青天を衝け感想あらすじ

青天を衝け第32回 感想あらすじレビュー「栄一、銀行を作る」

2021/10/25

このまま官として大蔵省にいても何か違うし!

民の仕事をするぞ!

と、ノリノリで大蔵省の辞職を決める栄一。

この頃、栄一とかつて同じ立場だった幕臣や佐幕派たちは凄まじい苦難と直面しています。

例えば、北海道の屯田兵、駿府の幕臣、旧会津藩士など。彼等の中には餓死者も出るほど厳しい状況ですが、そんなシーンは一切流れません。

映像を通じて歴史を知るという点では、非常に良いチャンスだと思うのですが。

栄一だけは、コネもフル活用し、お金もあり、さらには妻妾同居という特典付きですから描けないのだとしたらこれほど不誠実なこともないでしょう。

 


大蔵省を辞める!いや、辞めないで!

栄一は杉浦譲に対して「辞める」と立ち話。

気になるのは、栄一の心根より杉浦の髪型だったりして。

本作は、外見をそれほど再現しておらず、現代風アレンジが紛れ込んでいます。ならば、杉浦もそうしてよかったのではないでしょうか。

郵便届いた日は楽しかったとか、パリのこととか、全てがどうでもよくなる髪型の威力よ。

オフィスも、ちょっと強い風が吹いたら、すべて吹き飛んでしまいそうで、大丈夫でしょうか。現代ならゲリラ豪雨で書類全滅です。

そして大隈重信と井上馨の顔芸スタート。

怒鳴り声の連続です。

せっかくだから黒田清隆も呼んできて欲しい。

薩摩隼人の黒田は、井上馨も伊藤博文も鉄拳制裁した剛の者!

明治政府って、政治家同士が鉄拳で殴り合ったり、ピストルで脅迫したり、かなりエキサイティング!です。

なのにイケイケ黒田どんがいないとは何事か。

黒田は五代様とも郷中仲間ですよ。

すると今週も無能枠に落とされてしまった三条実美とゆかいな仲間たちが、栄一の辞職を止めようとします。

顔芸リアクションで必死な皆さん。

「デキる栄一さんに逃げられては政府が回らない! デキる栄一さん戻って! デキる栄一さんが必要なの!」

という意味なのでしょう。辞職を止められることで有能さを出そうとしているのでしょうが、そこは実務の話やデータの提示をしてほしい。

顔芸や、早口で噛み締めないでセリフを言い、ろくろ回しポーズばかりでは、明治初期の実業家というより、現代の動画配信者のようです。

このあとIllustratorでささっと作った新聞を見ながら、みんな大騒ぎ。

私のアタマの中に幕臣たちの脳内コメントが鳴り響きます。

福地桜痴「そういうのやりたいなら、ジャーナリストになれば?」

栗本鋤雲「まったくだ。そんな文句タラタラ言うなら、最初から仕えるなよ」

福沢諭吉「ほんまそれな」

 


第一国立銀行ってどうやってできたの?

栄一が家に戻り、大仰に騒いでいます。

三野村がスカウトに来ていました。三井に来て欲しいとのことですが、栄一は第一国立銀行総監役として歩むようです。

それにしても、栄一って劇中では何歳でしたっけ?

「はぁ!?」みたいな言葉遣い、取引先にするでしょうか。しかも相手は三井のトップです。

栄一ぐらいの年齢と地位の人物がキレ散らかしてギャーギャーワーワー喚くなど、あり得ない。

本作がコントに見えて仕方ないのは、こういうシーンの繰り返しのためでしょう。東京03の方が、よっぽどリアルな作品になっています。

大河ドラマが、ビジネスパーソンのお手本だったのは過去のことかもしれません。

かくして明治6年、「第一国立銀行」ができます。

第一国立銀行
日本初の銀行となる第一国立銀行|渋沢栄一は一体どんな経営手腕を見せたのか?

続きを見る

設立までの道のりや苦難は、ほとんど何も無い。

粗いVFXと、明治村感溢れるセット。背景はあまりに素朴で、かつ外国人と日本人の栄一が、通訳なしで会話する演出で驚きの連続です。

しかも、算盤対決って……。

日本固有の計算の素晴らしさで勝利!

