『真田丸 完全版ブルーレイ全4巻セット』/amazonより引用

真田丸感想あらすじ

『真田丸』感想レビュー第27回「不信」 恐怖のパワハラ政権は鬱に理解なく人材を平気で使い捨てる

こんばんは。

今週注目のインタビューはこちら。時代考証の丸島氏のインタビューです。

◆JapanKnowledge VOICE 丸島和洋さん 大河ドラマ『真田丸』の若き時代考証者(→link

こちらの記事もおもしろいです。

◆真田丸 平岳大、清水ミチコら出番少ない役者の演技も高評価(→link

ついでにツッコミたいのはこちら。

◆「真田丸」脚本の三谷幸喜氏が大スランプか 既視感のある話も?(→link

筆者はッ! 本当にネタが尽きた大河を知らないッ! 本当にネタが尽きた大河とはこんなもんじゃねえぜ……幕末の動乱かと思っていたら、なんちゃって大奥編が始まり、その新章でも従来通り菓子作りを続けたりするんだぜ……!

と、昨年を思い出して錯乱しつつ、そこは主張したいです。

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ドラマ随一の危機察知能力 きりはいずれ大坂の陣で……

さて、選挙の影響で繰り上げ放送の今週本編です。

拾(後の秀頼)誕生を喜ぶ秀吉。信繁は、秀吉の命で関白付きになることに。この先の歴史を知っていると到底そうは思えないのですが、劇中でも示されているように、当時の秀次に近づく者は勢いのある勝ち組とされていたようです。

その秀次ですが、彼は疑心暗鬼に陥りつつありました。秀吉の言動ひとつひとつに怯えているのです。

「拾」という名は、捨て子は丈夫に育つという迷信ゆえ。「お拾」と丁寧に呼ばないようにしていたようです。だんだんとその意図は薄れて皆「お拾」と呼ぶようになるのですが。

祝いに訪れた秀次に、秀吉は日本を五分割し、そのうち五分の四を秀次に与えるものの、残りを拾に与えたいと言い出します。秀次は関白の座を譲ればすべて拾のものになると言うのですが、秀吉は受け付けません。秀吉にすればただの親馬鹿で、「パパがお前に領土あげちゃうぞ!」と言いたいだけなのでしょうが、秀次にはそんなことはわかりません。

そんな中、きりは信繁に、秀次の側室になってよいかを尋ねます。ここできりは脳内で記憶を捏造まででして「初恋の女が他の人のものになってもいいの?」とまで言い出します。梅よりはるかにランク落ちする櫛をもらっておいたことを忘れたのでしょうか(第三回)。案の定、信繁は「何いってんだこいつ」という顔をして、きりの一人芝居を見ているほかないのでした。

『真田丸』感想レビュー第3回「策略」 ありのままの黒い姿を魅せるのよ

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きりは確かにうっとうしい勘違いぶりではあるのですが、それだけではありません。きりがこのまま側室になった場合のことを考えると、彼女の危機察知能力はたいしたものだと感心します。

梅の六文銭のお守りに不吉なものを感じ、茶々の山吹を食べて消去し、そして秀次のアプローチは頑として断り抜く。きりはとことん、生死の選択において正解を選ぶのです。この先彼女は、大坂の陣に向かう夫の袖をがっちりとつかみ、必死で止めようとするでしょう。夫はそれを振り切り、死へと突き進むわけですが。

 


不吉を示唆する『源氏物語 宇治十帖』

このころ真田屋敷には珍しい客が来ていました。昌幸の弟・真田信尹(のぶただ)です。

時期的には既に徳川家出奔をして蒲生氏郷に仕官しているころですが、劇中では遅らせたようです。ここで有働ナレが「しばらく信尹の出番はありませんよ」的なことを言うのですが、それはちょっと寂しい話ではあります。

きりは『源氏物語 宇治十帖』を借り受けるため、秀次の元へ出向きます。しかし彼は湯治に出かけており、出迎えたのは娘・たか。まだ幼いようで、シッカリと父の心の弱さを見抜いてしまっている、たか。彼女はきりに向かって「側室になるのはやめた方がよい」と言います。悪い人ではないけれど、周囲のことを気にしすぎる、気分に波があると彼女は告げるのです。

