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【ドラマ大奥医療編 感想レビュー第11回 源内が青沼を連れて江戸へ】
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吾作、江戸へ
耕牛の弟子たちは、大奥入りを承知しません。
長崎の魅力を知っている源内は、それもそうかと思わず納得してしまいます。
サボン売りのもとにいた吾作のもとへ、耕牛がやってきました。
吾作は、江戸行きの決意を師に語ります。
耕牛は許さない。江戸でどんな目に遭うのか……心配でならず、弟子を庇いたい気持ちがあるのでしょう。
しかし、吾作は無理をしないで欲しいと訴える。その言葉だけで十分だと。
泣きながら、守ってやれぬことを詫びる耕牛。吾作は師匠に感謝を告げ、江戸へ向かう決意を固めるのでした。
道中、源内が無頓着なことをいい、吾作を苛立たせています。
それでも吾作が源内についていくのは、兄と同じ言葉を語ったからでしょう。
源内なら、自分を理解できる。江戸で、たくさんありがとうと言われたい。そんなまっすぐな気持ちの吾作。
そこでありがとうを連呼する源内は、無神経というかお茶目というか。
このめんどくさい相手に吾作も慣れてきたようです。
田沼意次の決意
吾作は、源内に内命を下した田沼意次と向き合います。
華麗で、まるで咲き誇る藤の花のような美貌。そしてその身分に、驚いてしまう吾作。
田沼は吾作のスキルに興味を寄せ、オランダ医学と漢方について尋ねます。
源内が割り込もうとすると、吾作に聞いているのだ、と田沼が嗜めます。
西洋医学の手術について、外科においては日本と比べるべくもなく、内科も解剖学のおかげでかなり掴んでいるとのこと。
このあたりは良いところと悪いところもあり、当時の西洋医学は何かあるとすぐに患部を切断します。
戦時なんて、バケツに手足がゴロゴロ入ってしまっていたそうですよ。
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そして本題へ。
オランダに赤面はないのか?
それを田沼が尋ねると、オランダだけでなく、朝鮮や清でも流行ったことがないと答えます。
つまりは日本固有の風土病かと驚く田沼に対し、そこまでは断言できないと吾作。
なぜ赤面をそれほど気にするのかと吾作に問われると、田沼は誇らしげに吉宗公に託されたからだと返します。
ただし、これが厄介なのかもしれない。
吉宗は公にそのことを発表しなかったがゆえに、ポスト自称吉宗乱立の危険性はある。上っ面だけをみて、質素な服装をして、米本位に固執した方が吉宗ぽく思えることでしょう。
ここで吉宗のおさらいでも。
彼女は小川笙船や大岡忠相の力を借りて、漢方医学でできる範囲のことはした。それが足りないからこその蘭方となります。
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吾作はそれでも困惑しつつ、どうして大奥でなのかと戸惑います。
そこには、御典医が西洋嫌いであり、内密に進めなければならない事情がありました。
実は、史実でもそうで、例えば幕末にはオランダ船に乗り込んで大喜びしていた奥詰医師・栗本鋤雲が、そのせいで左遷されています。
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医療編のモデルとなる種痘接種にせよ、御典医が断固反対した事例もあります。
会津藩主・松平容保の正室である敏姫は、そのせいで天然痘に罹ってしまい、開明的な家臣である山川重英は悔やんでも悔やみきれなかったそうです。
そうした事情を踏まえて、内密なまま、重大な命令をくださなければならない田沼。
決して安全とは言い切れない取組であり、それでも田沼意次に頼まれた吾作は謹んで引き受けます。もう田沼の魅力が圧倒的ですね。
「ありがとう、吾作」
この顔でそう言われたら、そりゃ蕩けますな。メロメロした笑顔を見せる吾作に、源内が「惚れるな!」と釘を刺す。
「田沼様に惚れていいのは私だけだ」
田沼はそんな源内の言葉は話半分で聞くようにと嗜めます。これは史実の平賀源内が同性愛者だったとされることを反映しているのでしょう。
そしてもうひとつ、金に汚い印象が強い田沼意次が、こうも颯爽とした美しさなのか。
これこそが田沼意次の再評価でしょう。
田沼=汚職政治家というイメージは長らく強固でしたが、今は見直しが進んでいます。
このドラマでは松下奈緒さん。2018年正月時代劇『風雲児たち』では草刈正雄さん。そして2025年『べらぼう』では渡辺謙さんが演じます。
颯爽とした美形、困難に立ち向かう姿が、田沼意次にふさわしいと思われているのです。
源内は評判の本草学者
さて、ここで「源内」と明かされたおしゃべりなヤツ。
このときまで吾作はあくまで「権太夫」だと思っていて、正体を明かされると驚いています。
近ごろ評判の本草学者が女だった。なんなんだ……と、気になるのが本草学ですね。
現在の「植物学」とは異なり、医薬品になる可能性があれば、鉱石、生薬まで幅広く扱う学問でした。
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朝ドラ『らんまん』の主人公モデルである牧野富太郎たちは、江戸時代までの本草学の恩恵も受けています。
何よりあのドラマでも重要な役割を果たした小石川植物園は、元を辿れば吉宗時代からの小石川養生所。
牧野富太郎がもっと前に生まれていれば、本草学者になっていたかもしれません。
逆に平賀源内がもっと後の時代に生まれていたら、日本中を歩いて植物図鑑を作っていたかもしれない。科学者になっていたかもしれない。そんな学問が本草学です。
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御祐筆の青沼
大奥では、吾作を受け入れる準備が整えられています。
黒木が御祐筆部屋に異動。
御目見以上の出世とはいえ、悪筆である自分がなぜ?と訝しんでいます。
吾作の世話役であるため蘭学医の息子である黒木が選ばれたのですが、本人は複雑な表情を浮かべています。
そしていよいよ吾作が大奥入り。
長崎とは違い、異人など見たことがない大奥はざわつき、青い目をしていることから「青沼」と呼ばれることになりました。
吾作改青沼は、オランダ渡りのサボン(石鹸)を皆に贈ります。
総取締の高岳は笑顔で受け取り、黒木も青沼に頭を下げています。
青沼が黒木にもサボンを渡そうとすると丁重に断られ、かつ身分が青沼様の方が上だと黒木は返し、呼び捨てにするように伝えます。
では、青沼はどうやって蘭学講義をするのか?
なんでも上様に肝入りで、講義を行うようで、綱吉時代の漢籍講義を思い出しますね。
それにしたって、異人を見るだけで逃げる相手にどうしろというのか。前途多難。
青沼は周りに馴染もうとするのに、大奥の者たちはなんだかんだと言い訳をしつつ、彼を避けています。
仕方なしに青沼は、書物を見るくらいしかすることがありません。
ふと『没実録』を手にすると、不穏な音楽を背景に、誰かが歩いてきます。
一橋治済(はるさだ)――吉宗の孫である彼女は、常に笑っているような目であるのに、何かがおそろしい。
一橋家は御三卿のひとつですが、幕末になるとまるで呪詛のような響きすら出てくる、なかなか厄介な存在です。
治済は微笑みつつ探りを入れて、田沼を応援していると声を掛けます。
それだけなのに、何かが恐ろしい。
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