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【青天を衝け第16回感想あらすじレビュー】
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スタイリッシュアクションはもう古い
池田屋事件にも注目したいと思います。
刀を持った志士たちの姿勢が全体的に軽く、重心が高い。剣道の動きはまず腰を落とすところから始めましょう。
幕末の剣術よりも、室町時代の剣術の方が再現はよほど難しい。演じる方の年齢にしても『麒麟がくる』のキャストよりも一回り若い。
それなのに、どうして昨年のような武術の動きにならないのか? 不思議でなりません。
ダメ出しをして申し訳ありません。違和感の正体がよくわかります。
池田屋の定番といえば鉢金です。
鉢巻に金属片が入ったもので、防御と汗止めの役目を果たします。長時間戦うとなると汗が目に入る。
場合によっては死活問題。鉢金をつけるかつけないか、前髪を垂らすか垂らさないか、ここでどこまで本格的かわかる。
どうも今年の土方はシャッキっとしないと思ったら、鉢金をつけていないんですね。
そして最初から違和感のある土方であった理由が、またわかりました。
村橋氏は「とにかく町田さんは動きがきれいなんです。殺陣稽古で、動いてもらったときの剣を振った姿がとても美しい。最近のアクションは、途中でなぐることがあったりつかみ合うことがあったりもするんですけど、町田さんのシーンは、相手はまったく触れられないで一太刀で死んでいく。美しい殺陣を目指して、それを演じてくださいましたね」と町田がまとう“美しさ”を絶賛。
触れられないで一太刀で死んでゆく。池田屋が屋内戦闘ということすら認識していないようなコメントにも見受けられます。
劇中ではどういうわけか、屋内からどんどん屋外の土方の方向に敵が補給されるアルゴリズムを採用していたので、わけがわかりませんでしたが。
そしてここ、「最近のアクション」として貶しているかのようなつかみかかる動きですが、むしろリアルな天然理心流がそういう泥臭い動きなのです。
八王子同心が逮捕するために生み出した実践剣法ですので、決して美しくない。
脛を狙ったり、集団攻撃をしたり、ともかく致命的な攻撃をするので敵対勢力からは嫌がられました。
特に土方はその傾向が強いとされます。
彼は道場ではそこまで強くない。ところが実践になると滅法強くなる。デタラメでも、ルールやぶりでも、ともかく殺しに行く剣術であるがゆえに土方はおそろしく強かった。
そのため、フィクションでの土方も、目潰しや足ばらいのような、汚い技を使います。
近年の作品では『ゴールデンカムイ』の土方はこのセオリーに忠実で、自らの血を目潰しに使い勝利していました。
そういう描写があると「ああ、作者は土方が本当に好きなんだな」と思えてうれしいものですが……。
そもそも、スタイリッシュで、まるでゲーム、血の一滴も飛ばないような軽い殺陣は時代遅れです。
映画『マトリックス』にせよゲーム『無双』にせよ、もう20年前のトレンド。今はむしろ泥臭く実践的な1970年以前に回帰しています。
NHKもそこは理解していますので、リメイク版『柳生一族の陰謀』や『十三人の刺客』ではそこを意識したアクションが展開されました。
『麒麟がくる』も、古武術をふまえた重々しい動きで迫力があったものです。
以前から『青天を衝け』の殺陣は古臭い、ダサい、もう飽きてしまった……とうんざりでしたが、演出担当者がこれでは仕方ないですね。
だいたい、浪岡一喜さんを起用しながら殺陣がろくにない役回りの時点で、アクションのセンスがないとしか言いようがない。完全に宝の持ち腐れです。
演じる方も田舎出身で都会に出たという自分との共通点しか語っておらず、嫌な予感がしていましたが……やはりとしか。
そしてこう最後に問いかけたい。
池田屋って人がたくさん亡くなった事件ですよ。
現場には血と切られた指や肉がボロボロと落ちていたわけです。
そういう人が亡くなった事件を、美しさだけで押し通そうとする。それがどれほど無神経なことか、想像してみたらいかがでしょう。
もういっそBGMで『にんじゃりばんばん』でも流せばよかったんじゃないですかね。『ジョン・ウィック:パラベラム』みたいでかっこいいじゃないですか。
ちなみに前述の『無双』シリーズにしたって、香港実写版は古すぎてコケました。
『戦国無双』シリーズは5作目にして衝撃的な変化を遂げています。しかも初回盤は『麒麟がくる』衣装つき。
ゲームが変わるんですよ。大河も変わりましょう!
