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【『光る君へ』感想あらすじレビュー第18回「岐路」】
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道長は不人気なのか?
まひろのもとに清少納言がやってきます。
彼女はお菓子を持参。中宮様からたまわったからとお裾分けしてきます。
口に運んで満面の笑みで喜ぶまひろの表情から、そのお菓子がどれだけ珍しくて貴重か伝わってきます。
清少納言は関白がどうなるかという話題にうんざりして、まひろのもとへ来たのだとか。
道隆の子である伊周だろうと父が申している。まひろがそう言うと、清少納言もそうだとは思いつつ、道長かもしれないとも語ります。
「道長」という言葉を聞き、思わず動揺するまひろ。その一瞬の動きを察知して、「道長様を知っているの?」と尋ねる清少納言。
そういえば漢詩の会で会ったっけと清少納言は納得しました。
まひろはよく存じ上げないといいつつ、「道長の政治はどうか?」と聞き返します。
清少納言によると、細かいことに厳しくてうるさいらしく、例えば定子が螺鈿細工の厨子棚が欲しいと言ったところ、そんな贅沢は許さないと却下されたのだとか。
思わず笑い出すまひろ。清少納言に「おかしいの?」と聞かれて、慌てて「あ、いえ」と誤魔化しています。まひろは無表情か、思ったことが無意識のうちに顔に出るか、極端ですからね。
このシーンは、なかなか難解なやり取りと言えるのではないでしょうか。
道長の書いた日記はじめ、当時の記録を見ると、道長は「細かいことに厳しい」どころか、よくいえば鷹揚、悪く言えば大雑把な性格です。
螺鈿細工の厨子棚はかなりの高級品。家具ならばそこまで装飾過多でなくてもよいと道長は考えたのでしょう。
つまり、定子や清少納言周辺は、金銭感覚が相当おかしくなっているとも思える。
道長はごく常識的な範囲で咎めたのに「こんなことすら許さないなんて!」となるのだとすれば、おかしいのは定子周辺なのです。
それにまひろならば『韓非子』を出典とする「箕子(きし)の憂い」だと思えたかもしれません。
暴君とされる殷の紂王が、あるとき象牙の箸を自慢しました。
箕子はこのとき、象牙の箸を自慢するのならば、そのうち箸にあわせて、食器まで玉器にするかもしれないと懸念します。どんどん贅沢になって歯止めが効かなくなるだろうと。
この予測は果たして当たりました。
たかが贅沢な調度品ひとつにしても、嫌な兆候があるもの。それを見抜き、事前に止めた道長様はえらい!
そんなことを思ううちに、まひろはにやけてしまったのかもしれません。
清少納言はなおも、公卿でも女官の間でも人気がない、偉くなる気もない、権勢欲もない、ありえないと言います。
あの人、人気がないんだ――まひろは心の中でそう思います。
ただし、これは清少納言側のバイアスがかかった意見でしょう。
まひろからすれば、道長の節約思考はむしろプラスなのです。
詮子の政治介入
久々に藤原惟規が登場。
まひろを見つけると、「男もいないくせに物思いに耽っている」とからかいます。
父の藤原為時も喜び、いとは「試験を済まされたのか」と聞いている。惟規は、今度こそ!と言い続け、毎回失敗しているようです。
再会を喜ぶまひろが、宣孝にもらった唐の酒で宴にしようと言い出します。
最近は『白氏文集』の新楽府が話題だと語る惟規。
白居易か?と為時が返すと、なんでも政治を糺す内容であるところが人気の秘密だとか。
興味津々になったまひろが、どういう内容なのか?と問うけれど、惟規は読んでいないからわからないとか。そんなことで文章生になれるのかと為時も呆れています。
為時の書庫にも無いようで、まひろは惟規に入手を頼みます。
これ以上、姉上に賢くなられてもなぁ、とぼやく惟規。
このあたりはまひろの知識欲があらわれていますね。
かつて道長には陶淵明『帰去来辞』を書き送りました。政治批判、正しい世を望む気持ちがこめられた詩です。
白居易はこうした先行作品を参照しつつ、自らの作品に反映させる。
まひろが欲している白居易の新楽府は、そうした作品なのでしょう。
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止めようとする源俊賢を払い除け、「どけ、どけ!」と振り切って進む藤原詮子。
帝が露頂姿で現れました。いくら相手が母親とはいえ、かなりはしたない姿といえます。
次の関白を誰にするのか?
