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【青天を衝け第38回感想あらすじレビュー】
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暴漢に襲われる栄一
栄一は馬車を襲われ、負傷しました。
後に「水道のことで脅された(だから殺されはなかった)」とする栄一ですが、あの襲撃を見て「やばい!栄一が殺される!」と本気で心配した視聴者はいたのでしょうか。
事前に暴漢から「いったん襲ったらスグに引きますんで、エヘヘ」と言われていたかのようで、安心して見ていられました。
本作の刃傷沙汰はあまりにリアリティがありません。
慌ててやってくる成一郎も、やっぱり騒いでいるだけで役に立ちそうになく……。頼りになりそうなのは、むしろ兼子です。
ドラマなのですから天狗党の残党に襲わせたらよかったかもしれません。なんせ天狗党が送った慶喜宛の嘆願を栄一が握り潰し、その後、あの大殺戮が起きていますので。
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栄一はあらためて決意します。
コレラで妻を亡くしたから、水を綺麗にするんだ!
なるほど……と言いたいところですが、これがどうにも胡散臭い。
五代友厚といい、渋沢栄一といい。露骨に自分の懐が潤うよう、利益誘導するのが当時の事業者です。
それを五代は北海道開拓、渋沢栄一は朝鮮半島で実行。
舶来物を選んだ過程が「善意に依るものかどうか」わかったものではありません。
当時の商習慣だから良いのでは?という指摘もあるかもしれませんが、それを現代において称える必要はないでしょう。
それにもし「当時だから」で今も話が済むのなら、もっとそうした露骨な部分が描かれるはずです。
本作がキレイにキレイに渋沢栄一を描くのは、書き手としても「当時をそのまま描いたらマズい」と思っているからでしょう。
慶喜が暗室で写真を焼いています。
実際に彼の写真はたくさん残されております。
幕臣が生きるか死ぬかだった時でも、自分だけは趣味に生きていたからこそできたものです。
美賀子だけでなく、子を産ませた女中のものもたくさんあります。
暗室で美賀子の死を描いているようですが……栄一も、美賀子の死にショックを受けています。
今週のロス戦術は美賀子でしたか。
それをステップに、栄一が徳川慶喜伝記を書く!とぶち上げ始めました。
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回想シーンがどんどん流れ、昔から妙なドラマだったなぁ……と絶句してしまいます。
討幕→幕臣→新政府へと、真逆の立場へコロコロ考えを変える栄一の口から、綺麗事ばかりが語られていて閉口です。
小栗忠順はそんな栄一を喝破していました。
まるで逸りの服に着替えるように方針を取り替える――そんな人物のどこが英雄なのでしょう。
さすがに奸物とまでは言い過ぎかもしれませんが、いちいちハキハキと、まるで観客がいるかのように芝居がかった話し方をするから、嘘くさくて仕方ないのです。
ただ、吉沢亮さんの顔色が優れないのが不安で……。あの爽やかな彼の笑顔はどこへ行ってしまったのでしょう。
明治22年(1894年)、日清戦争における日本快進撃の様子が伝えられます。
栄一は広島大本営の明治天皇のもとを訪れ、祝いの言葉を述べました。
日清戦争勝利で賠償金だ!
その帰り道、栄一は静岡の慶喜を訪れます。
慶喜は四男結婚も決まり、篤二も縁談がまとまったようです。
栄一は世代交代を感じているそうですが、当人は顔に皺もなく、頭髪もほぼ真っ黒で、まだ高校生ぐらいに見えるので、わけがわかりません。
世代交代というより「さすがに文化祭も終わりじゃね?」とか言い出しそうです。
栄一は、慶喜の功績を知らせたいと言い出しました。
しかし慶喜は断ります。
そうしたほうがいい。私の脳内で幕臣と会津藩士たちが一斉にブーイングし始めました。
福沢諭吉「将軍を叩くかわりに『痩せ我慢の説』で勝海舟と榎本武揚を叩いておきますね!」
栗本鋤雲「いいぜぇ、この『痩我慢の説』はその通りよ! あいつらよくも恥ずかしくねえもんよ」(髪型のおかしなドラマは忘れてください)
山川浩「ったく、このおんつぁげすども」
山川健次郎「嘘つき出版をしたいんですよね、わかります!」
松平容保「…………………………」
こうして進められるのが『徳川慶喜公伝』の編集。
来週以降の放送で描かれるのでしょう。
しかし、今から断っておきますと『徳川慶喜公伝』は徳川慶喜と渋沢栄一の思い通りに描かれていて、とてもそのまま鵜呑みにできる内容ではありません。
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現代でも、怪しげな団体のトップに自伝を書かれても、それをそのまま受け取る方はいませんよね。
本作が、そんな自伝をもとに構成されているとすれば本当に危険。
大河ドラマで歴史修正過程が美化して描かれたとしたら由々しき事態ではありませんか。
