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【青天を衝け第13回感想あらすじレビュー】
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山川浩がくらつけるドラマ
本作を見ていると、ある企業経営者の自伝漫画を思い出します。
とにかく美化が酷い。
気持ち悪いほど全てが礼賛で描かれる。
漫画家に発注する時点で原作がそうなっているのでしょうし、漫画家もわざわざ修正しないからそうなるのも当然でしょう。
渋沢栄一は大河の題材として以前から候補だったと言います。プロデューサーもインタビューでそう語っています。
しかし現実は、お札ありきの話ですよね。
『獅子の時代』は渋沢栄一大河だったという説もあります。
ただ、渋沢はどうにも向いていないため、オリジナルキャラクターにした。
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なぜ、渋沢栄一が大河にならないか?
そもそも徳川慶喜と渋沢栄一のコンビなんて、名をなして金もあって、それでほとぼりがさめた頃になって自己正当化をやり始めたとも言えるわけです。
投獄の危険すらあった会津藩士たちの、孝明天皇御宸翰の駆け引きとはまるで違う。
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「昔は大変だったよね〜」と安全圏から語っているだけで、この慶喜・栄一コンビの書籍は「バイアスを差し引いて考えましょう」と他の書物から言い切られることもある。
同じ幕府サイドでもまるで状況は違うんですね。
この大河は薩長を経て、そして水戸学本場を美化する。明治礼賛大河三部作のフィナーレだと思います。
スタンスが企業経営者の自伝漫画と同レベルですから、出来が悪いに決まっていますし、とにかく胡散臭いものになる。
なお『獅子の時代』主人公・平沼銑次のモデルとされる会津藩士・山川浩は、徳川慶喜を嫌っています。
「あの人って口先ばかりですぐ言うことコロコロ変えて、ホントに最低最悪でした」
「あいつが逃亡したせいで俺が大坂城を丸投げされて大草原不可避www(無茶苦茶激怒)」
こんな調子で『京都守護職始末』を世に出しました。
『八重の桜』が好きならば『青天を衝け』を嫌いになるのは当然の反応でしょう。
佐幕だから一致団結すると思ったら大間違い。
慶喜やら栄一のやらかしを見て「間違っても再チャレンジできるよ!」みたいなことを言われても、一橋家や水戸藩がばら撒いた火種のツケを支払わされたのは、奥羽越列藩同盟で戦った諸藩や、そのあと屯田兵になって苦労した側です。
政財界とべったりで女遊び三昧だった渋沢。
駿河でコスプレ写真撮影して自転車乗り回していた慶喜。
山川浩ならきっとこう言いますね。
「くらつけっつぉ、おんつぁげすがよ!」(お前らぶっ飛ばすぞ)
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◆ 『青天を衝け』血洗島編が完結 栄一、うたを抱いて“生き抜く”決意(→link)
このレビューにせよ、製作者のコメントにせよ「生き抜くことが大事だ」と強調します。
確かに天狗党の末路を思えば、水戸に絡んでおいて生き延びたことはすごい。
しかし、それを斗南で地獄を見て、屯田兵として苦労した、会津関係者の前で言えるのかという話です。
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手抜きはバレます
受信料で制作されているNHKの番組ですから、仕方のないことですが。
◆NHK、大河ドラマ「青天を衝け」の製作費は1本7900万円…は高すぎるか(→link)
こういうニュースは定期的に出てきます。
海外のVOD歴史ドラマと比較すると、むしろ大河ドラマは予算はかなり少ない。
ただ、こうしたメディアは過去の大河は豪華というノスタルジーにまみれていますので、無駄遣いという方向へ話を持っていきたいのでしょう。
予算がいくらか?
この際、数字は結構。『青天を衝け』はセット、小道具、VFXまで予算をケチっていると見ていてわかります。
そのぶんを朝ドラや来年に回すのであれば、それはそれで結構なことです。
時代劇を残し、歴史ドラマの存続をはかるのであれば、予算はいくらでもよいと私は思います。
そうではなく、ただチャラチャラした、ファミコンRPG、スマホの乙女ゲー、なろう小説、スマホ漫画広告バナーのようなものを実写でしているようならば、どれだけ予算を抑えようが浪費。それだけのことでしょう。
この大河は予算以上に内容がないことを一生懸命隠そうと努めていますが、隠し切れておりません。
作り手だって苦しいのではありませんか?
