こちらは2ページ目になります。
1ページ目から読む場合は
【光源氏ってイイ男?】
をクリックお願いします。
お好きな項目に飛べる目次
問題提起3「そもそも雅でしたっけ?」
まぁ、そうは言うけどさ。
平安貴族って優美で、和歌を詠んで、ロマンチックでしょう?
そう言いたくなる気持ちはわかります。
お香を焚き、和歌を詠み、四季を愛でる。浮世離れしています。
ただ、それもあくまで当時の範囲ですし、東国武士との比較で相対的に風雅に見えているだけかもしれない。
東国武士とは、いわば『マッドマックス 怒りのデスロード』に出てくるイモータン・ジョーとウォーボーイズのようなものです。
イモータン・ジョーほど酷い人でない――誰かがそう言ったところで、信じてよいものかどうか。
倫理観が現代とは違うので仕方ないのです。
繁田信一氏『殴り合う貴族たち』(→amazon)には、そんな危険で雅でもない貴族が紹介されています。

『殴り合う貴族たち』(→amazon)
紫式部も日記では生々しく、雅じゃないハラスメント三昧を書き残しています。
そんな観察眼は、当然のことながら『源氏物語』にも生かされておりまして。
光源氏――あいつ、結構ろくでなしじゃない?
・紫の上:前述通りの児童誘拐
・夕顔:寂れた場所で逢引に連れ込んで(状況的に見て)腹上死。そのまま死体の始末を部下に任せて逃亡。六条御息所の亡霊のせいにしていますが、そんな廃れた場所に彼女を連れ込み、一体何をやっているんでしょうか?
・空蝉:「美人じゃないけどそそられる〜」と自宅に忍び込んできて、服を残して逃げる。光源氏は「まあいっか」と、その場にいた軒端荻ととりあえず契る……よくよく考えると酷い話では?
・朧月夜:女御として入内予定だったのに、ある夜うっかり光源氏と出会ってしまう。「俺、身分あるから拒まないほうが賢いよ?」みたいなゲスい始まりで関係をもち、入内を取り消されかけるほど揉める
キリがないのでこのへんに抑えておきますが、強引に迫り、関係を持つパターンが多い。
夕顔の死体を空き家に置き去りにして始末を部下にさせるあたり、ゲスの極みなのではないかという気持ちが湧いてきます。
『源氏物語』を読む時、「倫理観はとりあえず無視する」というのはお約束です。
異性愛ではなく同性愛、当事者の声が生々しく残るだけに、当時の恋愛アプローチが危険だとわかる人物もいます。
悪左府こと藤原頼長です。
光源氏より時代は下るものの、当時の恋愛は危険ってことですね。個人差はもちろんありますが。
源義経が現代に来たところで、あんまり恋愛したくないとは思えてきますが、光源氏もきっと似たようなもんだろうとは思います。
いいんですよ……設定としておもしろければそれで。突っ込むほうが野暮なので、ごめんなさい。
古典に倫理観を期待しても……という話で
ここで断っておきたいことがあります。
別に『源氏物語』が悪いとか。そんなもんを雅だと思う日本人がダメだとか。ましてや『いいね! 光源氏くん』にケチをつけるわけではないのです。
人間の倫理観は変わるものです。
当時は「ナイスだね!」とされている人でも、後世からするとゲスだったり気持ち悪い。そういう事例は確かにある。
◆中国:諸葛亮(『三国志演義』他)
ものすごく賢い!
日本でも『パリピ孔明』として愛されているのは確か。
けれども、かの魯迅すら「話を盛り込みすぎて気持ち悪い」と突っ込みたくなるほど、やりすぎ感は出てきています。
◆中国:楊貴妃
日本でも白居易「長恨歌」が愛され、紫式部はじめ平安時代の人々がその悲運に思いを巡らせた悲劇の美女です。
桐壺帝と桐壺更衣の愛も、玄宗と楊貴妃にたとえられています。
とはいえ、その愛の代償はあまりに大きかったのです。
◆中国:梁山泊の百八星(『水滸伝』)
かつては日本でも『三国志演義』と並ぶほど人気があった『水滸伝』。
これを後世フィクションでアレンジしようとすると、悩ましい問題があったものです。
英雄好漢って言うけど、どうなん?
そう突っ込みどころがあるわけでして。
「黒旋風・李逵(こくせんぷう・りき)って何これ、大量殺人鬼じゃん!」
「張青(ちょうせい)と孫二娘(そんじじょう)って……人肉饅頭作って販売して食べさせてたんですけど……」
アウトローだけに、本当に法律違反をやらかす人も含まれているわけです。
そこをどうアレンジするのか? ここが難しい。
いくら悪人相手だろうと、殺害と死体損壊をしてよいものかどうか、悩みどころなのです。
◆スペイン:ドン・ファン
そもそもの説話では、ただのゲスでした。
-
本物のドン・ファンってどんな人?紀州ではないプレイボーイ伝説に迫る
続きを見る
◆スペイン:ドン・カルロ
フィクションではさておき、史実ではリアル『ゲーム・オブ・スローンズ』じみた人物でして。
-
カルロス王子の狂気がヤバい 名作オペラ『ドン・カルロ』泥沼の史実とは
続きを見る
◆ウクライナ:聖オリガ
キリスト教布教は偉業ですが、その前の復讐劇がともかくスゴイ!
-
生き埋め! 斬殺! 炎風呂! ウクライナで起きた聖オリガの復讐劇が壮絶すぎる
続きを見る
◆日本『舞姫』のアイツ
森鴎外の文才ゆえに教科書の定番ですが、習った側が「ゲスだ……」と戸惑うアイツです。
-
舞姫ボコボコ!明治時代の小説はかなりヤヴァ~イというお話を7千字ぐらいかけて紹介する記事
続きを見る
古典の人物像を現代から見ると「それはどういうことなのか?」となるのは人類の進化でもあります。
ディズニー映画ですら、シンデレラストーリーを否定する現在。
それはそれで幸せだということにして、漫画や漫画、ドラマはドラマで楽しみましょう。
-
銃撃の上にメッタ刺し~なぜ美しきシンデレラ「ドラガ」は虐殺されたのか
続きを見る
光源氏はかなりのゲスです。
しかしだからといって『源氏物語』の価値が減じることはありません。
ぜひ現代語訳に挑戦していただければと思います!
【原作マンガ・便利なKindle版が色々あります】
◆まずはお試しで1話だけ読んでみるという方は
→『いいね! 光源氏くん 分冊版』1巻(→amazon)
◆とりあえず1巻だけという方は
→『いいね! 光源氏くん』1巻(→amazon)
◆全巻まとめて読みたい!という方は
→『いいね! 光源氏くん』1~4巻(→amazon)

『いいね!光源氏くん』一巻(→amazon)
あわせて読みたい関連記事
-
紫式部は道長とどんな関係を築いていた?日記から見る素顔と生涯とは
続きを見る
-
藤原為時(紫式部の父)は融通の利かない堅物だった?中級貴族の生涯を振り返る
続きを見る
-
藤原宣孝は妻の紫式部とどんな関係を築いていたか~大弐三位は実の娘だった?
続きを見る
-
藤原惟規(紫式部の弟)は実際どれほど出世できた?本当はモテる男だったのか
続きを見る
-
藤原道長は出世の見込み薄い五男だった なのになぜ最強の権力者になれたのか
続きを見る
文:小檜山青
【参考文献】
大塚ひかり『源氏の男はみんなサイテー』(→amazon)
大塚ひかり『源氏物語』(→amazon)
他