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【日本史陰謀論】
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単一民族だから日本はスゴイ?
2000年にわたり、一つの国で、一つの民族、一つの王朝が続く国は日本だけ――こんな発言もあります。
レイシズムと片付けてもよいのですが、ちょっと考えてみましょう。
こういう「日本こそ素晴らしい民族だ」というプライドを辿っていくと、明清交代の時期に辿り着きます。
漢民族の明朝が、満洲族の清朝に負けてしまった。
【華夷変態】と呼びます。
日本ならば江戸時代前期に起きたこの大事件が、日本人の自己意識に変貌をもたらしてゆきます。
明からは朱舜水ら亡命者が日本へも辿りつきました。
歓迎したのは水戸光圀です。
こうした亡命明人から儒教を取り入れる中で、「満洲族に倒された中華の正統後継者は我々ではないのか?」という思いが芽生え……その種が育った結果、水戸学に繋がってゆくのです。
水戸学では、儒教と神道を尊重し、仏教を徹底して排撃しました。
・神道は、日本に元々あるからOK
・儒教は、実質的に日本人は中華後継者だからアリ
・仏教は、天竺から来たくせに、何を威張っているんだ! いらん!
ざっくりまとめるとこういうことです。
明治維新を迎えたころ、水戸藩は内乱で人材が尽きていましたが、明治政府上層部には水戸学信奉者が揃っていました。
その結果が【廃仏毀釈】の拡大です。
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明治維新を迎えると、日本は【日清戦争】に勝利し、東洋の盟主としての自信を深めます。
一方、清の若者たちは改革を目指し始める。
お手本としたのは日本。彼らは日本を目指し、留学生は和服を好むこともありました。
「今の服は満洲族のもの。でも和服は呉服ともいうし、漢族の服が伝わったもの。漢人である私にとってこちらの方が伝統的なんだ」
そんな強引な理屈がまかり通る。
そして、日本の拡張路線は、危険な方向へ向かってゆきます。
アジアの盟主は日本である。
アジアの英雄は自分たちのもの。
そんな歴史的ジャイアニズムが醸成されてゆくのです。
明治の著名な唱歌に『星落秋風五丈原』があります。
諸葛亮を歌ったもので、これを歌いながら日本人は「これぞ大和魂だなあ、響くなあ」と思っていました。
なぜ中国の英雄である諸葛亮が大和魂に響くのか?
当時は「中国人もアジアの盟主である俺らのもの」と扱っていたがゆえにそうなった。
義経=ジンギスカン説とか。新選組の原田左之助が大陸で馬賊になったとか。
そんな範囲がやたらと広い伝説の類も、日本こそアジアの盟主であるという発想から生まれています。
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それが【アジア・太平洋戦争】敗北後に消え去ったようで、純粋性をうたうナショナリズムに形を変えて残った。
「日本はアジアの盟主だからスゴイ!」が終わったあと「日本はともかくスゴイ!」になったのです。
差別的な考え方なんですけどね。
イケイケノリノリ、気分はアジアの盟主だった日本人は妄想に耽り、「日本雛形論」を形成してゆきます。
「世界の見本は日本で、あの国も、この国も、日本をベースにして発展したんだよ!」
「な、なんだってー!」
「それは“アカシックレコード”にも書かれている!」
「スゲエ! 日本スゴイ!」
こういうもので、よくある陰謀論です。
日本はともかくスゴイ?
2010年代は「日本スゴイ」番組や雑誌がやたらと増えました。
今でも「日本人が日本がスゴイ、誇りを持って何が悪いんですか?」といったプロフィールをSNSなどで見かけたりします。
結論から言います。
止めたほうがいい。
何気ないたった一言でも、その背景に漂う意味を深く分析してみると、何かとよろしくない意識が見え隠れする。以下の通り。
・自分たちだけが何か一段上にいる
・自分たちが目覚めていて新しい何かを知っているという高揚感
・自分たちこそ世界の見本となるという誇りがある
・とにかく自分たちは特別!
・なのに理解されずに叩かれる! 私たちは被害者だ!
・普通の日本人は、ただそこにいるだけでもっと評価されてもいいのに、どういうわけか別の連中にソースが裂かれる、許せない!