と、それはそれで否定はしませんが、せっかく経済ドラマで「複式簿記」が出てきたのに、なぜもう少し深く突っ込んでくれないのでしょう。

複式簿記は「人類最高の発明の一つ(→link)」とまで言われたりするのですから、ここで渋沢がリアクションをすれば、知性が感じられて面白くなるのでは?

上記リンク先の記事にも福沢諭吉が『帳合之法(ちょうあいのほう)』を出版し、テキストとして使用したと書かれています。

そういった積み重ねがないから本作が経済大河に見えないんですよね。

 

なぜ薩摩閥の五代とそこまで仲が良い?

そんなこちらの戸惑いを放置し、栄一は自己陶酔しつつ廊下を歩いています。

と、五代がいました。

民間で事業を始めた先輩……というとカッコいいのですが、五代の場合、憎まれすぎて命すら危ういため、大久保利通の手引きもあって下野しております。そんな綺麗な話ではありません。

五代友厚と黒田清隆
五代は死の商人で黒田は妻殺し|知られざる薩摩コンビ暗黒の一面とは?

続きを見る

そもそも渋沢栄一は長州閥で、五代友厚は薩摩閥です。どうして仲良しになるのか。

今さら五代のアドバイスを受けるのもマヌケでしょう。武士は商業がダメだとさんざんコケにしておいて、薩摩藩士であった五代の助言を受けるとは筋が通りません。

あと本作の栄一は既に忘れたのかもしれませんけど、五代はパリで幕府潰しに奔走していましたよね。

こういうところからして、所詮、栄一はステルス倒幕派だとしか思えなくなる。

ぶっちゃけ歴史人物の史実なんかより、同じフレームにイケメンを収めておけばいい、という制作サイドの意向なんでしょうね。

そして三菱・岩崎弥太郎の登場ですが、なんなんでしょう、この映像は……。

私は悪役です!悪役ですよ!絶対に間違えないでくださいね!

とでも言わんばかり、まるでショッカーのアジトではありませんか。

善玉は明るい照明、悪玉はダークな照明って、さすがに古過ぎませんか?

極めつけは笑い方。

「ガハハハ!」

って……今どきこんな悪役笑いをする人物が出てくるとは、斜め上を行かれてしまいました。

岩崎は海運業で成功した土佐閥系の人物です。大隈重信とも懇意ですから、薩長閥の対抗馬としての起用ですね。

栄一も元幕臣枠だから期待されたかもしれませんが、彼は水戸学、テロ、女遊びと、三拍子揃って長州の伊藤博文&井上馨と気があったので仕方ない。

しかし、三菱関係者も数多く見ているでしょうに、良いのですかね。

岩崎弥太郎
一代で三菱財閥を築いた岩崎弥太郎の豪腕|一介の土佐郷士が巨大企業を作るまで

続きを見る

 