詮子が問いかけると、伊周にする、明日には公にすると返す帝。
詮子は「おそれながら」と前置きしつつ、その意見に大反対します。
前関白の道隆は帝が若いとやりたい放題で、公卿たちは不満だった。伊周も道隆と同じやり口で仕切って、お上をまともに支えないだろう。
それでも伊周を信じている帝は、詮子の意見を否定します。
「中宮にお上は騙されている!」
ひときわ強い口調で諭す詮子に、ムッとしながら帝が「どういうことか」と聞き返すと、詮子が続けます。
道兼を関白にして定子を失望させてしまったから、次は定子の兄を関白にするのだろう?
帝は定子を愛でているが、そのことで政治は変わらない。
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ここで彼らの価値観として、先にでた白居易の影響があると考えましょう。白居易の代表作『長恨歌』背後にある世界観です。
あの詩はロマンチックで平安貴族はことのほか愛でていました。それこそ、本作の清少納言なら「ね、愛は素敵よ」とでも済ませてしまいそうなところです。
しかし、帝は警告として読み込んでいてもおかしくない。
なぜあの詩に描かれている楊貴妃は死んだ? 政治は乱れた?
帝王の愛は時に重く、政治に反映させると危険である。
詮子は悪いことは言わないから道長にすべきだと訴えます。
姉として共に育ってきた。母として帝を育てた。だからこそわかる。道長は野心がなく、人に優しく、俺が俺がと前に出ない。お上にとってよい関白になると説得するのです。
それでも帝は伊周に決めているという。
詮子は断固として譲らない。母をとるか、妃をとるかと詰めながら、さらには父・円融帝の無念まで訴えてきます。
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関白に思うようにされて政治ができなかった父のようになるのか? 父の無念を晴らすためにも専横的でない関白がよいのではないか?
ならば道長に決めて欲しいとしつこく訴えるものの、帝は「伊周にする」として譲りません。
しかし……。
翌日、帝は伊周でなく、道長に内覧宣旨を下しました。
荒れ狂った様子で定子のもとへ伊周がやってきて、「どけ、どけ!」と女官を追い払います。清少納言が伊周を見る目も、怒りに満ちた厳しいものとなってきました。
定子はお静かにして欲しいと言うものの、伊周は荒れ狂っている。
「帝のご寵愛は偽りであったのだな!」
「そうやもしれませぬ」
そう返す定子に、年下の帝などどのようにでもできるという顔をしていたではないか!と詰め寄る伊周。
定子は冷静に、関白ではなく内覧宣旨にとどめたのは帝の私への気遣いだと反論します。
伊周は内覧宣旨を取り上げられたうえに内大臣のままであり、そんな心遣いは意味がない!とさらに投げやりになります。
「こうなったらもう、中宮様のお役目は皇子を産むだけだ! 皇子を産め、皇子を、皇子を産め! 早く皇子を産めー! 素腹の中宮などと言われておるのを知っておるか? 悔しかったら皇子を産んでみろ。皇子を産め、早く皇子を、皇子を産め!」
亡き道隆そっくりの口調で妹に迫る伊周。これでは詮子の言う通りに思えてきます。
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帝は、夜になると、定子に「嫌いにならないでくれ」と訴えます。嫌いになどなれないと返す定子。
「そなたがいなければ生きられぬ。許してくれ。そばにいてくれ」
そう定子を抱き寄せる帝。なんて悲しい愛なのでしょうか。
『貞観政要』を愛読する帝は、楊貴妃への愛で国と傾けた玄宗よりも、貞観の治を体現した太宗を目指したいのでしょう。
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