渋沢市郎右衛門

幕末・維新

渋沢栄一の父・渋沢市郎右衛門元助(青天を衝け小林薫)は史実でどんな人物?

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渋沢栄一の父・渋沢市郎右衛門
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一人で藍の取引を成功させた栄一だが……

惇高のもとで武士さながらに学びを深めた息子の栄一。

市郎右衛門は、彼が15~6歳のとき

「いつまでも本を読んでばっかりではいかん。もう子供じゃないんだから、そろそろ農業商売にも本腰を入れるべきだろう」

と告げ、藍産業を手伝わせました。

当時から息子・栄一の才覚は抜きんでており、父が買い付けで留守にしている間に「自分でも挑戦してみよう」と一人で藍の取引に出発。

見よう見まねで商談を再現し、その年の買い付けをほぼ一人で担ったと回顧しています。

帰郷した市郎右衛門も、これには思わず称賛。後継ぎとして確かな手ごたえを感じたことでしょう。時に厳しく叱責することもあったようですが、日頃から大きな期待をかけていたことは栄一の自伝からも伝わってきます。

しかし、あるとき事件が起きます。

栄一が藩主の安部家に金を貸す際、代官によって理不尽な仕打ちを受けたのです。

彼は市郎右衛門から「いくら必要か?」を尋ねるよう遣わされていたのですが、代官からは「父に断るまでもなく、お前の独断で金を貸せ」と詰められました。

栄一はこれを拒むと、代官らはさんざんに彼を罵倒。その理不尽さに不快感を抱きました。

そもそも、名目上は「借金」でありながら、実態は返却の見込みはない「寄付」のようなものです。

栄一は

「頼みごとをする立場の人間が、なぜこんなにも無礼で偉そうなのか…」

とあきれ、同時に

「今の政治はこんなにもひどいのか。百姓のままでは一生馬鹿にされたままだ」

と、武士への憧れが芽生えてきました。

そんな息子の思いに市郎右衛門が気づいていたかどうか。それは不明ですが、栄一はその後も藍売りの仕事を続けていたので、父としては大きく慌てることもなかったでしょう。

しかし……。

 

攘夷を心に秘めた栄一と決別

栄一は、惇忠の弟・尾高長七郎から江戸遊学の話を聞かされ、天下へ打って出たい気持ちを抑えられなくなりました。

彼は市郎右衛門に「自分も江戸へ出たい」と訴えます。

しかし、

「商売をないがしろにして武士のまねごとをされては困る。安心して送り出すことはできない」

と反対。

最終的に「春の数か月間だけ」という妥協案に落ち着き、遊学の旅へ向かいました。

多感な栄一は江戸の人々と交流するうちに、すっかり「憂国の志士」を気取るようになったと後に語っています。

本を読み、天下を論じることだけしか見えなくなった栄一は本業が疎かになり、市郎右衛門と対立していくようになりました。

それでも市郎右衛門は頭ごなしに彼を叱りつけたりはしません。

暴走してしまわないか?

そんな心配を抱えながら、息子の聡明な議論を見かけたときには「オレの子は人に見せても恥ずかしくない男だ」と嬉しそうな様子でもあったといいます。

ところが、です。そんな息子がトンデモナイ計画を思いついてしまうのです。

 

高崎城を奪い 横浜で……という無茶な計画

息子が暴走するんではないか?

そんな市郎右衛門の杞憂は現実となりそうでした。

栄一は

・高崎城を乗っ取って

・横浜で外国人を皆殺しにする

そんな暴挙を引き起こそうとしたのです。

とはいえ一定の冷静さを持ち合わせていたのが栄一。

家には迷惑をかけたくないとして、計画を伏せながら、父に自身の勘当を申し出ます。

市郎右衛門は即座に反論。

「天下を論じるのはけっこうだが、そのために身分を変えてしまうというのは道理に反する。農民は農民らしくしているべきだ」

として、二人は譲らず、夜通し議論に明け暮れました。

そして最終的に市郎右衛門は「もう、お前はオレの子じゃない! 勝手にすればいい」と折れます。

ただし、栄一の申し出た勘当や相続放棄については「お前が出ていった後でも遅くない」として、すぐには動きませんでした。

市郎右衛門にしてみれば、どうにもならない思いだったでしょう。

後継ぎとして大切に育ててきた息子。

しかも聡明な少年が社会に触発され、非常に危うい道へと踏み出そうとしている。話し合いでは決着が付かず、追い出すような真似すらしてしまった。

一方、当の栄一にしてもこの一件は若さ故の過ちだと認識しており、次のように答えております。

「この時期の父がどれほど心を痛め、苦しんだかが思いやられます。なんと親不孝な子であったかと、後悔にたえません」

それでも、一枚上手だったのが市郎右衛門でしょうか。

「もう口出しはしない。お前が仁人義士(広い愛を持ち、人の道を守った人)と呼ばれるような人間になったら満足だ」

そう語り、栄一の背中を押したのです。

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