それにしても、今週ここで貸し借りされる本はなぜ『宇治十帖』なのでしょうか。

この物語の主人公は、一部で主人公であった光源氏の子・薫。しかし薫の実父は柏木という人物です。光源氏の妻・女三ノ宮に恋心を抱いた彼は、寝所に侵入して狼藉に及びます。その結果産まれたのが、不義の子・薫です。薫は自分の持つ出生の秘密をそれとなく知っており、そのことが物語全体に暗い影を落とし続けます。

薫の父の柏木は夭折していますが、心因性の病気と示唆されています。妻の不貞と柏木の邪恋を知った光源氏は、ことあるごとに柏木にプレッシャーをかけ続けます。柏木は「有力者である光源氏に睨まれたのだから、もう自分はおしまいだ」と悲観し、憂悶のうちに病み衰え、命を落とすのです。

光源氏=秀吉
柏木=秀次
薫=秀頼

ととらえると、『源氏物語』は今後の三者の運命を暗示しているとも言えます。柏木も悲劇的ですが、薫もまた死者の暗い影を背負い、名門の貴公子ながらどんよりとした恋路に悩むこととなります。公家である彼らだからこそ、この程度のねじれと悲劇で終わりますが、豊臣の場合は武家であるだけに、さらに凄惨な結末が待ちうけています。

文学の名作をここで持ち出すことで、今後起こる様々な悲劇を暗示しているかのようです。

 


豊臣秀俊が小早川家に養子へ 後の秀秋に……

秀吉は秀次の一歳になる娘と、拾を婚約させると言い出します。しかし秀次は喜ぶどころか、このような大事を勝手に決めるとはどういうことか、とますます不信を深めることに。

ここで豊臣秀俊(のちの小早川秀秋)が、能の名人・宇喜多秀家に習い、太閤に披露してはどうかと秀次に提案します。その意見に従って、秀次は秀家の指導を受けることに。松岡修造系武将・秀家は見ているだけで暑苦しい熱血指導を展開。むっとした汗の臭いが画面の向こう側からつたわってきそうです。絶対にこの秀家、体臭が濃いと思います。

そんな中、秀俊がどうにも様子がおかしいのです。話を聞いてみると、彼は小早川家に養子に出されるとのこと。

厄介払いが始まったとおびえる秀次を前に、秀家は何か「気合いだ! 殿下のために気合いで舞うのみ!」と、空気を読まないことを言っています。

どうやら秀家は鬱に理解がないようです。宇喜多という代々続く大名家に生まれた自らの境遇と、豊臣という日本一の大大名であっても所詮は成り上がり一族として生きるしかない者の心情も、彼にはもちろんわかるはずもありません。西軍につくことになる将たちには、もうこの時点で何か欠落していると、本作はさりげなく示します。

 

キレる秀吉 何かが取り憑いているのかと思うほどの冷たい目

こうして迎えた吉野の花見。上機嫌で酒を飲む秀吉たち。能のリハーサルをしていると、秀次の実弟である秀保が高熱を出して倒れます。こうして急遽、信繁が代役になることに。

桜の舞う中、立派な衣装を着て秀次たちが能を披露します。代役の信繁がミスを繰り返すものだから、こちらも冷や汗が出そう。そしてこの和やかな場面がだんだんと不穏な空気に満ちてゆきます。皆にこやかなのに、秀吉だけは殺気に満ちた目線を舞台にじっと注ぎます。何かが取り憑いているのではないかと思うほど、冷たい目つきです。

演技が終わって秀次らが挨拶を述べると、秀吉は彼を怒鳴りつけます。

「関白ならもっとやるべきことがあるだろ、くだらないことをしている場合か、お前を関白にした理由をわかっているのか! それから源次郎はへたくそ!(秀保が倒れたと聞き)揃いもそろって何をしている!」

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完全に裏目にでました。ちなみに秀吉は自分の生涯を能にして自ら舞うようなことをしたり、能のグループ(大和四座)を庇護したり、そもそも能にはかなりのうるさ型です。

