武侠小説への道』(→amazon
岡崎由美/浦川留『武侠映画の快楽』(→amazon

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