今週も家族ドラマ

娘のふみを抱く、妾のくにを千代が見ています。

先週は、くにに対して冷酷と突っ込みましたが、かといって妻妾のことをダラダラ流されてもなぁ。

しかし、こんな劇的なギスギス対立しますかね。同居してかなり時間が経過していて、相応の接し方を双方が身につけていると思うのです。

このあと、栄一は「子どもは多いほうがいい」とかなんとか浮気を誤魔化しています。

やることだけしておいて、ろくに責任も取らない。指摘されるとむくれる。これほど幼稚な男がいるでしょうか。

このあと、時間稼ぎっぽい千代とかっさまトーク。

いかにも良い姑のように見えますが、史実では千代に対して「ほっそりしすぎている」といささか辛辣だったことも伝わっています。

千代が、姑の前で栄一を誉める言葉を、栄一は聞いています。

本作お得意の、誰かが栄一を褒めまくるシーンですね。しかも作文でも読むかのように誉め、よくわからない世界観。

大河は家族ドラマではないのですから、銀行設立時の苦労をもっと描いてほしかった。経済大河の主人公にそれを望んではいけませんかね。

明治になったら栄一の本領発揮!だのなんだの言われてきましたが、今回は算盤バトルに家庭事情ばかりで……本領発揮するする詐欺に感じます。

渋沢成一郎もイタリアから生糸業を学んで帰国しました。

またまた歩きながら「俺らの文化祭がんばろうぜ!」というノリ。「焼きそばいくらにする?ジュースは100円でいいよな」程度にしか見えないんだよなぁ。

富岡製糸場の話も出てきました。

画面にいる女工も少ないし、セットも狭い、色々と予算上の工夫が見えてきて、工女が増えたようには思えない。

すごい賞を取ったと言われたところで、どういう工夫をしたのか全くわからないので、これまた文化祭のバンド演奏で銀賞とった程度にしか見えません。

さらには慶喜まで登場し、戊辰戦争のことを蒸し返しています。時間稼ぎでしょうか。だったらこの二人も忘れないであげてください。

土方歳三「俺のこと全然思い出さないよな……」

平九郎「忘れられたんじゃないですかね、俺ら」

さらに意味不明なのが、徳川美賀子と平岡円四郎の妻・やすの登場です。

なぜ、この二人が出てきたのでしょう。

どうせなら慶喜が駿府で産ませた子供を見たかった。女中が抱いていたら可愛かっただろうになぁ。家族シーンが大好きなドラマなのに、なぜ慶喜の子供は映さないのか。

いやいや、それだけでない。こんな人もいます。

永井尚志「なぜ平岡の妻女を出して、私は出てこないのでしょう? 駿府まで会いに向かったんですけど」

時間稼ぎにしたって、色々と見せ方はあるはず。

永井尚志
大政奉還を担った永井尚志|慶喜にも龍馬にも信頼された幕臣の生涯を振り返る

続きを見る

 

そして定番のロス戦術へ

栄一が役人を辞めたことに対し、母が色々と言っています。

令和の二十代でもあるまいし、明治初期の大物が、なぜ、いちいち母親の顔色を窺うのでしょう。

そして紙幣が出てくる……。

本作って、本当にセキュリティ意識がわかりません。

先週も大隈の妻が夫宛の手紙を盛大にバラしていたし、今週もコレですか。こういうものはちゃんと秘密にしておかねばいけないのでは?

すると、うたが走ってきました。

ここで雑な女子教育が出てきます。

渋沢栄一の女性観、女子教育への認識は、当時としても劣る部類でしょう。

明治の基準にしたって差別的な言動が残されています。

津田梅子「ハイハイ……この人と新札の顔で並ぶなんてやってられない!」

津田梅子
6才で渡米した津田梅子が帰国後に直面した絶望|女子教育に全てを捧げて

続きを見る

そして、かっさまは体調を崩しました。

年齢も年齢ですから、不思議はありません。ここでは「かっさま心配だぁ」ではなく、西洋の名医を派遣するとか、色々と孝行息子はできたはず。

本作はロス戦術(重要人物を退場させてロスロスロスロス書き込ませる作戦)が大好きですので、またお涙頂戴を繰り広げるのが見えてきて萎えてしまう。

何度でも言いたくなる。明治初期の実業を映してください……。

細かいツッコミをして申し訳ありませんが、劇中の季節はいつでしょうか?

スイセンが飾られているということは早春。その割に、栄一は袖を出した薄着。かっさまも布団を首の辺りまでかけていない。火鉢すらない。襖も障子も全開。

「栄一、寒くねえかい? ごはん、食べたかい?」

かっさまはそう言いますが、むしろあなたが寒くないのか?とツッコミたくなる。ご臨終間際の割には滑舌も非常にいい。

そして亡くなった瞬間に孫が「おばあさま! おばあさま!」と来た。くにもスイッチを入れたように顔を伏せて泣き、湿っぽいBGMが……♪

千代は別枠で、暗い室内でわざとらしく映される。

栄一も、窓際でわざとらしい顔を作る。

そして回想シーン……なんじゃこれ!

大久保利通が走り回っています。岩倉暗殺未遂事件だそうです。

トイレのあとの猫じゃあるまいし、なぜこのドラマの人物は、いちいち走るのか?

そして江藤新平が散る佐賀の乱はササッと片づけられます。大久保を悪役にするためにも、そこはじっくりやるかと思ったのにがっかり。江藤の意味はあったのでしょうか?

江藤新平
処刑後に斬首写真を晒された江藤新平|肥前藩の逸材41年の生涯まとめ

続きを見る

さらには台湾の話だのなんだのがザザッと出て……。

「三井が生意気じゃ! 小野組もしかり!」

いや、その辺ってドラマのテーマからしたら大事な話では?

