青天を衝け感想あらすじ

青天を衝け第32回 感想あらすじレビュー「栄一、銀行を作る」

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青天を衝け第32回感想あらすじレビュー
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兵の形は水に象る

今週も漢籍タイムです。

兵の形は水に象(かたど)る。『孫子』「虚実編」
兵の形は水のようなものだ。

孫子は戦争を語っているので兵士ですが、世論やドラマファンの感情も水のように誘導はできます。

特にSNSがこうも発達した時代となれば、誘導はますます容易くなった。

そこを踏まえて、話を先に進めます。

先日、このドラマを褒める記事がなぜあるのか分析しました。

『青天を衝け』を誉めてください!

・歴史好きやドラマ通を刺激する感じでお願いします!

この二点を条件にして、ライターに書かせればできてしまう。

兵の形ならぬファン心理の形を、こうした記事である程度誘導はできるでしょう。

ただ、妙な話です。

季節はハロウィン手前、もうすぐ11月です。大河を誉める記事は春あたりまでは出ますし、関連番組も多い。

しかし、夏、ましてや晩秋ともなれば減ります。

それなのに、今年はいまだに誉める記事が出る。

似た記憶を思い出します。

大河ではなく2018年下半期朝ドラのこと。あれも、放送が終わりそうな2月になってから、褒める記事や関連番組がドンドン出てきました。

ドラマが終わる総括としてのものではなく「まだまだこれから盛り上がります!」という論調。

しかも『青天を衝け』では名言集まで出されています。

これまた異例ですし、そこまで名言があるとも思えません。

胸がぐるぐるする。おかしれぇ。そのくらいしか個人的には記憶に残っていません。

とはいえ、誉め記事を量産すれば「成功した!」という空気は形成できます。失敗したことにしたくない力でもあるのでしょうか。

今年は視聴率もそこまで冴えていません。

それでもイケイケだ!という論調の記事を目にしました。

◆『青天を衝け』は明治時代になっても魅力的 大河ドラマ不人気の時代を克服できたわけ(→link

ザッと要約しましょう。

「明治初期は辛気臭い時代で、特に会津の連中なんかウダウダうるさいけど、明るくパーっと描いたから『青天を衝け』はヒットしたよね!」

反論は山ほど思い付きますが、時間の無駄のような気がします。褒めたい人は、どんな理屈でも受け入れるでしょうから。

論点を絞って、結論から申し上げますと。

「えっ? 世界的には陰惨極まりない『イカゲーム』が大ヒットしているのに、日本では陰影も情緒もなく、イケイケ明るくしたドラマが受けているの? 周回遅れじゃありませんか?」

本当にトレンドに敏感で、ましてや若ければ『イカゲーム』で盛り上がっていると思うんです。

『イカゲーム』はじめ、世界では社会の格差や暗部を描き、問題提起しつつ、エンタメに載せる作品が主流です。

 

それなのに明治維新の藩閥ガチャ当たり組が、女遊び、宴会、コネ出世、原資税金で贅沢三昧……そんなことをしているドラマが、本気で受けていると思っているのでしょうか。

私には、到底そうは思えません。

 

言ある者は必らずしも徳あらず

次は『論語』でも。

徳ある者は必らず言あり。言ある者は必らずしも徳あらず。『論語』「憲問」
徳がある者にはよい言葉がある。口がうまいものには徳があるとも限らない。

本作は小道具、VFXがおかしいと先週書きましたが、そもそも演出がぶっ壊れておりませんか?

栄一のセリフは毎週スピードアップします。

噛み締めて説得するように語るのではなく、何かを誤魔化すようにペラペラ、ペラペラ。

しかも大仰な顔芸とろくろ回しポーズはじめ動作をつけるので、わけがわかりません。

『麒麟がくる』の長谷川博己さんを思い出してみます。

綺麗な澄んだ声で、噛み締めながら、あたたかく、きっちりと説得していました。

役者の魅力は姿形だけでもない。声だとわかります。

ああいう落ち着いた口調を求めてはいけませんか?

本作を見ていると、何かボロが出ないように誤魔化しているのか?と気になって仕方がない。

演じる吉沢亮さんも「チンプンカンプン」とインタビューで語っていました。

幕末まではここまで早口ではありません。

このあまりにせわしない語り口のせいで、栄一はどんどん胡散臭くなってゆきます。

幕末の頃は青年でも、今は落ち着いているはず。

それがなぜ、ヤンキー漫画のヤカラのようになっているのでしょうか?

やはり何か誤魔化したいせいか?と首を捻ってしまう。

本作にまつわる言動って、大仰で具体性に乏しく、どうにも胡散臭いのです。

そういう本作の栄一は悪い見本として、本作に出てきた人物が“史実で”語った名言でも

小栗忠順が横須賀造船所を手がけていると「もう幕府は持たないのではないか」と言ってきた人がいました。

そんな倒れる政府のために何かしても意味がない……という相手に、小栗はこう返します。

「土蔵つきの売り家をあとに残すのも面白いではないか」

幕府は滅びるだろう。

だが、幕府が作った造船所はこの国のためになる。

そう割り切った言葉で、なんとも粋ではないですか。

そしてついに幕府が滅びるとき、徹底抗戦を誓っていた小栗はこうも言いました。

「どうにかなる。幕府を滅ぼしたのはこのことよ」

伝統も歴史もあるし、なんとかなるだろう――そんな油断が倒幕につながった。そう分析する深い言葉です。

悪代官のことをネチネチと思い出し、商業軽視、自分のような商人をバカにしたから幕府が滅びた!

そんな見当違いの分析をしていた渋沢栄一より、よほど観察眼があると思えるのです。

史実でも、小栗の残した土蔵は、明治新政府に受け継がれていきました。それを自分が作ったとでも言い張っているような人物が渋沢栄一です。

つくづく思う。なぜ、こんな人物を大河ドラマにしたのか?

渋沢栄一大河を依頼されても断り『獅子の時代』にしたのであれば、やはり山田太一氏は一流だった。そうため息をついてしまいます。

※著者の関連noteはこちらから!(→link

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◆青天を衝け感想あらすじレビュー

◆青天を衝けキャスト

◆青天を衝け全視聴率

文:武者震之助(note
絵:小久ヒロ

【参考】
青天を衝け/公式サイト

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