『進撃の巨人』1巻&34巻/amazonより引用

この歴史漫画が熱い!

『進撃の巨人』は日本の幕末維新に通ず!? 奇妙な違和感の正体はこれだ

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『進撃の巨人』は日本の幕末維新に通ず
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「なぜなら俺は始祖ユミルを信じている‼︎」――愛国心の危険性

【攘夷】とワンセットにされる思想の【尊王】。

幕末における【尊王】について考えておきたいことがあります。

江戸時代という太平が続いた中、それまでの時代とは異なった精神面の変化が人の中に生じました。

日本特有というわけでもなく、国民的な文化や文学作品が17世~19世紀に生まれた国は多い。

ある程度人類が進歩し、自分たちのアイデンティティやルーツへの理解をさらに深めていった時代と言えるのです。

愛国心を育てて何が悪い?

人として当然ではないか?

自分の国を愛して何がいけないんだ?

そんな反応もあろうかとは思いますが、敢えてその危険性を考えたい。

江戸時代、愛国心を拠り所にして他者と差をつけたいと願った人が出て来ました。

ただし、そう考えること自体は別に危険でもなく、問題は政治力と暴力の結びつきでした。

それを生じさせてしまったのが幕末の水戸藩です。

水戸藩は徳川御三家でありながら、尾張藩と紀州藩よりもランクが低いという劣等感がありました。

将軍の座が空いた時、尾張家と紀州家のみに声がかかり、水戸藩はスルーされてしまう。一体どうすればよいのか?

江戸時代の諸藩は、しょうもない手でプライドを高める憂さ晴らしをしていました。

スター力士を抱えるとか。領民に重税をかけてでも、ライバルの大名よりも上の官位を得るとか。

水戸藩の場合は、ある意味賢い手段を取りました。

水戸光圀が始めた『大日本史』等の編纂です。その事業そのものは偉業であり、かつ危険とは言えない。

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ただ、歴史が下り、英米の捕鯨船が水戸湾に姿を見せるようになってゆくと、だんだんと危険な兆候が出てきます。

日本史を学ぶうちに、徳川将軍家よりも、天皇家がえらいのではないかと思うようになる。

そして、我が国は神聖だから無敵だ!

そんなよくわからない危険思想が渦巻き……やがて煮詰まってしまった。

それでも理性的で冷静かつ西洋事情を学ぶ藩主ならばよかったのでしょう。

しかし、幕末期の徳川斉昭はそうじゃない。

『進撃の巨人』ならばさしずめグリシャ・イェーガーあたりと似たキャラクターと思ってください。

大雑把にまとめて申し訳ありません。気になる方は各自調べていただければ。なお斉昭の場合、グリシャと違って幼少期のトラウマは特にありません。

いくらなんでも斉昭のことをグリシャに例えるのは……そういうツッコミはあるとは思います。

けれども彼ら水戸藩の国学思想に凝り固まった人々は、血の気が多く、プライドが高かったと当時から指摘されていました。

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黒船来航のあと、斉昭はハッスルしていました。

愛国心アピールの場と勘違いしていたのではないか?

そう言いたくなるほど無茶苦茶なのです。彼は幕府内でも極めて特殊であり、他の幕臣はもっとまっとうでした。

「外国と貿易しても別によいでしょう。歓迎して話し合えば、それでよいと思いますけどね」

全般的にこういう意見。

幕臣が頑迷であるという刷り込みは、本来何とかすべき課題なのです。

幸いにして、最近は幕府を見直す書籍が多数刊行されていますので、是非とも手にとってみてください。

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そんな開明的な幕臣と、グリシャこと水戸斉昭を比較するとしましょう。

幕末政治の場での彼のノリを『進撃の巨人』風味で再現すると、だいたいこんなところです。

「異国船なんて恐れるに足らず‼︎ 乗り込んで切り込めば勝てる‼︎」

「えっ……しかしよくこの異国船相手に勝てると言い切れるな。我々としても全容がつかめておらんが。もしかして船の構造を探ったとか?」

「いいや、まだほとんどわかってないんだ」

「……? ではなぜ対処がわかった?」

「? そんなことすぐわかるだろ? なぜなら俺は我が国と帝を信じている!! 妻は公家出身‼︎ 俺達は選ばれし神の子!! 尊皇の民だ!! おおおおおおおおおおお‼︎‼︎‼︎」

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そんな無茶振りでも、そこは御三家の水戸徳川家です。幕末の政治で権限を持ってしまう。斉昭より、よほどまっとうなセンスの持ち主であった幕府上層部は焦燥しました。