素直に動く商人を求めている大久保が三菱を認める――そんな簡単な流れにしたいようです。

すると、悪役笑いで妙なカメラ目線をする岩崎。

書類にハンコを押して、またショッカーのアジトで話しています。

このあと明るいキラキラしたステンドグラスを背景にした栄一に、井上馨が「小野組が危ない!」と言ってきます。

ショッカー岩崎が悪企みをしたそうですよ。

 

総評

Netflixにamazonビデオ、Huluなど、VODの時代です。

海外ドラマのハードルも低くなりましたので、Amazonプライムからオススメ作品をピックアップしたいと思います。

まずは『グッド・オーメンズ』から。天使と悪魔が手を組み、世界の破滅を阻止すべく運命に翻弄されます。

 

次に『陳情令』。ブロマンスとして話題ですが、お話としてもしっかりしています。その方面に興味がない方でも見られます。

 

この作品はアニメ『魔道祖士』と原作が同じ。

テーマは、運命のいたずらによって、正邪で別れてしまった二人がそれでも互いを求め、仲を深める。行く道は違えど、同じ義に生きる。そんな話です。

いいから大河の話をしろよ!

と思われるかもしれませんが、この二作には共通点があり、先に思い出していただきたいのが、今週の岩崎弥太郎です。

やたらと黒い照明。毒々しいステンドグラス。「ガハハハハハ!」という悪役笑い。

なんだこれは?

悪魔が棲む地獄か?

邪派のアジトか?

こんなところで事務作業する三菱って一体?

そんな困惑しかありませんでした。21世紀にもなって、見た瞬間に悪とわかる演出をされてもわけがわかりません。

とにかく古い。絶望的なまでに古い……。

天使と悪魔。

正と邪。

正反対のようで、あいつはダメだ!と思いそうになるけど、わかりあえばちゃんと協力できるはずだ、というテーマがある。それが海外のドラマです。

そんな海外作品があるのに、こんな大河を見せられて、何が何だかわかりません。

明治時代は、ただでさえ勢力争いが複雑で難しい。それを簡略化しようとした結果がコレ。ものすごくバカにされている気分になります。

何が悲しいかって、今、現実世界において呪われているのって、むしろ大正義・渋沢栄一ゆかりの銀行であることでしょうか。

2019年に大河周辺で不祥事が連発し、呪いだなんて言われましたが、今年もそうなってしまうかもしれない。

◆ みずほが「システム障害8連発」で失う3つの信頼 退職者が続出、就活中の学生からも人気がない(→link

◆ これから「みずほ銀行」に起こるヤバい現実…金融庁が送り込んだ「特殊部隊」の正体(→link

 

算盤バトルで「日本スゴイ!」をしたいのか?

本作の栄一って、数字に強い場面がないんですよね。

華流商業ドラマ『月に咲く花の如く』では、ヒロインが暗算をテキパキとしてしまい、即座に儲けを出す。そういうセリフをきっちりと噛み締めて言うから、賢い女性だとわかりました。

 

しかし本作は、こんな最終盤になって算盤をクローズアップ。

しかもセリフの読み方が、ちゃんと算盤の仕組みを理解していないのではないかと思えるような読み方でした。

経済大河の最終盤で、なぜこんな算盤バトルを見せられているのでしょう?

わかります。

このバトルは、民放で一世を風靡した「日本スゴイ」番組のフォーマットなんですね。

「日本を知らないガイジンが、日本の伝統にケチをつけるけど完敗!」

という流れ。一体何をしているのでしょう。

正確に計算ができて、かつ使い慣れた道具があれば、ガイジンがあんな強硬に止める理由もないでしょう。

算盤なんて学校で習うものだし、定番の習い事でもある。

そういうものを「できてすごーい!」ってどうするんでしょう。

それに、演じる役者が「算盤は手つきがそれっぽければOKが出る」と明かしていますからね。

セリフの読み方も、所作も、算術の達人には到底見えませんでした。

まぁ、せっかく言及された複式簿記も、その素晴らしさは制作サイドで理解してないと見せることができませんしね。

簿記は株式会社……というかすべての中小企業、個人事業主にも欠かせない、本当に素晴らしい発明なんですけどね。同じ幕臣の福沢諭吉を出していればなぁ。

 

明治の生糸産業はイタリアに学ぼう

成一郎はどうしてイタリアに行ったのでしょうか?