このあとの日清戦争はナレ勝利。
「日本万歳! 日本万歳!」
エキストラの服装も髪型も、何もかもがおかしく、篤二はあいかわらずぼけーっとして、あの声で歌ってます。
伊藤博文と栄一が語っています。
栄一は病気で寝込んだとか、もう歳だと言うけど、慶喜と会ったときと同じでまだまだ若い。確かに顔色は冴えませんが。
それにしても日清戦争で「賠償金!」と喜ぶ栄一の顔ときたら……。
戊辰戦争や西南戦争では「戦争なんて馬鹿馬鹿しい!」とか言っていました。
それが今度は喜色満面。自分たちが儲かるなら、戦争オッケー♪ということですかね。
程なくして始まる日露戦争では、真っ当にやれば半年で戦費が尽きるものました。
それが英米の思惑ありきで、ロシアを倒すために援助され、辛勝をおさめますが、賠償金を取れずに国民は大激怒。暴動が起きたりします。
そのときはまた「戦争はダメだ!」とか言い出しそうで……。
しかも呆れるのが、日清戦争で勝ったから慶喜を東京に戻せるとか言い出すこと。
どういう理屈なんでしょう。
そして2年後、30年ぶりに慶喜が東京へ戻ったと語られますが、栄一が若いので何がなんだか理解できません。
総評
明治から昭和にかけての経済を語る上で、日清戦争と日露戦争は避けて通れません。
富国強兵とは、教科書に出てくる言葉ですが、明治政府がセットで進めたようで、そういうわけでもない。
富国か? 経済充実路線。薩摩閥の大久保利通らが推進。
強兵か? 軍事を増強すること。薩摩閥では西郷隆盛が推進。長州閥は吉田松陰『幽囚録』にある満洲、朝鮮、樺太、台湾、ルソンまで領有すべしという方針を掲げる。
◆吉田松陰は本当に「高潔な教育者」だったのか テロを扇動し「アジア侵略」まで唱えた激情家(→link)
経済と軍事、どちらを優先すべきか?
それをジックリ考える重要な場面で日本は日清戦争の勝利を得て、一気に傾きました。
戦争で勝利をおさめたら大儲けだ!
賠償金を得た成功体験があまりに大きかったのです。
しかし日露戦争で早くも崩れます。
英米が間に入ったギリギリの辛勝で、莫大な戦勝金も得られず、領土も南樺太を取り戻しただけ。
政府はその苦しい内情を隠蔽したものだから、民衆は怒ります。
「苦しい戦争を我慢したのにこれっぽっちか!」
そして日比谷焼き討ち事件が発生。政府はこれを機に言論統制に乗り出します。
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大正時代というと「大正デモクラシー」の明るいイメージがあります。朝ドラのようなフィクションでも上塗りされてゆく。
しかし、戦争へと向かう危うさを抱えた時代です。
言論統制や国家による隠蔽が悪化する一方、日本は戦争で勝利する旨味が忘れられなくなっていた。
満洲を巡っては英米と決裂し、ドイツと同盟を結ぶ。
緊迫した時代の最中、いざ足元の経済をみてみると、到底英米には勝てない。
四方を海に囲まれ、強引に領土拡大をした結果、引き返せないほどの破綻を迎えている。
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日露戦争は勝利をしたといっても辛勝でしたし、下士官は大量に戦死した。
かくして、どこか危うい軍の組織ができあがってゆく……。
日露戦争までは、日本の兵器は優秀でした。
それがどんどんと性能が落ちる。
アジア・太平洋戦争でも用いられた銃は「三八式歩兵銃」。明治三十八年モデルが現役だったことからも、軍装の遅れがわかります。
戦術にせよ、日露連想で用いられたものを引きずってしまったのです。
たとえ劣った戦術だとしても「日本人は魚を食べるから強い!」式の無茶苦茶な日本スゴイ精神論でごまかしていました。
そのあたりは近代史の本にいくらでも書かれています。
要するに、アジア・太平洋戦争での敗北のきざしは日露戦争時点ですでに芽生えていたのです。
そして元をたどれば、渋沢栄一らの経済対策にも、その一因としてゆきつくのではありませんか。
仮に、渋沢栄一の経済が盤石で素晴らしかったのであれば、アジア・太平洋戦争前夜、あそこまでアメリカと大差がついていた理由は何でしょう?
資源や人口の差はあるでしょうが、それだけでもないでしょう。
そういう思いがあるから、敗戦の記憶がまだ濃い昭和や平成では、渋沢栄一なんて大っぴらに顕彰できたものではなかったのだとも思えます。
彼は確かに実績をあげてきた。しかし、あの日本史上最大の破綻について無責任というわけでもない。そう評価されれば、単純に褒めるわけにもいかない。
それがいつしか、戦争の記憶も薄れ、かつ近代史の知識が軽んじられている時代だから、作る側も見る側も騙されてしまう。
しかし、私は絶望してはおりません。
『週刊金曜日』で渋沢栄一の負の面について連載をしている大学生からは、そんな悪循環は感じない。
未来を担う世代には『青天を衝け』などという時代錯誤大河は放っておいて、もっと色々なことを学んで欲しいと思うのです。
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