視聴者層がかなり高齢になってきていることを必死にポジティブに伝えようとしている記事はとにかく苦しい。
◆大河ドラマ「青天を衝け」 好調維持のカギは60代、70代の視聴者キープ(→link)
NHK大河ドラマ「青天を衝け」(日曜午後8時)が、大河らしさを本格的に感じさせてきた。
最近は放送開始当初と比べると視聴率が少し下降気味ではあるが、すぐに元の勢いを取り戻す可能性を感じる。
カギは60代、70代の高年齢層の視聴者が戻ってくること。
これは実質的に負け戦ということではありませんか?
大河の視聴者層において60代、70代が厚いことは当然のことです。この層はむしろ放置しても見る。2019年の苦戦と裏番組でかなり崩されたとはいえ、2020年で戻ってきた。
ゆえに、今年はその下を狙っていたはず。
上の記事と同じ筆者が、こんな分析をしていました。
◆大河ドラマ「青天を衝け」好スタートの背景に40代以上の女性視聴者(→link)
(前略)イケメンの出演者が多い影響か、関係者によると女性の支えが好スタートの要因のようだ。
出演者が推していた初夜がカットされたり。どうにも足並みが乱れている。
この層が取れないからこそ、流動しない上の層を狙っていると言い始めた。となると、やはり負け戦ではありませんか?
作品選びは慎重に
曹操を相手にして【官渡の戦い】に挑み、大敗した袁紹という英雄がおります。
彼の軍師である田豊は「このままでは負ける」と言っていた。そしてその予測は当たったんですね。
すると袁紹は「あいつが言った通りになった、あいつはきっと私を馬鹿にする!」と思って、田豊を殺したのです。
予想ができる人材ならむしろ重用しろと思いますが、そうはならないのが世の常。
大河レビューについては「素敵でキュンキュンして勉強しちゃった!」とでも言っておくのがよい。
今年の場合、こう掲げればバッチリですね。
「さすが渋沢栄一、とても勉強になる」
「『麒麟がくる』みたいに駒がでしゃばらないから!」(※大河『徳川慶喜』等にも架空キャラクターは多数出ていたと言ってはいけません)
「『麒麟がくる』は結局麒麟が出てこなかったからファンタジー! それよりはいい!」(※儒教の解釈からすれば麒麟はむしろ出てこなくて正解と言ってはいけません)
「『花燃ゆ』よりはそれでもいいから……」(※それは全ての大河がそうだと言ってはいけません!)
結局、理解度の差もありますよね。
『麒麟がくる』は漢籍や東洋医学知識が必要で、かなり難易度が高かった。
その点今年は、タップしているだけでクリアできるスマホアプリ。あるいは出来の悪い8ビットRPG程度の難易度なので、誰でもサクサク進められる。
一方で物足りない人も当然出てきますが、そういう層は無言で離脱するだけ。ゆえに視聴率も下落するのでしょう。
広告代理店の「偏差値40に向けて作る」というセオリーを実現しているのが本作ですね。
ウオウオ叫べば“ネットが狂気”。わざとらしく泣き叫べば“ネットも号泣”。初夜だの裸体だのアピールすれば“ネットが大受け”。チョロいです。
ただし、出演者のキャリアに暗い影すら落としかねないと考えると気の毒で仕方ない。現実には絶対あり得ませんが、どこかの俳優に「この大河は出るべきかな?」と相談されていたら、「絶対に断りましょう。来年か再来年を待ちましょう」と言っていたはずです。
過去の傾向を見て2015、2018、2019、2021あたりの作品と被る何かがあったら避けるべし。
誰かの荷物が「盗まれた」という話を聞いたら人は同情しますが、置き引きの注意喚起をしている場所で無造作に置いていたなら?