工業では産業革命のイギリスがリードしている。ただし、アパレル関係ならば当時からイタリアが強い。今でもファッションの本場です。

当時社交界でもてはやされたシルクのドレスとなれば、やはりイタリアが一番でした。

日本産シルクをヨーロッパ社交界に売り込んでこそ、外貨が獲得できます。それゆえのイタリア……なのですが、このドラマだけでは到底わかりませんよね。

お蚕ダンスより、シルクドレスを着た紳士淑女ダンスが欲しかった。明治ものならばお約束でしょうに。

ここで考えたいこと。

イタリアへの派遣って勝ち組ならではの話です。

北海道に屯田兵として渡った会津藩士の場合……。

「おまえら、西洋リンゴ育てろ!」

「なじょすて育てればいいんだべ?」

「しらねー!ここで挫けたら会津藩士って所詮その程度なの? って思われるぞ」

と、ノウハウも何もなしにいきなり苗を渡された。

このあたりの会津藩士の血の滲むような努力は2014年下半期朝ドラ『マッサン』で取り上げられました。

余市はリンゴで有名になったからこそ、竹鶴政孝はここで事業を始めた。

「ニッカ」の前身は「大日本果汁」です。

開拓リンゴ「緋の衣」敗者の会津藩士たちが極寒の北海道余市で栽培

続きを見る

『青天を衝け』では、北海道のことが全く出てきません。

北海道開拓は、政府が実験感覚と言いますか。制度でも作物でも、当たって砕けろ精神で取り入れたせいで、屯田兵が苦労に苦労を重ねている。

そんな北海道開拓史を踏まえると、このドラマの主人公周辺は本当に甘っちょろい。

北海道の食の歴史
豪華どころか過酷だった北海道「食の歴史」米や豆が育たぬ地域で何を食う?

続きを見る

 

兵の形は水に象る

今週も漢籍タイムです。

兵の形は水に象(かたど)る。『孫子』「虚実編」
兵の形は水のようなものだ。

孫子は戦争を語っているので兵士ですが、世論やドラマファンの感情も水のように誘導はできます。

特にSNSがこうも発達した時代となれば、誘導はますます容易くなった。

そこを踏まえて、話を先に進めます。

先日、このドラマを褒める記事がなぜあるのか分析しました。

『青天を衝け』を誉めてください!

・歴史好きやドラマ通を刺激する感じでお願いします!

この二点を条件にして、ライターに書かせればできてしまう。

兵の形ならぬファン心理の形を、こうした記事である程度誘導はできるでしょう。

ただ、妙な話です。

季節はハロウィン手前、もうすぐ11月です。大河を誉める記事は春あたりまでは出ますし、関連番組も多い。

しかし、夏、ましてや晩秋ともなれば減ります。

それなのに、今年はいまだに誉める記事が出る。

似た記憶を思い出します。

大河ではなく2018年下半期朝ドラのこと。あれも、放送が終わりそうな2月になってから、褒める記事や関連番組がドンドン出てきました。

ドラマが終わる総括としてのものではなく「まだまだこれから盛り上がります!」という論調。

しかも『青天を衝け』では名言集まで出されています。

これまた異例ですし、そこまで名言があるとも思えません。

胸がぐるぐるする。おかしれぇ。そのくらいしか個人的には記憶に残っていません。

とはいえ、誉め記事を量産すれば「成功した!」という空気は形成できます。失敗したことにしたくない力でもあるのでしょうか。

今年は視聴率もそこまで冴えていません。

それでもイケイケだ!という論調の記事を目にしました。

◆『青天を衝け』は明治時代になっても魅力的 大河ドラマ不人気の時代を克服できたわけ(→link

ザッと要約しましょう。

「明治初期は辛気臭い時代で、特に会津の連中なんかウダウダうるさいけど、明るくパーっと描いたから『青天を衝け』はヒットしたよね!」

反論は山ほど思い付きますが、時間の無駄のような気がします。褒めたい人は、どんな理屈でも受け入れるでしょうから。

論点を絞って、結論から申し上げますと。

「えっ? 世界的には陰惨極まりない『イカゲーム』が大ヒットしているのに、日本では陰影も情緒もなく、イケイケ明るくしたドラマが受けているの? 周回遅れじゃありませんか?」

本当にトレンドに敏感で、ましてや若ければ『イカゲーム』で盛り上がっていると思うんです。

『イカゲーム』はじめ、世界では社会の格差や暗部を描き、問題提起しつつ、エンタメに載せる作品が主流です。

 

それなのに明治維新の藩閥ガチャ当たり組が、女遊び、宴会、コネ出世、原資税金で贅沢三昧……そんなことをしているドラマが、本気で受けていると思っているのでしょうか。

私には、到底そうは思えません。

 

言ある者は必らずしも徳あらず

次は『論語』でも。

徳ある者は必らず言あり。言ある者は必らずしも徳あらず。『論語』「憲問」
徳がある者にはよい言葉がある。口がうまいものには徳があるとも限らない。

本作は小道具、VFXがおかしいと先週書きましたが、そもそも演出がぶっ壊れておりませんか?

