以前読んだ大河ドラマ関連の書籍に、こんなことが書かれていました。
大河の出演がキッカケで役者としてのキャリア、それのみならず人生まで変わる人もいる――。
その一例として挙げられたのが、最近では綾瀬はるかさん。
アクション女優として開眼し、歴史・社会的なキャリアも増加しました。
単に、かわいらしい、癒し系女優だけではない、大きな女優像へ変貌を遂げたと、僭越ながら私も感じております。
もう一人、この好例としてあげられていたのが、菅原文太さんです。
菅原文太さんと言えば、やっぱり仁義なき戦いシリーズ!
しかし、1980年の大河ドラマ『獅子の時代』で会津藩士・平沼銑次を演じることによって、ただの役者ではなく、歴史に造詣が深い人物に育っていったのだと言います。
そうなんです。
実は文太さん、スゴイ歴史好き!
知識も半端ない!!
それは『仁義なき幕末維新 われら賊軍の子孫 (文春文庫)(→amazon)』を読めばわかります。そして唸らされます。
賊軍子孫同士の、明治維新への目線。
本書を読むと、なぜ『花燃ゆ』と『西郷どん』が大ゴケし、東日本を中心に総スカンをくらったのか――その理由も痛感できる一冊になっています。
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「明治維新の正と負の面を考える」
文太さん、あんたぁ、本気だな。
本書は、ページをめくった瞬間から、脳天直撃します。
ともかく熱い対談草案の筆跡と文章を見て、この人は本気だ、ものすごいぞ、と衝撃!
「明治維新の正と負の面を考える」
そう始まる草案冒頭から、この人は本気でガッツリ明治維新について語るつもりだな、と覚悟を感じるのです。
そんな文太さんは仙台藩士の子孫です。
対談相手の半藤さんは、長岡藩士の子孫です。河井継之助がよく知られていますね。
文太さんは、仙台藩のことをなかなか冷徹に見ている部分もあります。
奥羽越列藩同盟の主役のようでありながら、途中から腰砕けになってしまったのだと語ります。
奥羽越列藩同盟は何のために結成? 伊達家を中心とした東北31藩は戊辰戦争に敗れ
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故郷仙台へのいささか厳しい目線は、なかなか興味深いものがあります。
『ここまで言ってもよいものか?』
と、ちょっとドキドキするくらい辛辣だったりするときも。
このあたりで文太さんの歴史観、冷徹な目、観察力、調査力はとんでもないと把握できました。
そして、その印象は、読めば読むほど強くなります。
これだけ中身がある方ならば、あの演技力も納得できるというもの。それでもご本人は「俺は演技が下手」とも言うのですから……。
文太兄ぃにはもう参るしかございません!
アウトローやテロリストから見た明治維新
文太さんの代表作といえば、やはり『仁義なき戦い』です。
そんな彼であればこそ! と思えるのが、博徒だって明治維新を動かしたという見方です。
ただ、これはとても辛く、苦い目線でもあります。
彼らは戦ったものの、使い捨てにされた面があるのです。
※以下に、本サイトでの関連記事がございますので、よろしければ後ほどご確認ください
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斬り捨てずに、敢えて見る。
そこが文太兄ぃじゃないですか。
彼の演じたヤクザ像にどっぷりハマったファンからすると、それでこそだと拍手喝采を送りたくなるところでもあるのです。
このアウトロー幕末維新関連の話、これはもう文太兄ぃファン以外も必読です。
特に半藤さんが新門辰五郎の伝記を書いた理由。
必読でしょう。
偉大なる親分・新門辰五郎とは? 将軍慶喜に愛された火消しと娘・芳の生涯
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表舞台に立ち、明治政府を担った英雄だけが、幕末を生きていたわけじゃない!
敗北し、アウトローであった幕末の人物にも、子孫は当然いるわけです。
自分のご先祖を誇りに思っていて、忘れないでいて欲しい。そう願う日本人は当然ながらおるわけですよ。
相楽総三に関する言及も、なんとも言えぬ悲哀が満ちております。
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やっぱり、どうしても、読みながら文太兄ぃとこうしたアウトローを重ねてしまうんですよね。
相楽の虚しさには、文太兄ぃはものすごく心を寄せていたのだと思われます。
彼の最期に思いを寄せる達筆の色紙が掲載されておりまして、これを見るだけでぐっとくるものがありますよ。
相楽への言及としても大変優れた対談内容です。
アウトローから取り上げるだけでも珍しいもの。このことだけをとっても、本作は幕末ファンならば買っておいて損はないと言い切れます。
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