明治22年(1889年)夏――。
寛永寺のある上野では、徳川家康江戸入城三百年祭が行われていました。
徳川家康がおどけた口調で説明しますけど、なぜ自分の子孫や家臣たちが辛い目に遭っていて楽しそうなのか、未だに釈然としません。
江戸が再評価されるという機運が高まって喜んでいますが、そもそも江戸っ子は明治政府を評価していないでしょ。
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徳川同窓会
旧幕臣たちが祝いの会合を開催。酒を飲みながらこう言います。
「快なり!」
これも相当おかしい。
「快なり!」と慶喜が言う場面に、いましたっけ?
視聴者が「ああ、あのときの!」と思うのは、ドラマの演出を見ていたから。幕臣たちもそうではないはず。
首を捻ってしまう理由は他にもあります。
「快なり!」というのは「きもちいい〜」という意味で、当時のインテリエリート層からすれば、ありえないほどお粗末な語彙となります。
平成令和舞台のドラマで、トップ官僚が「パネェ〜」「マジ、パネェ~!」とパーティ開いてたら相当マヌケになるのと同じです。
今さら井伊直弼を再評価するあたりも呆れてしまう。
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栄一なんて暗殺を喜んでいたではないですか。
茶歌ポンだの、それこそ大河一作目『花の生涯』から馬鹿にするようなことを散々繰り返し、今になってアリバイじみた再評価はあまりに心苦しい。
そして相変わらずの髪型で徳川昭武も登場。
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このシーンも眉間に皺が寄ってしまいました。
武士にとって、かつての主君が来たというのに「気づかず申し訳ない」という態度もない。単なる同窓生扱いのように見えてしまいます。
幕臣同士も誰もがみな一様に仲良かったわけでもなく、それこそ栗本鋤雲が、再会した榎本武揚を怒鳴りつけるような話もあるわけです。もう少し起伏に富んだ再会を期待してはダメでしょうか。
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会話も相変わらず、事実をなぞるだけのような説明セリフ。まるで◯◯高校の同窓会ホームビデオです。
そして、すっかり忘れさられていた永井尚志を、よろよろさせながら登場させます。もう完全に忘れている方も多かったことでしょう。
土方歳三「いや、俺のことも全然思い出さないよな」
確かに土方は仕方ないとは思います。そもそもが渋沢栄一とはほとんど無関係ですから。
孫が読んでいる幕末小説に土方が出てきたもんだから「おじいちゃんも知り合いだった」と言い出しただけであって、同窓会で「◯◯高校のアイツはやばかったよなー。オレとはダチだったけどな」という知り合い自慢みたいなものです。
本作では、ビッグネームな土方を利用しただけのこと。その証拠に、土方が近藤勇にほとんど言及することなく退場させられてました。
要は、視聴率のため片手間に出されたようで、侮辱にすら見えました。
このあと、みんなでこう叫んでいます。
「徳川万歳!」
こんなことを実際に叫んでいたとしたら、なかなか辛いものがあります。
「万歳」というのは「万年=永久」に続くように!という意味があります。徳川幕府が滅んだのに「万歳」って相応しいと思えないんですよね。
だいたい、渋沢栄一なんて、周囲からは「どのツラ下げて……」と思われていても仕方のない立場です。
ステルス討幕派で、水戸学を掲げ、天狗党とお仲間、おまけに慶喜が将軍になって文句を言っていた。
栄一の事績はナレ解説
駿河では、やすが美賀子に対し、江戸弁で何かしゃべっています。
そろそろ終わる本作、やすを含め、最後まで綺麗な江戸弁を聞けなかった気がします。というか、薩摩も、長州も、京ことばも、あらゆる方言がなんだか妙でした。
美賀子も災難です。将軍様の御台所が、女衒と同席とは侮辱にもほどがありましょう。
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しかも美賀子は結局、
「SSR渋沢栄一をゲットした平岡のガチャ運いいよね」
みたいなことしか言っていません。
誰も彼もが延々と渋沢栄一を誉めているだけ。
スマホに出てくる漫画広告の、魔王が転生した漫画みたいで「あれがSSR魔王の実力……!」という展開ですね。
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一方、慶喜は油絵を描いていました。
この場面に出てくる子供は全員、慶喜が女中との間に作った子供たちです。
栄一はこのあと「大きくははばたいていた」とざざっとナレーションで事業が全部説明されます。
銀行業、製紙、紡績、建築、肥料、食品、鉄道……多くの事業に関わってきた。
と、この辺の話を視聴者に飽きさせることなく、緻密に描いてこその大河では?
長州閥と昵懇で手繰り寄せた事業にせよ。
渋沢栄一はやっぱり凄い! と、思わせるには、彼の実績で納得させるしかないはず。
それが簡単な説明と当時の建物画像を引っ張ってくるだけでは、渋沢栄一に失礼ではありませんか。
周囲に「アイツはすげぇ」ばかり言わせていて、もはや高校ヤンキー列伝。
だからでしょうか。すでに50歳ぐらいのはずの渋沢栄一をはじめ、出演者の多くが高校生程度の頭脳に感じてしまう。
兼子の演技が素晴らしいだけに落差が目立ちます。
追い出される妾くにも美談に
栄一の次女・琴子も結婚。くにの子も結婚していました。
そして彼女は渋沢家を出ていく。
妾になるのもくにの意志。出ていくのもくにの意志。この経歴ロンダリングはあまりに不憫だ。
「くには幸せどす。みなさんの立派に育ったお姿をお千代さんに見せてあげたかった……大変お世話になりました」
とまぁ、妾が追い出される様も美談にされ、NHKのロンダリング技術の高さには眼を見張るばかりです。
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そのころ、篤二はぬぼーっとしています。息子というより同級生みたいですよね。
後継者として期待されていると説明されますが、見るからに「コイツはダメだな……」としか思えない雰囲気。
役作り? 何がなんだかわかりません。
そしてバザーの場面へ。
『八重の桜』から使いまわしたドレスが綺麗。赤と黒です。
そして兼子。大島優子さんはやはり着こなしも所作も素晴らしい。
バザーの客は「文化祭で盛り上がっていますね」としか言いようがないのですが、兼子だけは安心して見ていられる。なんちゃらに鶴とはこのことかもしれません。
このバザーに、また圭十郎とやすが来ました。
女衒が顔を出すバザーとは何なのか?
そう思うとまともにセリフが入ってこないのですが、相変わらず「夫が生きていたら」とかなんとか言い出します。
確かに平岡が生きていたら、やすも女衒にはなっていなかったでしょう。
それに「もしも生きていたら……」というIFストーリーを考えるなら、平岡円四郎より小栗忠順のほうがはるかに興味深い。
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渋沢栄一寄りの資料や自伝をそのまま無批判に使うから、大河だというのに「半径数メートル視点」という枠の小さな話に収まってしまうのではないでしょうか。
以前から感じていたこのドラマの限界を改めて感じてしまいます。
気になるのが栄一の背景にある花と、栄一の浮腫んだ顔です。
吉沢さんの健康が心配になってきます。
背景の花もなかなか難しいものです。当時、こんな色鮮やかなで派手な、洋風の花があったものかどうか。その辺の考証も曖昧に見えます。
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