さすがに「お前も何やってんだ」となってくる。
その一例がこちらでしょうか。
年齢設定が無茶苦茶な本作。
30前後で実質一線から退いた慶喜がアラフィフ。
その慶喜より年上で劣等感があった美賀君はその娘ほどの年齢。
この福地源一郎にしたって、明治以降に渋沢と関わるからには、もっと年上の印象でしょう。
キャスティングがどうにもならない。
今年は、もうすぐ始まる朝ドラ『おかえりモネ』がなかなかすごいことになっております。
大河で見た顔、主演級まで勢揃い。
新札の顔大河とするのであれば、清原果耶さん主演の津田梅子はできなかったのでしょうか。まだお若いとはいえ、彼女ならばできるでしょう。
そうそう、最後に。ディーン・フジオカさんは福島ご出身ですね。
同郷の西田敏行さんは、西郷隆盛を演じるにあたり地元の意見を聞いたそうです。
今ここにある危機とぼくの好感度について
NHK土曜ドラマ『今ここにある危機とぼくの好感度について』が面白いです。
むずかしいことは考えない。えらい人には好かれたい。それが、ぼくの生きる道。
「ほんと権力持ってる人って、見下してる人間に対して想像力がないよね。キミもね、見下すのは勝手だけど見くびらないほうがいいよ。痛い目見るから」
「最大の悲劇は悪人の暴挙ではなく善人が沈黙すること」
こんなセリフがバンバン飛び出す。『いだてん』からのスタッフや出演者が多い。
NHK内部にも色々と意見したい人はいて、そういう人たちが骨のある作品を作るんでしょうね。
OBもこう批判しているほどです。
◆「民放の真似して受信料もらって、NHKは恥ずかしい」森本毅郎(81)から“愛する古巣”への苦言《独占告白》(→link)
――最近は、NHKのゴールデンタイムの番組でも、民放と同じような芸人やタレントをよく見かけます。
森本 「そういう人を出さないと受信料を取れない」と考えているのかもしれないけど、民放の真似してお金もらっても恥ずかしいでしょう。それは民放に任せればいいじゃないですか。
僕と一緒に働いていた時代のNHKの人は嘆いていると思います。
NHK会長は国会の同意を得て総理大臣が任命した経営委員会によって選ばれますから、天下りが当たり前になっている。労働組合もなりを潜めているのか、出てこない。
「放送はいかにあるべきか」なんて青臭い話し合いは、今や労使でやらないんでしょう。
僕はNHKに20年も世話になった恩義もあるし、NHKに育てられたという思いもあるから批判してしまうけど……NHK愛があればこそです。それだけに寂しい。
このNHK土曜ドラマ『今ここにある~』って、今年の大河批判みたいな一面があると感じます。
好感度だけで生きていけばいい。謝っちゃえばいい。中身はむしろない方がいい。そう力説する主人公。
今年の大河ドラマがまるでそう。
主人公の渋沢栄一が、本人に似ても似つかないイケメンで、泣いたり走ったりいちゃついたりするばかりで、肝心の中身がまるでない。
なんだか声が大きくて熱血っぽいし、悪い人じゃなさそうだから、好感度が高い。
でもそれだけ。
とことん虚しいやつです。
泡沫っていう意味では、SNS環境にバッチリ合致しているのかもしれません。
◆『青天を衝け』トレンド1位!吉沢亮“栄一”&橋本愛“千代”の絆に視聴者、涙…「お千代ちゃん大好き!」(→link)
思い出されすのは2019年大河『いだてん』。
熱量の高いファンがハッシュタグ投稿を繰り返し「SNSでは話題!」と盛り上げていました。
しかし現実的な数字は追いつかず、視聴率は過去最低。当然ながら観光にも繋がりませんでした。
SNSは「ノイジーマイノリティが強くなる」傾向が顕著なんですね。
ネットニュースは読み手を引っ掛ければよろしい。ゆえに上記のような記事にも需要がある。さして労力もかかりません。
でも、肝心の熱意はどうなのか。
Yahoo!ニュースのコメント欄はまるで盛り上がっておりません。
現実的な数字(視聴率)も失速傾向がかなり強まっていて……。
青天を衝け全視聴率推移12/28更新 麒麟がくる/いだてん/西郷どん/直虎/真田丸/比較
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盛り上がった“ポーズ“がいつまで通用するのか?
NHK土曜ドラマを見た人には、その仕組み、バレバレですよ。
◆『今ここにある危機とぼくの好感度について』第3回(→link)
※著者の関連noteはこちらから!(→link)
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◆青天を衝け感想あらすじレビュー
◆青天を衝けキャスト
◆青天を衝け全視聴率
文:武者震之助(note)
絵:小久ヒロ
【参考】
青天を衝け/公式サイト