◆ 「真・三国無双」の実写映画が中国で大コケ 「ゲームの世界を再現」と高評価も…(東方新報)(→link)
◆ 6月24日発売「戦国無双5」のパッケージ版の予約受付が本日スタート。早期購入特典にはNHK大河ドラマ「麒麟がくる」特製衣装も(→link)
バキューム土方、テレポーテーション無双
殺陣以前におかしいのは土方です。
祇園祭の夜、二組に分かれてローラー作戦をしていた。『八重の桜』ではそこを踏まえ、祭囃子と襲撃が重なって緊迫感がありました。
このとき、近藤組が池田屋に踏み込み、激戦となるのです。
劇中では割と余裕があるように思えますが。さにあらず。人数的にかなり不利です。
実質二名になった近藤と永倉が、獅子奮迅の働きをし、全身返り血で真っ赤になりつつなんとか耐え抜いた。
他に隊士がいた説もあるとはいえ、近藤と永倉の奮闘は確たる史実とされます。
それが今回は土方がテレポーテーションでもしたように突如登場し、無双する。
近藤&永倉「なんでだよ!」
脳内でこういうツッコミが響きました。
それほど瞬間登場だった土方。しかも吸い込まれるように敵がそちらに向かってゆく。バキューム土方かよ!
そもそもその土方だって原田左之助、斉藤一らを導いていたのに、なぜ単独無双するのか意味がわかりません。
斉藤一「……?(なぜ)」
やはり脳内斉藤が無言でとまどった。
『八重の桜』では斉藤一の扱いが大きいため(斉藤は明治以降も会津藩士と交流したためでしょう)、池田屋でも斉藤が目立ってはおりました。
しかし、あれは遅れて事件後に駆けつけた山本覚馬目線での描き方ですので、不自然でもありません。
とにかく『青天を衝け』では何から何まで間違っていて、つっこむ気力ももう……。
『麒麟がくる』でたとえるならば、毛利新介でなくて織田信長本人が今川義元とタイマンをするようなものと言いましょうか。
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池田屋でMVPを決めるとしたら、なかなか難しいところですが、土方は入らないと断言できます。
彼はあとから到着した。それまでは数名が、多勢に無勢で奮闘しました。途中で昏倒や負傷で倒れる者も出る中、近藤勇と永倉新八が踏みとどまっている。
指揮官という意味では近藤。MVPでは永倉が有力候補なのに。近藤と永倉が雑魚扱いされるなんて、そんなことあってもよいのでしょうか?
ちなみに杏さんのイチオシは永倉新八。池波正太郎もそう。
永倉をマイナー隊士扱いされるなんて、そんなこと、考えたくなかった……。おおおお、ガムシン(※がむしゃら新八、永倉のあだ名)さぁん!
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とりあえず、落ち着きまして。
私は新選組という組織単位で考えておりますので、こんな不可解なプッシュで土方を持ち上げられて、もう何も言えません。土方にも迷惑ですし、近藤や永倉をモブ扱いしたことにはもう何も言いたくない。
つらい。ただただ、つらい……。
「あなた新選組好きでしょ? 昨日の大河どうだった?」
とかなんとか誰かから聞かれたら、私は一体、どうなってしまうのでしょうか?
土方推しの理由は?
さて、なぜ土方プッシュされるのか?
理由はわかりました。こういう展開をするそうです。
池田屋事件で功績を挙げた新選組の副長で、幕臣になった栄一とある任務で出会い、同じ百姓出身ということもあって意気投合する。
鳥羽・伏見の戦いで敗れるが、官軍に抵抗して各地を転戦。
榎本武揚や栄一の従兄・喜作(高良健吾)らと箱館に渡り五稜郭を占領するが、新政府軍との壮絶な闘いの中で戦死する。
ほんとうにむちゃくちゃですね……。
確かに栄一は新選組幹部の土方を知っていると周囲に語っていました。
しかし、不倶戴天の敵同士で仲良くしているというのは違う。先週は西郷と鍋を食べ、今度は土方と意気投合ですか。
作っている側は「人気キャラと仲良くなる主人公すごいでしょ!」と言いたいのかもしれませんが、そういうのは幕末恋愛ものの乙女ゲー主人公くらいにしていただけませんか。
新選組は間者に厳しいことで有名です。
それなのに副長と栄一が意気投合するのは「士道不覚悟」。新選組の法度なら切腹ものです。
御陵衛士あたりからしたら許し難い。藤堂平助に謝れと言いたくなるほどひどい。
というのも、このころ史実の栄一は天狗党とも関与しているので、おかしいのです。
栄一は潜在的にずっと倒幕側でしょう。そういう描き方になるとみた。それなのに土方と友達?
それに今後、栄一は劇中では友達になった土方が凄絶な戦死したあと、特に慰霊もせず生きていくわけですか?
真面目に土方の慰霊に取り組んだ永倉新八あたりからすれば、「ふざけんなこの野郎」と怒鳴りつけたいくらいひどい話だと思います。
作り手全体がペラペラの意識だということがわかります。
出身地同じで百姓同士なら意気投合するなら、どうして水戸藩出身の武士同士は延々と殺し合いを続けたんですか?
人間ってそんな単純なことで一致団結できませんよね。
こういう風見鶏にして描くことで「主人公は誰からも好かれる好感度の持ち主です!」と言いたいのでしょうけれども。
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