なんとか政治から排除したい。過激な尊皇思想は危険だ……と、そうなりそうで、そうならないのが歴史のおそろしさ。

13代将軍・徳川家定が子がないまま死去したことに伴い、第14代将軍を誰にするのかという問題が発生しました(将軍継嗣問題)。

このとき斉昭の過激な言動が仇となり、斉昭の子であった徳川慶喜一橋慶喜)は将軍から外されます。

けれども、この将軍の座をめぐる政治闘争の中で、水戸藩を震源地とする尊皇思想は薩摩藩や長州藩らに浸透してゆきます。

斉昭が失脚した時点で、もはや手遅れ。

その過程の政治闘争の結果、【桜田門外の変】というテロルが発生し、日本は血の海に沈んでゆきました。

歴史の教科書ではかなり美化される【尊皇思想】。幕末の時点での水戸藩を見ていれば、現実離れした愛国心が危険だとわかるのです。

愛国心そのものが悪いのではありません。ただし、こうした要素があると危険です。

・政治と結びつく。階級闘争の道具になる。実力や理論よりも、愛国心の有無が評価基準になると組織は腐敗します。

・暴力と結びつく。幕末はこれが頂点に達した時代です。

・【エコーチェンバー】現象。幕末期の回想を読むと、尊王攘夷を若者たちが語り合ううちに、無敵状態だと思い込んで暴力事件に結びつく事例が多数あります。

・オカルト思想と結びつく。「なぜなら俺は我が国を信じている!!」と言い出し、無敵だと思い込んだらただの危険思想になります。

現にそういうおぞましい実例は、ニュースをみていればおわかりいただけることでしょう。

 

女王ヒストリアは“玉”なのか?

何が神だ‼︎ 都合のいい逃げ道作って 都合よく人を扇動して‼︎

もう! これ以上……私を殺してたまるか‼︎

『進撃の巨人』のおけるフリッツ王周辺は、幕末史を扱ったフィクションにおける幕府を思わせます。

無気力、嘘をついて民を騙す。そもそもが正当性もない。

その元にいて強いケニー・アッカーマンとその配下「対人立体機動部隊」は、さしずめ新選組というところでしょう。

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無気力なフリッツ王を追い払い、正当なる女王ヒストリアを戴冠したぞ!

あの展開は熱いものがありました。幕末を扱ったフィクションで、明治維新が達成されたような高揚感がありました。

しかし「マーレ編」になると、その感動も薄れてゆきます。

パラディ島唯一の同盟国となるヒィズル国のキヨミ・アズマビトは、ジーク・イェーガーが発案した計画を伝えてきます。その中には、王家の血筋の維持を求められました。

つまり、女王は可能な限り子を産み続けなければならないということです。

この計画に対し、ハンジは困惑し、エレンも受け入れられないと吐き捨てるのです。

倒錯していてややこしいとは思いますが、整理してみましょう。

幕末から明治の世界情勢を踏まえるにパラディ島を日本とすれば、ヒィズル国はイギリスの立ち位置に当たります。

幕末期、イギリスは日本の政局に介入し、倒幕側に武器を提供しました。ロシアを牽制する役割を果たすためには、日本を支援することが有益であったのです。

この関係は日英同盟、そして日露戦争の辛勝にもつながっております。

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話をヒストリアに戻します。

「マーレ編」を読んでいてと気分が重くなるとすれば、この“女王”の扱いもあげられると思います。

擁立した時までは盛り上がったけれども、血統継承をする君主を維持するということは、自由の制限につながるということでもあるのです。

ヒストリアの場合は、現実をより極端にしているとは言える。けれども、現実においても「子を産むべき!」だの「この人と結婚するなんておかしい!」だの、プライバシーも何もあったものでもなく叩かれ続ける。

それが君主制というものです。

幕末期、倒幕派は天皇を“玉”と呼んでいました。君主を道具扱いしていたのです。

明治以降も、政府の中枢は天皇を崇拝するよう強制しながら、見下すような言動があった記録は出てきます。

自分たちが持ち上げてこその天皇であるという認識があったのではないか? その批判は、尽きないものなのです。

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『進撃の巨人』の場合、ヒストリアは調査兵団員であったためか、そこまで露骨に道具扱いはされていないように描かれています。

けれども、彼女が“自由の翼”から遠ざかっていることは伝わってきます。

ヒストリアが自由であった時代とは、クリスタと名乗り、ユミルと並んでいた頃ではなかったか?

女王になることは、真実を知ることは幸せなのか?

君主制とは?

そういう高度な問いかけのある設定といえる、それが女王ヒストリアなのです。その問いかけすら、エレンが踏み潰していく感はありますが。

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