栄一のセリフは毎週スピードアップします。

噛み締めて説得するように語るのではなく、何かを誤魔化すようにペラペラ、ペラペラ。

しかも大仰な顔芸とろくろ回しポーズはじめ動作をつけるので、わけがわかりません。

『麒麟がくる』の長谷川博己さんを思い出してみます。

綺麗な澄んだ声で、噛み締めながら、あたたかく、きっちりと説得していました。

役者の魅力は姿形だけでもない。声だとわかります。

ああいう落ち着いた口調を求めてはいけませんか?

本作を見ていると、何かボロが出ないように誤魔化しているのか?と気になって仕方がない。

演じる吉沢亮さんも「チンプンカンプン」とインタビューで語っていました。

幕末まではここまで早口ではありません。

このあまりにせわしない語り口のせいで、栄一はどんどん胡散臭くなってゆきます。

幕末の頃は青年でも、今は落ち着いているはず。

それがなぜ、ヤンキー漫画のヤカラのようになっているのでしょうか?

やはり何か誤魔化したいせいか?と首を捻ってしまう。

本作にまつわる言動って、大仰で具体性に乏しく、どうにも胡散臭いのです。

そういう本作の栄一は悪い見本として、本作に出てきた人物が“史実で”語った名言でも

小栗忠順が横須賀造船所を手がけていると「もう幕府は持たないのではないか」と言ってきた人がいました。

そんな倒れる政府のために何かしても意味がない……という相手に、小栗はこう返します。

「土蔵つきの売り家をあとに残すのも面白いではないか」

幕府は滅びるだろう。

だが、幕府が作った造船所はこの国のためになる。

そう割り切った言葉で、なんとも粋ではないですか。

そしてついに幕府が滅びるとき、徹底抗戦を誓っていた小栗はこうも言いました。

「どうにかなる。幕府を滅ぼしたのはこのことよ」

伝統も歴史もあるし、なんとかなるだろう――そんな油断が倒幕につながった。そう分析する深い言葉です。

悪代官のことをネチネチと思い出し、商業軽視、自分のような商人をバカにしたから幕府が滅びた!

そんな見当違いの分析をしていた渋沢栄一より、よほど観察眼があると思えるのです。

史実でも、小栗の残した土蔵は、明治新政府に受け継がれていきました。それを自分が作ったとでも言い張っているような人物が渋沢栄一です。

つくづく思う。なぜ、こんな人物を大河ドラマにしたのか?

渋沢栄一大河を依頼されても断り『獅子の時代』にしたのであれば、やはり山田太一氏は一流だった。そうため息をついてしまいます。


本文に登場する関連記事

岩崎弥太郎
一代で三菱財閥を築いた岩崎弥太郎の豪腕|一介の土佐郷士が巨大企業を作るまで

続きを見る

五代友厚と黒田清隆
五代は死の商人で黒田は妻殺し|知られざる薩摩コンビ暗黒の一面とは?

続きを見る

第一国立銀行
日本初の銀行となる第一国立銀行|渋沢栄一は一体どんな経営手腕を見せたのか?

続きを見る

永井尚志
大政奉還を担った永井尚志|慶喜にも龍馬にも信頼された幕臣の生涯を振り返る

続きを見る

江藤新平
処刑後に斬首写真を晒された江藤新平|肥前藩の逸材41年の生涯まとめ

続きを見る

【参考】
青天を衝け/公式サイト

TOPページへ


 



リンクフリー 本サイトはリンク報告不要で大歓迎です。
記事やイラストの無断転載は固くお断りいたします。
引用・転載をご希望の際は お問い合わせ よりご一報ください。
  • この記事を書いた人
  • 最新記事

武者震之助

2015年の大河ドラマ『花燃ゆ』以来、毎年レビューを担当。大河ドラマにとっての魏徴(ぎちょう)たらんと自認しているが、そう思うのは本人だけである。

-青天を衝け感想あらすじ
-

右クリックのご使用はできません
目次