こうしてますます鬱を悪化させた秀次のもとに、寧がやって来ます。

「秀吉が叱ったのは秀次に目をかけているからこそ。もっと自信を持ちなさい。堂々としていたらいいの」

と助言する寧。

寧のアドバイスは悪くない。決して悪くはないのですが、この言葉は本当に秀次にとって最適なものであったか、ちょっと疑問は残るところです。寧は鬱に少々理解があっても、それでもまだ何か足りません。それでも結果的に、豊臣一族の中では一番まっとうな対応をしてはいます。

 


楽しいはずの酒宴が一転地獄の様相へ

夜になり、石田三成が宴席に到着。ここで茶々が「もう一度能を舞ったら?」と言います。この人はあんまり人の心を読めないようで、鬱にまったく理解がない。秀吉は、信繁に対して官位をやると言い出します。

しかし信繁は、兄をさしおいてもらうわけにはいかないと固辞。すると秀吉の顔はたちまち険悪な表情に。

「俺、馬鹿だからお前の言うことちょっとわからないんだけどさ〜、お前、ひょっとして自分だけが官位をもらうのでは足りないって言いたいのか? 策を弄して兄にまで官位をやれってか! 策士策に溺れおって!」

と怒ります。楽しいはずの酒宴がもはや地獄の様相に……職場の飲み会を嫌う人間ならわかる、この辛い空気。日曜夜に見るのはきつい展開です

「お待ち下さい!」

ここで声を上げたのは秀次です。彼はキッパリと言い切ります。

「官位を与えるのは関白のつとめ、誰にどの位を与えるかは私が決めることです」

秀次は信繁だけではなく、信幸のことも調べて問題がなければ同じ官位を授けると約束します。やったぞ秀次、よく頑張った! これには秀吉も喜び、やっと笑顔を見せます。

それにしても秀吉がトラウマになるほど怖いです。

上機嫌に酔っ払っているリラックスした雰囲気が、一瞬で消え去って完全に相手を殺すモードに。「俺は馬鹿だからよくわからないけど」という前置きも怖い。過去の心の傷がぱっくり開いて、胃が痛くなった勤め人もいるのでは。

この場面は、パワハラ経験の有無で評価が違ってくる気がします。

私は血が凍りそうになりましたね。

 

「弟のおかげで官位をもらえてよかったな」 秀吉の一言に震える信幸

このあと上野の沼田城では、信幸が上洛準備を進めています。官位をもらうため、妻の稲とともに京都に向かい、そのまま稲は京都に住まわせると妻に告げる信幸。稲は絶対に嫌だと言い張るのですが、信幸は聞く耳を持ちません。

稲は実家の浜松に戻る支度をすると、信幸の前妻・こうに命じます。こうは稲の手を取り、こう告げます。

「それはなりませぬ、つらい思いをしているのはあなただけではなく、あなたが知らないだけでもっとつらい思いをしている者がいます。乗り越えねば、なんとしても乗り越えねば。あなたの帰る先はここしかありません」

こうの辛い思いは今までコメディタッチで、しかも断片的にしか描かれず、封じ込められてきました。悲劇に酔う陶酔型の彼女の性格と、思いがあふれた渾身の台詞だったと思います。正室の座は稲に交替したものの、インパクト勝負ではまだまだ彼女が勝っています。

文禄三年(1595)十一月、真田信幸は従五位下伊豆守、信繁は同左衛門佐の官位を授けられます。秀次はやっと自信をつけてきたようで、これで無事に済めばよかったのですが……そうはなりません。

昌幸は息子たちを連れ、官位の御礼を言いに秀吉の元へ向かいます。ここで秀吉は信幸に対して言ってしまいます。

「弟のおかげで官位をもらえてよかったな。しかも弟は、おまえと同じナントカ守は遠慮したんだぞ」

ここでは、三成が一瞬秀吉を止めようとしておりました。彼は人の心を察知できないとされていますが、実はそうではないと示されているわけです。

にしても本作の秀吉って、とことん邪悪な描かれ方だと思います。「人たらし」どころか、人が嫌がりそうなことを積極的に指摘する、しかも人と人との関係にひびをいれるようにそれをやります。なまじ人の心が読めるだけに、その能力を悪用して面白半分に傷つけてゆく。これはもう、サイコパスだと思います。

霜月けい真田丸真田信幸

 


