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【原市之進も死なせてしまった慶喜の政治改革】
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四侯をあしらい【兵庫開港問題】を解決
長州藩は討伐対象だが、薩摩藩はさにあらず――慶喜がそうした認識を持っていたことは重要でしょう。
大河ドラマ『青天を衝け』では長州藩の影が薄く、慶喜は薩摩藩・島津久光をことごとく小馬鹿にしていますが、ことはそう単純でもありません。
そもそも薩摩藩は【将軍継嗣問題】の時点で斉昭らと行動を共にしていました。
しかし【参預会議】で暴発した慶喜が自らその関係性を崩壊させてしまっていた。
薩摩は強力です。彼らを取り込み、歩調を合わせようと慶喜は考えます。
このころ政治の大きな焦点としては、次の2点がありました。
・長州藩の朝敵を取り消し、寛大な処置を行うこと
【薩長同盟】本来の目的ですね。
・兵庫開港問題
もはや開国しかないと決意を固めた慶喜は、孝明天皇が断固反対していた兵庫開港の承認を目指します。
しかし、ここで慶喜の暴走癖が出てしまった。
大坂城でイギリス、フランス、オランダ、アメリカ代表と会談し、兵庫開港すると勝手に確約してしまったのです。
朝廷の意向は無視。
と、この慶喜を止めるべく、薩摩が手を打ちます。大久保利通と西郷隆盛らが久光を上洛させ、歯止めをかけようと画策するのです。
西郷隆盛あたりは『兵庫開港を腰砕けにして、慶喜の権威を失墜させれば、国際的にも見切りをつけられる』と目論んでいました。
というのも、イギリスのパークスは大坂城で出会って以来、慶喜を気に入っていた。その信頼を失墜させれば幕府は一気に苦しくなる。
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久光のみならず、四侯全員(島津久光・伊達宗城・松平春嶽・山内容堂)も上洛しました。
彼らを二条城に招き、慶喜はお得意のパフォーマンスを発揮。
兵庫開港問題に口を挟み、連名の建議書を提出してきた相手に対し、お得意の弁舌で言い抜けました。
さらには宴席酒を飲ませた上、写真撮影をしてお開きにしてしまったのです。
そしてもう一つのミラクル!
しつこく粘り腰で朝廷相手に交渉し、兵庫開港の勅許を得てしまいました。
しかし交渉は30時間、夜まで及び、相手が疲れ切ったところを強引に押し切ったもの。
まるでマルチ商法の洗脳であり、案の定、周辺は不満を募らせます。
結果、流血となりました。
兵庫開港を吹き込んだのは、側近の原市之進である――そんな名目を掲げた刺客により、原が殺されたのです。
中根長十郎や平岡円四郎と同じく、原は、慶喜の身代わりになるようにして討たれたのでした。
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そして誤算の倒幕へ
確かに、慶喜は優れた人物であるとは思えます。
テキパキとロッシュの進言を聞き入れ、軍を改革し、島津久光らを言いくるめてしまう。
しかし暴走傾向があり、周辺の気持ちをあまりに考えておりませんでした。
手のひら返しがあまりに激しく、相手が抱く不信感や不快感を軽んじている。そんな傾向があまりに強いのです。
多少遠回りになろうと、誠意をもって周辺と強調していたら?
別の形での歴史があったかもしれない。そう考えさせられるのが幕末なのです。
このあと、慶喜は【大政奉還】に向かいます。
もう一度、思い直してみましょう。
ここまで策を練っていた。
大勢の優秀な幕臣も抱えていた。
装備も金も兵もある。
そんな将軍が、幕府に未練も愛着もなかったのか?
そこをふまえ【大政奉還】と【鳥羽・伏見の戦い】を振り返ることも大事でしょう。
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文:小檜山青
【参考文献】
野口武彦『慶喜のカリスマ』(→amazon)
野口武彦『鳥羽伏見の戦い』(→amazon)
一坂太郎『明治維新とは何だったのか』(→amazon)
半藤一利『幕末史』(→amazon)
片山杜秀『尊王攘夷:水戸学の四百年』(→amazon)
他