いささか過剰に記しましたが、大方こんなところでしょう。
だからこそ“日本スゴイ”論は控えめにした方がよいのです。
マクロビオティックで触れたように、オカルトと親和性の高いカウンタカルチャーやニューエイジ、スピリチュアルリズムは“東洋の神秘”を求めるため、ご注意を。
彼らオカルト神秘主義者から「ゼンは最高だね!」と言われて浮かれていると、危ういことしかありません。
日本の“禅”にせよ、“道”にせよ、元を辿れば中国ですし。
賢ければオカルトにハマらない?
いかがでしょう?
荒唐無稽で無茶苦茶――これまでの記事をご覧になって感じたのは、そうした感情であり、「自分は問題ない」と思われる方も少なくないでしょう。
しかし、油断は禁物です。
洗脳の手段として、精神的ダメージを与え続けることがあります。何か継続的に嫌がらせを受けていると精神が弱くなってしまう。
歴史の事例を見ていると、頭脳明晰な人物がオカルトにハマってしまうケースも見かけます。
日露戦争の英雄、あの秋山真之(さねゆき)はその代表例でしょう。
あの理詰めの名将が、晩年は宗教に嵌っては脱会を繰り返していたというのです。
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当人がどれだけ賢く優れていても、オカルトにハマる落とし穴はあります。
環境にも注意が必要です。
幕末を振り返って、幕臣の江間政発は、こう言いました。
「幕末の攘夷って、要するに反対派を叩き潰す看板だったよね」
会津藩家老の山川浩は辛辣にコメントしています。
「幕末の京都にいた脱藩浪士って、外国人をモンスターだと信じてたよね。ギャーギャーやたらと鎖国攘夷だと叫んでいたけど、そんなもん実際無理だったろ。まっとうな意見なんてない。ヤバい奴は、元寇の時の神風を期待するオカルトだったワケ」
口が悪いけれども、彼の分析は的確でした。
幕末の“志士”たちは【エコーチェンバー】の典型例といえます。
諸条件が揃っていた。
・比較的若く、人生経験が少ない
・少人数集団で語り合って盛り上がる
・思想が強い
・京都にいたら外国の見聞を広げる機会がない
幕臣ともなれば、実際に外国人と交渉しますし、年齢的にも落ち着いています。
それができないのが志士でした。
連中に殺人暴力上等の思想を植え付けたら危険極まりない。個々人の志士が秀才だろうと、そこは冷静にならねばなりません。
現在は、SNSが幕末京都の料亭じみた空間を作り上げてもいます。
気の合う者同士だけで楽しくはしゃぎ、止める奴は追い出される。推しの話でも盛り上がる。いつもハイテンション!
こういう楽しい場に水をさしたくはないけれども、そこは慎重になった方がよいでしょう。
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陰謀論がここまで広まると、解析も進んできました。
なまじSNSがあるため、発信内容から傾向を探ることもできるようになったのです。まだ途上といえども、防止はできます。
・優越感の危険性
自分たちは何か特別なスゴイことを知っているという気持ちは、陰謀論と容易く結びつきます。地道な努力をしなくとも陰謀論に染まればマウンティングが取れる! それはなかなか気持ちの良いことです
・日本雛形論をくりかえさない
なんでも日本が見本になったという「日本雛形論」という陰謀論があります。そんなものを繰り返す必要はありません
・古代はロマンで留めて
スピリチュアルと古代の神秘は相性抜群! 今は縄文に危険な雰囲気が出ています。土偶を愛でるならば無害なものの、勾玉を携帯すれば何かパワーが得られるとなったら危険です。踏みとどまりましょう
・GHQはそんなに暇じゃない、責任から逃げないで
GHQ、そもそもそんなになんでもかんでも禁止してないから……これは何か他者のせいにしたいという気持ちのあらわれ。自分たちの問題点にはちゃんと向き合いましょう
・ネットでなく文献を調べましょう
なんでもかんでもインターネットで調べられるのに、本を調べてどうするの? そう言いたくなるかもしれませんが、ネットはデマが振り撒き放題です。ネットで集めた情報は裏どりをする癖をつけておくとトラブルを回避できます
・うますぎる話には裏がある
あまりにできすぎているとなると、一歩立ち止まりましょう
★
現代人が織田信長から見習うべき姿勢とは、池に大蛇がいると聞いたら「ソースあるの? 俺調べてみるわ」と飛び込んでみるところかもしれません。
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池の大蛇も、うますぎるネットで見た話も、ソースの確認が大切ですね。
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文:小檜山青
※著者の関連noteはこちらから!(→link)
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他