兄の気持ちを全く慮ることができない父の昌幸

昌幸は三成と大谷吉継から、伏見城の普請への協力を求められます。その図面には、政務を行う間取りも描かれています。これは秀吉なりの、甥の激務を軽減するための気遣いなのですが、これがあとで裏目に出ます。渋々でも引き受けざるをえない昌幸です。

昌幸がめんどくさそうにしていると、そこに信幸・信繁兄弟がやって来ます。信幸は屈辱のあまり激怒しております。自分だけ蚊帳の外で官位のことを決めたのか、と怒りに震える信幸。これに対し昌幸は、いつものどうしようもないチャランポランな口調でたしなめるのです。

「いいじゃん、もらえるもんなら病気以外何でももらっとけよ」

本当に面倒臭いことが嫌いなんですね、このオヤジは。

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信繁は自分が左衛門佐なのは源義経にあやかったからだと弁明。その兄弟は最後、兄が弟を討つんだよ、というツッコミはさておき。信幸は、

「おまえのそういう抜け目のなさが、なんかむしょうにムカつくんだよ!」

と、かえって怒ってしまいます。

この憤懣やるかたない言い方から、この兄弟はずっと幼い頃から、こんな感じだったのかなと想像できました。仲が良いのはその通りです。宴の席で、信繁が「兄は私を全て上回っております」と即答したのも、そのあらわれです。心底そう思っていなければ、ああいう言葉は出てきません。しかし、それでも、そういった仲の良さだけでは解決できないこともあるわけです。

兄弟の仲がこじれたとき、普通のドラマならここで父親が懐の広さを見せ、和解させるんじゃないかと思うんです。たまには昌幸の、父としてのそんなところも見てみたいではありませんか。

しかし、ここで昌幸は、伏見城の改築を任せてやると言い出します。【お前の度量を見極めたいんだ】とか何とか気の利いた一言添えればよいところを、若干かったるそうにそう言います。

これに対し信幸は「その役目はアンタが命じられたんだろうが!」とますます怒り、立ち去るのでした。昌幸はさらに面倒臭そうに「じゃ、お前やってみっか?」と信繁に城の図面を渡します。やはり昌幸に懐の広い父親像を求めたのが間違いでした。昌幸って結局、いつもこう……。

 

こんな図面、間違っても秀次に見せられん! しかし……

信繁は昌幸に渡された図面を見て驚きます。隠居所のはずが政務を行う場所があるではありませんか。

こんなもん間違っても秀次に見せるわけにはいかない――。と、信繁が焦っていると、その秀次がきりを側室に迎える件でやって来て、偶然、図面を手に取って見てしまいます。秀吉が政務をやるということは、自分はもう用済みなのか、何故信じてもらえぬのか、と嘆く秀次。

信繁はそんな秀次の様子を秀吉に報告し、対話の場を持らせようとしますが、秀吉は突っぱねます。

「あいつの心が弱いからだ! 強くなれ! 強くならなければ会わん!」

秀吉は鬱への理解が欠けている。そして人材を育成するということができなくなっているのです。

石田三成、大谷吉継、加藤清正らは、秀吉に見いだされ、磨かれていった宝石でした。ところが秀吉は、辛抱強く秀次を育てるということを放棄してしまった。秀次だって磨けば光るはずなのです。

人を育てられる余裕がなくなった人間や組織は、人と使い潰し、捨て去るようになります。そしてその責任を潰された側におしつけ、同じことを繰り返すのです。

豊臣政権は完全にブラック化しました。「お前のことは今まで甘やかしすぎた」と、いきなりピッチャーに百六十球以上投げさせるどこかの球団のようになってしまいました。

 


弟・秀保が17才で病死 その死が隠蔽され、秀次は旅へ

さらに秀次の心にとどめをさす出来事は起こります。

能の前に倒れた弟・秀保が僅か十七で病死してしまったのです。彼の死は謎に包まれており、事故による溺死説もあります。豊臣家親族の死であるにも関わらず、秀吉は葬儀すらろくに行わず、秀保の死を隠蔽しようとします。

今年、拾は三歳、鶴松が亡くなったのと同い年です。秀吉にとって今年は不吉な歳です。そんな歳に亡くなったこと、拾を支えず亡くなったこと。この二つに激怒した秀吉は、秀保の死を極めてぞんざいに、冷たく扱ったのです。

しかも秀保の死には、もうひとつ意味があるのです。秀保は秀吉の弟・秀長の跡継ぎでした。その家が潰れてしまったわけです。それはもう、あっさりと。

弟の死、そしてその死への秀吉が見せた冷たい仕打ち。秀次の不信は頂点に達します。壮麗な聚楽第も、秀次にとってはもはや死刑囚の独房のようなもの。

秀次は、ふっと姿を消してしまいました。

主を失った聚楽第で、信繁たちを迎えたのは呆然とした様子の秀俊。彼もこの惨劇を間近で目撃しています。秀次の精神崩壊過程を見ていた彼もまた、心に深い傷を負ってしまったのです。

そのころ、大坂城で働くきりは、自分を呼ぶ声に振り返ります。そこにいたのは、旅姿の秀次でした。

 

今週のMVP

先週に続き一人に絞ることはできません。意識してアンサンブルにしているのでしょうから、ここは秀吉、秀次、そして秀俊(秀秋)でしょう。

よい大河とは何か?

と問われたら非常にあいまいでかつファンタジックではあるのですが、私は「誰かが降りてきたら、欠点だらけの作品でもよいところがある」と答えたいと思います。

平清盛』における井浦新さんの崇徳天皇。『八重の桜』における綾野剛さんの松平容保、小泉孝太郎さんの徳川慶喜。この二作品は視聴率が低く世間では失敗作扱いですが、私はそう斬って捨てることはできません。あの作品において、先にあげた人たちには何か、魂のようなものが降臨している感覚がありました。

今週のこの三者にも、何かが入り込んでいるかのようでした。

中でも秀次。やっと私は、後世の悪意によるフィルターが外された、豊臣秀次という青年に出会えた。そんな気分です。出会えたと思ったら、彼はもう死ななくてはならない。本当に私は哀しい。来週訪れる彼の死が、本当に哀しくてなりません。

『真田丸』を過去作と比較する感想も見かけますが、むしろこの作品は過去の大河を押しやる可能性もあると思います。

リアルタイムで視聴したファンならば過去作品の方がよいと思えるでしょう。しかし、本作で大河の魅力に目覚めたファンは、もう過去作品を素直に楽しめないかもしれません。少なくとも、やたら好色で残虐な秀次像は、もう受け付けられなくなるのではないでしょうか。

本作は欠点がないわけではありませんし、パーフェクトであるとは思いません。

それでも偉大な魔法を持っています。着想から脚本、配役に至るまで丁寧に作られた歴史劇に宿る魔法です。この先どれだけ本作が無残に失速したとしても、駄作と評価されることはないでしょう。この作品が示した人物像、特に秀次や勝頼の新たな像には、それだけの価値があります。

 

総評

鬱に理解のないブラック豊臣政権。そんな言葉が脳裏をよぎりました。

人はいくら歳をとっても、自分はまだまだ若いと思いたがる。そのことを、私たちは定期的に思い出さなければいけないのかもしれません。

人の老化、特に精神老化のサインというのは、本人にはわからないものです。人材育成ができなくなるというのも、わかりにくい老化のサインではないでしょうか。

現代のブラック企業において、人材の使い捨てが横行しています。ブラック企業は、今時の若者は根性辛抱が足りないと、肉体と精神を破壊して育てる気がありません。

そして秀吉。彼はもう、秀次や秀俊(秀秋)を育てるだけの力が欠けているのです。

今週の評価は、パワハラ経験があるかないかで変わってくると思うんですよね。ブラック企業で精神をすり減らされた経験がある人にとっては、相当辛い回だったと思います。スケールが小さく思えるでしょう? それはそうです、現代の企業にも通じるような話ではあるんですから。身につまされる人にとっては、相当おそろしい展開であったはずです。

今週の秀次事件に関しては、おおむね最新の研究成果を反映しています。従来とちがってスケールダウンしているように見えるかもしれませんが、個人的にはその見解に半分賛成、半分反対です。『ジョジョの奇妙な冒険』第四部のように、卑近にしているからこそ凄味や恐怖が増すパターンはあります。本作もそうなのです。

著:武者震之助
絵:霜月けい

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【参考】
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